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第2話 これからのこと

□バイズ街道 クロウ・ホーク


 バイズ街道はルセスとダンジョン都市ネビュラを繋ぐ形でひたすら伸びている街道だ。

 街道から外れるといくつか農村や<カイゼン樹林>のようなモンスターが占有しているエリアもあるが、基本的には平和な道と言えるだろう。


 ネビュラまでは魔車を使用するとおよそ3時間前後とのことだ。

 ただそれは強行軍に限った話であり、魔車を引いているモンスターの休憩を適宜挟みながらになるともう少し時間がかかるようだ。


 そして俺達プレイヤーや<アルカナ>がスタミナの限りひたすら走り続ければだいたい同じくらいの時間で到着する、らしい。


 全力疾走のフルマラソンのようなものだろうか?


 このことからわかる通り移動方法というのは全プレイヤーが抱えている課題の一つと言える。

 <アルカナ>に騎乗したり速度上昇系のスキルを使うことによって時間を短縮したり、それこそクランを結成しクランホームにスペースを確保して魔車のようなものを運用したり、これからは模索の時代が訪れるだろう。


 これはあくまでスタミナの限りがないプレイヤーに限った話であり、普通に体力に限りのあるNPCはやはり魔車などを用いて移動するのが主流だそうだ。

 維持コストは相応にかかるとのことだが、ルクレシア王国の初心者用の狩場で手に入る兎肉の需要が尽きないのはこれが理由なのだろう。


 今日の目標はネビュラへの到着だが、しばらくは徒歩で街道沿いを歩く予定だ。

 久しぶりにゆっくりできるので、考えを纏めたいのもある。


「今日の目標はネビュラへの到着で、時間があれば一回ぐらいはダンジョンアタックする感じだな」


「そのあとは金策、と言ってもギルドで依頼を受ける以外になかなか思い浮かばないわね……」


 ダンジョンに潜るのがそのまま金策になるならいいのだが、これは現地についてからのお楽しみだろう。


「とりあえず、耐久値の高いメインウェポンを一つ用意しないとだな」


「全てをそうする必要もないものね」


 俺が今までメインで使用していたのは一番オーソドックスな、俗にいう市販の武器を呪ったものだ。


 簡単に手に入るし《呪物生成》をすることでどんなに弱くても一定の役割を付与でき《呪爆》での使い捨てに適していたので都合がよかったのだが……。

 やはり耐久値の高い普段使い用の武器を用意しておいた方がいいと改めて思ったのである。


「そうなると素材を集めて鍛冶師に依頼するかお金を貯めて高性能の武器を買うかになるわけで、結局金策は必須かぁ」


 この世界での武器や防具は素材を集めて作る。

 その後は素材を集めて強化したり、ものによっては派生強化させるという割と王道なシステムだ。


 ただ、プロパティという一点に限るとスキルで作る場合は同じ性能が生み出されるのに対し、実際に手を動かして作った方が良い性能の武器や防具が作れることもある。

 スキルで作れないものもあるらしく、銘や見た目の変更というような融通が利くことあり一部のプレイヤーはそちらにのめり込んでいるようだ。


 しかし、専用の場所も時間も必要なのに加えて失敗すると性能が落ちたり、そもそも失敗作扱いになったりするらしいので一長一短と言える。


 俺が市場で購入したり、りんご飴から流してもらっていた武器も失敗品として性能が落ちた武器が多くあるし、最初の方に買った呪いの武器も似たような過程で生み出されたものだろう。


 スキルレベル上げの過程で作り出された失敗武器を、さらにスキルレベル上げのために《呪物生成》によるランダム生成されたものだったりするのだ。


「そうね……それでさっきから何をしているの?」


「ん? トスジャグリングだよ。改めて確認したいことがあってな」


 俺は歩きながら<呪われた投げ石>を4個ほど取り出しジャグリングをしていた。

 クラン戦でのmu-maとの戦闘で再度確認した方がいいと思ったことがあったためその一環である。


「そうだな……」


 そのままジャグリングを続け、右手に一瞬のみ<呪われた投げ石>がある状態のタイミングで……


「《武具切替(ウェポン・スイッチ)》」


 俺はそのまま呪われた片手剣を取り出し、流れのまま左手に向かって軽く投げ持ち替える。

 そして、宙に飛ばしていた残りの<呪われた投げ石>を右手でキャッチした。


「……な?」


「なにが『な?』、なのかしら?」


「《武具切替(ウェポン・スイッチ)》で切り替わっているのは俺が持っていた<呪われた投げ石>だけで、残りはアイテムボックスに収納されてないんだよ」


「あ、ほんとね……」


 《武具切替》で切り替わる対象として、『装備している』という判定が行われたのは、持っていた<呪われた投げ石>だけである。

 つまり、装備判定自体は逐次入れ替わっているということだ。


「《武具切替(ウェポン・スイッチ)》の判定は俺の生命線だったからな」


 俺が呪いの武器を投げ捨てて、新しい武器を取りだしながら《呪爆》の攻撃手段に利用していたのも、落ちていた<呪われた片手剣>を回収して再度投擲したのも、基本的にこの仕様によるものだ。

 というより、そうでないとメニューを操作したときか《武具切替》をした時しか装備判定にならないという不自由極まりないことになる。


 なんのために剣の鞘や、斧や槍を背中にひっかけるようなホルダーがあるのだと突っ込まざるをえないだろう。


 ただ、深く意識してなければそもそも気にも留めないものであるのも事実である。

 ここら辺はある意味感覚的に理解できるからだ。


 他にも所持権という制約こそあるものの、他人の装備を"持つ"こと自体は可能だ。

 装備効果が乗らず、武器スキルも使用できず、アイテムボックスへの収納もできないが意味がないわけではない。


 例えば隙を突いて物理的に相手の武器を奪う。

 そして、それを底なし沼に投げ込むことで装備を使えなくするようなこと自体は可能である。


 なにせ相手の武器破壊は仕様の範疇だ。

 戦闘時においては窃盗行為もある種の武器破壊と捉えることもできる、ということなのだろう。


 武器を失ったプレイヤーがその武器を回収できないと諦めて【放棄】するか、はたまた絶対に回収すると【所持権】を維持するかは個人の裁量に依存する。

 そして【放棄】された武器は風化し、いずれ耐久値を全て失い、場合によってはそのままロストしてしまうのだろう。


「『装備状態』と『所持権がある状態』と『放棄状態』は例外を除けば水物として処理されているわけだ」


 デスペナルティになった時一定範囲内かつ回収可能な状態であれば、所持権がある武器や装備していた武器は回収されたりするが、状況によっては武器ロストも覚悟しなければならないだろう。


 というより実際にアイテムボックスに回収されなかったケースは確認されてるからな。

 蜘蛛型のモンスターに武器を絡め取られそのままデスペナルティになり、ログインしたら武器がなくて青ざめた、なんていう話が有名だろう。


 もしそうなった場合は一縷の望みにかけ、デスペナルティ明けに全力疾走して拾いにいくことになる。


 ちなみにそのプレイヤーは無事回収できたらしい。

 勝手な推測になるがこれも【通報権】のように管理AIが条件判定をしているのではないかと俺は考えている。


「だから、こういうこともできる。《武具切替(ウェポン・スイッチ)》」


 俺は<呪われた片手剣>を真上に向かって放り投げ、《武具切替》によって<呪われた投げ石>を取り出し軽く投擲する。


「《呪爆(カース・ボム)》からの」


 それを爆発させつつ、先ほど上に放り投げ落ちてきた<呪われた片手剣>をキャッチし。


「《スラッシュ》っと」


 振り下ろす形で《スラッシュ》を発動させた。


 ふっ、決まった……


「ま、現状ただの曲芸だけどな……」


 俺は歩くのを再開しつつ、片手剣を軽く回転させながら投げてはキャッチする。

 失敗しても痛みはないので気楽にできる“遊び”の一つだ。


「投げ道具を使う時にしか使えなさそうね」


 わざわざ近接武器があるのに投擲武器に持ち替えて攻撃する必要があるのか。

 それなら魔法職を取って魔法剣士みたいにすればいいのではないか。


「そういうこと。《武具切替(ウェポン・スイッチ)》の隙をなくせる小ネタだけど、戦闘中に武器を手元から離すのは普通にリスクを背負う行為だからな。そもそも、投擲中心のジョブ構成ならもとからそういう風に装備を固めておけばいいだけだ」


 【弓術士】の矢筒のようにな。


 いちいち剣の鞘やホルダーに収納するのも隙になる。

 故に俺は《戦士の極意》を使用している時しかこの方法を多様しない。

 《武具切替》という保険がない状態で無手になるのは悪手だからだ。


 それ専用のジョブ構成や戦闘スタイルを確立させて初めて選択肢に入るだろう。

 【武闘家】などのジョブを取得し素手で発動するスキルを覚え戦えるようにしてもいいいのだろうが、それだったらわざわざ武器を使う必要がない。


 これは俺が武器を使い捨てるため意識しておく必要があるというだけで、メインウェポンがあるプレイヤ―はそれを大事に扱うし、予備の武器を取りだす《武具切替》さえあれば事足りるというのが実情だ。


 ただ、ゴーダルのような多椀族のプレイヤーはもしかしたら()()を悪用できるかもしれない。


 俺は腕が2本しかないので、確かめようがないが。


「あー、余計に武器が欲しくなってきた。多くは望まないからできれば耐久値が高くて、プロパティが優秀で長持ちして見た目と名前がかっこいいやつがいい」


「溢れ出る欲望を抑えきれてないわね」


「言うだけならタダだからな。ユティナも何かやりたいこととかないのか?」


「私? そうね……」


 ユティナは顎に人差し指を当てて考え込む。

 そして、ぽつりと話し出した。


「猫カフェは行けるのよね?」


「そうだな。少し待つけどりんご飴から連絡が来るはずだぞ」


「旅先で美味しいものを食べる予定なのよね?」


「スピルを稼ぐ必要はあるけど、それが目的だからな」


「それなら、特に思いつかないわね……」


「無欲だな」


「ええ、十分楽しめてるもの」


 そう言ってユティナは空を見あげた。

 その横顔は本当に十分だとでもいうようで。


「そうか……そうかもな」


 俺は何も言わず、ただただ同意した。







「ま、俺はまだあるけどな。そうだなぁ、例えばジョブレベルを上げたいだろ? 次に剣以外の武器もそろそろ使ってみたいし、呪術師がカンストしたら魔法職に就くのもいいかもな」


「あまーい悪魔の取引に応じて騙されてしまわないか心配だわ」


「その時は騙されたふりをして逆に騙し返すから問題ないな!」


「取引に応じないのではなくあくまで騙すことに拘るところがなんというか……にじみ出てるわよね」


「なにが!?」


 そんな風に、これからのことを話しながら俺とユティナはバイズ街道を進んでいった。

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