第25話 竜人国の戦士長
黄晶竜→雷晶竜の誤植があったため修正しました。
<黄晶竜プラズーラ>は七竜の渓谷に生息する上級モンスターである。
得意とするは胸にある雷水晶からエネルギーを抽出しそれを広範囲に放つ落雷と呼ばれる技。
範囲は最長で数百メートルまで及び、無差別かつ数秒間続くそれは並大抵の耐久ではかするだけでも即死級の攻撃となる。
まさに上級の名に相応しき破壊力と言えるだろう。
「黄晶竜の討伐はいい! 戦士たるもの、どんな理由であれ国に仇なす害竜を駆除することは使命であり、我が愛しの君を守るために必要なことだ!」
そんな彼らが住まう土地のすぐ横に、人類種の生存圏である竜人国ヴァルドラーテという国がある。
人口はおよそ数千人程度と規模としてみれば脆弱の一言に尽きるものの、竜人族という種族だけで構成されたそれは危険な魔域による被害をものともせず今日まで生存し続けてきた。
「使節団の件も受け入れよう! 国の代表として! 我が祖国、ヴァルドラーテの威光を示すのも王族たる務め! 愛しの君たちと長期間会えなくなるのは悲しいが! 遠距離だからこそ培われる思いもあると言うではないか!」
そんな中、竜人族の中でもとびぬけた才の光を放つ者達がいる。
それこそが戦士長。戦士の中でも選りすぐりの者にのみ与えられる称号だ。
竜人国において、戦士長になる方法は1つのみ。
七竜の渓谷に生息する7体の竜、7体の上級モンスター。
国に被害をもたらす可能性のある危険なモンスター全種の連続単独討伐を成し遂げること。
「だが、私の背に男を乗せるなど! ましてや我が愛しの君と共にいる俗物を乗せるなど! 許しては置けぬ! 許せるわけがない!」
そして、竜人国ヴァルドラーテ第3王子。
グラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテは戦士長の称号を与えられた内の1人。
「そうは思わんか! 黄晶竜よおおおおおおおおお!」
『GISHAAAAAAAAAA!?』
要するに黄晶竜など敵ではなかった。
ただ、それだけの話である。
☆
□七竜の渓谷 雷岩地帯 クロウ・ホーク
背中に大きな翡翠色の翼を展開した男が叫びながら迷うことなく竜へと突撃していく。
半竜化と呼ばれる肉体の一部を竜に変化させる技法らしい。
空から降り注ぐ即死の雷の雨の間を縫うように突き抜け一気に接近した。
『《竜撃槍》!』
それは、特殊上級職【滅槍士】なるもののスキルだという。
数多の敵を屠ることに長けたジョブの中でも滅竜に優れた一撃。
風と炎を纏った槍を振るい、その射線上に数十メートルにも及ぶ熱線が放たれ薙ぎ払われた。
周囲の地形情報を一瞬で塗り替えながら黄晶竜の4つの翼の中から2つを貫き破壊する。
先日俺へ向けて放ったものが対人用の一撃だとするならば、こちらは対モンスターを想定した運用法。
加えてどこからか風が強く吹き、槍に纏っていた風が膨れ上がった。
風を司る竜の性質により、風と炎の混合属性のスキル威力を底上げしているのだ。
『GISHAAAAAAAAAAAAA!?』
黄晶竜が必死の抵抗を見せる。
翼が失われてもなお、胸にある水晶の輝きは消えることは無い。
落下していく中、圧倒的なまでの魔力が胸へと収束し……
『させるわけなかろうて!』
瞬間、グラン王子は持っていた槍を投擲した。
それはまるで風に乗ったかのような自由な軌道を描きながら的確に黄晶竜の胸の水晶を貫き、破壊。
黄晶竜はついぞ何もできずポリゴンとなって砕け散っていった。
周囲に敵影がないことを確認しながら見学していた俺の方へと飛んでくる。
「お見事です。グラン王子」
拍手と共に出迎えれば、グラン王子は鼻を鳴らした後苦々しい表情になる。
「ふん。貴様に褒められても嬉しくなどないわ。ああ、麗しの君がいるのであればやる気は天井知らずだというのに……」
「……悪かったな男二人で行くことになって。いや、俺も迷惑してるんだけども」
黄晶竜の討伐に伴い、ユティナは鍛冶屋で留守番をしている。
愛しの君と一緒に狩りに行ったら褒美にしかならないだろうというバランラの謎理論によってだ。
ユティナも最初は否定を示したのだが、茶菓子があると言われたら即刻陥落した模様。
(強いな)
これでまだ全力ではないと言うのだがら驚きだ。
「わかったであろう。貴様に出番はないと。この私の強さに恐れ慄くことこそが貴様にできる唯一の仕事だ!」
「いや、俺にも狩らせてくれよ。そうじゃないと報酬が手に入らないだろ?」
積極的なのは喜ばしいがこちらとしても1体倒せば10万スピルも入手できるのは魅力的なのだ。
それに使えそうな素材があれば買い取ってくれるって話だったし挑戦しない理由がない。
「……ならばやってみるがいい。私は助力せんぞ。貴様が言い出したことだからな」
「わかってるよ。そんじゃ探すかぁ……」
俺は《呪物操作》を使用して飛び始め、その後をグラン王子がついてくる。
「遅い! そんな速さでは日が暮れてしまうわ!」
「物理的に翼生やしてるそっちの基準で語らないでくれますかねぇ!?」
後ろから聞こえてくるやっかみの声を聞き流しながら、黄晶竜の捜索を続けた。
☆
□ラヴァルの鍛冶屋
「師匠。なんでグラン王子を付いて行かせたんですか? ここまで来れている以上、問題なく倒せると思うんですけどー。それに、グラン王子の強さなら大した罰になりませんよね?」
ウルは一つの疑問を己の師匠に投げかける。
その手は止めることなく、この後の大仕事に向けて準備を進めていた。
「ああ、確かに問題ねえだろうよ。向こうで休んでる嬢ちゃんと協力すれば、黄晶竜程度なんなく倒せるだろうぜ」
バランラからすれば問題なく倒せるだろうと予想がついていた。
あれほどまでに研ぎ澄まされた魔力制御ができるのであれば、魔力の圧縮を始めステータスの壁を貫通する方法などいくらでもあると知っているからだ。
「ならなんで?」
「ふーむ、まぁいいか。1つは、今回の旅人が<アルカナ>がいない時にどれだけやれるか己が知りたかったからでな」
今回の旅人は<アルカナ>によって強さが上げ底されている状態だ。
<アルカナ>がいない状態で上級モンスターとどれだけ戦えるかを改めて確認する意図があった。
「まだあるんですか?」
「ああ、小僧は確かに強いがまだ本物の魔導師級との交戦経験がない。これはちとばかり致命的でな」
それを知っているか否かでは戦場で生き残れるかが直結する。
魔導師級魔法使いという称号は決して、飾りなどではない。
「これで少しは理解してくれりゃ儲けもんってね」
そして、あの旅人はその中でも上澄みに違いなく……
☆
(なんだ、こやつは……)
その当人である男に到来したのは困惑だった。
<黄晶竜プラズーラ>は決して弱いモンスターではないと知っていた。
(遠距離からの攻撃は容易に回避されるために接近しなければならない。一撃でも喰らえば間違いなく即死。加えて、あのステータスでは黄晶竜の耐性を突破できないはずだ。全ての魔力を込めたとしても、致命傷には到底届かないはずだ)
だというのに。
「これで10万スピルか。うますぎるな。ただ、残念ながら核のドロップは無し、と」
目の前に映るのは<黄晶竜プラズーラ>がポリゴンとなって砕け散っていく光景だった。
旅人がしたことは先ほどの己の再現だ。
落雷を発動した後隙をついて空を飛んで接近し、近距離から高密度の攻撃を放ち、重要部位を穿ち滅ぼす。
旅人が狙ったのは目。
どこまでも繊細で研ぎ澄まされた一撃が目を貫き、肉体の内側から魔法が食い破ったのだ。
言葉にすれば簡単で、しかしそれは机上の空論に過ぎず……
「お、合計レベルが4つも上がってる! 流石上級モンスター。これ、もしかしてレベリング効率過去最高か? ただ魔力の消耗は激しい、と。ユティナがいてくれればなあ……」
旅人は消費した分の魔力をポーションの類で時間をかけながら回復していた。
逆に言えば、まだ戦闘を継続することができる程度には精神的にも魔力的にも余裕が残っている状態だった。
合計レベル400にも満たないであろうステータスで<黄晶竜プラズーラ>の討伐などと……
「ふん、少しはやるようだな。どうやら、最低限の強さは持っているらしい」
「当たり前だろ。じゃなかったらここまで来れてないっての……納得したみたいだし、これからは仲良くしないか?」
「愚問だな。言ったであろう? 貴様が本当にユティナ嬢に相応しいかこの私が見極めてやるとな」
グランは自分に言い聞かせる。
己は戦士だ。
「だが、その武勇を評し、私のことをグランと呼ぶことを許そう」
「は?」
武を示した相手に最低限の礼儀を尽くすのは当然のことだと。
「聞こえなかったのか? クロウ・ホークよ。それに、旅人である貴様に王子などと呼ばれるのは気色が悪くてたまらん」
「ちゃんと俺の名前覚えてたのね……」
愛しの君と共にいる怨敵の名を忘れるわけがなく、ただ名を呼ぶかどうかはまた別の話というだけの話だった。
「それにまだ無駄が多い。先ほどの方法が取れるのであれば、もっと積極的に仕掛けられるであろうが! 私が手本を見せてやる!」
「いや、初見だから安全マージンを……まぁ、いいか。そこまで言うなら手本とやらを見せてくれよ」
黄晶竜がいなくなったことで寄ってくるモンスターを蹴散らしながら旅人と竜人は狩りをし続ける。
その日、彼らの目的の素材が入手されるまで黄晶竜は乱獲され続けることになった。
竜人国流黄晶竜プラズーラの倒し方について……
①接敵すると同時に雷を纏った突進攻撃を放ってくるので全力で回避する
②その後は高速で飛翔しながら追いかけてくるので無理に迎撃せず逃げに徹する
③しばらく逃げ続けていると、痺れを切らし少しの溜め時間と共に落雷を放ってくるので反転攻勢一気に接近する。落雷に当たったら即死のため全力で回避推奨。この技の発動中は高速飛翔しなくなるため、比較的移動速度が低くても接近することが可能
④接敵できたら最大火力を至近距離からぶち込んで討伐完了
竜人国の戦力について……
兵士1人につき9大国の一般的(構成員の平均合計レベル150〜200)な分隊から小隊程度。
戦士長1人につき9大国の一般的(構成員の平均合計レベル150〜200)な師団相当の戦力。
戦士長は基本的に雑兵では相手にならないため、合計レベル300以上で構成された精鋭部隊、もしくは合計レベル500超えの突出した戦力をぶつける必要があるだろう。
乱獲による影響について……
魔域の浄化程ではないが生態系のバランスが崩れるとイレギュラーが発生しやすくなるため一応間引きの範疇で収まるように加減はされた。
それはそれとして黄晶竜は一時的に個体数を大きく減らした。




