表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
360/374

第24話 迷惑料

□5月2日 ラヴァルの鍛冶屋 クロウ・ホーク


「ここか?」


 翌朝、俺達はラヴァルの鍛冶屋に訪れていた。

 場所としては大通りから外れた場所にある。

 角度の問題か日当たりも悪いので、本当にここか疑いたくなるのだが看板にはちゃんと書いてあるのであっているらしい。

 時刻はちょうど9時ごろ。

 少し早すぎかと思ったが中から会話も聞こえており開店はしていそうな雰囲気だが……


「すみませーん」


 とりえあず、引き戸の扉を開け……


「おお! 今日もなんと美しいのだろうか! 清涼さを感じる声色! 美しい髪! そして何よりも、生命力を感じるその角! ぜひとも、我が妻として生涯を共に過ごして欲しい!」


「帰って貰っていいですか?」


 そこには、緑色の髪の男が店員らしき女性を口説いていた。

 男は整った顔をしていながらも、身長は2メートル近く体格はがっしりとしている。

 そして、何よりも側頭部から生えた金の角こそ彼が王族たる証。




 グラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテがそこにいた。




「……」


 俺はノータイムで扉を閉めた。

 静かに、かつ迅速に。


「ふー……」


 どうやら疲れているみたいだ。

 まさか、幻覚を見てしまうとは。


「よし、帰るか」


 バランラには悪いが、今日は出直すとしよう。

 昨日の今日で面倒事は勘弁である。


「今日は竜人国の観光をして時間を潰すぞー」


「ええ、そうね!」


 俺達は来た道を戻るために振り返った。


「帰らないでえええ!」


「うお!?」


 それを阻むように扉が勢いよく開く。

 そこにいたのは、先程言い寄られていた女性だ。

 見た目は20歳程、動きやすいようにか薄い水色の髪を側頭部から生えた青い角に巻き付かせお団子ヘアーのように簡単にまとめている。

 頬には青白い鱗が生えていることから、彼女も竜人族ということなのだろう。


「おお! なんということだ! まさか、こんなにも早く再会できるとは麗しの君よ! 貴方と私は運命の赤い糸で結ばれていたようだ! この再会に祝福を! 感謝を! ああ! 素晴らしきかな!」


 ついでに、グラン王子殿下もセットで付いてきた。

 返品してもよろしいでしょうか?


「ちょ、ちょー! お客さん! お客さんが逃げ……っ!」


「お構いなく」


 本当にお構いなく。


「こっちが構うって! グラン王子! こんなところにいないで巡回に……こんの、馬鹿王子! 営業妨害だから! さっさと! どっか行けえええええええ!」


「あふん!?」



 竜人国ヴァルドラーテ第3王子、グラン・メル・アルタ・ヴァルドラーテ。

 6人兄弟の内の5番目の子供にあたり、色ボケ王子、馬鹿王子と呼ばれる形で国民からは親しまれている。

 道行く女性を口説いた回数は数知れず。

 見眼麗しい者……特に角が美しい者であれば誰でも口説く色ボケ具合であり、彼に口説かれることは一定以上の美しい角を有していることの証明であると言われているとかいないとか。

 ちなみに竜人族の価値基準において角は非常に重要らしく大きさ、曲線美、優雅さといったところを含めて評価されるらしい。

 ただ、普段のだらしなさとは裏腹に戦士としては超一流。

 竜魂武装を扱えるほか、武芸にも優れ合計レベルは600に達する実力者。

 軍の最高戦力の一角である戦士長の1人として名を連ねている……というのが、俺が昨日立ち寄った食堂で聞いた情報である。

 ドラゴンステーキが美味しかったです。


「むむむむむむ……」


 その男が、非情に険しい顔をして俺のことを睨み続けていた。


「……なぜいる」


「なんでだと思う?」


「はっ!? まさか、貴様もウル嬢のことを口説こうと!? 麗しの君では飽き足らず可憐な君にも手を出そうというのかこの痴れ者があああああぐべ!?」


「んなわけあるかい! お客さんに迷惑かけんな!」


 ウルと呼ばれた女性はグラン王子の頭を金槌で思いっきり殴りつけた。

 そのまま地面に叩き伏せられる。

 死んでないよな……?


「こんぐらいじゃ死にやしないよ。ダメージすら与えられないっての」


「そんなことはない。私の心にはこれでもかと響いているとも。愛しの花の愛情表現は我が肉体で受け入れてこそ!」


 地面に叩き伏せられたまま動くことなく色ボケ王子はそうのたまう。


「昨日は気絶してなかったか?」


「姉上の愛の拳を耐えられるわけないだろう。あれは私でなければ即死ものさ」


 器用に恐怖に震えながら、馬鹿王子は動くことなく再度のたまう。

 これが、一国の王子の姿か……?

 俺が知っている王子はちょっとシスコン気味だったとはいえ、身分を隠しながら旅人と交流しているような立派な青年だったのだが……


「まったく……おっと、自己紹介がまだだったね。私の名前はウル。このラヴァルの鍛冶屋の2代目当主にしてバランラの一番弟子だ。食器や日用品の修理はもちろん、武器や防具もなんでもござれってね。話は聞いてるよ。なんでも、師匠に装備の作成を依頼をしたんだって?」


「ああ、そのために今日は来たんだが……」


「お、早いじゃあねえの。もう少し遅くても良かったんだが……関心関心」


 まるで狙ったかのようなタイミングでがらりと扉が開き、バランラが中に入ってくる。


「お義父様! なぜ、このような男を我が愛しの君がいる場所へ招待したのですか!」


「誰がお義父様だ小僧。埋めるぞ」


「がふ!?」


 バランラは駆けよってきたグラン王子に向けて無造作に持っていた金槌を振るう。

 すると、床を突き破り面白いほど真っすぐに地面に埋められた。

 頭半分だけ見えるそれは実にシュールな光景だ。


「ちょー、師匠。床を修理するのも空いた穴を埋め直すのも私なんですからもう少し加減してくださいよー」


「わりぃわりぃ」


 適当に謝り地面に埋まった男の頭を踏みつけながらバランラは俺のことを見る。


「そんじゃまぁ、早速細かいところを詰めようじゃあねえの」


 これでいいのか竜人国。

 その足元にいるの、一応王子だろ。



 奥の部屋へと移動し座布団に胡坐をかいたバランラと向かい合う。

 なんとなく思っていたのだが、この竜人国の家の形式は日本に近しいものだった。


「あの後色々調べてみたが、ある程度までなら金額の範囲内で済みそうでな」


 昨日の時点で前金と<災厄星狼の光核>はバランラに預けてある。

 その甲斐もあってか、既に調査に取り掛かってくれたらしい。


「ただ、少々超過するのは避けられそうになくてなぁ。こっちで用意してやってもいいが……金は残ってるか?」


「あー……」


 <蛇蟷竜ペルーラ>のレアドロップである<蛇蟷竜の竜核>及びその他の素材の売却で得た資金が200万スピル。

 色々浪費し、エルダリオンに到着する頃には140万スピルまで減少。

 エルダリオンではレベリングの傍ら、魔石を売ったり迷宮武器を旅人に売っぱらったりと稼ぎ続け、呪物作成用の装備の購入などして残っていた金額が90万スピル。

 合計230万スピルに加え、あとは換金してなかった魔石などでどうにか工面した形だ。

 つまり、俺は今ほとんど一文無しに等しい。

 懐かしいなこの感覚。


 <キングブラッドコブラ>の素材を始め<鮮血の森>で入手したものはまるまる残っているが、これは竜人国で売るよりも他の街に移動したときに売った方が高く売れそうだからなぁ。

 なにせ、普通に鮮血装備が店頭に並んでいるのだ。

 <ブラッディマンティス>の装備は軽くて頑丈なので訓練用の使い捨てにちょうどいいのだとか。

 竜人族さん、ちょっと種族として屈強すぎやしませんかね?


「何が必要なんだ?」


「その前に、災片を落とした奴の素材が他に残ってやしないか?」


「一応残ってるけど……」


「なら全部だせぃ」


 そう言われたので、俺は【マグガルム】からドロップした素材の中でも使用せずに残してあった牙や爪を始め全て渡す。


「よしよし、こいつは運がいいな……んで、ここからが主にとっての問題だ。最高品質の雷属性素材。具体的には骨、爪に該当する物が複数個。あとは核が一個あれば確実でな」


 装備の作成において重要なのはメイン素材とサブ素材の組み合わせだ。

 例えば、<マグガルム・コート>の場合、重要なメイン素材は<魔狼犬の毛皮>であり、それ以外はサブ素材としての扱いになる。

 そのサブ素材の品質が良いほどに、完成品の性能も上がりやすいわけだ。

 エレクチャ鉱石のような属性鉱石や変質鉱石といった属性素材を始め、ミスリル鉱のような汎用的な高価な素材のように上を見れば切りがない。

 また、ただ品質を上げればいいわけではなく、メイン素材との相性や性能差を考慮しながらいけないのだとか。

 その上で、ここでいう最高品質とは上級モンスター相当の個体から手に入る素材のことであり……


「最高品質ってことは……」


「ああ、<黄晶竜プラズーラ>を狩ってこい」


 それは<七竜の渓谷>の雷岩地帯に生息する上級モンスターの名だった。


「こっちで必要数分用意する場合、まぁ……手間賃込々で追加で100から150万スピルぐらいか? 昨日の様子だと払えねえだろ。なんなら追加でクエストも発注してやる。内容はそうだな……害竜駆除ってえことで」



【共通クエスト】難易度8【黄晶竜プラズーラの討伐依頼】

場所:七竜の渓谷

依頼者:【竜匠】バランラ

目的:時折、雷を落として騒音の迷惑をかけてくる黄晶竜を駆除する。

報酬:経験値(高)+10万スピル(討伐数によって増加)



 一体倒すごとに10万スピル。

 うわ、太っ腹。


「そんでもって……おい小僧」


「何でしょうかお義父様!」


「誰がお義父様だ。埋めるぞ」


「ごふ!?」


 静かに座っていたグラン王子が返事を返せば再度バランラに埋められた。

 床には大きな穴が空き、その下まで完全に埋まっている。

 あちゃーとでも言いたげにウルさんも額に手をあて天井を仰いでいた。


「主を今日ここに呼んだのは他でもねえ……」


「え、師匠が呼んだの? さっき帰れって言っちゃった……」


(このまま話し続けるの!?)


 ユティナは驚いているが俺はもう慣れた。

 ウルさんも驚いているが、この場にいることについてなので埋められること自体は慣れたものらしい。


(というか、呼んだ? バランラが?)


 俺達の困惑を横に、そのままバランラはグラン王子に向けて()()()()


「おめぇ、<黄晶竜>の討伐を手伝って来い」


「へ?」


「ついでに、近々商業連盟アーレに使節団を派遣することが決定した。主がその代表だから準備しとけぃ」


「え?」


「クロウよ。装備の作成が終わったらどこに行くつもりだ?」


「商業連盟アーレのブラッドフォージに行く予定だけど……」


 今回の中だと一番近い場所である。

 少々離れているので、一度魔導王国エルダンへ戻ってから最寄りの街への転移門を利用する予定だった。


「なるほどのぉ……そういうこった。諸々終わったら小僧。主が乗せて送り届けろ」


「え?」


「はい?」


 が、その予定は急遽書き換わる。

 バランラが語る内容のことごとくが突拍子のないもので。

 それを聞かされ続けた男の顏はそれはもう面白いことになっており……






「それがおめぇへの罰だ。問題になりかけたのをこの己が取りなしてやったんだ。少しは反省してきやがれぃ、この馬鹿王子」


「なっにいいいいいいいいいいいいいいい!?」






 部屋中にグラン王子の絶叫が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
適当な理由でクエスト発行された雷晶竜さんは怒っていいと思うの……
核のドロップ率次第だけど・・・乱獲の予感が・・・
雷落としただけで害竜判定されて駆除される雷晶竜くんに涙が止まらない(泣)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ