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第22話 長老バランラ

□竜人国ヴァルドラーテ クロウ・ホーク


 竜人国ヴァルドラーテは小国だ。

 まず街が1つしかなく国土全体が首都という扱いであるため国土面積が非常に小さい。

 人口も9大国に比べると少ない。

 部族や民族が国と呼ばれる程の規模を最低限維持しているような、そんな国だ。


 しかし、その規模とは裏腹に兵士の質の高さは他国とは比べ物にならない。

 まず、竜人族が有する種族特性として《竜化》という力を有している点である。

 自らの存在の格を【竜】まで底上げするそれにより、言ってしまえば国民全員が兵士の素質を有しているというのだ。

 そして、もう一つが……


「竜魂武装?」


「先程色ボケ王子……失礼。グラン戦士長が呼び出されたものです。竜気解放まではしていませんでしたが、あの一撃をよくぞ躱されました。だてに<血染めの森(ブラッドステイン)>と<七竜の渓谷(ドラゴンリバー)>を抜けてきてはいないということでしょうか」


 門兵の人が案内がてら色々説明してくれる。

 魂の具現化という一部の才あるものだけが到達できる領域。

 先程、あの馬鹿王子が無詠唱で呼び出した翡翠色の槍がそれだというのだ。


(だから《武具切替(ウェポン・スイッチ)》と似たような挙動だったのに詠唱がなかったのか)


 つまり、竜人国ヴァルドラーテという国は危険な魔域に囲まれているため大規模な進軍ができず。

 そのような環境でも問題なく存続できるほどの武力を有しており。

 そして、場合によっては竜魂武装やらまだ見ぬ竜気解放という必殺技も使用してくると。

 明らかに強さの次元が他の種族と比べて頭一つ抜けている気がする件について。


「あの金の角は……」


「王族の証です」


 馬鹿王子や、それを回収した女性は他の竜人族と異なり金色の角を有していた。

 それがこの国での王族の証らしい。


「姉弟というには似てませんでしたね。髪色も違いましたし」


「我々は司る属性に応じて髪色や鱗色が変わるのですが、多くはごくわずかな変化しかありません。他の人類種のように、基本は両親に似ます。しかし、王族の方々や竜としての素質に優れていると非常に色濃く表れまして……グラン戦士長は風を。アリスティア戦士長は光をそれぞれ司っています」


 周囲にいる竜人族を見ればなるほど。

 確かに、多少の変化こそあれど家族とわかるような違いでしかない。

 あの2人があそこまで違ったのは竜としての性質が色濃く表れた結果らしい。


 街並を見ながら門兵の案内に従い歩き続ける。

 道は整備されているし、畑らしき広い土地も大きな川もあった。

 見上げると街全体が内側に抉れたような大きな岩に覆い隠されているのだが、真ん中に巨大な穴が空いており光はちゃんと降り注いでいる。

 灯りを始め、魔道具らしきアイテムもそこらかしこに置かれている。

 国と呼ぶには小さいが、一部族と呼ぶには大きすぎるぐらいだろうか。

 しばらくすると、他よりも一際高い位置にある古めかしい雰囲気の大きな屋敷の前に着いた。


「……着きました。こちらにて長老がお待ちです」


「長老、ですか……」


 王族がいるのに長老がいるのか。

 しかも、この感じ国営組織とは全く別の立ち位置だな。


「旅人の方が訪れた時には長老の元へ案内するのが古くからの慣わしでして……」


「古くからというと?」


「ちょうど、最初の旅人がこの国に訪れた頃からだったと思うので……大体400年程前でしょうか?」


「……失礼ですが、先程のグラン戦士長の年齢をお聞きしても?」


「確か、200歳ぐらいだったかと」


 だから長命種は年月で殴ってくるの止めてくれませんか?



「長老。旅人を連れてまいりました」


「お? おおう、ようやくか。待ちくたびれて日が暮れるかと思ったぜぃ」


 案内された先は妙に和風な謁見の間だった。

 そこにいたのは1人の老人だ。

 顎からは仙人のような白く長い髭が生えている。

 片目には潰すような傷跡が刻まれ、側頭部から生えている黒い角の片方は半ばで折れていた。

 だが、衰えているような雰囲気は一切なく溢れんほどの生命力を放っている。

 門兵は部屋から出て行き、この場には俺達と老人だけが残された。


「遠路はるばるよくぞおいでなさった。(おのれぁ)はバランラってんだ。このヴァルドラーテで長老なんてもんについてる。言っちまえば王族顧問のようなもんさ」


 バランラは鋭い瞳孔を放ちながらにまりと笑みを浮かべた。

 親しみを込めてくれてるのだろうが、全くと言っていいほどに威圧感は消えていない。


「そういやぁ、うちの若いもんが迷惑をかけたみたいじゃねえか。後で己の方からみっちりしごいとくんで、ここはひとつ納めちゃくれねえかい。なにか欲しいもんがあるってんなら、ある程度融通は効かせられるからよぉ」


 200歳が若いもん扱いですか。

 間違いないくこの老人はこの国でトップクラスに長生きなのだろう。


「おっと、年寄りは話が長くていけねえや。さっさと主らの用事を済ませちまおう。何やらあのクソガキから手紙を預かっているとか」


 ……ん?


「クソガキ?」


「ん、違ったかい? 【魔導師】といやぁ、あの生意気なエルフのガキのことだろ?」


(ええー……)


 きょとんとした表情で凄いこと言うなこの老人。


「小さい頃はまだかわいげがあったんだがなぁ。やれ、情報を寄越せだの、やれ国を興すから手伝えだの。やれ、超越種の素材が手に入ったから杖を作れだの。しまいには己のことを利用するだけ利用して、用はなくなったからもう帰っていいぞとか。すっかりと生意気に育ちやがったもんだぜ! ハーッハッハ!」


 ついには1人で笑いだしてしまった。

 察するにバランラがゼシエの言っていた古い知り合いなのだろう。

 ならば、彼らの関係に俺が口を出すことでもないか。


「こちらになります」


「ひーひっひ、ふぅ……それでは、拝見いたしましょう」


 瞬間、雰囲気が変わった。

 バランラは真面目な表情で手紙の封を開け中身を読み始める。


「ふむ、これは主らの紹介状か。それでこっちが……」


 暫く待つと、手紙を読み終えたのかバランラはそれを宙に放り投げ指を鳴らす。

 瞬間、全てが一瞬で燃え尽きた。


「なるほどのぉ……」


 バランラは髭を弄りながら何かを思案した後、取り分けていた紹介状の方を読み始めた。

 10秒ほど待てば視線を上げて俺のことを見て来る。


「主よ、名乗れ」


「クロウ・ホークです」


 今度はユティナの方を見る。


「そこのは?」


「ユティナよ」


「──やはり悪魔族(デモ二ア)、か」


(デモニア……?)


 ニュアンスとしては悪魔ということだろうか。

 だが、そこに込められた意味は違うような感じがする。


「あいわかった。ここまでご足労いただき誠に感謝申し上げまする……ってな。ま、かたっ苦しいことは無しで、仲良く行こうや」


「仲良く、と言われましても……」


 バランラは笑みを崩さない。

 文字通り仲良く、ということらしい。


「……なんと呼べば?」


「バランラでいい。そもそも旅人なんざ、最初の挨拶で『今日はいい天気ですね死ね』とか言いながら殺意を込めた一撃をぶち込むぐらいの距離感がちょうどいいでな。そんなかしこままれちゃあ、己の調子が狂ってしょうがねえ」


 快活な笑みを浮かべているが、内容はなんとも物騒なものだった。

 その挨拶はどうなんだ?


「傍若無人の権化。国に幸福と災厄をもたらす化身。世界をかき乱す者。契約の神が招いた異邦人。お(めぇ)()()はそんな存在だ。少なくとも、()はそう認識している。もとより礼儀なんざ求めちゃいねえのよ」


 バランラは膝を崩し、どこか挑戦的な視線を飛ばしてくる。


「で、なんでも装備の作成を依頼したいんだって? 先に迷惑をかけたのは己達(おのれら)の方でなぁ。ここは1つ、旅人への詫びっちゅう形で清算しようじゃあねえの。職人の紹介。経費はこちらが全額負担。失敗した時は同一価値分の素材の提供、でどうだ?」


 それは何とも魅力的なものだった。

 装備作成の依頼料はかからず、素材が足りなければ向こうで用意してくれて、失敗した場合は補填までしてくれるのだという。


 結果的には無事だったものの、魔導王国からの使者に対し先に攻撃を仕掛けたのはヴァルドラーテの方である。

 相手が旅人という国に縛られない存在だったとはいえ、穿った見方をすれば国と国との問題とも取れるわけで。

 だが、俺個人への無礼であれば一旅人に対する補填で治めることができる。

 少なくとも、魔導王国へ補填するよりはよっぽど安く済むということだ。


「いや、依頼料はちゃんと払うよ。だから、職人を紹介してくれるだけでいい」


「ふむ、その心は?」


「前に正統な対価を支払えない時があってさ。せっかくの好意を無碍にもできなかったからその時は納得したんだけど……」


 俺の<マグガルム・コート>は元々もっと低い性能だったはずだ。

 だが、いい素材だからだと言ってバーティは素材のグレードを上げてここまでのものを作りあげてしまった。

 その好意には感謝しているし、それもありだと思っている。

 だからこそ。


「貰いものばかりじゃ締まらないだろ?」


 <真贋の仮面>も<マグガルム・コート>も<アークロッド>も<念話のイヤリング>も、俺のメイン装備のほとんどが依頼の報酬や好意で貰ったものばかりだ。

 素材を集めて、お金を貯めて、生産職に依頼し、作られた装備を使用したい。

 言ってしまえばそれだけのことだ。 

 あと1つ理由があるとすれば……


「そもそも、あんなの迷惑の内に入らないしな」


 放たれた攻撃は《竜撃槍》なるスキルだけ。

 あんなのにいちいち目くじらを立てていたら、PK事変や魔法バカ達は一体何だと言う話になってしまう。


「ぶ、はーはっはっは! そうかそうか、主からすれば、あの程度じゃ攻撃にも入らねえか! そりゃいい!」


 バランラは腹を抱えて笑い出す。


「誰を紹介しようか悩んでたが、決めた。主にはこの国一番の職人を紹介してやるぜぃ」


 どうやら、国一番の職人を紹介してくれるらしい。

 これでようやくあの素材を装備にすることができそうだ。






「とりあえず、前金に250万スピルからな」


「……はい?」






 えーと、今なんて?


「ん? ああ、使えそうな素材の持ち込みがあるならもう少し割り引くが、まずは元になる災片を見てから相談だな」


「そうじゃなくて……前金?」


「どの素材が適していて、どんな装備にできるのか軽く調べてからになるでな。調査に素材調達と中々の仕事になる。ま、今はほとんど立て込んでないんでそんな時間はかからねえとは思うが……あのクソガキの紹介と主への期待を差し引いてきっかり250万だ」


「いや」


「これより安く仕上がっても余剰分の返金は無し。もし超過した場合は追加で請求するでな。金が足りないってんなら、仕事を紹介してやってもいい。失敗した場合のみ半額返金。これが己からだせる条件だ」


「だから」


 つまりだ。


「国一番の職人って……」


 バランラは笑う。

 何を言っているのかという風に。

 そんなのわかりきったことだろうと。






「そんなの、己がこの国一番の鍛冶職人に決まっているでな。なーに、安心せえ。災片を扱うのなんざ、そこらのガキをあやすよりも簡単だってなぁ」






 バランラは……竜人国一番の職人を名乗る男は長い白髭を弄りながら自慢げにそう言った。


(あの髭の触り心地ってどんな感じなのかしら?)


 おいユティナ。

 なんか静かだと思ってたけどずっとそんなこと考えてたのか!?

 確かに気になるけども!

バランラとは……

竜人国が国として成り立つ前から部族をまとめ上げていた老人。

竜人国の王族の存在が【定義】され、【条件】を満たし、契約の神に国として正式に認められた時にトップの座を降りそれ以降王族顧問として相談役の立ち位置にいる。

【魔導師】ゼシエが子供(今も見た目は子供のままだが)の頃からの知り合いであり、色々無茶振りされたことからクソガキと呼ぶようになった。

年齢は1000歳を超えている。

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― 新着の感想 ―
マグガルムさんの光核とか失敗してロストなんてしたら補填は無理そう。同格ってなると希少な超越種の核+核に付随するドロップ+パパ曰く激戦を繰り広げたアイテムとしての格っとなると……まぁ、光核自体クロウ用の…
どのような装備ができ、それが他プレイヤーの前でお披露目されるか、今から楽しみです
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