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第37話 襲撃者

「ふぅ……」


「よく頑張ったな! 兄として誇らしいぞ! 疲れただろう」


 少女が息を吐き、それを青年が労う。

 パレードを終わらせた竜人国の使節団一行は門を潜り抜け、砂漠の草花が茂る豪華な庭園を抜け、宿に足を踏み入れた。

 街の中心地点に広大な敷地を用いて建設されたブランケット商会が誇る高級宿。

 彼らが滞在している間はここを使用することになる。

 大規模なパーティルームも備え付けられており、歓待パーティはそこで開かれるのだ。


「……誰のせいだと思っているのですか。私は大衆の前で笑顔を作るのに疲れたのではありません。パレードの最中(さなか)に口説きに行こうとする馬鹿を止めるのに疲れたんです」


「なんと、そのようなことをしていたとは。いったいどこの馬鹿だ! この私が成敗してくれようぞ!」


 エル王女は小さくため息を吐き、背後に控えている面々の方を向く。


「本来であれば愚兄への罰だったはずですのに、これでは私への罰だと思うのですが。そうは思いませんか、皆さん」


「そんなこと……な、ない……です」


「我々は姫様とご一緒出来て嬉しく思います!」


「エル王女最高!」


「きゃー! もっとこっちむいてくださーい!」


 竜人族の兵士たちはこれ幸いにと騒ぎ出す。

 いかさか自国の王族に対し距離が違過ぎる言えなくもないが、これが彼らの普通だった。

 戦士団に所属しているアリスティア王女やグラン王子と普段から接している彼らからすれば、王族とは身近な存在なのである。


「はぁ、この後は一度ブリーフィングのために会議室に移動します。その後は夕方に備えて各自休んで……」


「エルよ。貸し切りという話だったが、こうも人がいないものなのか」


「はい?」


 ふと、エル王女は周りを見る。

 現在はエントランスフロアと呼ぶべき場所におり、受付が正面に見える位置。

 その中心に一行が立っている形だ。


「おかしいですね。そういえば、案内の者がいると聞いていたのですが……兄上?」


 見上げれば、少女の兄はとても険しい顔で周囲を睨んでいた。


「なんだ、これは。風が淀んで……っ!」


 瞬間、グラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテ。

 否、竜人国ヴァルドラーテが誇る戦士長は()()()()()()()()に襲わ──






「総員! 警か」


()()


「いっ!?」






 その顔が何者かに掴まれた。

 無から姿を現した男は軽薄な笑みを浮かべながら、掴んだ勢いのままにグラン王子の頭を床に叩きつける。


「ぐっ、うおおおおッ!」


「おっと!」


 グラン王子は崩れた態勢を構うことなく、即座に手元に槍を取り出し鋭く振るう。

 しかし、男は容易にそれを躱した。


「なっ!?」


「グラン戦士長!」


 驚きの声を上げる兵士たちの耳に、遠くで発生したであろう爆発音が届く。


「触れたな? 俺の指に」


(なんだ、意識が……)


 グラン王子の意識が遠のいていく。

 その状態から睡眠状態へと強制的に移行し始めていると理解した。

 しかし、抵抗することはできず。


()()


 それは、五指で触れた対象を強制的に安眠へと導く異能によるものだ。

 竜人族が有する耐性も、合計レベルの高さによるレジスト判定も、装備による状態異常耐性も、全てを貫通し強制的に眠らせるというもの。

 肉体を気体に変化させる異能を用い待ち伏せし奇襲する。

 狙うは当然一番厄介な戦士長だ。

 油断、疲労、安心、警戒、それらによってもたらされた意識の一瞬の隙を突いた一撃によって戦士長は無力化された。



「姫様を守れ!」


「ブランケット商会に連絡を!」


「ずいぁあああ!」


 即座に動き出すは全員が合計レベル300を超える精兵10名。

 戦士長が瞬時に無力化されたことを理解すると同時に何者かの襲撃であることを断定。

 先程の爆発音の後、街全体に張り巡らされていた結界の効果が切れたのを認識。

 つまり、これは何らかのものによる計画的な犯行。

 下手人は当然、目の前にいる男だ。


 相手の力量は自分たちよりも格上だと判断。

 エル王女を守るべく2名が立ち塞がる。

 状況を知らせるため3名が入口と左右の窓に向けそれぞれに散開する。

 襲撃者へ向け時間を稼ぐべく4名が武器を手に駆ける。 

 そして、最後の1人は切り札である《竜化》を使用し肉体が変化し始めた。

 各々が自身の役割を明確化したことによる阿吽の呼吸を超えた最速の連携。


 だが、その全てを()()()()()()相手に対してはただの予定調和に過ぎない。


「はっ」




 刹那、彼らの視線の先から男の姿がかき消えた。




「よお」


「なっ!?」


 いつの間にか《竜化》をしようとしていた兵士の横に立っていた男は、そのまま五指で撫でるように頭に触れる。

 瞬間、肉体の変化が止まり兵士の意識は遠のいた。


 再度その場から姿が消える。


「ぐぁ!?」


 右の窓に駆けた男の足が掴まれ部屋の中心に投げ飛ばされる。


「なぁ!?」


 少しの時間差と共に左の窓に向けて駆けた女の足も掴まれ部屋の中心に投げ飛ばされる。


「がっ!?」


「きゃ!?」


 そのまま両名はエントランス中央で衝突した。


「ばかな……っ!」


 入口の扉へ駆けた兵士の正面には既に襲撃者の男がおり……そのまま繰り出された掌打を防ぐことができずに弾き飛ばされる。


「これで援軍は呼べねえな」


(なんだ、なにをされた……)


(意識が……)


(姫、様……)


 援軍を呼ぶべく駆けだした3名が無力化される。

 ここまで襲撃されてから10秒もかかっていなかった。


(は、速すぎる! 目で追うのがやっとだと!?)


 この中で唯一その動きを視認することができた合計レベル400の兵士は内心で驚愕し……


「精兵っていってもよぉ。高くても()()()()()4()0()0()()()()()()ばっかじゃねえか。国家最高戦力には遠く及ばねえ」


 【盗み屋】は既に【天輪眼】で全てのジョブ構成とステータス情報を掌握している。

 【盗み屋】は眼を切り替え【未来視の魔眼】により数秒先の視界内の未来を認識している。

 竜化さえされなければ恐れるに足らないと理解している。


「てめえらの中で警戒する必要があったのは、そこの王子様だけだ」


 故に、唯一敵になり得た戦士長を最初に狙ったのだ。


「格が違えんだよ」 


 合計レベル650。

 人類における最高峰に近しい領域。

 天職の組み合わせによるものかそのAGIは優に10000を超えており……


「《加速(アクセル)》」


 6名の兵士全員の意識は手の一撫で途絶えた。


「あ……」


 残されたのはただ1人。

 この場で唯一戦う力を持たない王女のみ。

 ステータスは相応に高い。

 だが、その精神や意識は兵士のものではない。


「王族2匹を無事確保っと。通常の竜人族もついでに10匹。これなら【荒らし屋】の野郎も満足だろ。ボーナスが期待できそうだ」


 ニヤニヤと品定めをするように己を見る男。

 まるで、物を見るような視線に晒された少女の顔が恐怖に歪む。


「ち、近づかないで……!」


「安心しろよ、今すぐには殺しゃしねえ。ただまぁ、抵抗できねえように手足をもいで、喉を潰して、竜化も封じるがな」


 その五指が少女の頭を優しく包み込み……






「それでは、おうじょサマ。()()()()






 その言葉を最後にエル・メル・アルタ・ヴァルドラーテの意識は途絶えた。

ステータスの壁について……

ステータスの中においてSTR、INT、AGI、ENDでの10000超えは一種の壁である。

ここを超えると超常の領域に一歩踏み込める。

ジョブを選べないイデアの場合、天職の合計レベルが600を超えうまく噛み合えば越えられるかもしれない。


ジョブを自由に選べる旅人の場合、いわゆる特化型構成を組みレベルをカンストさせれば越えられるぐらいのライン。


眠りの五指とは……

我が子を安眠させてあげたい思いが結実し発現した異能。五指で触れた対象を強制的に安眠へと導く。

対人類種にしか効果がないため、アルカナをはじめ精霊やドラゴンのようなモンスター区分の対象には一切効果がない。

元の所有者は殺される前に我が子と共に他国に逃げ出し名を変え顔を変え姿をくらませた。

能力が消えてないことから今もどこかで生きていると思われる。

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― 新着の感想 ―
文字通りレベルが違う相手、しかも慢心や油断も無いと…
バランラの目論見通り?グランには手痛い罰が降りましたね。ちょっと厳しすぎる洗礼みたいですが。 それなりの人数抱えて機動力が低下したと思われる盗み屋……なんとなく物陰からクロウに観察されてそう。王女様…
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