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第30話 決戦都市ブラッドフォージ

□ブラッドフォージ クロウ・ホーク


 街の中心に空いた大きな穴へひっきりなしに人が出入りを繰り返す。

 大規模な鉱石の採掘が行われているらしく、採取されたそれらは横穴に作られた加工場に次々と持ち込まれていく。

 穴の周囲には歯車で駆動するエレベーターのようなものや、蒸気で回るエンジンのようなものまであった。

 その大穴の崖に建造された階段を下りながら俺達は歩みを進める。


(面白い街だわ。まるで迷路みたいね)


(そうだな)


 スチームパンクというジャンルがある。

 それはレトロな蒸気機関や歯車を駆使した機械が活躍する世界観のことだ。

 蒸気と魔法が融合したこれはまさにファンタジースチームパンクと呼ぶべきで……ブラッドフォージはありていに言えばそんな街だった。



 商業連盟アーレは多様な都市国家が集まったことによって成り立っている。

 これは都市それぞれが政治的に独立した一つの国家を形成しているということであり、当然各々が好きなように街の制度を決めることになる。

 要するに、国営機関のようなものを運用する際は各都市に判断が委ねられるわけだ。

 だが、それでは連携できないということで商業連盟アーレという組織の共同国営機関として運用されている組織が3つ存在している。


 1つ目は商業ギルド。

 商業連盟アーレに属する都市国家が人を出し合い運営しており、商業連盟アーレで活動する商人はこのギルドに所属することが義務付けられている。


 2つ目は冒険者ギルド。

 他国同様にモンスターの討伐依頼を中心に取り扱っている。

 旅人がクランの登録を行うのもこのギルドだ。


 そして、最後に傭兵ギルド。

 冒険者ギルドに近いようでどちらかというと対人に寄った依頼が多いらしく、商人の多くは傭兵ギルドの人員を利用することが多いらしい。

 また、戦いを生業とするイデアの多くは傭兵ギルドに所属するとのこと。


 では、人員はどこから来るのかというと、専門的に育成し傭兵を輸出している都市があるわけで……その大部分を担うのがこの鍛冶と傭兵の街だ。


「こいつは確かに【魔導師】様からのもんで間違ってねえなぁ……」


 ブラッドフォージに到着した俺達は早速商業ギルドに向かい、依頼を果たすべく行動を開始した。

 かと言って、商業ギルドの受付に封書の類を渡せば依頼完了かと思ったのだが、直接渡してくれと言われたのがつい先ほどのこと。

 採掘場と位置付けられた大穴の中心程に設置された作業スペースに案内された俺は、1人の蜥蜴人(リザードマン)と向かい合っていた。


「中身も問題なし。ご苦労だったな、旅人のあんちゃん。確かに受け取った……っと、名乗るのを忘れてたか。オレがこの街を仕切ってるガスティンってもんだ」


 葉巻を咥えた蜥蜴人はそう名乗った。

 彼の背後には体長3メートル近い筋骨隆々の男が護衛として控えている。

 おそらく、巨人族だろう。


「仕切ってるということは……議会の?」


「世間的にはそう言われちゃいるな」


 この男が豪商と呼ばれる10人の大商人の一角ということらしい。

 なんていうか……


「ま、見てわかる通り荒くれ者どもを纏めてたらいつの間にか分不相応な立場になっちまったってだけで……」


「おい! 納品遅れてんぞ! どうなってんだ!?」


「あああああああ! もうだめだ間に合わないいいい!」


「加工! 加工! 加工! 加工! かこ。かっかっかこここおおおおおお もうやだおうち帰るううううう!」


「ここがてめえの家だ! 逃がさねえぞ!」


「って、てめえらうるせえぞ! 客人が来てるのが見えねえのか!」


 ドワーフが叫び、リザードマンが悲鳴を上げ、ノームが発狂し、犬人がそれを押さえつける。

 ガスティンが大声で怒鳴りつけるも、周囲の喧騒は一切収まる気配がない。


「頭領こそさぼってないでさっさと戻ってきてくださいよおおお!」


「さぼってねえよ!? ったく……」


 なんか、大商人というよりは現場上がりの苦労人という印象が強いな。


「忙しそうですけど、何かあったんですか?」


「あー。つい先日、あの竜人国から先触れが合ってな」


 おっと?


「なんでも、ここ最近の情勢の変化を受けて竜人国は正式に連盟と国交の回復をするつもりらしい。しかも、使節団もすぐに手配するとか言われてよ。少しはこっちの予定を考えてくれって感じなんだが……結果、てんやわんやの大騒ぎっつーわけよ」


 ガスティンは参ったとでもいう風に手を挙げた。


「オレも普段は上層街でゆっくり過ごしてんだがな、こいつらに泣きつかれて仕方なく現場に来てんだ」


 蜥蜴人は疲労を浮かべた顔でそう言った。


「竜人国と正式に国交が回復するとなれば、商人は我先にと動きまわるようになる……そのためには街道の安全確保が急務ってことですか」


「そういうこった。武器と傭兵の需要拡大。これからが稼ぎ時……」


「頭領! 採掘現場でバカがやらかした! どっかの横穴と繋がったせいでモンスターの群れが……」


「見てわかんねえのか! こちとら今、エルダンからの使者様と大事な話してんだ! 緊急依頼でもなんでも出してさっさと掃討してこい! 予備戦力は用意してあったろ!」


 ガスティンは怒鳴った後さも真面目そうな表情で俺のことを見て来る。

 否、もう少し付き合えと目配せをしてきた。

 これあれだな、体のいいさぼりの言い訳にされてるな俺。

 別にいいけど。


「オレとしては一部の商人どもが独占してきた竜酒やら、貴重な素材がこっちにもっと流れて来るってんで大歓迎ではあるんだがな」


 竜人国と販売網を構築していたのはごく一部の商人だけらしい。

 ここ数百年、鎖国状態に近かった竜人国が国交を回復するとなればお祭り騒ぎにもなるか。


「そこで相談なんだが、あんちゃんよぉ。ちょいと1つ依頼を受けてはくれないかい?」


 あ、まずい。


「いえ、他の街にも届けないといけないので。先を急ごうかと」


「そう焦んなさんな。ほんとーに、ちょっとしたことなんだ。話を聞いてくれるだけでもいい。エルダンの使者に選ばれるほどに優秀なんだろ? ぱぱっと話を聞いて、ぱぱっと終わらせて、その後ぱぱっと他の街に行けばいいじゃねえか」


「いえいえいえ私なんてそんな」


「いやいやいやそう謙遜なさんな」


 1つだけとか絶対嘘だろ。

 話を受けたが最後、なし崩し的に他の厄介事まで押し付けられる未来しか見えない。


「報酬は弾むぜ?」


「間に合ってますので」


「そうだ。完遂した暁にはオレからの推薦状を発行しよう。腐っても議会に名を連ねてるんでね。立ち入り禁止区域の探索許可証とかどうだ?」


「私には過ぎたものです」


「実を言うとな、傭兵訓練を施した一部のバカが増長してるんでその鼻っ柱をへし折って……」


「なにさりげなく依頼の内容を話そうとしてるんですか!?」


 油断も隙もないな!?


「よーし、わかった! 本当に1つだ! これだけでいい! 明日の朝には魔導船に乗れるように急いで手配するからよぉ! だからこの後、ちょちょいと街の外にある訓練場に行ってバカ共を締めあげてくれ! これでいいだろ!」


 自分の負けだというようにガスティンは大仰な身振りを取る。

 だが、何が分かったなのだろうか。

 譲歩しているようで全くしていないぞ。


「そこの護衛の方じゃダメなんですか?」


「ガルパの合計レベルは650だ。戦いのステージが違う以上、負けたところで反省なんて大してしねえさ。それに……」


「ガスティンさん、オデの仕事はあんたの護衛ダ。契約の範囲外である以上追加料金を請求しますゼ」


「こういうこった」


 どうやら、私兵というわけではなくあくまでも専属契約を結んでいる護衛と商人という関係らしい。


「何を隠そう、そのバカ共は天職だけはいっちょ前でな。350から400と一線級の戦力ではあるんだ。だから、無駄に強い。ステータスとスキルのゴリ押しでそこら辺の雑魚を蹴散らせる程度にはな」


 ガスティンは葉巻を外す。


「だが、その油断はあいつらを早死にさせることになる」


 その声はどこまでも冷めていた。


「その点、あんちゃんはちょうどいい。高く見積もっても合計レベル350に届かねえときた。少なくとも、あのバカ共に比べればレベルだけでいえば格下だ。レベルだけで言えば、な?」


 そして、にやりと笑いこちらのことを見て来る。


「できんだろ? なぁ、魔導師級の旅人さんよぉ。噂は聞いてるぜ? なんでも、魔法師団の師団長の1人と模擬戦して圧勝したんだとか」


 噂のバカ共に心当たりはあるが、あいにく別人なんだよなぁ。


(ゼシエが言っていたのはこれか)


 向こうの狙いとしては魔導王国にどれだけの戦力が加わったのか探りたいといったところだろう。

 そのためにちょうどいい条件があったので依頼という形で試しに来たわけだ。

 つまり、ここでこの依頼を断るのはゼシエの意図とは少し外れることになる。

 試されたなら応えてこい。魔導王国所属の旅人の強さを知らしめろ。

 牽制とは、つまりそういうことだ。

 ま、これ含めて依頼の一貫ということであれば……


「……条件は?」


 意識を切り替える。


「……よし! <アルカナ>の使用と殺しは無し。できれば圧勝をしてもらいたい。それも完膚なきまでに。行けるか?」


「わかりました。最善は尽くします」


 まぁ、なんだ。


(ってことだ。移動は明日になりそうだし、今日は上層街で美味いもんでも食べてくか)


(それはいいわね! 何がいいかしら?)


 合計レベル350だか400だか知らないが、調子に乗って油断しているのであれば上級モンスターよりは弱いだろ。






「それで、私はどなたの鼻っ柱をへし折れば?」






 翌朝、俺は探索許可証を手に魔導船に乗り込みブラッドフォージを後にした。

決戦都市ブラッドフォージとは……

武器輸出と傭兵産業が盛んな街。10大都市の中で最北に位置している。

今回は空を飛んだためショートカットされたが竜人国の真下にまっすぐ進むと、カラブ帝国の属国と商業連盟アーレの加盟国と非加盟国の小国や少数民族が乱立しているいわゆる紛争地帯が存在している。

そこにある連盟の加盟国へ武器や人員を送る役割を担っているのがブラッドフォージと周囲の街であり、連盟全体の軍備拡張も担う。

大穴を囲むように建設された生活の基盤となる上層街、鉱石加工を行う中層街、採掘の下層街の3区画にて構成される。大穴周辺は入り込んでおり、まるで迷路のようになっている。

蒸気と魔法が交錯した大都市である。


ガスティンとは……

決戦都市ブラッドフォージの代表の蜥蜴人であり議会に名を連ねる大商人の1人。

今回の意図として魔導王国の使者に選ばれた旅人の実力を図りたかった。

どうせ「見せつけ」が目的だろうと、旅人が依頼に乗ってくるだろうとは予想がついていた。

ついでに、調子に乗ったバカ共を締め上げた。

結果として旅人に対し探索許可証の発行を自分名義で行えた。唾をつけたとも言う。

魔導王国の使者に選ばれるぐらいなんだから人柄は問題ないだろうとある程度のリスクを飲み込んでいる。

腐っても議会に名を連ねる1人であり他にも会話の中で色々と探りながら考えていた。


探索許可証とは……

商業連盟アーレの各地に存在する冒険者ギルドが定めた立入禁止区域の探索許可証。

これがあれば一部の魔域を合法的に探索できるようになる。

未許可で探索した場合最悪指名手配されるので注意が必要。

より危険な魔域には複数名の大商人の署名が必要になることも。

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― 新着の感想 ―
これが俗に言う強制クエストというやつですね(違う)
しれっとイデアの方々に影響を残していますね。将来有望な若者に貴重な挫折の経験、この世界としては長期的に見れば大きなプラスでしょうか。クロウ自身のイベントポイントにも寄与しそうですね。なお外堀……。 …
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