第11話 血染めの森
早めに調整終わったので更新です。
12月30日は10:00頃更新します。
ユティナが到達階位Ⅲに至った後、所要を終わらせ再度深夜帯にログインしなおした。
<Eternal Chain>の現在の時刻は午前8時。
俺はユティナと共に【イデアル・マジック】のクランホームの前で待ち続ける。
ここら周辺には基本的に人が近づかない。
比較的街の外れにあることに加えて、どこの誰かは知らないが指名手配されている危険な集団がクランホームを構えているらしい。
なんとも恐ろしい話だ。
だから、こんなところに近づいてくる人影などほとんど存在しないわけで。
「クロウ……?」
少女はいつも通りピンクブロンドの長髪を後ろに流し、一部は花の形をした髪留めで止めサイドテールにまとめていた。
勝ち気な目は朝だからか普段と変わって少し眠そうで……
「おはよう、エリシア。俺たちと一緒にちょっと朝の散歩に行かないか?」
「……はい?」
俺はこれからのことを話すためにエリシアへ声をかけたのだった。
☆
「前言っていた依頼の件ですね」
エリシアは頷きながら小さく声をこぼす。
ゼシエから話が来た時、エリシアには将来的に商業連盟に向かうかもしれないことは伝えてあった。
長期の依頼である可能性があることも。
そして、その間も変わらずエルダリオンで訓練に集中して貰うということもだ。
「ああ、長くても1ヶ月以内には戻ってくる予定だ」
転移門や魔導船を駆使すればそう長引くことは無いだろう。
「何か気になることとかあるか?」
「そうですね……ユティナの装いが少々変わっていること、でしょうか?」
エリシアの視線はユティナの方へと向く。
そう、ユティナは到達階位Ⅲに至ったことでさらなる変化を遂げたのだ。
「私、進化したのよ。似合ってるかしら?」
くるりとユティナはその場でターンを踏み見せつけるように一回転した。
全体的に意匠が豪華になったのだが、一番目立つ銀髪を邪魔しないような上品さも維持している。
細かいところだと角の根元に装飾が加わり、角と髪が少し伸びたりもしていた。
見比べれば気づける、しかし普段から見ていなければ気づけない変化だ。
「はい、似合っています」
それを見て、小さくエリシアは微笑んだ。
(随分と変わったなぁ……)
最初の頃など睨むのがデフォルトだったのに棘が抜けたというか。
それどころか一緒に冒険をすることになるとは……
「クロウ」
「ん、どうした。他にあったか?」
「いえ……」
振り返ればエリシアは足を止めていた。
何かを言い淀んでいるようで何度か口を開いては閉じるのを繰り返し……
「帰ってきますよね」
どこか不安そうに聞いてきた。
「……」
「……クロウ?」
「あ、悪い!」
エリシアの眉が下がったのを見て慌てて情報を処理する。
帰ってくるのかどうか、か。
「……いや、当たり前だろ」
当たり前すぎて情報をうまく処理できなかった。
当然ゼシエに依頼の報告はしなきゃいけないだろうし、それに……
「エリシアを置いて勝手に旅に行くはずがないだろ? 仲間なんだから。なあ?」
「ええ、当然ね」
ユティナに聞けば、肯定の返事が返ってくる。
「もしクロウがエリシアを置いていこうとしたら、ひっぱ叩いてでも連れて来るから安心して頂戴」
「おい、どういう意味だよ」
「あら、言葉通りの意味に決まってるじゃない?」
ユティナを軽く睨むと、きゃーと小さく悲鳴を上げながらエリシアの方へと逃げ出し背中に隠れた。
そのまま肩に手を置き、エリシアの顔を覗きこむ。
「ね、安心でしょ?」
「……ええ、そうですね。安心しました」
エリシアはゆっくりと歩き出した。
ユティナはそれを追い越し、俺の方へ向かってきたので先ほどの仕返しもかねて軽く頭を小突く。
そんなことをしている間に、俺はエリシアと正面から向かい合う形になった。
そのまま彼女は自信に満ちた表情で口を開く。
「クロウが戻ってくるまでに、彼らから勝ちを取れるぐらいに強くなってみせます」
それは決意表明。
あの魔法バカ共に土をつけるという宣言だ。
「誰に勝ったか教えてくれよ? 楽しみにしてるからさ」
そうして、俺達は旅の仲間へしばらくの別れを告げたのだった。
………………………………
………………
…………
☆
その後は滞りなく物事は進んだ。
魔術師ギルドへ向かい10分ほど待てば呼び出され、ギルド職員同伴の元転移門を潜る。
基本、長距離の転移門を起動する時はギルド職員が同席する必要があるらしい。
転移門を通して首都と直結する仕様上、ある程度厳格に取り扱う必要があるとのこと。
敵性戦力が使用する可能性もある以上警戒してしかるべきだろう。
だからこそ、魔導王国エルダンの国内の移動は文字通り一瞬で終わってしまった。
☆
国境沿いの街の北門を抜け北東の街道へ向かう。
街から暫く離れたら四肢に装着した呪物を指定し《呪物操作》を発動。
加減をすることなく全速力で魔力の許す限り空を飛び続ける。
風が肌を押し返す感覚に身をゆだね、数多の情報を処理し、地上のモンスターを無視し続けること30分。
街道は途切れ、雑多な岩が転がり人の手が入っていない場所に着いた。
昼休憩を挟み、魔力回復薬などでMPを回復をした後は同じことの繰り返しだ。
モンスターに襲われる商隊もなければ、行き倒れた人物がいるわけでもない。
もう既にここら周辺は人の住む地ではなくなったということだ。
☆
故に、何の問題もなく旅立った当日に俺は目的地に着くことができた。
「あれか……」
時刻はちょうど昼を過ぎた頃、夕方には差し掛からない程度。
街道がなくなり、名もなき魔域を進んできた俺達の前にそれは現れた。
突如立ち塞がったのは巨大な壁だ。
否、それは高さ50メートルをゆうに超える巨木だった。
それが1つではなく、無数に生え広がっている。
不自然な程に真っ赤な色はその魔域がどれだけ危険かを侵入者達に警告するかのようだ。
魔導王国エルダンから竜人国ヴァルドラーテへの間にそびえたつ天然の要塞。
かの国を難攻不落たらしめる要因そのもの。
「<血染めの森>」
それこそが、探索推奨合計レベル400を超える魔境の名であった。
血染めの森とは……
竜人国は魔導王国エルダン、ノースタリア、商業連盟アーレ、カラブ帝国と地政学的には隣接しており花の国アウローラと似たような立ち位置にある。
しかしながら、花の国とは異なり四方八方を広大かつ高難易度の魔域に完全に囲まれているため孤立した環境になっている。
血染めの森はその中のルートの一つであり、魔導王国エルダンから竜人国ヴァルドラーテに向かう際の直線上に存在するため必ず抜ける必要がある。
50メートル相当の樹木で形成された直径数十キロを超える広大な森であり、人類到達区域における世界最高難易度の一つ。
探索推奨合計レベル400以上。
補足:
ヴァルドラーテに行くには血染めの森に加えてさらにもう一つ最高難易度の魔域を必ず抜ける必要がある。
魔導王国エルダン国境→街道や名もなき魔域→血染めの森→???→ヴァルドラーテ




