第33話 新たな幕開けを告げる白
□2035年2月24日 クロウ・ホーク
「りんご飴、来たぞ」
俺はクラン戦が終了した後一度ログアウトしていた。
メリナやガーシスというような一部を除き、多くのプレイヤーはそのまま流れ解散だったのもある。
事後処理はメリナ達が楽しそうに引き受けてくれたし、俺自身そうなるような立ち位置になるよう調整した意図はないと言ったら噓になる。
世界を旅するのが目的の俺らからすると、国のしがらみはない方がいいからな。
なので、クラン戦の恩恵を一番受けたのは誰かと言われれば、それはきっとメリナになるのだろう。
そして、俺はその後再度ログインし、りんご飴に呼び出され王都ルセスのとある建物に来た。
ゲーム内の時刻はちょうど昼に入ったところか。
「やぁ、待ってたよ」
りんご飴に案内され、その建物の中に入る。
内装はさっぱりとしており、飾り付けるのはこれからといった印象だ。
中心にぽつんと机と椅子が置いてあり、それに座った。
椅子が10個ほどあるのは、りんご飴の知り合い全員が座れるようにだろう。
「ククル、ユティナのところに行ってあげてね」
「りんご飴、あなた本当にいい人ね……」
りんご飴はユティナに猫用ブラシやおもちゃを渡し、ユティナは感激といった様子でそれを受け取る。
今日のメリナの恐怖を忘れたいのだろう。
「今日はこの猫じゃらし? に挑戦するわ! ククルちゃん、行くわよ!」
そう言って、一心不乱にククルと遊び始めた。
うん、いつものことだな。
「……それで、ここが一号店予定の場所か」
「うん、猫カフェを開くにはログインしてなきゃいけないから、最初の方は生産アイテムの販売を中心にする予定なんだ。店番として商業ギルドから店員の子も手配させてもらうようになってるよ」
りんご飴の猫カフェ計画は佳境に入っていた。
基本的には生産アイテムなどを販売しつつ、猫カフェのサービスはオプションになるようにしたらしい。
【料理人】や【細工師】、【錬金術師】と生産職が一通り揃っており、色々な商品を安価で揃えられるのを目指すらしい。
コーヒーやクッキーを提供する猫カフェの要素と、販売する商品の多様さで他のプレイヤーの個々人のやり取りやNPCの店との差別化を図るのだろう。
価格は商業ギルドと要相談になるそうだ。
「いい場所なんじゃないか、南門側だから<モコ平野>に向かう予定の初心者も比較的訪れやすいだろうし」
「そうだよね。まぁ、あまり関係ないようにする予定だけどさ」
そういって、りんご飴は棚から1つの箱を取り出し持って来た。
「それは?」
「トレードアイテムボックスだよ、知らないの? 珍しいね」
「最近は全くと言っていいほど、戦闘以外の情報にアンテナ張ってなくてな」
話を聞くと、トレードアイテムボックスは商業ギルドに登録し手続きを踏むことで渡されるアイテムで、これを使用すれば一定の範囲内にいれば直接店員とやり取りをする必要もなくトレードアイテムボックス内の商品を販売と購入ができるようになるらしい。
値段と商品を設定して公開することで他のトレードアイテムボックスから参照できるようになるとのことだ。
「露店機能ちゃんとあったんだな……」
「商業ギルドに使用料金を払わないとロックされるみたいだけどね。購入する側も販売する側も登録だけしていれば一定範囲内なら楽に商品を購入して販売もできるから重宝するって言われたから貰っちゃった。最初はサービスで安くしてくれたんだ。お店は開いてないけど、今この瞬間も金策ができているということさ。購入用だけならかなり安く使えるみたいだからクロウも登録してくれば?」
「考えておくよ。それで、呼び出した理由はその話か?」
「ううん、ハニーミルクを紹介してくれてありがとうって言いたかったんだ。クロウにお願いされてた通りはちみつクッキーを商品に採用するっていったらすごい協力的になってくれたよ。料理人のメンバーも張り切ってた!」
「そりゃよかった」
クラン戦の後簡単に顔合わせの場を用意しておいたんだが、交渉は上手くいったようで何よりだ。
「あと、クロウもそろそろ他の街に移動するんじゃないかと思ってさ。PKの問題を片付けるために、結構長くここにいたんでしょ?」
「まぁ、そうだな」
俺が王都ルセスでやることは一通り終わった。
そろそろ、本格的に動き出していい頃だろう。
「それで、前話していたことについてすり合わせできればと思ったんだけど……」
俺とりんご飴が最初に冒険者ギルドで出会ったときの交渉のことか。
ただ、これに関してはもう答えは決まっている。
「保留、だな!」
「ほ、保留かい?」
「ああ、俺から渡す予定だったのはルクレシア王国の治安の安定化に向けたあれこれだったんだが、結局りんご飴も巻き込まざるを得なくなったからな。これじゃ交渉内容として微妙もいいところだ」
「気にしないでいいのに……」
「俺が納得いかん!」
「クロウって性格あれだけど、変なところで義理堅いよね……」
あれってなんだよ。
めっちゃいい性格してるってことか?
ゴーダルといい褒め上手ばかりだな!
「だからこれからも適度によろしく頼むってことだ。こっちも面白い情報があったら伝えるよ。当然、りんご飴が欲しがっていた情報についてもな」
そう言えば、りんご飴もこちらの意図に気づいたらしい。
「そうだね、これからも適度にやっていこうじゃないか。欲しいアイテムがあれば言ってくれれば用意しておくよ」
親交を深めた後なら、そもそも交渉なんて必要ないのだ。
適度な距離感で、お互い必要な時に連絡を取り合えればそれでいいだろう。
「ああ、猫カフェが正式にオープンしたらメッセージを入れてくれ。ユティナが行きたがってたからな」
「うん、連絡するよ。あとゲーム内で10日もあれば準備は終わる予定だからね」
現実時間で1週間かからないぐらいか。
ログインできる時間の制約や他にも色々準備はあるだろうしそれぐらいはかかるのだろう。
「そういえば、内装についてあてはあるのか?」
「今調整して貰ってるところだね」
それならちょうどいい。
俺はキーアイテムボックスから【ヒュミアの花】を取り出す。
「それはヒュミアの花だっけ? 綺麗だよね」
「ああ、これを店に飾らないか? 枯れる前に生産素材にすることもできるぞ」
「花か……悪くないね。ただそれ1つだと足りないかな」
「ああ、東の大通りにあるリリーの花屋って店で貰ったものなんだ。商業ギルドに掛け合ってみたらいいと思う」
「そっか、そうしてみるよ」
俺はこのヒュミアの花にエリクサー症候群を発症してしまった。
このままアイテムボックスで腐らせておくよりは、どこかのタイミングで生産に使えるようなりんご飴たちのようなプレイヤーが持っておいた方がいいだろう。
結局あれ以降花屋にも行ってなかったが、これで義理は果たしたと考えよう。
「ぜひとも目立つところに飾ってやってくれ。これが魔力水と手入れの方法な。アイテムボックスの中にあればしばらくはもつんだと」
「うん、ありがとう」
そうだ、あれについてもりんご飴にはしっかり伝えておかないとか。
「あと私も1つクロウに聞きたいことがあったんだよね」
「俺からもりんご飴に伝えておかなきゃ……ん?」
「あれ。なんか、騒がしいね」
外が騒がしい。
そして《気配感知》がこちらに来る気配を捉えた。
「すみません! 調査にご協力いただきたいのですが、お時間は大丈夫でしょうか」
店の外からこちらを伺っていたのは街の兵士だ。
なにかあったのか?
「ええ、大丈夫ですよ。お茶いりますか?」
「いえ、急ぎなのでお気持ちだけで結構です。今こちらにいる旅人の方は3名ということでよろしいでしょうか?」
「あ、そこの猫で遊んでる彼女は俺の<アルカナ>なので、2人ですね」
「反応なし……わかりました。それでしたら私が今から問いかけた内容に対して、『ありません』とだけ答えていただけますか?」
「え、ええ」
兵士は息を整え、質問を俺達に投げかける。
「あなた方は、本日の早朝9時から、この私ロブートが問いかけをしている今この瞬間までの間に貴族街及び王城にいましたか、もしくはいるであろう旅人に心当たりはありますか?」
「ありません」
「ありません」
「……ありがとうございます。ちなみにその時間に何をしていたか伺っても?」
「PK対自警団のクラン対抗戦に参加してましたね」
「私はその見学をしてました」
「ああ、クラン対抗戦に参加されていた方たちでしたか、失礼いたしました。それではご協力いただきありがとうございます」
そういって、兵士は慌ただしく駆けて行った。
「なんだったんだろうね……クロウ、続きは?」
「……いや、りんご飴が聞きたいことが先でいいぞ」
「そう? ほら、クロウってクラン対抗戦が始まる前までPKKとして活動してたよね」
まぁそうだな。
それが俺の仕事だったわけだし。
「ああ、それで?」
「ほら、メリナから渡されたPK側のリストを見てて今日思ったんだけどさ。なんか3人組のパーティ組んでる人が多いと思ってね。今後のためにMMO特有のなにかがあるなら聞いておきたいなって」
「3人組パーティが多い? まぁ、経験値の分配とかパーティ編成が偏ったとかそれぐらいじゃないか。初期の今は流れでパーティを組むのがほとんどだろうし、逆に多い方かもしれないな」
確かに3人組が多かったな。
mu-ma、刃歯、右手にポンも3人組だ。
<ゴズ山道>で初心者を襲っていた【爪術士】たちも3人パーティだった。
俺が自爆特攻した6人組も元は3人組のパーティ2つがくっついた形で、俺と最初に殺し合ったガーシス達も3人……
「……待てよ」
「へぇ。なんかもとは4人組でパーティを組んでて、最終的に1人抜けてるパーティばかりだったから喧嘩別れとかそういうのかなって思ってたんだけど……」
「ちなみに、どれくらいが元は4人パーティだったかわかるか。いや、言い方を変えよう。どれだけのパーティが最初と比べて人数が減ってる? 俺も見ればいいのか」
俺も手元に、PKK活動時にメリナから渡されていた資料を取りだした。
「えーと……リストに分類されてるのが全部で24パーティ、それで17個のパーティが減ってる、かな? その後増えてるところもいくつかあるけど。狩りでレベル上げをする場合は経験値効率も気にするんだね、あとは支援組の方も結構減ってるね」
「……少し多い」
「うん?」
「メリナも気づいていない。違和感はあるけどそう言うものだと処理をした。ログインをしていないだけと判断できるからな。ガーシスも気づいていない、動機がないから考え付かなかった……」
確かに多いが、違和感こそあれ疑問に思うほどではないだろう。
その後、普通に新しいパーティメンバーを迎えたりもしている。
PKや恐喝をするのならある程度は固定のメンバーになるからだ。
メリナの言っていた通り、コミュニティ形成速度が速かっただけとも言える。
PKした罪悪感でパーティを抜けて連絡が取れなくなるなんて、ありがちな話だ。
ガーシスなんてその筆頭だ。
彼もPKした結果、一度は引退を考えたのだから。
連絡が取れなくなるPKがいて、パーティが減ってるなんて気づいても疑問に思わなかったんだろうし、俺も同じように判断しただろう。
しかし、先ほどの兵士の慌て方に紐づけると1つの思想と結果が浮かび上がる。
それは荒唐無稽な推論だ。
勝手に俺がそう思い込んでいるだけの話かもしれない。
しかし、俺はこの妄想をなぜか真実と確信していた。
「誘導したやつがいるかもしれない」
「誘導かい?」
「誘導ですって?」
りんご飴は不思議そうな顔で、ユティナはククルから視線をはずし、こちらを見てきた。
「早いんだ、PK問題の表面化が。言われてみると確かに多いんだ、人数が減っているPKパーティが」
ルクレシア王国は他の国と比べてPKの問題の表面化が少し早かった。
というよりも、【賞金首】の増加の速度が早かったといえる。
ゲーム開始3日目時点で【賞金首】が11人。
他国が一桁単位の中で、時期的に見てこれは少し多いと言える。
単純計算でゲーム内、6日間で100人近いプレイヤーがPKの被害にあった、もしくは襲われたことを意味するからだ。
実際には一人で複数人同時に通報することもある以上、もっと少ないだろう。
最大10人同時に通報した報告もあったほどだ。
個人個人で狩りを完結させて通報対象が個人単位になっていたmu-maや右手にポンの方が少数派であるし、あれはmu-maという頭が方針を決定していただけだ。
「そうだ、そんな都合よく集まるわけがないんだよ」
PKを目的にしたパーティメンバーが簡単に揃うかと聞かれれば、俺はうまくいかないと答えるだろう。
思想が、理由が、多くのハードルが存在する。
では、PKを増やすにはどうすればいいかと聞かれたら?
俺はやり方次第で増やせると答えるだろう。
元は普通のパーティだったところをPKに染め上げる、それだけでいい。
「例えば、バレないように狩りに失敗する。パーティメンバーの武器を破壊する、散財させ意図的に資金難に陥らせる。そして恐喝行為を提案し、誘い、広める」
最初のハードルさえ超えてしまえば、人間大体の状況には適応するものだからだ。
普通なら聞き取り調査ですぐにでも名前がバレて特定される。
そんなことを繰り返すプレイヤーをメリナが、国が見逃すはずがない。
それが普通でなければ?
俺が頭の片隅に置いてあった情報を引っ張り出す。
そいつは検証と称して、ガーシス、ガレス、ガラップの3人組を諭し、俺にPKを仕掛けてきた。
よくもやってくれたなと思いつつも特定は不可能だといったん諦めた。
しかし、その検証はあくまでPKの仕様を知るものではなく、その先を見据えたものであったのなら。
「……さっきの兵士の問いかけから見るに王城でなにかあったと考えていいな」
「貴族街は?」
「それはたぶんカモフラージュだ、王城と貴族街じゃ何かあった時の影響度が違う」
貴族街には入ろうと思えば入れてしまう。
兵士同伴にはなるが、俺達プレイヤーも何人か貴族街にはいることができている。
それは【ギルドクエスト】の納品依頼であったり、独自に見つけ出したツテであったりするだろうが。
しかし、ルクレシア王国の王城に入ったプレイヤーは存在しない。
王城は本当の意味で国家の最終防衛ラインだ。
「王族もいる。【大結界の宝珠】含めて、王都ルセスの防衛機構も担っている魔道具も多い。その王城に入れるプレイヤーなんて今の時期にいるわけがない」
可能性があるとすればそれこそ目の前にいるりんご飴やメリナ、トマス・E・リッチフィールドぐらいだ。
つまり、王城にいたであろうプレイヤーは忍び込んだ可能性が高い。
「あの兵士が最低限冷静さを保ってたところから致命的な被害はでてないんだろう。ただ、忍び込まれた事実が予想外だった」
王城は俺達の知らない技術、スキルで何重にも守られているはずだ。
今日のクラン対抗戦ですら、プレイヤーが知ることのなかった多くのスキルや魔道具が使用されていた。
「決行したのはその初見殺しをくぐり抜ける算段が付いていたから。早朝から昼頃にかけては【鋼騎士】がクラン対抗戦のために王城から離れていた。確実に離れるタイミングだった……」
「……そういうことね。たしかにありえない話ではないわ」
「クロウ、つまりどういうことなんだい?」
ユティナは理解を示し、りんご飴はまだわからないと聞いてくる。
これは、知っているかどうかの違いだろう。
「PK問題を加速するようにしたやつがいる、と思う。そいつはパーティに入り込み、PKをするように誘導した。ノウハウを積み重ねて、姿を変えてパーティをいくつも練り歩き手法を伝達していったんだ」
人目の少ないところで襲うように。
「PKの問題が加速すると、当然国や他のプレイヤーは問題視する。俺たちがクラン対抗戦に誘導したのも、俺がPK狩りをしたのもそれが理由だ」
「うん。そうだね」
事実PKの増加が加速するほど、俺たちの注意はPKに吸い寄せられた。
「国も当然この事態を重く見ていたが、国家最高戦力のアピールの場にできると踏んでもいた。本来であれば王都にいると思われていなければならない国家最高戦力をすぐ横の<モコ平野>程度になら出しても問題ないと判断したんだろう」
NPCもとにかく早期にこの問題を解決しようとしていた。
「逆に言えば国家最高戦力が王城に確実にいないという盤面が生まれたともいえる」
そこにいるかもしれないという可能性だけで、1つの戦略を練れるのが国家最高戦力なのだろう。
そして、俺達プレイヤーが、NPCが、ありとあらゆる多くの視線がPKという囮に吸い寄せられた。
その隙に、忍び込んだのだ。
俺は知っている。
今考えたことを出来そうなプレイヤーを、<アルカナ>であろう能力を知っている。
「エデン……」
「エデン?」
姿を偽れる、パーティを組んでプレイヤーに紛れ込める。
「名前も変えられるんだな。プレイヤーじゃないから」
システム上プレイヤーは初期設定したアバターを基本的には変更することができない。
名前も変更することができない。
害意をもって行動を起こすと、【通報権】により名前がばれる。
パーティを組んでいても名前がばれる。
トレードをしても名前がばれる。
同じようにシステム上<アルカナ>の名前も変えることはできない。
固有の名前、独自に付けた名前の最大でも2種類だし、決定した場合名前を付け直す方法は今のところ存在していない。
しかし、それに特化したスキルがあるなら。
プレイヤーではない<アルカナ>自身の名前を変えるスキルならば、システム上で変更することもできるかもしれない。
当然メリナにも姿を偽れるエデンというプレイヤー、もしくは<アルカナ>がいることは共有済みで、彼女も警戒してくれていたはずだ。
しかし、情報としては不十分であったのだろう。
そして、その情報を知ったところで明確な対策は不可能だった。
なぜなら、プレイヤーを特定しない限り、<アルカナ>は無限に復活する。
<アルカナ>とそのプレイヤーが接触する瞬間を特定しなければならない。
よしんば<アルカナ>を特定できても、尾行を悟られたら自刃されて終わりだ。
ダメージを与えず制圧ができればいいのだろうが、すでに後の祭りだろう。
メリナにも、ゴーダルにもガーシスにも、俺にも、NPCに対しても一切を悟られずにそんなことができるのは<アルカナ>の能力だけだ。
これなら、方向性としても1つの答えが見えてくる。
プレイヤーの権限を真似できる能力ではなかった。
「アバターメイク、プレイヤーネーム設定、ジョブ設定、パーティ編成能力。もう一人のプレイヤーを創り出す能力だな」
アバターメイクに関しては他人の姿形をコピーする能力、もしくは両方の能力の抱き合わせだろう。
容姿と合わせてジョブスキルのコピーができるのであれば、サービス初期段階に【風魔法師】の《囁風》を使用できるのも理解できる。
おそらく、相応の制限やデメリットもしくはコストを支払っているはずだ。
なにせ距離制限もなく、好き勝手動くもう一人のプレイヤーを創りだせる力だ。
「そんなポンポン生み出していい能力じゃねえだろ」
表面上の情報だけでいえば、能力の拡張性は間違いなく最高クラスだろう。
しかし、チュートリアルで決定できるのはあくまでも<アルカナ>の見た目や能力の方向性だけだ。
それをベースとして、自分のイメージを基に相棒が生まれる。
想定されている仕様とは全く別の方向性。
自分以外のプレイヤーをここまで完璧に創り出すというイメージ。
そのプレイヤーは一体何を考えていたんだ。
「えーと、名前も姿も変えられる能力を持った<アルカナ>がクラン対抗戦までの絵を描いて、そのマスターであるプレイヤーが何らかの方法で【鋼騎士】がいない隙を狙って王城に忍び込んだってことかい?」
「マスターかどうかまではわからないが、行動原理を考えれば基本的には<アルカナ>の主人であるプレイヤーでいいだろうな」
動き出しまで時間がかかってることから、【鋼騎士】が王城に戻るまで事件が発覚していなかった可能性が高い。
「妄想もいいところだが、俺はそう考えている。プレイヤーが忍び込んだところまではどうにか特定できたんだろうけど、誰が忍び込んだのかはわからなかったから急いで聞き取り調査をしている、はずだ……」
そもそも、【鋼騎士】がいない王城を侵入のチャンスなんて考える方がおかしいし、それで侵入を成功させているのもおかしい。
作戦の穴の多さだけで言えば俺たちのクラン戦以上だろう。
まず、PKと自警団による大規模なクラン戦、もしくは戦闘が起きないといけない。
次に【鋼騎士】が王城から離れないといけない。
さらに、王城の初見殺しや兵士をかいくぐる算段がついていなければならない。
「うまくいかなければ、ただPK問題を加速させただけだ。やる意味がほとんどない」
そうなると、人物像もなんとなく浮かび上がってくる。
「プレイヤー側は愉快犯、もしくは状況に流されただけだな。少なくとも入念な計画を最初から練っていたわけじゃないだろう。<アルカナ>が独自に動いて、たまたま状況が整って、たまたま実行できそうだから動いただけのはずだ。そうでなければ最初の段階で俺の【通報権】に引っかかってる」
ただ、ここまで考察を進めてなんだがこれは所詮妄想だ。
合っているとも限らないし、合ってたからといって、犯人を見つけ出せるわけでもないだろう。
「わー! すごい。正解、大正解です!」
ぱちぱちという拍手とともに、すぐ隣からそんな声が聞こえてきた。
「……は?」
「え?」
「え、え!? き、君は……?」
そこには、一人の見知らぬ少女が椅子に座っていた。
(──クロウ、《気配感知》は!?)
(姿も見えて認識してるのに反応がないぞ! どうなってんだ!?)
ここにはりんご飴とククルに、俺とユティナしかいなかったはずだ。
しかし、確かに目の前に少女がいる。
さっきまで誰も座っていなかった席に気づいたら座っていた。
そして、今もなお目の前の少女に対し《気配感知》は一切の反応がない。
いつからいた。
どこから来た。
どのタイミングでだ。
「あ、えーと。名前は秘密です! その方がミステリアス、ですよね?」
その少女は、上から下までひたすら白だった。
腰まで伸ばしている髪も、服装も非常に目立つ白色だった。
聖法衣とでもいうべき服を身に纏い、目立つ容姿をしていながら、一切を悟られずにこの場に現れたのだ。
「ただ、そこの彼、クロウさんでしたっけ? いや、違う……こほん。彼が言った通りの存在かな」
答えは、俺達の前に現れた。
「黒幕登場! ってね?」




