第4話 ロマンの探究者
□バイズ街道 クロウ・ホーク
「みんな! そろそろネビュラに戻るよ!」
「うーい」
「りょー」
「ちょっとそれこっちに持ってきてー!」
レレイリッヒがそう呼びかけると、その場にいたプレイヤー達は撤収の準備を始めた。
彼らは魔導カメラや何に使用していたのかわからないいくつかの道具を次々とアイテムボックスに収めていく。
「さっきも言ったけど、クロウも一緒に行かないか? ただ、よければ君のアルカナと少し話をさせてもらいたいかな。ユティナ、でよかったよね?」
レレイリッヒとのしばらくの格闘の末、俺は結局管理AIコールをしなかった。
だからだろうか、彼女はネビュラまで一緒に行かないかと俺たちのことを誘ってくる。
ユティナに話を聞きたいというのも噓ではないのだろう。
(ユティナ、話を聞きたいらしいけど大丈夫か?)
(メリナに比べればどうってことないわね。それよりもここまで来た方法の方が気になるわ)
メリナのおかげと言っていいのか、ユティナはなんらかの耐性を獲得していたようだ。
おそらく恐怖耐性+50%とかついてるのだろう。
「こちらとしては問題ないけど。ネビュラに戻るっていうがこの人数でか?」
あたりを見ても、彼らが乗ってきたようなものが見当たらない。
よく考えればおかしな話だ。
これだけの人数、それこそ魔車のような複数人単位で移動できる方法がなければ難しいはずだ。
ネビュラからここまで、魔車を使用しても2時間以上はかかるはずなのだから。
「クロウは生産職についてどこまで知ってるかな? この場合、【鍛冶師】などの純生産職についてだね」
「素材があればスキルで色々作れるのと、実際に鍛冶場とかを押さえて自分の手で作ればプロパティが変わるついでに見た目や銘をある程度自由にカスタマイズできる。あとはレシピがあれば他人お手製の物も作れるようになるぐらいだな。実際に触ったことがあるわけじゃないから詳しくは知らないが」
「基本は抑えてるって感じだね」
スキルで作るか、自力で作るか。
拡張性という面で見れば自力で作る方法が優れているが、安定かつ複数個作るのであればスキルの方が優れている。
しかし、一部のジョブはスキルだと見た目のみで、装備時のプロパティがつかなかったりする。
【細工師】が作る特殊装備枠の腕輪や各種アクセサリーが有名だろう。
場合によってはスキルで作った場合はただのおしゃれ装備にしかならないのだ。
「それなら、面白いものを見せてあげよう」
レレイリッヒが示す方を見ると数人のプレイヤーがアイテムボックスから次々と何かを取り出していた。
「人を乗せるには、当然搭乗スペースが必要なわけだ。だけど、アイテムボックスには積載容量とは別に収納制限という名の限界サイズというものがある」
限界サイズとは簡単にいえば、収納できる最小単位と最大単位が決まっているというものだ。
あまりにも大きなものや、逆に小さなものはアイテムボックスに収納することができない。
積載容量が大きなアイテムボックスを用意したところで、家をそのまま持ち運ぶといったことはできないわけだ。
「私たちは現状そういった大きな荷物を格納できるスペースをもっていない。クランホームを用意してそういうスペースを備え付けるか、専門の業者からレンタルしなければ到底運用することなんてできないだろう」
多くの制限があるからこそ、魔車はルクレシア王国でプレイヤーに重宝されている移動方法の一つであり……
「だから私は考えた」
レレイリッヒはそれを自分達プレイヤーで運用する方法を考えたと、そう言った。
彼らはアイテムボックスから次々と道具を取り出していく。
木材や金具、布や綿、他にも車輪といったものまで、アイテムボックスに収まる大きさのものばかりである。
「必要なのは素材とレシピ。自分たちで図面を引き、組み立て、一つの完成形を描く。それを《レシピ生成》で雛形として用意しておくことにより画一的な性能を確保した。組み立てるにはいくつかの段階を踏む必要もあるし、スキルレベルも必要だった。こればかりは商業ギルドと交渉してイデアの人たちにも協力してもらったさ。その代わり、なかなかいいものができたと思っているよ」
彼らはそのアイテムに対し次々とスキルを発動させる。
すると、それらは加工され、変形し、模型のように組みあがり始める。
「組み立てるには【鍛冶師】と【木工師】、その他クラフト系のジョブが複数名必要だ。同時に複数のスキルを発動させる必要があったり、少しコツがいるようなんだよね」
色とりどりのスキルの光が発動する。
それはまるで魔法のような光景だった。
感動とは別の、好奇心がくすぐられていく感覚だ。
「【解体師】というジョブもなかなか有用でね、制限こそあるものの、一度作ったものを再度元の素材に戻すことも可能なんだよ。この即興での組み建てと解体の流れは急遽大量の家屋を建てる必要が生まれた時の方法を利用したものなんだよね。それは戦争であったり、モンスターであったり、この世界は争いが絶えないらしいからね。きっとそれが原因なんだろう」
個人個人の要望にあわせるなら、職人が一から家を建てる必要があるのだろう。
それは大工であったり、職人であったり、現実と変わらない。
それはある種のジョブスキルだけでは再現できない技術のはずだ。
しかし、モンスターによる被害なども頻繁に起こるであろうこの世界では、スキルの存在によって独自に発展した復興技術というものも存在しているということだ。
そして、レレイリッヒ達はその技術を利用した。
先ほどまで何もなかったそこには、気が付けば一つの完成物ができていた。
帆馬車とでもいうべきそれは、複数人が乗るには十分な大きさと言えるだろう。
彼らの手は止まることなく、2つ目、3つ目と組み立てに取り掛かっている。
「オレが言うのもなんですけど、この人たちの行動力はすごいですよ……」
ゴン太郎は疲れた顔をしているが、それとは別に少し楽しそうだ。
「最低限の乗り心地は保証しよう。名付けて、組み立て式キャビンだ!」
ただの変態集団というような集まりではなかったことを、俺は理解する。
少なくとも彼女らに対する評価を改める必要があるだろう。
目的に向けてひたすら突き進む彼女らはこの世界で経験を積み重ねてきたプレイヤーで。
「どうだい、これもロマンってやつさ。わくわくするだろう?」
そう言ってレレイリッヒは……10人以上のプレイヤーを率いるリーダーは、得意げに笑った。
 




