第13話 擬態花虫と鮮血擬態花虫
あけましておめでとうございます。
《気配遮断》を使用せず《気配感知》を潜り抜ける歩法を俺に見せたとある老紳士を思い出す。
見たのはクイーンズブレイド号で出会ったあの時の一回だけ。
だから、とにかく実践していく。
《気配感知》の判定は各種スキルや合計レベル、ステータスに加え行動補正によって決まる。
その対抗となる《気配遮断》を覚えるジョブは【暗殺者】や【大盗賊】のような隠密系の上級職に多く、それらは効果を底上げするパッシブスキルも持っている。
だが、装備スキルとしても割とメジャーなため純粋に戦闘能力を高めたい場合は装備で代用することも可能だ。
現に、今の俺は特殊装備枠として<隠密の外套>を纏うことで《気配遮断》を自身に付与している状態だ。
お値段は10万スピルとそこそこいい。
エルダリオンの朝市で旅人から購入したものだ。
時価にはなるが大体<リキッドガーディアン>10体分である。
(透明にはさすがにならんがな……)
アウローラで襲ってきた工作部隊の装備は充実していたなぁ。
身体を透明化し気配を消す装備。
中射程かつ高威力の斬撃を飛ばす武器。
強化外骨格という上位武装。
加えて、呪いの効きの悪さから考えるに呪い耐性を上げるような装備もしていたのだろう。
どれもこれもが一級品の性能だった。
(やっぱ装備だよな。装備こそ全てを解決する。そうは思わないか?)
(随分と余裕そうね……)
ユティナはどこか呆れたようにそう零す。
(気を張りすぎてても集中が持たないしな)
まだ森の中に入って30分も経っていないが、未だに接敵回数は0回だ。
ある程度緊張感を維持さえしておけば、適度に気を抜くぐらいがちょうどいいのもある。
(やっぱ視界が増えたのがでかいよなぁ)
(ふふん、もっと褒めてくれていいのよ?)
(助かってるよ。凄い凄い。っと……)
前方に不自然な場所があったので歩みを止める。
森の中にぽっかりとスペースがあり、空から降り注ぐ日光に照らされた小さな花畑があった。
小さいと言っても、数人の子供が遊べそうな公園程の大きさだ。
これまで真っ赤な植物ばかりであったため、色とりどりのそれはどこか不自然に映る。
(あら、綺麗ね)
(そうだな……)
俺は慎重に近づく。
この花一つ一つに何か危険な仕掛けがあるかもしれない。
(ん?)
そこに一匹の蝶がどこからともなく飛んできた。
<クリムゾンパピヨン>と表示されたそれは、これまでも何度か見てきたモンスターだ。
ステータス的には下級モンスター相当。
戦闘はしていないため直接的な能力はわからないが、この魔域の中ではかなり弱いモンスターだろう。
まるで導かれるかのように花畑の上を飛び……数十もの花弁が突如動き出し一斉に<クリムゾンパピヨン>に襲い掛かった。
「うーわ……」
「ひぇっ……」
どうやら嫌な予感は的中したようだ。
花だと思っていたものは実際にはモンスターだったらしい。
<ブルームバグ>と無数に表記されたそれは実におぞましい光景だった。
(不自然だと思ったんだよなぁ)
いきなり、森の中にぽっかりと空いた穴。
そこに咲き乱れるは美しい色とりどりの花たち。
そして周囲には伐採されたかのようなブラッドツリーの跡。
(周囲の木を喰らい、自分たちに都合のいい環境を創りだして花弁に擬態するモンスターねぇ)
ちょっと殺意高すぎませんかね。
しかも、姿を現すまで一切《気配感知》にも《鑑定眼》にも反応がなかった。
ステータス的には下級モンスター相当だが、無駄に数が多い。
毒や麻痺といった何らかの状態異常を付与するスキルも持っていそうだ。
<ブルームバグ>が喰らい尽くした結果、<クリムゾンパピヨン>はポリゴンとなって砕け散っていった。
目的を果たした虫たちは耳障りな羽音を響かせながら各々の待機場所へと戻る。
そして、再度周囲を静寂が満たした。
(……花畑には近寄らない方が良さそうね)
(……ああ)
☆
そう思っていた時期が俺達にもありました。
「……」
「……」
武器を通した視界に広がるのは数百メートル以上はある巨大な花畑だった。
森の中に突如出現した幻想的な景色。
だが、俺達はここが死地だと知っている。
先程とは比較にならないほどの殺意の塊がここにあるのだと。
(何百、いや。何千体いるんだこれ……)
グンタイアリという虫がいる。
数百万匹から数千万匹もの群れによるそれは時にはライオンすら食い尽くすそうだ。
そして、これはその比ではない。
蟻はせいぜい2センチや3センチ程度だが、この<ブルームバグ>は直径40cmほどなのだ。
俺はいつの間にかパニックホラー映画の世界に迷い込んでいたらしい。
数百体の虫にたかられて食い尽くされる経験がしてみたい旅人にはいいかもしれないな。
俺はごめんだが。
(これ、倒しきれないわよね……)
(いやぁ……割と行ける気はするけどやる気は全くと言っていいほどに起きないな)
一体一体のステータスは非常に低い。
それこそ、魔法を一回放てば数十体は余裕で消し飛ばせる自信がある。
奥義や大技を使えば殲滅もできるかもしれない。
だが、数千体の虫が一斉に飛び立って襲って来るとか普通に精神的に死ぬ。
しかも、こいつらの何がたちが悪いってそのステータスが非常に低いことだ。
(レベル上げ効率最悪だろ……)
レベル上げの観点から見て、個体ごとの強さがそこまででもないこいつらは倒しても恩恵が少ないのは間違いない。
<リキッドガーディアン>先生を見習ってほしい。
だが、それ以上に警戒すべき対象がここにはいた。
花畑の真ん中に鎮座する巨大な花。
そいつの頭上にはモンスター特有の表記が表示されていた。
(<ブラッディ・ブルームバグ>……ってことは進化個体だろうな)
魔域<血染めの森>の特異個体。
<プレデター・ホーネット>のように特有の環境に適応進化したモンスターだ。
その肉体は鮮やかな鮮血色。
ひしひしと感じる威圧感。
(<ブラッディベアー>といい、やばいのしかいないなこの森は……)
前評判通り、高難度の魔域がいかに危険な環境であるか実感するな。
既に<蛇蟷竜ペルーラ>相当のモンスターと2回も遭遇している。
相対的に弱いはずである<ブラッディマンティス>や<ブルームバグ>も場合によっては即死もあり得るわけで。
「触らぬ神に祟りなし。迂回するに限るな」
マップ機能のおかげで迷わないのが救いだな。
時間はかかってしまうが、少し遠回りをしていくことにしよう。
ブルームバグとは……
花に擬態する昆虫型のモンスター。
個体ごとの戦闘能力は低いが数十から数百の群れを成す。
一帯の木々を喰らい尽くし自らの身体を用いて花畑を創り獲物を待ち構える。
その擬態能力は非常に高く、並の《気配感知》や《鑑定眼》では存在を見破ることができない。
出血量を増加し出血の治癒能力も低下させる特殊な毒を持ち、その生態から危険指定種に任命されている。
STRは低いため耐性装備で固めENDを上げれば大きな群れであろうとも無傷で殲滅可能ではある、が倒しきるまで肉体に昆虫がひたすら集ってくることになるだろう……
推奨討伐合計レベル50(群体の場合200以上、盾職or魔法職推奨)
ブラッディ・ブルームバグとは……
血染めの森でのみ発生する<ブルームバグ>の進化個体であり、鮮やかな鮮血色の身体を持つ。
この魔域でしか生息しないため発生条件含めエリアボスモンスターに相当する。
しかし、この魔域の中には同格のモンスターが複数体存在するため魔域の主には該当しない。
擬態スキルを失った代わりに獰猛な気性と高い戦闘能力を有している。
また<マザーウッド>と同様の統率種に該当しており、<ブラッディ・ブルームバグ>がいると群れの規模が数千~数万体に膨れ上がり危険度もそれに応じて上昇する。
推奨討伐合計レベル300以上。(群体の場合400以上、レイド、魔法職推奨)




