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第3話 崇高な目的を抱えし者たち

□バイズ街道 クロウ・ホーク


「《防具切替(アーマー・スイッチ)》! どうだ、見えたか」


「いいやダメだ」


「クソ! やっぱ解析組の報告を待つしかないか……」


 しばらく道なりに歩きそろそろ走り出そうかと思い始めた頃、道から外れたところで10余名ほどのプレイヤーが集まっているのを見つけた。


 周囲を見ると彼らを囲むように水色の羊や赤黒いヤギというような<アルカナ>らしき生き物達が散らばっており、平野に寝転がったりじゃれあっているのが見える。


 おそらく、周囲への警戒も担っているのだろう。


「なんの集まりだ?」


(モンスターに襲われているわけでもなさそうね)


「そうだな。ん、あれは……」


 その集団の中に一人見覚えのあるプレイヤーがいた。

 小さな竜を頭に乗せ、他のプレイヤーと話している。


「もしかして、ゴン太郎か?」


 <ゴズ山道>でPKに襲われ、そのまま共闘したプレイヤーである。

 俺がついその名前を口に出すとゴン太郎もどうやら気づいたようで、こちらに振り返った。


「あれ、どちら様ですか? あと……背後霊?」


 そういえばPKK活動中だったからか、俺の素顔もユティナについても知らないのか。

 俺は仮面を手元に取り出した。


「俺だよ。クロウだ。<ゴズ山道>で一緒に戦ったって……覚えてるか?」


「え……あれ!? クロウさんなんですか! お久しぶりです!」


 結局あれっきりの一度しか会ったことがないはずだが、律儀にも俺のことを覚えていたらしい。


「ゴン太郎どうしたんだい。知り合いの方たちかな?」


 ゴン太郎の名前を呼びながら一人のプレイヤーが近づいてくる。

 モノクル眼鏡のようなものもかけており、理知的といった印象を受ける女性のアバターのプレイヤーだ。

 

「はい! えーと……」


「俺の名前はクロウだ。ゴン太郎とは前にちょっと共闘したことがあってな」


「私はユティナ、<アルカナ>よ」


「あ、<アルカナ>なんです……」






「これはこれは! 私のプレイヤーネームはレレイリッヒだ、よろしく頼むよ。言いづらいだろう? リッヒやレレイと好きなように呼んでくれたまえ。会話でコミュニケーションが可能な<アルカナ>とは珍しいね。私もかなりプレイしている自覚はあるのだがまだ2人としか出会ったことがないな。1人に関しては主人との念話のみで実際に話したわけじゃないからね。いや、これ以上他のプレイヤーについて話すのもよくないか。ただそれぐらいレアケースということを念頭に置いてほしいんだ。少し、いや詳しく話を聞かせて貰いたいな。もちろん無料ではないさ。この街道を進んでいたところから見るに次の目的地はネビュラだろう? そこまで送ろうじゃないか。徒歩で行くよりも快適かつ早く到着することを約束しよう。何を隠そう私たちもネビュラからここまで遠征で来ていてね。そろそろ切り上げる予定だったしちょうどいい。そういえば……」






 こちらが名乗ると同時に目の前の女性、レレイリッヒは俊敏な動きで俺達に駆け寄り腕を取って握手をしてきた。

 ぶんぶん振り回しながらも、彼女の視線は憑依状態にあるユティナに固定されている。


「レレイさん、抑えて! 抑えてください!」


「おっとすまない、つい私の悪い癖が出てしまったようだ」


「お、おう。気にしてないんで……」


 ゴン太郎はレレイリッヒを後ろから背伸びをしながら羽交い締めし俺達から引き離してくれた。

 手慣れているところを見るに、どうやらいつものことらしい。


「それで、ここで何をしているかという話だったね。あ、そうそう。クロウと呼んでもいいかな?」


 レレイリッヒと名乗った女性は佇まいを治し、いかにも落ちついていますという風の体を装いながら話しかけてきた。

 もう手遅れな気がしないでもないが……


「あ、ああ。ルセスとネビュラの街道沿いにわざわざいるのも謎だから少し気になってな」


 現在地点は、何もない場所であるといえるだろう。

 ダンジョン都市ネビュラとの街道沿いでも、まだまだ王都ルセスに近くモンスターが多く出現するような場所でもない。


「そうだね……」


 レレイリッヒは俺の全身を下から上までなぞるように見たあと、小さく頷いた。


「君は公共の場で服を脱ごうとしたことはあるかな?」


「は?」


「レレイさん! 色々話を飛ばしすぎです!」


 ゴン太郎がレレイリッヒに詰め寄る。


「おおっと、すまない。私の悪い癖が出てしまったようだ。言い直そう。クロウ、君は人々の前で全裸になったことはあるかな?」


「悪化してます! なにもわかってないじゃないですか!」


「ユーはパブリックの前でヌードに」


「さてはオレのことからかってますね!?」


 ゴン太郎はレレイリッヒの肩を掴み大きく揺らした。


「ちょ、ちょっと何を言ってるのよ!」


 ユティナは少し顔を赤くしながらも憤慨と言った様子でレレイリッヒを軽く睨んでいる。


「……えーと、管理AIコールでいいんだっけか?」


 俺は目の前の女性プレイヤーを通報するために管理AIコールを。


「まぁ待ちたまえ。それは早計というものだよ? まずは説明しようじゃないか。我々の崇高な目的をな!」


(……崇高な目的ってなにかしらね?)


 しようと思ったが、ユティナがじとっとした目でレレイリッヒを見ながらも、彼女らの目的に興味を示したのを見てやめた。

 まぁポーズだけでの冗談ではあるのだが。

 かという俺も少し気にはなっている。

 まずは、彼女の言う崇高な目的を確認するべきだろう。


「質問したのは俺だしな。ぜひ教えてくれないか?」


 10人以上のプレイヤーが協力して取り組んでいるという目的。

 それはきっと到底想像もつかない大掛かりなことなのだろう。


「まずは前提条件の認識を合わせようと思う」


 レレイリッヒは俺達の懐疑的な視線をものともせずに意気揚々と語りだす。


「我々はメニューやスキルを使用することで、着るのが困難な装備でも容易に着ることが出来る。フルアーマーの装備など現実ではかなり着脱に時間が必要なのに対してこの世界ではワンタッチで装着可能だ」


「ああ、そうだな」


 レレイリッヒの言う通り、この世界ではメニューや汎用スキルを用いることでどんな装備でも一瞬で装備することが可能だ。

 詳しくは知らないが、現実で全身鎧を着用するのが一瞬ということはまずないだろう。


「そして全ての装備を外す、もしくは破損して装備不可の状態になると一番下に着ている初期インナー装備になる。インナーか下着かは色々自由に設定することができるわけだが、我々プレイヤーに限れば不測な事態が起きても一切破れることはない。炎で燃やしても、剣で斬り殺してもダメージを受けはするものの下着含めて全部燃えて全裸になる、なんて事態にはならないようになっている。いわばハラスメント判定におけるセーフティーラインだね」


 装備の耐久値が0になると、その装備は装備としての機能を失ってしまう。

 場合によってはロストすることもあり、装備によっては全裸になってしまう危険性もあるわけだが、基本的にはその心配はないようになっている。


「別にインナーを脱げないわけではない。脱ごうと思えば脱げてしまうし、露出が多い程度ならいくらでも装備することができる」


 メリナが露出の高い装備を着ていたように、基本的にゲームの範疇に収まっていればハラスメント判定に引っ掛かることはない。

 事実水着などでモンスターと戯れながら海水浴に勤しむプレイヤーもいるらしい。

 一定以下の年齢のプレイヤーの視覚情報には一部補正が入るらしいので、よっぽどのことがない限り装備の自由度は担保されているわけだ。


「加えてハラスメント判定に引っ掛からない限りどんな状態であろうと全裸になれるのは我々が確認済みだ。多くのモンスターに囲まれた中で、生まれ落ちた姿のまま嬲り殺しにされた時ですら運営からは一切の警告はなかった!」


「オレはやってないですからね! このメンバーの中でもさらにごく一部の人たちだけです!」


「ゴン太郎も誘ったのだが、断られてしまってね」


 つまり、ここに集まっているプレイヤーの何人かはハラスメント判定の検証の過程でアバターの装備を全部外し、わざわざ最終防衛ラインのインナーや下着も全部脱ぎ裸の状態でモンスターに突撃したというのだ。


 ……あれ、本当に通報した方がいいパターンかこれ?


「本題に入ろう。ここに《防具切替(アーマー・スイッチ)》というスキルがある。これを使用することで、一瞬で指定箇所の装備を切り替えられるわけだが……」


 いや、今までのはレレイリッヒの言う通りただの前置きだ。

 なんなら彼女らの貴重な検証結果を共有して貰えただけとも言える。

 きっとこれから、彼女の言う崇高な目的が、

 

「その時、インナーや下着の処理はどうなっているのだろうか?」


 崇高な。


「一瞬だ。本当に一瞬でも装備が切り替わる瞬間に、もしかしたら脱いでいるのかもしれない。鎧装備から水着に変えた瞬間、その時着ていたインナー含めてアイテムボックスに自動で収納されるわけだが、一体下着はいつ脱いだんだろうね?」


 目的が……


「もし、戦闘中に《防具切替(アーマー・スイッチ)》をしているプレイヤーがいて、彼ら彼女らが一瞬とはいえ服を脱いでいると考えたら? インナーや下着姿を、なんなら生まれたままの姿を衆目に晒していると考えたら?」


 そして、レレイリッヒは曇りなき眼でこちらを見つめてくる。

 それはあまりにも純粋な瞳だった。






「なんかこう、グッとこないか?」






 その瞳には一切の穢れがなかった。

 崇高な目的に向かって邁進する彼女に、邪念など存在しなかった。


「……つまりここに集まっているプレイヤー達は」


 俺はこの場にいる10人ほどのプレイヤーを見渡した。

 それを見て、レレイリッヒは不敵な笑みを浮かべながら大きく腕を広げ声高らかに宣言する。


「そう、この世の真理を探究するために集った勇敢なる戦士たちさ!」


「はは……」


「え、ええと……」


 ゴン太郎は渇いた笑いを上げ、ユティナは少し頬を赤らめながらも困惑した表情でレレイリッヒを見ている。


「勇敢なる戦士たちさ!!」


 レレイリッヒは大事なことだとでも言うように再度大きな声で宣言した。


「なるほどな」


 俺は彼女らを視界に収めながら、そのままメニュー画面を開いた。






「とりあえず管理AIコールいれるんで、弁明は運営にどうぞ」


 俺は目の前に集まっている教育に悪い集団を通報するために、前確認した手順に従って管理AIコールを……


「待ってくれ! 私が悪かった! 話をしようじゃないか!」


「ええい離せ! 変態どもと会話する時間なんて俺達にはねえ!」


 俺が通報しようとしたところでレレイリッヒが腕にしがみつき防ごうとしてきた。

 く、こいつ無駄に力が強い。


「もう何度か通報されてるけど基本的には問題ないって言われてるんだ! だけど通報されるたびになんかこう、人として大事なものを失っている気分になるんだよ!」


「もう失ってるから安心しろ! ていうか何度も通報されてんのかよ!」


「ちゃんと説明しないと仲間を増やせるものも増やせないだろう!? あと私は聞かれたから説明してきただけさ! 私は悪くない!」


「ごもっともではあるが開き直るな!」


 こいつら常習犯か!?


「その時にそんな仕様は一切存在しないってはっきり言われたよ! なんならホームページのQ&Aに追加されたしメニューのヘルプの詳細に追記されたのも確認したさ! でも、もしかしたら仕様の穴があるかもしれないじゃないか! 抜け道があるかもしれないじゃないか! そこにロマンがあるなら諦めるなんて私たちにはできないんだよ!」


「そんなロマンはゴミ箱にでも捨てておけ!」


「オレは違いますからね! ちゃんと報酬を受け取ったうえで付き合ってるだけですよ!」


(……旅人は変人が多いって言われるわけよね)


 おい、同類を見るような目で俺を見るな!


 俺は違うからな!!



「さて、冗談はこれぐらいにしておいて、まじめな方の話をしようか」


「《噓感知》スキルには一切の反応がなかったけどな」


 少なくとも彼女が先ほど話した内容に嘘は一切なかった。


「さて、冗談はこれぐらいにしておいて、まじめな方の話をしようか」


「会話パターンが一種類しか用意されてないNPCかよ」


 「はい」を押すまで無限にイベントが進行しないやつじゃねえか。


「はぁ。それで、まじめな方の理由っていうのは?」


 仕方がないので話を進めることにする。

 そう聞くと、彼女は先ほどと同じように真面目な顔で話し出した。


「《防具切替(アーマー・スイッチ)》の原理究明、いやこの場合スキルについてかな? それが私たちの目的だよ」


「スキルについてって、なんで発動するのかどうかってことか?」


「その通り」


 レレイリッヒはその場をぐるぐる歩き回りながら話を続ける。


「この世界では私たちの世界と似ているところも多々あるようで、実際には全く違う法則によって成り立っている。その代名詞がスキルであり、魔法だ。物理演算が適用されていながら、一部現実ではありえない挙動が可能なのは仕様ではなくそういう未知の力が働きかけた結果だ」


 彼女は短剣を取り出し、光を放ちながら軽く振るった。


「《スラッシュ》。今私が使用したこれは斬撃系の基本スキルに分類されている。口頭詠唱によりスキルが発動し、普通に剣を振るよりも斬撃威力が上昇するというシンプルなものだ。ただのゲームであればそういうものだと処理をしたのだが、いささかこの世界はただのゲームと呼べないほどの完成度を誇っている。恐ろしいことにね」


 それはスキルという存在を受け入れた上で、なぜ発動するのかという根本的な疑問の投げかけだ。


「スタミナポイントかスキルポイントか。この世界のアイテムに倣うならば【技力】と定義するべきこの力はなんらかの法則、原理、再現性が存在していると考えていいだろう」


 レレイリッヒはそこで一旦話を止めると、俺たちの方に向き直る。


 その顔は今までにないほど真剣な表情だった。


「私たちの目標は魔道具の自作だ。いや、その発展形。この場合技力を使用したオリジナルの道具の開発だろう。武器スキルと近しいようで、用途が異なるものだね。だからSPを使用する《防具切替》で確認しているのだよ。ゴン太郎にも時間という対価を貰うために報酬を渡してSPを消費するスキルをいくつも実演してもらっているわけだ。クールタイムの都合プレイヤーは多いほどローテーションで確認し続けられるからね」


「あとオレは護衛みたいなポジションではありますね。パウルが空から索敵できるのと戦闘職のメンバーが少ないんですよ」


 このメンバーの中にゴン太郎がいるのは、そういう背景があったかららしい。


「もしかしたら、口頭詠唱をしなくてもスキルを発動させることができるようになるかもしれない。一部口頭詠唱を省略するスキルは存在しているが、その法則からの脱却も夢ではないと私は考えているんだ」


 《戦士の極意》のように一部のスキルを用いることで、スキル詠唱を省略すること自体はできることが確認されている。


 ならば、その先も存在するのではないか?


 それを確かめるために彼女らはスキル発動の原理の究明を目指しているというのだ。


「NPCに聞けばいいんじゃないか?」


 少なくとも、なにもない手探りの状態から始めるよりは魔道具開発やこの世界で長く暮らしてきたNPCに頼るのも悪い話ではないはずだ。


 いくつかの段階はスキップできるだろうし、詠唱無しにスキルを発動する方法があるならすでに見つけてそうではある。


「ちっちっち、分かってないね」


 俺のそんな疑問に対して、レレイリッヒは人差し指を立て指を左右に振りながらそれは違うと言ってきた。


「自ら検証し、予測を立て、挑戦するから楽しいんじゃないか。問題集の答えを確認するのは問題が全て解き終わってからだ。解き終わる前に答え合わせをしたい人は勝手にしていればいい。私たちはこの時間を何よりも誰よりも楽しんでいる」


 それは、俺が実際に自分の手で確認して初めて実感するのに近いものだろう。

 表面上の情報だけではなく、自分で確かめて答えを確認しはじめて血肉になるという考え方。


 俺は確かに、彼女のそのスタンスに共感を覚えた。


「悪かったな。一側面だけを見てわかった気になって」


「いいや、さっき私が話したことも嘘ではないのだから気にしないでくれ。ただ本題はこちらの方で、さっき話していたのはモチベーション維持のための適当な理由だと理解して欲しいんだ。くだらないぐらいがちょうどいいのさ」


 そう言いながら、レレイリッヒは手をこちらに差し出してきた。


「改めて、私のプレイヤーネームはレレイリッヒだ。レレイやリッヒと好きなように呼んでくれたまえ」


 認識のすれ違いが解消されたので、改めて挨拶をしようということなのだろう。


「それじゃこちらも改めて、俺の名前はクロウ・ホークだ。よろしく」


 俺もそれに応えようと、手を差し出し握手を……









「報告! 研究室にある機器を無断で借りて確認しましたがダメでした! ついでに教授にばれてしまい、その罰として雑用に駆り出されるためしばらくログインできません!」


「なんだって!?」


 しようとしたら、どこからかログイン光と共にその場に現れたプレイヤーが叫び、それを聞いたレレイリッヒは驚愕の声を上げながら180度回転した。


「クッソオオオオ!」


「俺たちの希望があああああ!」


「俺の実力が足りないばかりに……!」


 その場に泣きながら崩れ落ちる多くのプレイヤー達。

 これ以上ないほどの絶望が彼らを包み込んでいるようだ。


「諦めるな! そこまでいってしまったのならその教授も巻き込んできたまえ! 君の熱意があればいけるはずだ!」


 そんな絶望を吹き飛ばすために激励の声を飛ばすレレイリッヒ。


「でも、俺だけの力であの堅物を説得できるわけ……」


 青年は暗い顔をして俯いた。

 彼にとっても、大きな選択を迫られているのだろう。


「それは違う。君だけの力じゃない!」


 レレイリッヒは青年に歩み寄り、そのまま膝を折って視線を合わせる。

 そして、肩を掴み叫んだ。


 それは違うと。

 間違っていると。


「忘れるな。君には、仲間がいるということを……」


「……っ!」


 君は一人ではないのだと、仲間がいるのだと。


 レレイリッヒは真摯に、青年に語り掛けた。


 彼女の言葉に感銘を受けたのか、先ほどログインしてきたプレイヤーは脚を震わせながらも立ち上がる。







 青年は、覚悟を決めた顔をしていた。







「うおおおお! 一度ログアウトするので、今度合流します! 王都ルセスであの堅物を向かい入れてやりますよ! 後日ネビュラで会いましょう!」


「お前の交渉能力が頼りだ! 気張れよ!」


「頑張れええええ! 負けるなあああ!」


 そのまま、多くの仲間達に見送られながら青年はログアウトした。

 そこに希望を見たのか、彼らの顏は清々しい。


「さーて、もうひと踏ん張りしますか!」


 1人の男はこれからだというように肩を回した。


「あいつも頑張ってるんだ。俺たちがこんなところで躓いてるわけにはいかねえよな!」


 他の男たちも拳を突き合わせ、背伸びをし各々気合いを入れ直す。


「わ、私もフリーの画像解析ソフト片っ端からダウンロードしてくる!」


「ウイルスには気をつけてね~」


 1人の女性プレイヤーはそう言いながらログアウトし、それを相方らしきプレイヤーが見送った。


「ふっふっふ、画像処理を専攻している学生がいたのは非常に幸運だった。教授を抱き込めればもっともっと高価な機器で確認することも……」


 レレイリッヒは、小さく、何かを企んでいるかのように独り言を零しており。


「……あっ」


 何かに気づいたのかそのまま彼女はゆっくりと、ぎこちない動きをしながらこちらに向き直った。


 うん、まぁ。あれだな。










「わ、私たちはぁ! この時間を何よりも誰よりも楽しんでてぇ!」


「誤魔化せるわけねえだろうが! おまわりさんこいつらでええええす!」


「ああああっ!? 管理AIコールはやめてくれえええええ!」


 俺とレレイリッヒによる仁義なき争いが今、始まった。

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― 新着の感想 ―
あのすいません、口角が天井に突き刺さってしまいました。
[良い点] 更新ありがとうございます。 [一言] 変態と人外は紙一重だから⋯⋯
[良い点] 作り込んであるからこそ人はその先を求めるのだし、ロマンを夢見て際限なき活力を得るのもまた人の姿だろう。 とはいえ、時に人は見えてはいけないものも見てしまうのだなぁ……。 [一言] おまわり…
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