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第29話 商業連盟アーレへ

 バランラにお礼を言った後、俺はまっすぐ街の外へと向かう。

 新たな装備をいろいろ試したい気持ちはあるのだが、この後を考えれば後回しにするべきだろう。

 門兵と軽く挨拶しヴァルドラーテの門を出た後振り返る。

 滞在期間はたったの数日だったが、実りのある時間を過ごせたと言えるだろう。


(来てよかった)


 そのまま荒野を進み待ち合わせの場所に着くと、そこにはグランが立っていた。


「来たか」


「早いな」


 まだ予定の時間よりも早いはずだが。


「麗しの君を待たせるわけにはいかんからな。決して、貴様のためなどではない!」


 ぶれねえなぁ。


「私も暇ではないのだ。さっさと行くぞ」


 それだけ言い、グランの身体が一瞬ぶれる。

 瞬間、膨張しだした。

 背中からは翼が生え、身体に生えていた鱗の数が増していき……人の姿から竜の姿へと変化する。


(これが《竜化》か)


 竜人族が有する種族スキル。

 自らの肉体を竜へと昇華させる力。

 体長は8メートルほどと俺が今まで見てきた竜よりは若干小さいが、内包するエネルギーは彼らの比ではない。


『麗しの君、どうぞこちらへ』


 竜の姿となったグランはユティナに頭垂れる。

 そのまま乗れるように手を差し出した。


「ありがと。でも、私は大丈夫よ?」


 ユティナは俺にふわりと憑依する。


「ね?」


 その顔はどこか誇らしげだった。

 それとは対照にグランの顏はどこか寂し気で……


『……早く私の背中に乗るがいい』


 なんか、ごめん。


 背中に乗ると同時に、グランはゆっくりと翼を羽ばたかせる。

 すると俺達を包み込むように風が巻き起こり始めた。


「……振り落としたりしないよな?」


『私を何だと思っている』


 そのまま空へと飛び立った。

 あっという間に高度が上がっていく。

 なのに。


「風が……ない?」


 俺達へ本来襲い掛かるはずの風圧がなかった。

 騎乗時の風圧を無効化できるスキルがあるのは知っているが俺は持っていない。

 となれば……


『何を困惑している! 我が司るは風! この程度のこと造作もない!』


 グランは大きく口を開けそう叫ぶ。

 風で空気の層を編み出し俺達に襲い掛かる風の影響を無効化しているようだ。

 己の意思1つで現象を行使する存在。


(精霊、みたいなもんか)


 どんだけ強いんだよ竜人族。

 流石に竜としての性質が色濃く表れている一部に限るのだろうが。


(ってことは……)


 風の影響を軽減させるということは、空気の抵抗を減らすことも可能ではないのか。


『さあ! 時間は有限だ! 飛ばすぞ!』


 そう思った瞬間、一定以上の高度を確保したからか竜は加速する。

 そしてあっという間に<七竜の渓谷>に入った。

 赤岩地帯上空を一気に通り過ぎていく。

 俺達の道中などなんのその。

 地上数百メートルの空路にて一瞬でショートカットされていく。


(はや……! って……)


 なぜ竜人国へ空路で行けないのか。

 それは<七竜の渓谷>に生息する上級モンスターが原因であり……


「グラン!」


 それを証明するかのように地上から熱線が放たれるのが見えた。

 紅晶竜によるブレス攻撃だ。

 しかし、グランにあたることなかった。

 なぜなら、既に通り過ぎた後だから。

 地上から紅い竜が飛び立とうとしているのが見えたが一瞬で小さくなり置き去りにする。

 加速する。加速していく。風を味方につけた竜の勢いは止まることは無い。


『何を声を上げている! 私を誰だと思っているのだ!』


 グランは見せつけるように高らかに謳いあげる。

 己の武を、己が何者であるのかを。




『私の名はグラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテ! 霊峰竜アルターンが末裔! 風を司り! 愛しきを口説く者! たかが()()()()が私に追いつけるはずもなかろうて!』




 そりゃ、竜人国に進軍なんてできんわな。

 危険な魔域を抜けた先にこんなのに襲い掛かられるとか割に合わないどころではない。

 改めてそう思った。


(凄いわね……)


(ああ、ほんとにな)


 世界は広い。

 そう思わずにはいられない。

 こんなおもしろ種族がいるのだ。

 

 そして、これから向かうのは商業連盟アーレ。

 数多の種族が共存して暮らしている商いによって紡がれた国。


「いい天気だ」


 次の目的地に思いを馳せながら俺は空を仰いだ。



□商業連盟アーレ 空域 クロウ・ホーク


『そろそろ着くぞ』


「え、早くね?」


 次の目的地に思いを馳せてから時間にして2時間もかかってないぐらいだろうか。

 地上の風景が通り過ぎるのを見ながら雑談していたらグランは不意にそう切りだした。

 確かに、魔導船よりもずっと早いなとは思っていたが明らかに速すぎる。

 というか、<血染めの森>と<七竜の渓谷>を抜けるのもほぼ一瞬だった。

 今でこそ落ち着いているがあの時は音速手前ぐらいの速さはあったように思う。

 俺達の3日間を嘲笑うかのような機動力だ。


「……竜人族って全員がこうなのか?」


『そんなわけなかろう! これも私が優れたる戦士だからこそよ!』


 よかった、竜人族全員がこのいかれた機動力を持っているわけではないらしい。

 風を司り、風を味方にするからこその速さということだ。

 グランは停止するとともに《竜化》を解除し始める。

 俺も《呪物操作》を使用し落ちないように空に浮く。

 そのままゆっくりと地上に降り立った。


「世話になった。おかげで、だいぶ日程を短縮できそうだ」


 空から地上へと降りる際に遠くの方に見えた街。

 あれが、決戦都市ブラッドフォージだろう。


「ふん、元より私が先に貴様に攻撃を仕掛けたのが原因だ。気にするな……ああ、麗しの君よ! 貴方との別れを惜しまずにはいられない!」


 グランは俺への返答は適当に、そのままくるくるとその場で回り流れるようにユティナの元へ跪いた。


「ですが、どれだけ遠く離れていようとも、私の愛は不滅です。困った時はいつでもお呼びください。このグラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテ! ユティナ嬢のためとあらば例え地の果て天の彼方であろうとも、風と共に馳せ参じてみせましょう……」


「え、ええ。その時は、お願いする……かもしれないわ?」


「お待ちしております! 愛しの君よ!」


 グランの背中から翼が生える。

 どうやらもう戻るらしい。


「あら? 《竜化》はしないの?」


「……流石の私と言えど、2時間近く変化し続けあれだけ飛ばすとなると相応に消耗が激しいのです」


「そう……」


 先ほどの自分の返答を思い返したのか若干の罪悪感を滲ませた顔になる。


「ここまで運んでくれて感謝するわ。気を付けて帰ってね?」


 だからか、今度は労うようにふわりと笑いかけた。

 それは今までのような苦笑いではなく、本当に心からの感謝を伝えるためだけのものであり……


「お、おおお……」


 それを見た瞬間、グランは大きく震え涙を流し出した。

 こいつマジかよ。


「ああ、あああ……! どうして……どうして! 私と麗しの君は共にあれないのか! この運命を呪わずにはいられない!」


「なんでだろうね」


「だが、いつか必ず貴方のことを迎えに行きます。今度こそ、悪逆なる者から貴方を救い出してみせる! その覚悟が私にはある!」


「来んな」


「……その時は、改めて永遠の契りを申し込ませてはくださいませんか?」


「やっぱ話し聞かねえなお前!?」


 というか、その悪逆なる者って絶対俺のことだろ。

 おい、こっちみやがれ!?



 そうして、グランは竜人国へと戻っていった。

 この後は商業連盟アーレへの使節団とやらに加わるのだろう。

 もしかしたら、またどこかでひょいと会うこともあるかもしれないが。


「はぁ……」


 なんとも嵐のような男だった。

 竜人国という国の印象を良くも悪くも書き換えるような。

 それだけの強烈な出会いだったと言えよう。

 最後の最後までぶれなかったというか、なんというか。


(でも……まぁ、悪い奴ではなかったな)


 なんだかんだ言って、<黄晶竜>の討伐は手伝ってくれたし。

 ノリと勢いとはいえ、夕食もご馳走になってここまで俺達を運んでくれた。

 愛しの者への口説き文句を始め、自分の生きたいように生きる一貫した姿はなんとも気持ちのいいもので。


「クロウ、何してるの? 早く行きましょうよ」


「……ああ、そうだな」




 まったく、これだから旅は止められないのだ。

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございますm(_ _)m
新幹線かな(笑) ゆっくりとした旅もいいものですが、一足飛びに移動出来るのもまたいいですね。 てっきりクロウと一緒に行動するのかと思ってましたが、使節団として別行動だったとは。クロウにツッコミされな…
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