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第27話 ドラゴンライダー筆頭

 宴が始まってからどれだけ経っただろうか。

 先程までに比べればある程度落ち着きを取り戻したが周囲はなかなかに悲惨な状況だ。

 だが、席の位置が良かったのか壁際にいた俺達はほとんど巻き込まれることなく静かに過ごせていた。


「ふわぁ……」


 ユティナは食後のデザートすらも腹に収めた後、小さく欠伸をした。

 眠いのだろうか?


「休むか? 今日はもう予定もないしな」


「ええ、そうね。少し休もうかしら」


 そのまま黒い光となり俺の中へと入っていった。

 明日からはまた移動になるので、今日の内に英気を養ってもらうとしよう。


「ここ、空いてるかな?」


 机の上にあった食器が片付けられたので、俺もそろそろログアウトしようか考えていると背後から声をかけられた。

 振り向くと、どこか気弱そうな印象があるものの優しげな笑みを浮かべている()()()()()()()青年が立っていた。


「空いてるぞ。少し前までは埋まってたんだが、どっか行っちまった」


「あはは、この騒ぎだからね。では、失礼して……」


 そのまま男は席に座り俺と向かい合う。


「何か用か?」


「うん。ぜひ、君に会いたいと思ってたんだ。この国に()()()()()()()()()()()()()()って聞いた時からね。ログインの時間が合ってよかったよ」


 ここは竜人族の国だ。

 そんなところに、竜人族ではない人間がいた。


「もしよければ、君のプレイヤーネームを教えてくれないかな? あ、人に名前を聞く前にはまずは自分からか……」


 そして、男は……()()は名乗った。






「僕は天空国家プレメア所属、【竜騎士】ゼインです」






(──ドラゴンライダー筆頭か)


 到達階位Ⅳの<アルカナ>を使役する旅人。

 今、世界で最も最前線を走る男がそこにいた。


「俺はクロウ・ホークだ。よろしく、ゼイン」


 差し出された手を握り返せば、ゼインは驚いたような表情になった。


「クロウ・ホーク……前回497位の?」


「なんでわかるんだよ……」


 1桁や2桁ならともかく500位以内ぎりぎりだぞ。


「GWイベントの順位見てないの? 君、今19位だよ?」


 ゼインに言われたのでメニューを見てみれば確かに上位に俺の名前があった。

 これはあれか? 上級モンスターを狩りまくったのが効いたのか。


「というか、そっちこそ1位にいるじゃねえか……」


「仮初の1位だよ。前回も油断してたらステラっていうプレイヤーに最後抜かされてたしね。あれは本当に参ったなぁ……」


 油断大敵だねと小さく零しゼインは眉を下げ頭をかく。

 自分の不甲斐なさを本当に反省しているようだ。

 過ぎた謙遜は嫌味という言葉がある。

 つまり、わざと自分がへりくだることで相手を煽ることも可能なのだ。

 というか、俺もよくやる。

 これは、どっちだ?


「そんなことはないだろ。1位の秘訣ってやつを是非ともご教授いただきたいね」


 軽く探りをかねてジャブを撃ってみる。


「そう……だね。常に誰もやったことがないことに挑戦し続ける事かな? 少なくとも、このイベントの評価軸はそれみたいだからね。だから僕はなにも特別なことをしているわけじゃないんだ。常に、他のプレイヤーが何を考えて、何をしたことがないかを前提に行動すれば……」


「……」


 うん、違うな。

 普通に謙遜してただけだこれ。


「あれ、僕の顏に何かついていたかな?」


「いや、聞いてた印象と違うから少し驚いてる」


 【竜騎士】ゼイン。

 PK事変で大暴れしたPK組織の幹部格の人間。

 もっと性格が破綻しているものだと思っていたのだが、話す限りなんというか……普通だ。


「確か……天空国家プレメア最強の旅人。最優の騎士。天翔ける稲妻」


「うっ!」


 少し前に読んだ記事の内容を思い出し彼の二つ名を読みあげてみる。

 するとゼインは突然胸を押さえて苦しみだした。


「や、やめてくれ。僕はそんな大層な人間じゃないんだ……後、なんでか古傷を抉られる感覚が」


「残念男でした事件の被害者にしてPK事変最大の加害者。マッチポンプ野郎。修羅の者」


「うぐっ!? 確かに大層な人間ではないと言ったけど!? ……いや、過去の僕の行動の結果だ。甘んじて受け入れよう」


 顔が百面相のように切り替わる。

 少し面白い。


「本当に出会い目的じゃなかったことだけは弁明しておくよ。オフ会ってやつをやってみたくてさ。ただ、仲良くしていた相手が僕のことを最初から騙すつもりで近づいてきたと知ったらついカッとなって……」


 PK事変を泥沼に引き込んだ、と。


「僕みたいな思いをする人が減るならと思って。ま、それも結局僕の独りよがりだったんだけど……話が脱線しちゃったね」


 ゼインは佇まいを直した。


「君に声をかけたのは、()()()()でこの国にソロで来れている旅人だからだ」


 今でこそ、俺やゼインのようなごく一部の旅人しか竜人国には到達していない。

 だが、今後環境が進み、レベルのカンストが前提となり<アルカナ>も進化を積み重ねればここに来れるようになる旅人も増えることだろう。


「少し、こちらの事情を話してもいいかな?」


「いいぞ」


「ありがとう」


 肯定を示せば、ゼインは自分の背景を話し出した。


「プレメアの第11王女にミアレア様という方がいらっしゃるんだけど、彼女は生まれつき体が弱くてね」


「……それ、聞いていい話か?」


「別に隠してるわけではないみたいだよ。ただ、みんなあまり注目していないからほとんど知られていない情報ではあるかな?」


 彼女は王位継承権も低いからと冷めた声でゼインは言った。


「体が弱いと言っても、ある程度ステータスを上げれば健康体になるはずなんだけど……」


 この世界にも状態異常として【風邪】はあるらしいのだが、ステータスの恩恵によるものか、大半の場合においてはかからないそうだ。

 虚弱体質なども程度の違いこそあれ、ある程度レベルが上がりステータスの補正を大きく受けるようになると健康体になるとのこと。

 つまり、生まれながらに身体が弱いとしてもよっぽどステータス補正が低い天職でなければ問題ないはずで。


「改善しなかった、と」


「そう。原因不明。過去には王権を使ってエリクシルを取り寄せたみたいだけど全く効果がなかったらしい。現状、高名な呪術師が言った【死の因果の収束による高度な呪い】、というのが一番可能性が高いみたいなんだ」


 プレメアへの王族への恨みが蓄積し、それがなんの因果か呪いとなって表層化してしまったと。

 いや、あくまでそれも可能性の1つでしかない。


「その口ぶり、もしかして知り合いか何かか? よく会えたな」


 大国の王女など基本、リスクを考えればよっぽどのことが無い限り旅人に合わせはしない。

 血迷って手を出そうとしてくる輩もいるかもしれないからだ。

 狼藉者を迎え打てる程の武闘派でない限り表舞台に立たせないのが普通だ。


「彼女とは『ミアレア王女が旅人の話し相手を募集している』とギルドから話を聞いたのが始まりでね」


「あー……」


「……はは、君は察しがいいね」


 王位継承権が低い王女。

 加えて、原因不明の虚弱体質持ちときた。

 つまり政治的な利用価値は無いに等しい。

 いつ容態が悪化し死んでしまうかもわからない以上、嫁ぎ先をあてがうこともできないわけで……逆に言えば、多少のリスクを冒しても問題ない()でもあった。

 自分で言い出したのか、国王からの勅令があったのかは知らないが旅人に対する()にするにはちょうどいい存在だったのだ。


「ただ、当時の僕は王女様とお話できるとか面白そう……なんて、そんな理由で立候補してね。その話し相手の1人になったんだ」


 病弱なお姫様が異邦人である旅人の冒険譚を聞き、憧れの瞳で見て来る。

 旅人は自尊心が満たされ、自己に陶酔し、プレメアという国をもっと好きになる。

 なんとも、らしい()()()()ではないか。

 その裏にある国の思惑という点を除けばであるが。


「良い子だったよ。僕のつまらない話を真摯に聞いて、楽しんで、喜んでくれた。あの時間は嘘ではなかった。そんな器用なことができる子じゃなかったんだ」


 ゼインは苦しそうな顔で話し続ける。 


「年々身体が弱ってるみたいでね、このままだと20歳まで生きられない見通しらしい」


「それは……」


「僕は彼女に恩がある。どうしようもない僕だけど、ゲームの中でしか自己表現できない半端者だけど、だからこそ笑顔で話を聞いてくれた彼女を助けたいんだ」


 例えそれが旅人(プレイヤー)を自国に繋ぎとめるための国策が始まりだったとしても。


「クロウ。君はNPCを本気で助けたいと思っている僕のことを笑うかい?」


 目線を上げたゼインと視線が合う。

 そこには先ほどまでの気弱そうな穏やかな青年はいなかった。

 強い覚悟と意志を瞳に宿した戦士がそこにいた。


「笑わない。プレイスタイルは人それぞれだし、他人が口を出すもんじゃないからな。ただ、聞いた限り俺の知識程度じゃなんの役にも立たないと思うんだが……」


 俺がすぐに思いつくようなことはあらかた試した後だろう。

 察するに。


「でも、()()()()はわからないだろう?」


「確かにな」


 今の俺では役に立つことはできないのは百も承知。

 だが、こういう事例があると知ればまた違う見方でこの世界を過ごすことになる。

 ゼインが求めているのはそれだ。


「メタ的に考察すれば、このゲームは未知への探求を推奨していると言える」


 だから、今竜人国にいる俺に声をかけたのだ。

 未知に挑戦し続けている旅人こそが彼の求めるものを見つけられるかもしれない相手だから。


「何でもいいんだ。情報が欲しい。呪いかもしれない。病気かもしれない。ただの体質かもしれない。だから、治す方法がきっとあるはずだ。あらなければならない。あるに決まっている」


 全力で走りながらも他者を己の目的に巻き込む熱量を放つ男。

 天空国家プレメアのPK事変を一種のお祭り騒ぎにした存在。


「もちろん、貰った情報が有益な物であれば報酬は用意するよ。どうかな?」


「そういうことなら協力をしてもいいが……連絡方法とかどうするんだ? 俺は明日にはもうこの国を出る予定だぞ」


「僕も世界を飛び回っているからフレンドのメッセージ機能がほとんと機能してないんだよね。だからこれ」


 ゼインが俺に渡したのは一枚の紙だった。

 そこには、アプリとアカウントIDらしきものが書いてある。


「僕のリアルの連絡先だ。ゲーム用のだけどね。あ、報酬だけど現金とかは無理だから。RMTでアカウント凍結なんてされたくないからね」


 RMT……つまり、Real Money Trade。

 ゲーム内のアイテムや装備を現実のお金で売買する行為のことだ。

 バレたら規約違反になり最悪アカウントBAN待ったなしである。


「連絡する時は捨て垢でもいいんだよな?」


「うん。ただ、本人であることをわかる情報は書いておいてくれると嬉しいな。そうだね……このお店の名前、なんてどうかな?」


 それもそうか。


「わかった。何か役に立ちそうな情報が手に入ったら連絡するよ。これでいいか?」


「ああ、感謝してもしたりないよ」


 ゼインは立ち上がり、俺に向けて軽く頭を下げる。


「急に声をかけて一方的にお願いをした僕に真摯に対応してくれてありがとう。クロウ、君のこれからの冒険がよりよいものになるのを祈っているよ」


 それだけ言い残し店の出口へと向かっていった。

 なんだあの善良さは。

 俺が今まで会ってきた人物の中でも1、2を争うぐらいには善良だぞ。

 そんでもって、素があれなのにPK事変で旅人を虐殺して回ったとか逆に怖いわ。


「……と。もうこんな時間か」


 気づけばいい時間になっていた。

 俺も次に備えてログアウトするとしよう。

 ただ一つ気になる点があるとれば……




「天空国家プレメア最強の旅人か……」




 いつか戦ってみたいものだ。

ゼインとは……

Impact The World総合ランキング2位、GWイベント現在1位。

事実上、最優の旅人。

人外ではない。ただ純粋にプレイヤースキルに優れているだけである。

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― 新着の感想 ―
第11王女、ね。メタ読みするならあいつらに狙われて餌になる→ゼイン憤怒っていう展開起きそう
更新ありがとうございます。良いですね物語に居そうな王女様。呪いと言ったり他の方が恩龍挙げてたり元は元気だったんですかね〜
印象としてはもっと俺様系の、グランみたいなキャラをイメージしていたのですが予想外の人あたりの良さでしたね。 ゴン太郎のような危うさというか、目的のためなら手段を選ばない雰囲気がありましたが……ここで…
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