エピローグ 人外魔境の物語
【人外】とは……
AR・VRの環境下において発揮する異常な能力を有した人類のことである。
□魔導王国エルダン ダンジョン ラネルカ遺跡 クラン用インスタンスエリア
「なんでこの国にクロウいないのおおお! 見つからないよおお……やっぱりルクレシア王国に行ったんだああああああ……ひっぐ、……ぐすん」
少女の泣き声が周囲に響き渡る。
そしてそこには、その少女を思い思いに眺める集団がいた。
「あーあー、泣いちゃったようちの姫さん」
「クロウがいないとああなるのはいつものことだろ。それよりも俺のこの杖かっこよくね?」
『遠距離でのすれ違い! 盛り上がってきたぜえええええ!!』
「お前は盛り上がらないことの方が少ないだろ。あとうるせえからその拡声器を置け」
「ごめんなさい! 煽ったのは謝るから、負け犬って言ったのも違うの! 最近会えなかったから、また会いに来てほしいだけだったのよぉぉぉ……」
「ツンデレ乙」
「今時ツンデレは流行らんでしょ」
「おい、やっぱすげえぞこれ。ラグマジとほとんどかわんねえ! それどころか将来的な拡張性だけ見れば上回ってるんじゃねえか?」
「アバターに魔力の流れる感覚、美しいわ! これよね! やっぱこうじゃないとね! 他のVRゲームはゴミよゴミ! ラグマジとEternal Chainしか勝たん」
「クロウのやつが気づかないわけないと思うんだけどな、あいつが魔法職につかないなんてありえるか?」
「気づいたらさすがにログインして知らせるぐらいはしてくれるもんな。やっぱゲームの仕様じゃねえかな、MPはMPでも呪いとか種類があるらしいし、姫さん曰くジョブに合わせて感覚器官が個別に用意されてるらしいぜ。色が違うんだとよ」
「そういうもんか」
「案外浮かれてるだけかもしれねえぜ? あいつ意外なところで抜けてるからなぁ」
「だれかリアルの連絡先かアカウント知ってる人いるー?」
「いねえよ。ネットリテラシー謎に高いんだぞあいつ。かろうじてアクセスルートを持ってるのはそれこそアルカぐらいだけど、あれじゃあなぁ……」
「どこにいるの? 会いたいよぉ……昔みたいにまた魔法を教えてよぉ……」
「もう無理だろ、クロウ含めてうちのメンバーで姫さん以上に魔力の運用に精通しているやついねえんだし、もう現実で連絡とればいいじゃねえか」
「あんなこと言ったのに私の方から連絡取るなんて恥ずかしいよぉ……無理だよぉ……」
「ほら、片っ端からクロウって名前が入っている単語に反応したり声をかけるのはもうやめて、そろそろレベル上げにもどりましょ? さすがに勘九郎って名前にあのバカがするわけないじゃないですか。再会した時に煽られて笑われちゃいますよ?」
「うん……そうね、そうだよね」
そして、少女は立ち上がる。
瞬間、空気が変わった。
「検証班、最終報告をお願い」
「可変詠唱はあらかた確かめたぜ。《詠唱置換》での魔法行使に適応されることも確認済みだ」
「NPCに魔法を操作する感覚を確認したところ、私たちとほぼ同じ運用方法をしていると見て間違いありません。魔力の流れを認識し、意図的にコントロールしているようです。可変詠唱との併用も可能と確認できました。技術体系としては全く別とみてよいかと」
「うん、ありがとう。わかっていたけれど、再現性は大事だもんね。仕様かどうかちゃんと確かめないと。それじゃ最後の確認に移るよ」
少女は彼らから離れていく。
そして……
「魔法スキルのみ。《ファイアボール》」
少女は魔法のスキルを唱えた。
《ファイアボール》が1つ発動した。
「【可変詠唱】+魔法スキル。分裂せよ、《ファイアボール》」
少女は魔法のスキルを唱えた。
《ファイアボール》が2つ発動した。
「《詠唱置換》+魔法スキル」
少女は指を鳴らす。
《ファイアボール》が1つ発動した。
「《詠唱置換》+【可変詠唱】+魔法スキル」
少女は杖をまわす。
《ファイアボール》が2つ発動した。
「《詠唱置換》+【可変詠唱】+【魔力操作】+魔法スキル」
少女は髪を整えた
《ファイアボール》が8つ発動した。
「《詠唱置換》+【魔力操作】+魔法スキル」
少女は靴を地面に向けて「コッコ」と2回鳴らす。
《ファイアボール》が8つ発動した。
「最後だね。【可変詠唱】+【魔力操作】+《詠唱置換》+魔法スキルの《フレイムスピア》」
そして、少しのチャージ時間の後少女はその魔法を口にした。
「飛翔せよ《ドラゴンフレイム》」
炎の龍が生まれ落ち、それは天高く舞い上っていった。
そして、アルカと呼ばれた少女は「はぁ」、と小さくため息をついた。
「うーん、やっぱレベル上げとスキルレベル上げはしないとだめだね。アバター、この場合システムかな。蓋がされてて8つまでしか完全同時発動できないや。最後の魔法使ったら【ノア】のMPもなくなっちゃったし燃費も最悪だね。威力も下がるし、これなら何も詠唱しないで《ファイアボール》とか《フレイムスピア》を撃った方が継続的に戦えるかな。最後のは大道芸か一発ネタとしか使えないね。造形の方にリソースが取られすぎてベースは中級魔法基準でも、下級魔法相当のダメージしかでない見掛け倒しだと思う」
「やはりそうですか。無限の魔力があるラグマジとはところどころ違うのは仕方ないです」
「うん。だけど、意識できれば動作一つ一つに意味を持たせられるっていうのは、こっちのゲームならではかな? ラグマジは全部アバターで完結してしまったけれど、武器スキルとか他にもいろんなものを組み合わせることもできそうだよ」
少女は情報を出し続け、周囲のメンバーはその情報を聞き漏らすまいと集中する。
「属性変化はできないかな? 個別に魔力の”色”が設定されてるから、対応のジョブにつかないと使えなさそうだね。あと、ダメージは下がるってさっき言ったオリジナル魔法関連はそれでもラグマジよりも優れてるかも。フレイムスピアを【魔力操作】で整形して、可変詠唱で意味を与えて。魔法スキルの発動詠唱を詠唱置換で自分の好きな魔法のスキル名で唱えればあら不思議……ってね? コツはいるけど、理論上は誰でも可能だね。ラグマジ布教のために、この技術も【可変詠唱】と一緒に広めよっか」
少女の独白は止まらない。
「偽装発動は対策されてるね、ファイアボールって魔法スキルを唱えてウインドカッターを発動するのは制限されてる。ゲームシステムに存在しない魔法スキル名にしないとダメだし、言霊の要素もあるから明らかに別系統の魔法名に詠唱置換したら発動しないっぽい」
常人が聞いたら理解できない感覚を交えながら彼女は当然のように話し続ける。
「あとは発動箇所とか距離の制限とかもあるけど……でも、すごいね。これは、私たちの動き一つ一つに意味を与えれば存在そのものが魔法になれるの。ラグマジと方向性は違えど、一つの完成形だと思う!」
そして少女は振り返り、周囲にいる仲間達を見渡した。
「みんな! 自由にやろう、芸術に縛りなんて存在しない。各々が思うがままに、理想を追い求めよう」
魔法に狂った人の道理を外れた怪物は同胞たちに宣言する。
「思いっきり楽しもう! 魔法は、いつだって自由なんだから!」
【人外】魔法狂いと愉快な仲間達
所属国家:魔導王国エルダン
☆
□大手医療機器メーカー企業 社長室
壮年の男はARヘッドセットによって拡張され宙に映し出される多くの資料を流し見ており、秘書であろう女性は確認の終わった画面の処理をしていた。
「いいね、このゲーム。味覚の完全再現だよ、夢がある。問題を抱えてる子たちの味覚を疑似的にではなく完全に取り戻すこともできるかもしれない。日本の会社か、うーん。技術提供をしてもらえないか話をしたいな。連絡、問い合わせフォームは……管理AI7号へ?」
「それについてですが、こちらを……」
「ふむ……フレンドが遊んでて、ゲームのプレイ映像を見てみたら楽しそうだったから遊んでみたい?」
「ええ、今後のテスターについてどうすればいいのかという意図もあるかと」
「クラン対抗戦、ああ。集団戦闘って言うんだっけ? 彼から要望があったけど、開発費用が抑えられなくて断念しちゃったからなぁ。今なら問題ないけど、もう遅いよね。悪いことをしてしまったよ」
壮年の男は、申し訳なさそうな顔で視線を落とした。
「うん、いいよ。彼が残してくれたデータは間違いなく数十億以上の価値がある。VRゲームという環境を用意してみたが、想像以上に学ぶものも多かった。今後は自由にしていいと伝えるとしようか。うちが倒産しない限りは死ぬまで彼の家族含めて衣食住健康管理全てこちらが負担すると伝えておいてくれ」
「縁起でもないことを言わないでください……承知しました」
「あ、そうだ!」
「なんです?」
「交渉が上手くいかなかったら、もう直接乗り込んで確かめた方が早いかもしれないから、君も一応準備だけしておいてくれないかな。あと、味覚に問題を抱えてる子をリストアップするよう下に指示を落としておいてくれ。うちで再現できなかったら現状世界で唯一完全な味覚を提供できる媒体だろうからね。こちらとしては恥ずかしい限りだけど」
「承知しました。それでは……」
そして、秘書は扉から出ていく際に、小さく呟いた。
「<Eternal Chain>、ですか……」
【人外】触手魔人
所属国家:???
【人外】???
所属国家:???
☆
□アメリカ 個人用AR・VRゲーム室
「人を撃ちてええええええ!」
「捕まりますよ」
男は叫び、女が諭した。
「そうはいうけどなレディ、つまんねえんだよ。どいつもこいつも馬鹿みてえにイモりやがって馬鹿じゃねぇの? 大馬鹿だ! しかもバレバレ! 普通のFPSもAR FPSもVR FPSも雑魚しかいねえ!」
「あなたが強すぎるのが悪いんですよ。そんなに戦いたいなら他のゲームを始めたらどうです? テンタクルスウォーとか大企業がバックにいるだけあって完成度は高いですし、テンタクルマンみたいな凄腕プレイヤーもいますよ。知名度は皆無ですが」
「お前も馬鹿だな。ルールがちげえだろ」
「ルールですか?」
「俺がやりたいのは銃を用いた戦いだ。銃がないんじゃどこまでいっても俺の欲は満たされねえ……」
「身勝手ですね」
「仕方ねえだろぉ? そんじゃよお、レディ。スポーツでトッププロ同士が競い合ったらどれが最強かってたまに議論起きるだろ? どれが最強だと思う?」
「……ボクシングとかレスリングでしょうか?」
「いいや、違う。狩猟、その中でも射撃系、スポーツハンティングさ」
「ええ……」
「鍛え抜かれた肉体も、反射神経も銃という人類の英知の前にはすべて無駄さ。射程が、速度が、威力が違う。汎用性も随一だぜ?」
「それはそうですが」
「まぁ言いたいことはわかる。でも事実そうなんだよ。銃こそ世界で最もエキサイティングなスポーツである。スポーツは競い合いだぜ? ほら、命の競い合いってやつだ。そこにルールがないのなら、自分以外のプレイヤーを一方的に全員殺せば必然的に勝者は一人だ。最強の定義がないのなら、そら原始的な最強、生死を掛けた争いになるに決まってるだろ? 反射神経とか、握力とかちゃんと基準を用意してからじゃねえとやるだけ無駄だ。それが嫌なら銃の弾は6個しか使用できないとかルールで決めておいてくれ」
「理解しかねます」
「まぁそっちの思想に合わせるなら、野球じゃねえかなぁ」
「……一応理由をうかがっても?」
「バットがある。あれ以上汎用性が高い鈍器はそうそう存在しないぜ? 振り回しやすく、手に馴染み、相応に長く、特別な技術もいらねえ。大人から子供まで楽しめるから種類も大きさも豊富だ。状況によって使い分けられる」
「なにも変わらないじゃないですか」
「だから言ったろ? ルールがちげえんだよ。競い合いの基準がな。価値観の相違ってやつだ。だから人類は法律っていうルールを作ってるのさ。殺し合いにならないためのな」
男はソファーにだらしなく横になる。
「FPSで戦ったらそりゃ俺が勝つし、触手野郎の土壌で戦かったらあいつが勝つ。アンフェア極まれりってね? ノーマルな戦場でもやりあったことはあるが、あれじゃ俺の欲は満たされなかった。やっぱ銃がないとダメだ」
ふと、男は何かを思い出した。
「いや、一人楽しめそうなやつはいたっけかぁ? あれは俺と同類だな。同じ穴の狢ってやつだ」
「あ、テンタクルマンが一時的な活動休止を発表しましたね、しばらく別のゲームをするそうです」
「ほーん、で? タイトルは?」
「<Eternal Chain>……VRMMORPGですね」
「MMORPGだああああああ!? ……ってなんだそれ?」
「知らないんですか」
「俺はこのくそったれな現実世界に生まれ落ちた瞬間には銃に愛されてた男だぜ? それ以外のことなんて知らなくても問題なかったのさ」
「バカですもんね」
「ああ、俺はバカだからな。ゲームっていう娯楽で金を稼げる時代に生まれてきてよかったぜ。バカなりにバカどもを楽しませればいいだけだしよ。まぁ、一応見てみるか……PK、殺し合いが容認されてるならいい、雑魚には興味ねえ。スキル、ウルトみてえなもんか。ジョブ、キャラクターごとに性能が違うと? <アルカナ>、ユニークな要素は好きじゃねえが、ルールならしょうがねえ。全員に配られてるなら最低限の平等は担保されてる。完全再現された五感、これって俺がいつもやってるVR FPSと何が違うんだ?」
「味覚の有無、銃や人工物以外にも触覚が完全再現されています。あと、匂いもですね」
「ほーん。つまり、情報量が増えるってわけだな。悪くねえ、あとは銃があるかだが……魔導銃……うーん、俺が使っているような銃は存在しねえのか……お?」
「補足しますと、専門のレシピを用意して試行錯誤を行うことで技術的には作れると思いますが、ステータスという条件だと素材の値段にダメージが依存すると思います」
「どういう意味だ?」
「あなたの考える銃でダメージを出すウルトが存在しないんですよ。魔導銃はあるんですけれど……」
「あのよぉ、バカかレディ。ないなんて決まってねえだろ。あんじゃねえか可能性がよ」
「はい?」
「これだよ。特殊職、ようは隠し要素だろ? まぁ魔導銃なるものでも悪くはねえ。いや、なんなら心機一転こっちにしてみっか。事実上の無限の弾倉とか夢があるねえ。銃ってついている以上、俺なら適応できるだろ」
男は目を輝かせる。
「おいおい、あんじゃねえかよ。銃があって、共通のルールがあって、他の化け物どもとお互いの得物で殺し合えそうなゲームが……」
退屈を持て余した人の道理を外れた怪物はその顔を凶相に歪めた。
「とりあえず、魔導銃があるこの機械帝国ってところにすっか! いいぜ、楽しくなってきた。なんて言うんだっけか? そうそう、人生には彩りが大事ってやつだ」
【人外】王冠殺し
所属国家:機械帝国レギスタ
☆
□???
完全没入型VRゲームがこの世に生まれてはや5年。
人類はまた一つ進化したのではないか、と私は考えている。
え、VRゲーム界隈は低迷の一歩を辿っている?
ARゲームの方が人気?
知らないよ。
私はそれらに興味がない。
進化とはどういう意味かって?
そうだね、『火事場の馬鹿力』という言葉を知っているかな?
ああ、バカにしているわけではない。ただ、認識に齟齬があってはいけないから確認したかっただけだ。
わざわざこんな異国の地に来て私の研究室に入ってくれたんだ。
こちらからも歩み寄りたいと思っているだけさ。
君の国の言葉を用いたのもそれが理由だよ。
切迫した状況に置かれると、普段には想像できないような力を無意識に出すこと。うん、命の危機を迎えた時に脳のリミッターの制限を解除して隠された力を解放する。
夢があるよね。
自分の中に隠された力があると言われてるわけだもの。
でも、これは肉体に恐ろしいほどの負荷がかかると言われているし、意図的にリミッターを外せる人類なんて見たこともないだろう。
当然だよね、この力を引き出すには命の危機に瀕さなければならないのだから。
それじゃあ一つ君に疑問を投げかけよう。
現実での死。
拡張された現実での死。
限りなく現実に近い仮想現実での死。
これらには一体どれだけの違いがあるだろうか。
私はそれに興味があるのだ。
なぜかって?
そうだね、ある日私は英語に翻訳された元は君の国のものである一つの掲示板を見つけた。
息抜きは大事だからね、論文ばかり読んでいては心が荒んで行ってしまうんだ。
適当にネットをサーフィンするのは頭を空っぽにするのにはちょうどいいんだよ。
私と同じように頭を空っぽにしているであろう意見が山ほど転がっている。
……どうしたんだい、そんな気まずそうな顔をして。
話を戻そう。
彼らが言うには【人外】と呼ばれる人類が存在するらしい。
【人外】はAR・VR空間という特殊な環境下において発揮する特異な才能を有しているのだという。
それを見た時、私は現実とAR・VRでの違いを考えた。
そして一つの仮説を建てた。
それは死の有無だ。
自分の肉体が死んだと脳が認識する。それが影響するのではないか、と。
あまり詳しくないので調べてみると、対戦アクションというジャンルのゲームではストックがなくなるまで争うのだという。
FPSと呼ばれるジャンルでは、自分の体力ゲージがなくなるまで銃で、武器で殺し合うのだという。
それ以外にも死という概念をHPやストック、ライフ他にも様々なものに置き換えてゲーム性を確保しているらしい。
これは、疑似的な死の訓練といえるのではないだろうか?
死に死に死にて、死に絶えて、現実ではありえない無限の屍を積み重ねたその先に、個人差こそあれど【人外】は特殊な環境下での感覚器官の拡張を、意図的なリミッターの解除の方法を習得したのではないかと私は考えたのだ。
故に彼らはその環境下でしか力を発揮することができない。
その環境でしか『火事場の馬鹿力』を発揮する訓練をしていないからだ。
現実で力を発揮しろと言われてできるのは、【人外】の中でも極一部だけだろう。
限定的状況下における才能の拡張、といってもいい。
であれば、この仮説を立証するためにはあとは検証をするべきだろう。
測定項目は未確定、なぜならこれは私の趣味だからだ。
わざわざ頭を使うほどのものではない、ライブ感を楽しまないとね。
個人差を考えると観察対象は多い方がいい。
彼らが言うには【人外】にも種類があるようだ。
できれば現実にできるだけ近い空間が好ましい。
そして、彼らが言うには【人外】と呼ばれているプレイヤーが続々と集まっているゲームがあるのだという。
<Eternal Chain>
世界で初めて五感の完全再現が確認されたVRゲーム。
次の実験はここでしようと思っているのだ。
実験ではなく趣味だが、まあ些細なことだ。
君も手伝ってくれるかな?
なーに、私も鬼じゃない。
他の授業で忙しい中ゲームをしようなんて誘うなって顔をしていることぐらいわかっているとも。
単位を上げよう。
わからないことがあれば私が相談にのろう。
ゲームをしながら単位も貰える夢のような話だ。
このゲームの中なら2倍の時間があるらしいし、勉強時間を確保するには十分だろう。
私の趣味に突き合わせるのだからそれぐらいはするさ。
2倍時間の技術に興味はないのかって?
私が興味あるのは人類の可能性の方だから、どうでもいいかな。
お、いい眼をするようになったね。
そうだ、それぐらい自分の欲望に正直に生きた方がいいと思うよ。
楽ができるなら楽はするべきだ。
人生を豊かにするのはいつだって自らの価値観だけなのだから。
その価値観を満たすために大量のお金が必要であれば頑張ればいいだけさ。
うん。私のどうしようもないほど自分勝手な趣味によって、君が人外と呼ばれる新人類に至れるか、少しは楽しみにしておくとしよう。
不安は解消されたようだね。
やる気は十分といった顔だ。
それじゃあ、ゲームをはじめようか。
仮眠室は10人分あるから、スペースには困らない。
【一般人】???
所属国家:???
【人外候補】???
所属国家:???
☆
かくしてプロローグは終わりを迎え、ここから始まるは人外魔境の物語である。
To be continuited……




