第35話 ヴァルドラーテ使節団
俺は<災厄星の光剣>と睨み合う。
ステータスを見れば、最大MPが50000超えという数値。
だが、ユティナが憑依している現在の実数値としては1万を超えているぐらいだ。
時間経過と共にどれぐらい回復するか見ていたのだが全く回復する気配はない。
(MPの回復速度は基本最大MPに依存する。普通、こんだけMPが高ければもう少し回復量が増えてもいいはずだが装備前と変化する気配はなし、か)
現在の最大MPまで通常回復で溜まるのを待つと余裕で数日かかる計算だ。
今度は<災厄星の光剣>を部屋の窓から刺す光に当てる。
すると、何かを吸い込むような感覚と共にMPが回復し始めた。
「おお……」
どうやら《光喰い》が発動したようだ。
固定値ではないが、この調子であれば2時間もかからずにMPが最大まで回復するのではなかろうか?
(光量が少ないのか? それとも、窓越しなのがいけないのか?)
自然光だとこの程度が限界なのだろうか。
吸収する光の種類を変えてみたいな。
光属性魔法の光などはどうなるのだろうか。
また、吸収する範囲は?
《災厄星》の威力含めて色々と検証して……
『まもなく、サンドヴェールに到着いたします。お客様は降船の準備をしてお待ちくださいますようお願い申し上げます』
(っと、ようやくか)
割り当てられた個室に館内放送が鳴り響いた。
「着いたみたいよ。行きましょ?」
そうして俺達は今回の旅の終着点である交易都市サンドヴェールに到着した。
☆
□交易都市サンドヴェール クロウ・ホーク
(あっつ……)
交易都市サンドヴェールは巨大な砂漠の中心に位置する街だ。
通り沿いにバザー・マーケットが立ち並ぶそれは、異国情緒あふれる街と言えるだろう。
現在の時刻はちょうど朝の10時頃。
思いっきり太陽光に炙られているため、非情に暑い。
放っておくと脱水や熱射病、火傷(軽)になるので耐熱用装備を身に着ける、熱耐性を付与する食事アイテムを摂取する、単純に日傘や装備で肌を覆い隠す、はてには水分補給といった対処方法が必要だ。
食事をとらなくてもいい旅人であろうとも、外的要因による状態異常までは防げない。
また、メニューから体感温度についてある程度調整できるのだが、知覚できる情報が減るのは望ましくないため俺は基本熱や寒さに関してはそのまま感じられるようにしている。
下手に無効化すると気づかぬうちに凍傷や火傷のような状態異常になる場合があるのだ。
デスリスポーンすれば五体満足で復活できるという理由で常に感じないようにしている旅人もいるらしいがな。
周りを見れば薄手の長袖に明るい色のゆったりした服が多い。
砂漠の街らしく、昼夜の寒暖差や日差し、砂ぼこり対策になるからだろう。
ただ、露出面積の多い踊り子のような衣装で堂々と歩いているものもいれば逆に全身鎧を着こんでいるようなものもいる。
熱対策は万全といったところか。
(クロウ、暑そうね?)
ユティナはしれっと俺に憑依していた。
憑依している時は霊体なので暑さを感じることはないのである。
横を歩いているようで、足元はふわりと浮いているのがその証拠だ。
「お兄さん暑そうだね。熱対策を疎かにしていたと見た。連れのお姉さんを見習った方がいいんじゃない?」
そんな俺達に日焼けをした快活そうな少年が話しかけてきた。
頭にターバンを巻きつけており、その手にはアイテムボックスらしきものを持っている。
なるほどな。
「ああ、暑くて死にそうなんだ。何かいいものはないか?」
「そんな時はこれ! 一口食べれば熱対策効果を付与するアイスジュエルさ! 効果時間はおよそ30分。今なら30個入りセットで販売するよ! お値段なんと3000スピル!」
「買った」
「まいどあり!」
アイスジュエルが入った袋を受け取り3000スピルを取り出し少年に渡す。
少年はそれを受け取ると嬉しそうにどこかへと走り去っていった。
どうやら、俺のような暑さ対策を疎かにしている旅人を狙った商売らしい。
商魂たくましいと思うが、こちらとしては非常に助かる。
アイスジュエルなるアイテムの見た目は水色の飴だ。
ひょいと口の中に放り込めば、若干の塩味と共に爽快感に満たされていく。
塩飴みたいな感じである。
(おお。快適になった)
先ほどまで感じていた暑さや不快感が消え去った。
少し汗でべとべとするがこれだけの日差しならじきに渇くだろう。
すごいな。
(クロウ、私にも頂戴?)
(……実体化したらな)
(わかってるわよ……ってあっつ!? なによこれ!)
そりゃ、こんな日差しの中でその恰好は無理があるだろ……
☆
「あいあいー。商会長にお渡ししておくにー! 依頼完了お疲れ様でっす!」
ラトゥールと同じように商業ギルドのカウンターで依頼の手紙を納品する。
それを処理するのは猫人族……ケットシーと呼ばれる二足歩行の猫だ。
ゼシエから受けた依頼はこれにて完了。
(予定通り、しばらくは観光でもしてくか)
(ええ、楽しみね!)
帰りには一度ラトゥールに寄る予定だ。
なんでも、あの時対応していた受付嬢や俺を案内してくれた男性はフィリスの協力者だと、あの後ヴィルガイアさんが教えてくれた。
徽章は今も手元にあり、それを再度渡せば同じように案内してくれるらしい。
ただ、フィリスがあの素材を捌くために十分な時間を待つ必要があるため、あえて帰りの時期は遅らせる必要がある。
その間、サンドヴェールで観光をして時間を潰そうというわけだ。
「あら、もしや……クロウとユティナではございませんこと?」
「ん?」
どこか聞き覚えのある声に名前を呼ばれる。
見れば、声を発したのは暑苦しいほどに装飾のついた豪華なドレスを着た女性だ。
女性の傍にはこれまた燕尾服の執事の男が控えている。
それは実に懐かしい顔ぶれで……
「イザベラ嬢とセバスか。久しぶりだな」
クイーンズブレイド号で出会った旅人。
イザベラ・チャリスカッテと彼女の<アルカナ>であるセバスがそこにいた。
「どうしてここに?」
「それはこちらのセリフですわ! ……あら、エリシアはいないのかしら?」
「俺達はクエストで。エリシアはエルダリオンで留守番中」
「そうですの!? 残念ですわぁ。私、リベンジしたかったですのに!」
この感じも久しぶりだ。
「それで、そっちは?」
「ん、ほほ。おーほっほ! そんなの決まっているでしょう!」
聞けばどこからか扇子を取り出したイザベラが大仰な身振りを取りながら高らかに叫ぶ。
「このサンドヴェールは宝石や貴金属の加工に優れた街ですのよ! 宝石都市ジルコで採掘された宝石をより素晴らしきものに磨き上げる究極の美の街! この、イザベラ・チャリスカッテの技術を研鑽するにはこれ以上に相応しい街はございませんわ!」
瞬間、ざわりと周囲の気配が変わった。
「イザベラ・チャリスカッテ……」
「あれが……」
なんだ、これ。
というか叫ぶなよ、変に注目集まっちゃうだろ。
「セバス。説明求む」
ちょちょいと呼べば、セバスは俺達にだけ聞こえるように小声で話し始める。
「お嬢様はエリシア様に敗北されて以降、お嬢様パワーを高めるために日夜過酷な修行を繰り返しておりました」
「久しぶりに聞いたわね、お嬢様パワー」
「お嬢様パワーを磨くためには自らの技術のさらなる研鑽が必要だと判断されたお嬢様は魔導王国から抜け出し、商業連盟アーレにその身一つで殴り込みをかけたのです」
「比喩表現だよな」
「そうして、たどり着いたのが宝石加工においては世界有数の大都市。交易都市サンドヴェールにございます」
確か、イザベラはアクセサリー類の生産に特化していたんだっけか。
「お嬢様はさらなる研鑽を重ね、腕を磨き、このサンドヴェールでも有数の生産職の立場を確立したのです!」
「おお……」
普通に凄い。
「それだけではありませんわ! 私の伝説は今日始まりますの! かの竜人国の使節団より持ち込まれる七晶竜の核! 暗晶竜の大水晶を加工する栄誉を賜り合ましたのよ!」
瞬間、周囲のざわめきがさらに大きくなった。
うん、とりあえずあれだな。
「……一旦場所を移さないか?」
イザベラ嬢。
お前、目立ちすぎ。
☆
「竜人国から使節団が派遣されるのはご存じですわよね? 彼らの最初の目的地がここ。砂の交易都市サンドヴェールですの!」
商業ギルドの商談室に場所を移し話を聞く。
なんでも、竜人国は今回の使節団派遣を決めてからすぐに動いたらしい。
七晶竜……俺も<黄晶竜>の核は入手したがそれ以外の全てを含む7体の上級モンスターのレアドロップ品である核。
それらの素材を優れた宝石職人が多くいるサンドヴェールで加工する。
そして、完成した7つの装備を国交回復の記念品として商業連盟アーレに収める……というものだ。
サンドヴェールの次は納品のために現盟主がいる獣人都市ベルクルスに向かうらしいが。
「その加工をする職人の1人にイザベラ嬢が選ばれたと」
「その通りですわ! これでまた私のお嬢様パワーはうなぎ登りですことよ! 今度こそ、エリシアをぎったんぎったんのぼっこぼこにしてやりますわ! おーほっほっほっほ!」
「お嬢様! その意気でございます!」
セバスさんがいつも通りどこからか取り出した花吹雪を巻き上げる。
イザベラはそれに包まれご満悦な表情を浮かべた後、俺達にドヤ顔を飛ばしてきた。
おいこっち見んな。
「なにか代表を決める大会とかあったのかしら?」
「いえ、あまりにも早すぎたがためにそういった催しは開かれませんでした。故に、純然たる実績にございます。お嬢様が生み出された数々の作品は各大商会の方はもちろん王侯貴族にも人気でして……」
ユティナの質問にセバスが答える。
つまり、サンドヴェールで宝石加工を任せたい職人と言えば誰ですか? というアンケートを急いで取って単純な知名度順で決定されたと。
「それじゃあ使節団が来るまでは準備期間ってわけだ。大変だな」
失敗は許されない大役を任されているのを羨めばいいのか、憐れめばいいのか。
ただ、それ以上に知り合いが元気そうでなによりという思いの方が強い。
「あら、何をおっしゃってるのかしら?」
「え、だってそうだろ。違うのか?」
イザベラは、本当に何を言っているのかと不思議そうな表情で……
「ヴァルドラーテからの使節団が到着するのは今日ですわよ?」
「は?」
瞬間、揺れるような歓声が街全体を包み込んだ。
「あら、ちょうどですわね。私たちも見に行くとしましょうか!」
イザベラとセバスに連れられて俺達も商業ギルドの外に出る。
到着した時から異様なまでの熱気に包まれていた街の姿があり……街の住人は興奮した様子で空を見上げていた。
俺もそれに倣うように空を見上げる。
そこには見覚えのある姿をした竜がおり……
(……なんだよ。随分と早い再会じゃねえか)
砂の交易都市サンドヴェール。
その空を編隊を組みながら自由に飛び回るは多くの竜たち。
否、彼らこそが竜人国ヴァルドラーテからの使節団であり……
「竜人国ヴァルドラーテ第3王子、グラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテ様と第3王女エル・メル・アルタ・ヴァルドラーテ様。彼らこそが私の今回のお客様ですわ! おーほっほっほっほ!」
馬鹿王子とその御一行様だった。




