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第28話 大乱闘での立ち回り

□モコ平野 クロウ・ホーク


俺は先陣を取るような形で駆けだした。


「ははははは! 突っ込むぞユティナあああああ!」


(クロウって時々バカになるわよね!)


 バカになってるんじゃない。


「楽しまなきゃ損なんだよな!」


 正面からも<アルカナ>であろう小型の狼やトラに加え、空を飛び迫る怪鳥や大鷲、そして多くのプレイヤーが突っ込んで来るのが見える。


 色とりどりの魔法もだ。


「壮観だなあああおい!」


 当たりそうなものは事前に避け、頭上を飛び越えていく魔法や<アルカナ>は無視し前に進む。


 前へ、前へ!


「敵陣に入り込む! 背後から魔法が来たら頼むぞ!!」


(もう来てるわ! 炎魔法よ! 腰ぐらいの高さ。かなり低い軌道ね、直撃するわ)


(フレンドリーファイアには気をつけろって言ってたよなぁ!? どこのバカだ!)


 正面には<アルカナ>がいるのだ。

 

 丁寧に対処する時間はない。


(集中しろ)


 虎の全身の動きから予測、これは飛びかかってくるな。


 軽く光ってるからなんらかのスキルを発動中。


 この虎、見覚えがある。シンプルな身体強化系による攻撃力上昇だったはずだ。


 俺とユティナが邪魔で魔法が死角になっているな。


(当たるわ!)


 飛びかかってきた虎の下を、俺はスライディングの要領で滑りこんだ。


「ギャウッ!?」


 背後から魔法が直撃したであろう声を聞き流し、そのまま先に進む。

 

 脚を止めた時点でいい的だろう、あとは後続に任せよう。


 俺以外も前線がぶつかりだしてるな。


 さて、俺の正面は……


「虎太郎が焼けたああああ!?」


 そんなことを叫んでいる細剣を持ったプレイヤーと、槍を構えて突撃してきてるプレイヤーの二人組。


 さっきの虎といい見覚えがあるな。


 俺がPKK活動時に何度か接敵したPKだ。

 

 あと、そんな情けない悲鳴を上げないでくれ。


「お前の相棒こんがり焼けちゃったなああああああおい!」


(つい煽りたくなっちゃうだろ!?)


(ほんといい性格してるわね……)




 ──距離が近づいていく。




「久しぶりだなてめえら!」


「お前なんて知らねえよ!」


「何度か殺し合った仲だろうが! 《防具切替(アーマー・スイッチ)》」


 俺は《防具切替》で<幻惑の仮面>を装備し、金髪ロングにしてやった。


「この見た目なら見覚えあるんじゃねえかあああああ!!」


「お前仮面野郎かあああ! ぶっ殺してやるよ」


「やってみろよお! 《インパクト》」


 俺はいつも通り石を正面にぶちまける。


「そいつは【呪術師】だ! まずはその石を避けろ! 《ハイチャージ》! 《チャージスピア》!」


「っ! 《アクセル》」


 俺の【呪縛】か【呪爆】を警戒してか、【細剣士】の男と【槍士】の男は避ける形で斜めに移動した。


 そのまま俺を挟撃する形だ、練度が高い。


 俺が先ほど《防具切替》を使用したことによって巾着袋を取り出せないことも考えてのことだろう。


 直接投擲する場合や打ち出すならともかく、インパクトで纏めてぶちまけると勢いがないため、少し移動すれば簡単に避けれるのだ。


「同じ手は二度と食らうかよ!」


 まずい、打ち出すタイミングが早すぎた!


 このままでは《呪爆》しても何の意味もない!!





 ……なんちゃって。





 俺は減速することなくそのまま、二人のPKの中心を駆け抜けていく。


「は?」


「え?」


「何の変哲もないただの石でしたざんねえええええん!」


 勝手に警戒して勝手に道を譲ってくれるなんて、なんて親切な人たちなのだろうか。


(知られていい情報であれば、それはただのアドバンテージでしかねえ!)


 この攻撃方法の優れているところは誰でも真似できるところと、近接職相手に対してなら択を強引に押し付けられるところだろう。


 近接職が取れる対策方法は主に3つ。


 呪い耐性を上げる。


(PK共にそんな資金もツテもねえけどな!)


 減衰装備はともかく耐性装備を作れるのは基本的に上級職の領分らしい。

 スキルレベル上げの必要もあるため現在の環境でいえば、NPCしか作れないわけだ。

 呪い耐性が欲しいなら【呪術師】を取ってスキルレベル上げを頑張ってくれ。


 次にダメージ減少系の装備かジョブスキルを使用する。


 これなら、ダメージそのものを0にできるので《呪縛》の条件は達成できない。

 しかし、石の接触による《呪縛》は対策できても《呪爆》で隙を晒す可能性がある。

 俺が近接戦闘をある程度得意としていることを知っているプレイヤーであれば可能なら避けたい択だろう。


 最後は躱す、防御系の魔法やスキルで石を吹き飛ばす。


 一番簡単で安い対策方法だ。

 故に予想もしやすい。


「あ、おい。待て!」


「ばか! 罠だ!」


 そして当然。


「《呪爆(カース・ボム)》!」


 ()()()()()()()()()()


「な、にぃ!?」


 呪いの地雷原によって、そのプレイヤーの足にダメージを与えていく。

 冷静さを失った相手程、罠にはめやすいものはないな。


「ぎゃはははははは、あばよおおおおお!」


「《嘘感知》で反応しただろうが! もう無理だ追うな、他のやつらも来てるぞ!」


「くそ!」


 正直、前衛職の最前線はいつどのタイミングで魔法が飛んでくるかわかったものではない。

 それであれば、敵陣深くに入り込んだ方が幾分ましというものだ。


 俺は《早食い》で魔力回復薬を消費し、先ほどの《呪爆》で使用したMPを回復させておく。


(数が多いと普通にMP消費するなぁ)


 一度に発動させた数に依存して消費MPが増える《呪爆》は、最低限の呪いしか付与していない<呪われた投げ石>でも相応にMPを消費するのである。


(まぁ、今日の俺には関係ない話だ)






 ──ドッゴオオオオオオオォォッ!!






「ぎゃああああああっ!!」


 そんなことを考えていたら右手の方から、何か巨大な物体が空から落ちてきたかのような音がした


「ぐわああああああっ!?」


「くそ、2人やられた!」


「なんだこのクマ!?」


「おい、俺たちは味方だ! 巻き込むなって待っ……!?」


「ちょっとなによあれ! あそこまでとは聞いてないわよ!?」


「がはははは! あのクマやべえな! メリナ、ガーシス、指揮は任せた。お前らああああ俺に続けええええええええええ! うおおおおおおおお!」


(ハニーミルク、暴れてるわね……)


(すげえ目立つな、距離あんのにこっちまで衝撃きてるじゃねえか)


 すまん。そのクマ一応味方なんでほどほどに頼む。

 一応メッセージは入れといたけど、説明足りなかったかもしれん。

 ほんとすまん。


(……よし、俺達も行くぞ!)


(見捨てたわね)


 進んだ先には前衛1人と後衛職が2人か。

 <アルカナ>は見当たらない、ガーディアンタイプで前線に飛び出してるのか?

 まあいい。


「俺とやり合おうぜええええええ!」


「1人で突っ込んでくるか! 囲んで殺せ!!」


「そいつは【呪術師】だ!《呪縛(カース・バインド)》に注意しろ!」


 さすがに【呪術師】のタネは割れてるか。

 ただ、今日の俺はただの【呪術師】ではない。


(クロウ上から鳥!)


 上から<アルカナ>、正面には【弓術士】と魔法使いらしき男。

 さらに、側面からは双剣使いが突っ込んでくるのも見える。


 接敵する前に俺は、あらかじめ握りしめていた道具を投げつけるとともに急停止しバックステップを取る。


 道具が爆発し、足元から白い煙が立ち上り周囲を一瞬で埋め尽くした。


「なんだ!? けむり玉か!」


「任せろ! 俺には《気配感知》がある! 《双刃斬撃(デュアルスラッシュ)》」


 俺は《気配感知》に従い上から突っ込んできた鳥を躱し、殴りつける。


「《インパクト》!」


「ちっ、邪魔だ!」


「クェッ!?」


「人の心とかないの!?」


 適当に双剣使いの方に殴り飛ばしたら、そのまま切り捨てられるのが見えた。

 かわいそうに……

 しかし、この煙によって【弓術士】と魔法職の援護は難しいはずだ。

 双剣使いとの一騎打ちに持ち込んだわけだが、俺の目的はそれではない。


「正面から戦うわけねえよな」


「何を言って……!」


 双剣使いの足元には、けむり玉と一緒に俺が持っていた<呪われた片手剣>を転がしておいた。


「《呪爆(カース・ボム)》!」


 呪いの爆発を脚に受け態勢を少し崩したが、双剣使いはそのまま止まることなくこちらに向かってくる。


「っ、これがどうしたあ!」


「《道具切替(アイテム・スイッチ)》、ハッピーバースデー双剣使いくううん!」


 錬金術師の攻撃手段として爆発物を生成して投げつける、というものがある。

 爆発ポーションというべきそれは、簡単に言えば容器が割れると同時に空気と反応し、爆発するといったものだ。


 専用の素材が必要であるものの、レベル1から使用可能な《ポーション生成》というスキルで作成できるため、序盤の【錬金術師】にとっては優秀な中距離攻撃手段と言えるだろう。


「ぐあっ!? くそ、てめえまともにたたかえ!?」


 爆発ポーションや《呪爆》を駆使していく。

 威力は低いが爆風の判定はある。

 視界の悪い中で気配感知に反応しない飛び道具はうっとおしいことだろう。


 呪われた投げ石をばら撒き、警戒で動きを鈍らせ、とにかく近寄らせないことを意識する。


 その隙に俺は片手でアイテムボックス操作し、ひたすらアイテムを取り出していった。


(ユティナ!)


(ええ、憑依解除)


 憑依状態を解除し、ユティナにはそのアイテムを周囲に投げさせる!


「な、おまえら!? まさか、やめろ!」


「やめませえええん! ユティナ、俺が守る。そのまま周囲に投げ続けろ!」


「ええ、任せなさい!」


 ここは敵陣ど真ん中でも後衛よりの位置だ。

 前線がぶつかり合い散らばっているとはいえ、周りは全員敵である。


 そして、ユティナが適当にアイテムを投げ、山ほどの爆発音とともに周囲一帯を覆いつくすように煙が充満した。


「あっひゃっひゃっひゃ、アイテム浪費楽しすぎいいいい! 《呪爆(カース・ボム)》! 《道具切替(アイテムスイッチ)》! おらおらおらああ!!」


「あはは! いいわねこれ! 楽しくなってきたわ!」


「おまえらマジでふざけんなよ」


「なんだ! 周囲が見えねえぞ。どうなってんだ!」


「【弓術士】か!? 《煙幕(スモークドロップ)》使ったバカはどいつだ!」


「けむり玉を投げまくってるやつがいる! そいつを潰せ!」


「潰せって言われたってどこにいるんだよ!」


 俺の目的は単純明快、PKクランの後方錯乱である。

 人数で有利を取っているのだから、単純なぶつかり合いではこちらが有利だ。

 そして、時間を稼ぐのであれば、相手の後衛を機能停止に陥らせればいい。


「た、戦え!」


「囲まれるに決まってるのにまともに戦うわけねえだろ! 《道具切替(アイテム・スイッチ)》! 《スラッシュ》!」


「くっ!」


 取り出したアイテムを投げ切ったのを確認し、ユティナを背中にかばいながら、牽制しこまめに移動をする。


 あとはこの繰り返しだ。


 周囲はもう煙塗れだ。

 《気配感知》のある前衛職や<アルカナ>であろうと、そもそも周囲に人や<アルカナ>だらけの中、明確な敵意を持ってない俺を判別し攻撃するのは困難だろう。


 俺達は無差別にアイテムを投げているだけなのである。


 俺に執着している双剣使いの男だけを適当にいなし続ければいいのだ。


「反応が消えた!? くそ、どこ行った」


 そして俺は<隠形ポーション>を取り出し一飲みする。

 ついでに、目立つ幻惑の仮面も外しておく。

 これで、煙の中を適当に移動し続ければいつの間にか《気配感知》の対象からも抜けるだろう。


 あとはこのまま時間まで荒らし続ければいい。

 後衛の援護もなければ向こうの前線は勝手に擦りつぶれる。

 魔法も弓も同士討ちが怖くてできないはずだ。

 俺からすれば周囲は全員敵だから、いくらでも暴れられる状態だけどな。


(りんご飴たちに感謝しないとね)


(ああ、そうだな!)


 この山ほどのアイテムは全てりんご飴とその仲間たちが用意してくれたものだ。

 今の<Eternal Chain>の環境は、一言でいえば戦闘ジョブ偏重環境といえる。

 俺のような【戦士】を筆頭に多くのプレイヤーは剣や魔法に憧れて、チュートリアルで戦闘系のジョブを取得している。


 なぜなら、生産は後回しでもできるからだ。

 ジョブをメニューから好きなものに切り替えることができるという仕様において、最初に生産職を選ぶゲーマーは少数派と言えた。


 いたとしても、そのプレイヤーはPKなんてせず平和に過ごすのが目的のものだ。

 それこそ、りんご飴たちのような。


 つまり、今の環境において、ログイン率が高い生産職数十人単位で、しかも国のバックアップ体制付きで物資を得ることができるのは、俺達だけの特権!


 当然俺だけでなく、他のプレイヤーにも兵士経由で物資の補給は実施済みだ。


 PKは今更サブジョブに生産職を取得しても、満足にレベル上げもできなかっただろう。


 彼女たちも既に最初のジョブはカンストしているらしい。

 俺はもちろん、自警団クランのプレイヤーを筆頭にモンスターや鉱石、アイテムの素材集め役は大量にいた。


 よって俺達は今、合計レベル500相当の生産職の恩恵を受けているといっても過言ではない!


 回復アイテムも投擲アイテムも武器も今日のために完全補給済みである。


(負ける理由が見当たらねえなあああ!)








「《風爆(ウィンド・ブラスト)》おおおお!」








「っはぁ!?」


 瞬間、頭上で風が爆発した。

 そして、広範囲に充満していた煙は、【風魔法師】の《風爆》によってほとんど吹き飛んだ。


 俺は、先ほどの声を知っている。


「そこの双剣使い、周囲にいる連中もだ。こいつは俺が殺す。さっさと前線へ向かえ」


「お、おう! 頼んだぞ!」


「おいおいおい! 見つけたぞてめええ!」


 そこには見覚えのあるプレイヤーたちがいた。


「なんでお前らいんの……」


 mu-ma、刃歯、右手にポン。


 <カイゼン樹林>で殺し合った3人組の元【賞金首】がそこにいた。

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[一言] 全ての作品と更新に感謝を込めて、この話数分を既読しました、ご縁がありましたらまた会いましょう。
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