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第19話 家への訪問者

「兄さん、何をしているの?」


 時刻は昼前。

 洗面所の鏡とにらめっこしていた俺に麗凛が声をかけてくる。


「うん、ああ。ちょっと髪型がな」


 鏡の前に映る自分の姿を見る。

 服装、問題なし。

 歯は磨いて髭も剃ってある。

 ただ、前髪がちょっと邪魔か?


「先週美容院に行けばよかったな。ワックスで固めるか? 確かこの辺に……なぜ止める」


 入学式の時以来使用していなかったワックスを取り出そうとしたら麗凛にその手を掴まれ止められた。


「……あの、一応聞くけどなんで?」


 なんで、か。

 そうだな。


「失礼のないよう、言われた通り身だしなみを整えようかと」


 せっかく麗凛の友達が来るんだしな。


「そこまでしなくていいから、もう十分だから」


「いや、止めてくれるな麗凛。完璧な兄になるために譲れない戦いがここにはあるんだ……!」


「完璧な兄ってなに!?」


 お兄さんってしっかりしてるね、と言われるのが今日の目標です。



 あの後<七竜の渓谷>の攻略は途中で切り上げログアウトした。

 向こうでは昼だったが、こちらの世界では深夜に入っていたからだ。

 布団に入ったのが2時頃で、そのまま睡眠をとり翌日。

 今日は麗凛の友達なる存在がこの家に来る日だ。

 一応の家主として最初に軽い挨拶をする程度だが妹に恥をかかせるわけにはいかない。

 それだけの覚悟を決めていたのだが、どうやらお気に召さなかったらしい。


「それじゃ私は迎えに行ってくるから。ほんとなんも変なことしないでいいからね!」


 そう言い残し、麗凛は玄関を出て行った。

 今朝、今日のために準備をしてきたと言ってマジックをいくつか披露したり、パーティ用のクラッカーも用意していると言ったのが相当警戒させてしまったらしい。

 麗凛を揶揄うための冗談だったのになぁ……


 俺は自室に戻り暇つぶしがてらSNSを開く。

 調べる内容は専ら<Eternal Chain>の情報だ。


(へぇ、到達階位Ⅳになった旅人がもう出たのか)


 記事の見出しにあったのはとある旅人の<アルカナ>の到達階位がⅣに至ったというものだった。

 実際にはかなり前に進化していたらしいが、インタビューや記事に纏めるのに時間がかかったそうだ。

 サービス開始から3ヶ月近く経過した現在、向こうの世界では実に6ヶ月も進んでいる。

 ユティナはこの間到達階位Ⅲになったばかりだが、育ちやすい<アルカナ>であればこうもなるのだろう。


(このペースだと夏に入る頃には【魔王】が生まれていそうだな)


 <アルカナ>の育成はエンドコンテンツの1つだ。

 その最終進化である【魔王】とはいったいどんな存在なのか。

 そもそも、レベル上げで進化できるのかなどと色々考察されている。

 この記事には【魔王保有者(ホルダー)】の一番乗りは誰になるのかという題材において最も近い男が取り上げられていた。


「ゼインって、確かドラゴンライダー筆頭の……」


 俺が知ったのはある程度武勇で名前を上げ始めてからだ。

 PK事変の時に天空国家プレメアのPK組織の幹部として大暴れした旅人。

 ドラゴン種の<アルカナ>に騎乗し戦う旅人側の【竜騎士】の第一人者。

 そして、【impact The World】総合ランキング2()()

 ドラゴンライダー筆頭、【竜騎士】ゼイン。


 記事を読むと街頭インタビューみたいなものも取ったらしく色々言われていた。

 好意的なものだと天空国家プレメア最強の旅人。最優の騎士。天翔ける稲妻。

 批判的なものだと残念男でした事件の被害者にしてPK事変最大の加害者。マッチポンプ野郎。修羅の者。出会い厨乙w、など。

 有名税という奴なのだろうが散々な言われようである。

 だが、こう言われるのも仕方がないと一部納得してしまいそうになるもので……


(【残念男でした事件】で自分を騙した旅人をその場で殴殺。男は男と、女は女とパーティを組むべきであるという主張を掲げPKを行うようになり、なし崩し的にPK事変に参戦。触発された悪乗り好きの旅人もPK組織に加わり多くの異性混合パーティを崩壊に導いた)


 初期の頃からドラゴンライダースタイルだったようで<ガーディアン>の<アルカナ>のためスキルの拡張性は低かったらしいが、それは自前のプレイヤースキルで補ったらしい。

 また、彼のPK活動がどこぞに取り上げられネカマに騙されて発狂(MMOあるある)のネタ要素も加わった結果一種のお祭り騒ぎになりPK組織は実に数千人規模まで拡大したそうだ。

 ちなみに、なんとここまでサービス開始から一週間以内の出来事である。

 濃いなぁ……


「ただ自警団組織前リーダー、大手動画投稿者エアーに説得され改心。今度は自警団組織に協力し事態の収束まで導いた、と」


 これはマッチポンプって言われても仕方がないな。

 誰に弁明するわけではないが、俺達はPK組織のトップにスパイを据えて盤面を望んだ方向にコントロールしただけなのでマッチポンプではありません。はい、自己正当化完了。


 こう見ると向こうも向こうで波乱万丈である。

 数百人規模で止めることができたルクレシア王国とは全く別の流れだ。

 これで収束時期はほぼ同じだったというのだからよっぽどうまくやったのだろう。

 ある程度読み終わったので他の記事の見出しも見ていく。


 【怪異! 巨大な大穴④】今度は一夜にして山が消失! 広がり続ける被害にレギスタはなすすべ無し。まさか、超越種か……? 著者:バラード・ロックマン


 【♡聖女ちゃんファンクラブ♡団員募集中】GWランキング上位500位以内に入るためにするべきことは聖女ちゃんファンクラブに加入することです。嘘ではないことを現4位の私が証明します 著者:デスゴルドウ


 【最強<アルカナ>決定戦開催】最強の<ガーディアン>を決める戦いが今始まる! 参加者募集中!

 我こそはというものは商業連盟アーレに集れ! 著者:肉球戦士


 機械帝国レギスタの北部で起きている事件を追う者もいれば、ファンクラブの勧誘活動をする者もいる。

 なんとも話題に事欠かないなと思いながら、俺は時間を潰し続けた。



 30分ほど待つと玄関のドアが開く音がした。

 どうやら無事に合流してきたらしい。

 部屋を出て玄関へと向かう


「ほら、入って入って!」


 玄関からは麗凛の声が聞こえてくる。

 見える場所までくれば横には当然だが初めて見る少女がいた。

 活発そうな顔立ちだが、育ちのよさそうな子だ。

 立ち姿、所作ともになんかオーラが違った。

 ただ、最近はエリシア(お嬢様バトル勝者)で見慣れたもので気圧されるほどではない。


「こんにちは」


 顔をだし軽く挨拶をすれば、びくりと肩が震える。

 怖がらせてしまったかと思ったがすぐに落ち着きを取り戻したようだ。


「お、お邪魔します。麗凛と同じクラスの有村優香といいます」


「有村優香さんですね。私は麗凛の兄の烏鷹千里といいます。いつも妹がお世話になっています」


「いえいえ! 私の方こそ……こちら心ばかりの品ですが」


「これはどうもご丁寧に」


 お土産らしき紙袋を受け取る。

 外装に印刷された店名は俺でも知っている有名ブランドのもの、ちょっとお高いやつだ。

 重さから察するに、日持ちのするクッキー類。

 後で予め用意しておいたのと一緒に麗凛に持って行って貰うとしよう。


「今日はゆっくりしていってください」


 唸れ、俺の表情筋!

 自然な笑顔を維持し続けろ。

 社交辞令は完璧にこなしてこそだ。

 俺が培ってきた対人能力の全てを注ぎ込み、普段は絶対しないであろう接待モードをこなす。

 ここからは麗凛と彼女だけの楽しい時間だ。

 これ以上は無粋、俺はこのまま自然にフェードアウトをしていくだけでいい。


 おい、なんだその信じられないようなものを見る目は。

 兄に対して向けるものじゃないぞ。

 確かに普段はこんなゆっくり話さないし声も作っていないが、これもお前のためを思ってだなぁ。

 なに、ありがたいけどそれはそれとして普段と全く違うからなんか変な感じだって?

 それ、褒めてる?


(ん?)


 1秒にも満たない時間で麗凛と視線での会話(殴り合い)をしていたところ、ふと気づく。

 俺は見られていた。


「……」


 なぜか困惑した表情のまま、じーっと見つめて来る。

 それはもう穴が空くのではないかと思うぐらいに。


「……えーと、何か気になることでもありましたか?」


「あ、いえ! なんでもない……っ! ありません! 失礼しました!」


 そう聞けば慌てながらも、脱いだ靴を揃えて端に寄せる。

 ちゃんとしてるなぁ……


「部屋に案内するね」


「うん!」


 猫被り、というほどのことではないがやはり外向けの対応だったようだ。

 麗凛とは親しく話しながら向かっていき部屋の中へ消えていった。

 その間に俺は軽くお菓子を盛りつけたお皿をトレーの上に置いておく。

 少し待てば麗凛だけが戻ってきた。

 案内は終わったみたいだ。


「飲み物はお茶でいいか?」


「ありがとう……なに?」


「いや、別に」


 麗凛は間違いなく優等生なのだが一体誰に似たのか、一部ひねくれたところもある。

 まぁ、オンラインゲームをやっている以上大なり小なり捻くれてないと対人戦で勝てないので当然と言えば当然だが。

 中学生時代に一度も友人を自宅に招かなかったのも、結局そこまで馬が合う相手ができなかったのだろう。


 もしかしたら、今回はなにかしら共通の話題で盛り上がったのかもしれないな。

 そう思い俺は暖かい目で麗凛のことを見る。

 それに対して何を思ったのか麗凛の眼はどこか冷たいものになった。




「……可愛いからって、人の友達に手は出さないでよね」


「一回お前とは真剣に話し合う必要がありそうだな」




 こちとら中学の頃からずっとVRゲームに人生注ぎ込んでる一般大学生だぞ。

 俺を一体何だと思っていやがる。

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― 新着の感想 ―
何書いてもネタバレというか明日の更新でわかる? のかもしれないですけど…… だから「第1章 エピローグ 人外魔境の物語」時点で連絡先知ってたんですね。楽しくて1日中このこと考え続けてました。明日…
返信ありがとうございます。有村優香さんね〜一体ダレナンダロナー
更新ありがとうございます。あれ、アルカって年齢制限でゾンビパニック出来なかったんですよね?
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