第35話 冒険の始まり
□王都ルセス クロウ・ホーク 猫カフェ予定地
「それで接敵しておきながら、みすみすターゲットを取り逃がしたわけね」
「NPCでも補足できなかったプレイヤーの名前を突き止めたって言って欲しいね。どっかの誰かさんが出し抜かれたところの尻拭いをしてやったんだ。感謝して欲しいぐらいだぜ」
「それは、クロウもよね?」
「責任転嫁か? お前にあるまじきダサさだぞメリナ」
「うふふふふふふふ!」
「はははははははは!」
「その醜い言い争いをいつまで続けるつもりだてめえら」
「戦うなら街の外で頼むよ。ここで暴れないでね」
「ああ、いつもこんな感じなんだね……」
俺とメリナが互いに泥を投げ合っていたところを、ゴーダルとりんご飴に諭される。
ガーシスはどこか呆れた様子でこちらを見ていた。
あの後、俺はメリナに連絡を取りガーシスやゴーダルもログインしていたため一度来てもらい状況の共有を行っていた。
それが終わったので、軽くメリナと言葉で殴り合っていたところだ。
「それで、本当に能力の詳細はわからなかったのよね」
「<アルカナ>の方は大体わかったけど、それが何でプレイヤーが一切認識できなくなるかの関連付けはできてないな。【鋼騎士】のことをずっと警戒してたから、なんらかの対処方法はありそうではあった。次善策で兵士で大量に囲む方法も考えたんだが……」
「さすがに国家最高戦力はそんな簡単に動かせないわよ。クラン戦の時は特例中の特例よ?」
「だよなぁ、どちらにせよ無理だったか。とりあえず、この場合って【指名手配】できるのか?」
俺としてはそこが気になるところだ。
王城への無断の侵入に加えて、窃盗からの逃走。
【指名手配】の条件はわからないが、内容だけみればいけるのではないかと考えている。
「……おそらくになるのだけれど、可能ではあると思うわ。ただ、決定的な証拠がない以上、指名手配しないとは思うわね。直接確認できればよかったのだけれど」
どうやら期待は薄いらしい。
「情報だけ共有しておいて、あとは国任せかしらね」
「そうするしかないかぁ……」
やはり、現行犯で真偽を確認できなかったのが問題か。
犯人かもしれないという理由だけで、【指名手配】することはできないわけだ。
他のプレイヤーへの心象を気にするなら、当然といえば当然だろう。
他の国へのリスポーン地点の更新を防ぐのは不可能だとしても、ルクレシア王国のリスポーン地点を使えなくできるだけで制限をかけられると思ったんだがな。
「それで、クロウはそのステラちゃんって子のこと探し出すつもりなの」
メリナは今後どうするのか俺に確認してきた、が。
「いや、放置する」
「あら?」
「えぇ、あんなに見つけ出してやるって言ってたのにかい……」
「どこにいるかわからないし、徘徊系でエンカウントするレアモンスターぐらいの認識だからなぁ。レアドロップを落とさないのもどうかと思う」
(前々から思ってたけど、クロウってPKや【賞金首】をモンスター扱いするわよね)
(場合によっては倒せばアイテムを落とす貴重な収入源だからな)
メリナやりんご飴は俺が追いかけるつもりだと思っていたようで少し意外そうな顔をしているが、それについて俺は現状特に考えていない。
対処のしようがないのもあるが、それでゲームの目的を捻じ曲げるのも違うと思うからだ。
頭の片隅に警戒という形で置いておくが、ステラの<アルカナ>と同じように特定するのが難しい以上まずはしっかりレベル上げなどをするべきだろう。
「とりあえず、情報共有はこれぐらいだな。ガーシスも警戒しとけよ」
「うん。別に僕は恨んでないけれど、ガレスとガラップの敵討ちぐらいの気分で取り組むよ。彼らも草葉の陰から応援してくれてると思う」
勝手に殺してやるな。
「そういえば、mu-maについての情報を一切こちらに下ろされてなかったんだけど、俺がターゲットってわかってたよな」
「あら、クラン戦の参加メンバーの情報はリスクがあるから渡せないって言っておいたわよね。それならハニーミルクって子についてはどういうことかしら。彼女強すぎよね。ええ……ほんと強かったわ……」
「……それについては本当にすまん。飯、奢ります」
「気にしてないからいいわ。私も情報から漏れている強いプレイヤーがいる可能性を考えておくべきだったもの」
メリナは詰めが甘かったわ、と小さく声をこぼす。
その目もどこか据わっており、次はこのようなことがないようにするという決意が垣間見えた。
「それで、クロウってほかにもVRゲームの経験があるのよね」
俺のゲーム遍歴か?
確かに前ポロっとこぼしたかもしれないな。
「そこそこな。色々つまみ食いしながらになるが、オフラインオンライン問わず100本は超えてる。そういうメリナは少ないのか?」
「そうなのよねぇ、このゲームも面白そうなゲームを探しているときに友人に誘われたから一緒に始めたのよね」
メリナにはどうやら、他国でスタートした友人がいるらしい。
メリナが他国のプレイヤーと情報の裏どりをしたといっていたが、その友人のことなのだろう。
そして、この質問がくるということはだ。
「ハニーミルク。あの子の戦いを見て思ったのだけれど、あれ、おかしくないかしら?」
メリナもハニーミルクの異常性に気づいたからに他ならない。
「……気づいたか」
「当然でしょ、あんな攻撃方法が簡単に成立するのならもっと混沌としてないとおかしいわ。明らかにステータスの壁を越えてるもの。ゴーダルもそう思うわよね」
「おう、そうだな……」
メリナはゴーダルに同意を求めるが、ゴーダルは歯切れ悪く返事を返す。
どこか思い当たることがあるといったような顔だ。
「なに、あなたも何か知ってるの?」
「知ってるというか、なんていえばいいか。メリナはテンタクルスウォーってVRゲームを知ってるか?」
「名前だけならね。義手リハビリのために開発されたVRゲームよね? ネットニュースの記事で昔見た記憶はあるわ」
またずいぶんと聞き覚えのあるゲームのタイトルが来たもんだ。
「ゴーダルもテンタクルスウォーのプレイヤーだったんだな。道理で器用に腕を操るわけだ」
「お、クロウもか? 同郷じゃねえか! 言えよおい!」
テンタクルスウォー。
それは触手生物のアバターに入りこみ戦う新感覚異形格闘VRゲームのことだ。
基本1vs1、最大4人まで同時に対戦でき、触手の数=強さに直結するため新しく生えてきた腕を操るプレイヤーの技量を試されるゲームである。
色々カスタマイズもでき、対戦ゲームらしくカジュアルのほかにランクマッチもあり、日夜異形の怪物になったプレイヤーたちが己の情熱と欲望のままに触手をぶつけ合うというなかなか刺激の強い見た目と内容からコアなファンがついているゲームでもある。
日本ではあまり人気はないが、海外ではVRゲームとしては盛り上がっているといえるだろう。
対戦だけでなく、カスタマイズしたアバターでミニゲームに挑戦したりスコアを稼いで景品をゲットしたりと手広く遊べるオンラインゲームだ。
……というのは建前で、実態としては海外の大手医療メーカがフルダイブVR技術を義手リハビリなどの医療系に利用できないかという確認の一環で開発されたゲームである。
視覚や聴覚などの補正に関しては一部すでに流用しているらしく、定期的なアップデート、プレイヤーのプレイ記録やアンケ―トによるフィードバックなども盛んに行われている、らしい。
データもサンプルも大量に手に入る実験場というわけだ。
「ああ、一時期遊んでたな」
「それならクロウも知ってるかもな。そのゲームにテンタクルマンってプレイヤーがいるんだけどな、そのテンタクルスウォーの無差別級のランキング1位をずっと維持し続けてる正真正銘のバケモンみたいなプレイヤーだ」
「ええと、なにがすごいのかよくわかないのだけれど……」
メリナは戸惑ったような顔をしている。
ほとんど知らないゲームのランキング1位がどれだけすごいかなんて言われても理解ができないのだろうし興味もないだろうからな。
「そうだな……見ろ、俺は多腕族のアバターだ!」
そう言ってゴーダルはマッスルポーズをきめた。
「いいぞゴーダル! 仕上がってるよー!」
「やめなさい」
「まだオープンしてないとはいえここはカフェの予定なんだけど……」
「仮初めの肉体だけどいい筋肉だね」
俺はかけ声を上げ、メリナとりんご飴はいい顔をせず、ガーシスは少しの毒を吐く。
ゴーダルはマッスルポーズを止め、説明を続ける。
「これ腕をどうやって動かしてるかわかるか?」
ゴーダルは器用にも4本の腕でじゃんけんをし始めた。
勝ったり負けたりを繰り返し、ガッツポーズなどを交え腕ごとに勝敗に合わせた感情表現もさせている。
メリナやりんご飴はそれを困惑した様子で見つめる。
「……そういわれると、わからないわね。どうやってるの? 思考入力しているとか? それとも何かシステム補正でもあるのかしら?」
「いいや、なんもねえ。全てマニュアル操作だ」
「え、そうなのかい?」
そうだろうな。
「多腕族をアバターメイク時に選べば最大で4本に腕を増やせるんだがな。腕の数だけ神経というか感覚器官が増えて操れるようになってんだ。スキルの発動制限数や装備の枠とかは変わらねえんだが、普通に腕として使えるぜ。相手を掴んで身動きを封じて、大剣を振り下ろす、とかな?」
「それって、少しずるくないかしら?」
単純に装備を増やして攻撃力増加などはできないが、手数2倍はできてしまうといえるだろう。
「腕が増えたら強いとか単純なもんじゃねえからな。それだけ意識を割かなきゃいけねえし、死角も多い。そもそも現実で2本腕で過ごしている中、いきなり新しい腕を増やされてそれに対する感覚器官を渡されても満足に動かせないことの方がざらだ。無駄な当たり判定が増えるだけとも言えるぜ?」
これが強いと思うなら、アバターメイク時に多腕族を選べばいいとゴーダルは言っている。
チュートリアルで動かせるのだからいくらでも試せばいいというわけだ。
「テンタクルスウォーの初心者の基準は触手2本。中級者は触手4本から6本、触手8本を完璧に操れるようになればもう上位層を名乗れる一人前だ。そんでもって2桁を超えたらランカーも見えてくる。16本を自由自在に操るプレイヤーに8本程度のプレイヤーが勝つのは難しいからな」
それが、テンタクルスウォーが触手の多さ=強さたるゆえん。
触手1本1本の練度が高ければ格上にも勝てる可能性があるが、体力ゲージを基準に単純な殴り合い削りあいになる関係上操れる手数の多さがそのまま強さに繋がるのだ。
ヒト型だけでなく、イソギンチャクのような見た目だったり触手ならではの搦め手や人間の肉体ではできない様々な技もあるにはあるが、大前提として触手の数が基本となる。
「普通は触手の数で戦場を分けたうえでランクを競ってるが無差別級だけはちげえ。ありとあらゆる制限を取っ払った文字通りの最強を決めるんだが……」
そして、ゴーダルはテンタクルスウォーというゲームで最強と呼ばれるプレイヤーの情報を告げた。
「69本。それがテンタクルマンの同時操作可能な数だ」
「……数字の増加幅がおかしい気がするのだけれど?」
「あくまで完璧に動かせる数が69本ってだけで、操るだけでいいなら100本程度は余裕らしいぜ」
メリナの言う通り、異常と言えるだろう。
「ただ操れるだけじゃねえ。針の穴に糸を通すミニゲームがあるんだがな、69本の触手で同時に通せるぐらいの精密な操作も可能だ」
「それもう曲芸よね」
医療への応用がベースということもありミニゲームもかなり充実しているのだが、それはもうミニゲームとは呼べないだろう。
クリア不可能な発狂ゲームといった方が正しい難易度だ。
「そういう意味だと、僕も知ってるかな。強すぎたせいで大会を出禁になっている有名なFPSプレイヤーがいるんだよね。VR FPSとAR FPSのあらゆる大会の王冠を喰らいつくしたってことでさ。キルクリップ集とかもたまに流れてきてるよ。クロウもたぶん知ってるよね」
「あー……そうだな。どっちも有名なプレイヤーだな」
「つまり、ハニーミルクだけじゃないってこと?」
「おう! そういうことだ。感覚が少し麻痺してるだけでメリナの方が感性としてはまっとうだな!」
ゴーダルはそういって話を締めくくった。
ついでに、俺も補足しておこう。
あまり広がっている話ではないが、VRゲーム界隈では割と有名らしいからな。
「ああいうARとかVRの環境下で発揮する異常な能力を持っているプレイヤーのことを一部では【人外】って呼んでるらしいぞ。VRゲームをプレイ中に他のプレイヤーから横伝いに聞いた話だけど、それ以来俺もそう呼ぶようにしてる」
「人外か、確かに言い得て妙だね」
「とりあえず、凄いプレイヤースキルを持ってるってことでいいのかしら? それならまぁ……」
「メリナ、それは違うぞ」
少しメリナは勘違いしているようなので、その誤解は解いておく必要があるだろう。
「プレイヤースキルじゃなくて異常な能力を持っている、だ」
「違いがよくわからないのだけれど?」
「……まぁ、頭の片隅に入れておいてくれればいいよ」
情報として知っているかどうかってだけで、対応できるか変わってくるからな。
☆
「それで、クロウはこれからどうするの?」
メリナはふと、俺にそう確認してきた。
「さっきりんご飴とは簡単に話したけど、そろそろ他の街に行く予定だな。というかちょうど挨拶もできそうだし、この後にでも出ようかと思ってる」
「あら、もう行くのね」
「ルセスでやることは大体終わったからな」
クラン戦も終わったし、レベルもある程度上がった。
基本的にレベル50あれば街道間の移動はできるらしいし、なんなら出遅れたぐらいだろう。
「それで今回のクラン戦の報酬の話だけど……本当にクロウは受け取らないのかしら?」
「俺個人としてはフラットな立ち場にいたいからな」
そう、俺は今回のクラン戦終了後の報酬の受け取りを一部断っている。
先行投資の分はすでに装備やアイテムで回収が終わっているし、クラン戦にかこつけて多くの物資も受け取っているからだ。
スキルレベル上げに利用させてもらったりもしたし、俺一人ではここまでうまくは行かなかっただろう。
「しばらくはこの世界を見て回るつもりだし、もしかしたら所属国家の変更をするかもしれない俺があまり肩入れしすぎても困るだけだろ?」
「ええ、そうかもね」
「え、もしかして、国の変更をするつもりなのかい?」
りんご飴は驚いた顔でこちらを見てくるが、ゴーダルやガーシス、メリナはある程度納得という顔をしている。
「可能性の話だよ。0じゃない以上そういう意識を持っておきたいってだけの話だ」
今からしばらくはプレイヤーとNPCの相互理解の時間である。
レベルを上げ、クエストをこなし、少しずつ経済の中に組み込まれていく。
人によっては世界を巡り、自分にとって過ごしやすい街や国を見つけていくのだ。
この世界が文字通りもう一つの世界となるか、ただのゲームの世界となるかは、プレイヤー1人1人の判断に委ねられるだろう。
「そういうメリナは?」
「私はこのままルクレシア王国に根を下ろす予定よ。ちょっと面白い話も進めててね。りんごちゃん、私と一緒に頑張りましょうね?」
「う、うん。そうだね……ほどほどに頼むよ」
メリナはこのままルクレシア王国所属のまま過ごすらしい。
ルクレシア王国どころか王都ルセスに店を持つ予定のりんご飴とは今まで通り協力していくのだろう。
「僕もしばらくは自警団のクラン結成のサポートをする予定だね、トマス以外にはいまいち信頼されてないみたいだから、しばらくは元PKクランの有志のメンバーと一緒に治安維持活動とかの協力をする予定だよ」
ガーシスは【賞金首】専門の組織を作るという話だったが、自警団クランの一部に食い込まれるような形で進めているらしい。
組織の管理体制は分けつつ、かといって別の組織として運用するのは効率が悪いと考えてのことだろう。
まずは自警団クランの正式な結成を見据えて活動するようだ。
「俺は南の方にある港町に行く予定だぜ、ちょっと用事があってな。そのあとは決まってねえが、まぁなるようになるだろ!」
「俺たちは、ダンジョン都市ネビュラを観光がてらダンジョンに一度挑戦してみる予定だし、そうなると俺とゴーダルはここでお別れだな」
この広い世界、王都ルセスを中心に活動するほかの3人と違い、俺とゴーダルは完全に別の方向へ別れることとなる。
メッセージ機能を使えば合流はできるだろうが、わざわざ合流するほどの理由がなければ現実的ではないだろう。
「結局クロウと戦えなかったことは心残りだが、ま、別の機会を楽しみにしておくとするぜ」
「今度会うときは敵じゃないことを祈っておくよ」
「おいおい、そんな好戦的な顔をしながら言う言葉じゃねえだろ?」
「ばれたか」
「ばればれだぜ?」
ゴーダルはいつか見た時と同じような悪役面でそう言った。
だから怖いって。
「うし、それじゃ……」
「ククルちゃん、また会いに来るからね!」
「にゃー」
別れの言葉を言おうと思ったら、ユティナがククルにしがみつきながらそう叫んだ。
ほらそこ、りんご飴からお店がオープンしたって連絡が来たらまた来るんだからほどほどにしなさい。
「おーい、ユティナさーん?」
「ええ、ええ! ……わかっているわ」
そう言いながらククルを最後に一撫でし、ユティナは俺の隣に並んだ。
ゴーダルの横にはいつの間にか鎧武者が佇んでいる。
ガーシスの背後には大きな蛾が止まっていた。
メリナはいつも通り不敵な笑みを浮かべている。
ククルはりんご飴の膝の上に定位置と言わんばかりに座った。
「じゃあな」
「またどこかで会いましょう。りんご飴もありがとね。貰った服は大切にするわ」
「うん、お店がオープンしたらメッセージを入れるね。ゴーダルもマッスルポーズを取らないなら歓迎するよ」
「はっはあ! すっかり手厳しくなっちまったな。考えとくぜ! 坊主もユティナの嬢ちゃんも元気でな!」
「クロウとゴーダルが戦うときは僕のことも呼んでね、観戦したいからさ」
「ふふ。ええ、さようならゴーダル。クロウ。ユティナちゃん。あなた達と過ごした時間はなかなか刺激的だったわ。また一緒に悪だくみしましょうね」
「俺は清廉潔白かつ高潔無比な男で有名だからなぁ。悪巧みなんてしたことないんだが……」
「はっ! どの口が言いやがる」
俺は再度この場に集まったメンバーを見渡す。
今度会う時は敵かもしれないし、引退してしまっているかもしれない。
このメンバーで集まることは2度とないのかもしれない。
ただ、一緒に悪巧みをして、バカ騒ぎをした。
そんな、この世界にログとして刻まれた歴史だけは未来永劫変わることはないだろう。
俺は、店の外へ歩き出す。
「じゃあ、お先」
「行ってくるわね」
「クロウ! ユティナ! 2人とも行ってらっしゃい!」
俺は、PK騒動を共に駆け抜けた仲間たちと別れを告げる。
向かうは東の街道のその先にあるダンジョン都市ネビュラだ。
☆
勇者になって魔王を倒し世界に平和をもたらす。
ヒーローになってヴィランの陰謀を打ち破る。
冒険家として世界を旅し、絶景に目を奪われながら思いをはせる。
誰も知らない世界の真実を解き明かす。
そんな経験をしたいと考えたことはあるだろうか。
俺は小さい頃から、そんな夢見がちな子供だった。
そして、そんなバカみたいな夢を今から叶えに行く。
「よし、行くか! とりあえず魔導カメラの購入からだな」
「そうね、そして向こうに着いたら物資の補給のための金策からはじめましょうか」
「……そうだったああああああ、思い出さないようにしてたのにいいい!」
「現実を見なさい。残しておいたスピルで魔導カメラを買ったら晴れて私たちは一文無しよ」
「カメラは欲しい……武器も欲しい……アイテムも欲しい……」
「ないものねだりね。せっかく気分よく別れたのだからさっさと行くわよ!」
ユティナは俺の少し先に歩いた後振り返り、正面からこちらを見つめてくる。
「ほら、いつも通り面白おかしく、楽しくやっていきましょう」
それは、気を落としていた俺に対する彼女からの激励だったのだろう。
「……そうだな、気を取り直して【呪術師】でも楽に稼げる金策方法でも探すか!」
「ええ、その意気よ」
俺達はこれからについて話し合いながら、歩みを進めた。
──さぁ、冒険を始めよう。
以上で第1章は終了です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
楽しんでもらえていたら幸いです。
楽しかったという方は、ブクマや評価、いいね、感想を貰えるととても嬉しいです。
既に下さった方、いつもいいねしてくれる方はありがとうございます。
PKや油断のできない仲間?達とバカ騒ぎしながら、旅立つまでが第1章でした。
色々ありましたが、クロウとユティナの冒険がようやく始まります。
俺達の戦いはこれからだ。
 




