第17話 鮮血王蛇の仮面
<キングブラッドコブラ>は苛立っていた。
ただの羽虫に己の攻撃の悉くが躱されているからだ。
『GYURURU……』
この怪物は高度な思考能力は有していない。
獲物を見つけた。ならば排除する。捕食する。粉砕する。そうすれば渇望が満たされる。
それ以外の行動原理を持っておらず持つ必要もなかった。
生態系の頂点とはそういうことだ。
<キングブラッドコブラ>のENDは10000を超えており、これは上級モンスターと呼ばれる中でも高水準の領域に位置している。
また、ダメージ減算系のパッシブスキルをいくつも有しているのに加えHPに至っては30万相当。
小さな傷程度は《血染めの血族》の効果により<血染めの森>の空気を吸うことで自動で回復していく。
圧倒的なまでの高耐久と状態異常の毒を両立せし捕食者。
この戦闘において<キングブラッドコブラ>優位は覆らない。
「ユティナ」
だが、その優位が消えてしまえば相手の攻撃に対する抵抗力を失うのは道理。
圧倒的な耐久力は元の基準となるENDが高いからこそである。
故に。
「ステータス指定、END」
「任せなさい」
これまで鮮血の蛇王に傾いていた天秤が、拮抗する。
『……?』
蛇の王は違和感を感じ取るがそれだけだ。
あるのは、目の前にいる羽虫が森の中でたまに見かける羽虫よりも栄養価の高い餌だという認識のみ。
だから、己のENDが現時点で6500まで減算されていることに気づけるはずもなく……
『GISHAAAAAAAAAAAA!』
王は引かない。
生物としての生存本能が負けないと判断を下しているからだ。
勝利して当然だからと認識しているからだ。
そのまま怒りのままに再度の噛みつき攻撃を放つ。
『GYURURURURU……!』
避けられたが、先程よりも近い。
惜しかった。
次こそ仕留める。
「《暗黒放射》」
次など、なかった。
『GYURU?』
<キングブラッドコブラ>は己の身体が上手く動かないことに気づく。
なぜか、視点が地面へと落ちていく。
7つある目の内の1つが、視界の端に捉えたのは黒。
そして、黒を振り抜いたであろう羽虫の姿。
その横になぜか自分の身体があった。
それはなにか特別な効果があったわけではない。
基本の魔法詠唱によるスキル補正を十分に乗せ放たれた一撃。
薄く、硬く、強靭な刃。
ひたすらに切断能力を高めた魔法。
すれ違いざまに腕の動きに合わせ、圧縮された極大の闇の刃が振るわれただけ。
『GYU……A……?』
結果として<キングブラッドコブラ>の頭部は切断され、断面を晒しながら地面に落ちていく。
斬り落とされたことに気づかないまま身体も崩れ落ちていき……
「じゃあな」
血染めの森の王は自身の敗北を認識することなくポリゴンとなって砕け散っていった。
☆
□血染めの森 クロウ・ホーク
目の前にいた巨体がポリゴンとなって砕け散っていく。
すべては霧散し、あとに残されたのは圧倒的なまでの破壊跡だけだ。
「一応形になったな」
【高位呪術師】になったことで習得した《呪炸裂》を用い、《反転する天秤》と《魂の分割》をかけ補正を上昇させた呪物を爆発させダメージを与える。
これにより、ユティナの《拮抗する天秤》の条件を達成。
後は相手のENDを指定し耐久力を一時的に下げ、魔法で重要部位を破壊する。
耐久に自信がある相手に対する格上殺しの方法だ。
回避されたりスキルで受けられたり、急所を外されると有効打にならないのだが……そのためにわざと、弱い攻撃を与え警戒心を下げさせた。
普通に魔法を放っても倒せた可能性は高いが、この方法の方が消費MPが少なく済むのが利点だろう。
(ドロップ品は……渋めか?)
ドロップ枠は全部で30枠。
<上質な蛇皮>や<大骨>のような汎用ドロップが多めだ。
固有のドロップ品だと<鮮血王蛇の邪眼>に<鮮血王蛇の毒液>とあるが、そこまで恵まれていないように見える。
「おっ」
その中で1つ目に止まった装備があった。
***
鮮血王蛇の仮面
装備可能条件:レベル300以上
耐久値:500/500
装備補正:STR+7%、END+7%、DEX+7%
装備スキル:《鮮血王蛇の覇気》
周囲に鮮血の王の威光を放つ。補足した対象に【威圧】を付与。
***
「自然ドロップ装備か、珍しいな」
モンスターを倒した際にたまに装備がそのまま落ちることがある。
それをネイチャーと呼ぶのだが、これを入手するには討伐時に一定条件を達成している必要があり、多くの場合においてドロップ条件が不明なのでなかなかお目にかかれない現象だ。
なんだかんだ言って、俺も初めて見た。
(<キングブラッドコブラ>の頭を切り離したからドロップ判定が発生したのかもな)
ただ、素材を集めれば生産職が作ることができる上、だいたい生産職が作った場合の方が性能がいいものになる傾向にあるのでそこまで重要視されていない。
そのためソロ志向であったり生産職に渡りをつけることができない時に狙うぐらいだが、全く人と関わりたくないようなプレイスタイルの場合ダンジョンがあるからなぁ。
「おお……」
オブジェクト化し取り出してみると、なんとも異様な気配を纏っていた。
<キングブラッドコブラ>の頭部がそのまま仮面になったような見た目である。
7つの瞳が取り付けられた鮮血色の仮面だ。
素材としてはさっきドロップしていた<鮮血王蛇の邪眼>7つと<上質な蛇皮>あたりだろうか。
あとは細かい鉱石類があれば作れそうである。
軽く嗅いでみるが生臭いといったこともなく、ちょうど頭装備が空いていたのでそのまま被ってみる。
『どうだ、似合うか?』
「……不審者感が一気に増したわね」
全身真っ黒コーデに鮮血色の仮面。
顔も完全に覆い尽くされているので表情も見えない。
うん、確かに不審者でしかないなこれ。
「よし、少し休憩したらこのまま<七竜の渓谷>に入るぞ」
「え、そのまま行くつもりなの?」
「うん」
《鮮血王蛇の覇気》の効果気になるし……
「ま、まぁ。人前に出ないのであれば……いいの、かしら?」
<血染めの森>は無事抜けたため【死の森】の予行演習は一旦終了。
これからはいつも通り色々確かめながらの探索にするとしよう。
目的地である竜人国は近い。
自然ドロップ装備とは……
特定条件の達成をすることで装備そのものがドロップする現象。
ただ、その条件が不明なためほとんど観測されてきていない。
一部の旅人の有志が条件を纏めようとしているが、討伐状況を再現したところであくまでもドロップ枠が発生するだけ。
そして、低確率なため実際に確証が得られるまでの確認に時間がかかり遅々として進まないのが現状。
ネイチャーを入手する頃には、既に該当の装備作成に必要な素材が集まっていることが大半である。
また、生産職が作成した装備の方が基本的に性能が高くなるため、やはりネイチャーを狙う必要性は薄い。
ダンジョンの階層ボスから直接装備がドロップする現象と類似しているが、理由は解明されていない。
鮮血王蛇の仮面 (ネイチャー)とは……
<キングブラッドコブラ>討伐において以下の条件を達成すると判定が発生し低確率でドロップする。
①<キングブラッドコブラ>のHPが80%以上で討伐
②頭部の損傷率5%未満
③重要部位【首】の部位破壊
鮮血王蛇の仮面の作成素材……
①鮮血王蛇の邪眼×7
②一定品質以上の蛇皮
③一定品質以上の鉱石類
装備スキル:《鮮血王蛇の覇気》 or 《熱源感知》+5 からランダム付与(生産で大成功すると両方の装備スキルが付与される)




