第10話 【天秤の魔嬢】
<アルカナ>。
それは旅人にとって唯一無二の相棒であり、無限の可能性を秘めた存在だ。
その姿は千差万別であり、旅人は彼らと共に冒険し、思い出を積み重ね、成長していく。
旅人の数だけ<アルカナ>は存在し、<アルカナ>の数だけ物語が存在している。
最終的に魔王と呼ばれる存在に至るには5回進化を重ねる必要があり、そのために<アルカナ>は全ての経験を己の糧にするのだ。
さて、ここで1つ俺の相棒について話そう。
【天秤の悪魔】ユティナ。
天秤を司る<アルカナ>。
時に能力を反転し、時にステータスの均衡をもたらす存在。
「やった! 私の勝ちよ!」
「くそおおおお! 最後の最後でサイコロの出目が悪すぎたか!?」
「無念也……」
そんな彼女が今、喜びの声を上げている。
【イデアル・マジック】のクランホームで始まった戦いに勝利したからだ。
レトゥスは手元にあるステータスカードを宙に放り投げ、呉羽は膝を突き崩れ落ちる。
途中参戦した俺も奮戦むなしく最下位という結果に終わってしまった。
だが、俺は今それどころではなかった。
なぜかって?
それは俺の視界の端に表示されたものを見ればわかることだろう。
─システムメッセージ─
条件を達成しました。
<アルカナ>の進化が可能です。
種族名:【天秤の悪魔】ユティナ
マスター:クロウ・ホーク
TYPE:サポーター
レベル:50/50
HP:666/666
MP:3120/4230
SP:1525/1525
STR:355
END:345
AGI:600
INT:2270
DEX:345
CRT:345
所持スキル:《スキル拡張》、《念話》、《闇魔法》、《反転する天秤》Lv3、《限定憑依》Lv2、《拮抗する天秤》
ボードゲームに勝利したことでカンストし進化条件を満たした<アルカナ>は、後にも先にも俺たちが初めてではなかろうか。
☆
□魔導都市エルダリオン 郊外 クロウ・ホーク
「うーむ」
日は落ち、既に周囲は暗くなっている。
魔法学園クロニクルが終わる頃にはアルカやマリアはログアウトしており、ねここやパンプキンも戻る気配がなかったので【イデアル・マジック】から場所を移した形だ。
俺は夜の中、エルダリオンの郊外でメニューを開きその情報と睨めっこをしていた。
進化候補
【天秤の妖魔】ユティナ:純正進化
【天秤の魔嬢】ユティナ:適応進化
到達階位Ⅲになることで、どうやら名称の変更が行われるらしい。
進化先として提示されたのは純正進化と適応進化の2つ。
純正進化は純粋に現在の方向性で進化するパターンであり、多くの<アルカナ>で提示される進化方法だ。
俺たちも到達階位Ⅱになる時に提示されたことがある。
純粋に出力が上がるので戦い方を大きく変える必要もないのが特徴だ。
(お、拡張スキル枠が増えてる)
拡張スキルとは、言ってしまえば<アルカナ>との合体スキルだ。
ドウゴクが使用していた《残影飛斬》やフウラが使用していた《グリフィンアロー》がこれに該当する。
特定の条件を満たしたり、装備と組み合わせることで開発できるそれは通常のスキルよりも高い倍率を出すことができるらしい。
スキルの拡張枠は2つ。
純正進化を選べば、ユティナとの合体スキルを最大2つまで開発できるようになるそうだ。
だが、問題はもう一つの適応進化の方だった。
種族名:【天秤の魔嬢】ユティナ 階位:Ⅲ
マスター:クロウ・ホーク
TYPE:エクステンド・サポーター
レベル:1/100
HP:666/666
MP:7000/7000
SP:2500/2500
STR:500
END:450
AGI:650
INT:4000
DEX:500
CRT:500
所持スキル:《念話》、《天秤憑依》Lv1、《魂の分割》、《悪魂の瞳》、《反転する天秤》Lv4、《拮抗する天秤》
適応進化として表示されたそれは純正進化よりもステータスの成長の幅が若干大きい上、スキルが一新されていた。
《限定憑依》と《闇魔法》と《スキル拡張》が消え、代わりに《天秤憑依》、《魂の分割》、《悪魂の瞳》という新しいスキルが増えている。
「エクステンド・サポーター?」
エクステンドは確か、拡張するとか伸ばすって意味だっけか?
とりあえず、《限定憑依》が変化したであろう《天秤憑依》というスキルの詳細を見てみる。
《天秤憑依》Lv1:アクティブスキル
マスター、もしくはマスターが所有権を有する任意の武具・防具に憑依する。
マスターに憑依時HPを除く全てのステータスを加算し、闇・呪い耐性上昇。
マスターに憑依時に発動する魔法威力に中補正。
武具・防具に憑依時すべての装備補正を1.5倍。
武具・防具に憑依時、闇属性を付与。
※任意のタイミングで《天秤憑依》は解除することができる。
※マスターに《天秤憑依》時、マスターが聖属性・光属性と接触すると強制解除される。強制解除された場合一定期間の間、《天秤憑依》を発動することができない。
※武具に《天秤憑依》時、聖属性・光属性と接触すると強制解除される。強制解除された場合一定期間の間、《天秤憑依》を発動することができない。
クールタイム:0秒
「これは……」
《限定憑依》と《闇魔法》の統合スキルか。
進化することでスキルの統合が行われることがあるというが、これはその1つということらしい。
代わりに、デメリット条件がさらに厳しくなっているが……
(ステータスの成長率が大きいのはこのスキルに統合されたからか)
ユティナが持っていた【闇魔法】は憑依状態解除時にも使えるスキルだ。
また、純正進化であれば拡張スキル枠を用いて闇魔法を絡めたスキルの開発が行えたのだろう。
自衛手段だったそれを完全に失うことにより、ステータスの成長率が大きくなったということらしい。
だが、適応進化はそれだけではない。
《魂の分割》:アクティブスキル
自身の魂を分割し分け与える。
分割するほどに主魂のステータスは減少する。
武具・防具が対象の場合《天秤憑依》状態になる。
分け与えた魂が大きいほど補正が上昇する。
※最大66分割まで可能
※分け与えた魂が強制解徐された場合一定期間の間、主魂の再生は行われない。
《悪魂の瞳》:パッシブスキル
マスターに魂を通して視界を共有する。
《魂の分割》に《悪魂の瞳》という新たなスキル。
読み解けるだけの情報を整理するのであれば……
(《天秤憑依》の無制限化と、それを通した視界拡張スキルか)
《魂の分割》を使用すると、ユティナが俺に憑依しながら他の装備にまで《天秤憑依》の補正を乗せることができるようになるらしい。
《天秤憑依》は武器と防具が対象の場合、装備補正を上昇させ闇属性を付与することが可能なスキル。
加えて、《魂の分割》で魂を分け与えた武器を通して視界も確保できるわけだ。
つまり、攻撃性能と索敵性能が飛躍的に上昇することを意味している。
(到達階位Ⅲに至った<アルカナ>の強さの次元は1つ変わると言われていたが、これほどまでか)
そりゃ、ドウゴクが強かったわけだ。
当時の合計レベル200の時点で上級モンスターである<蛇蟷竜ペルーラ>にダメージを通せたのも頷ける。
「……? どうしたの」
ユティナの方を見ると、街道沿いに転がっていた小さな岩に座り空の星々を見上げていた。
俺の視線に気づいたのか、こてんと首をかしげる。
「いや、随分と贅沢な選択肢だと思ってな」
「ふふ、それはよかったわ。ご満足いただけたかしら?」
その表情はどこか誇らしげだった。
どちらを選んでも今より強くなれることだろう。
それだけの強さがあると既に確信できる。
だが、これを見た時点で俺の答えは決まっていた。
「いいのか?」
「構わないわ。私はクロウの<アルカナ>だもの。それに、憑依しながらなら私でも魔法を使えるものね」
「そうか」
メタ的に考察するならば、適応進化とは最適化された進化ということだ。
最適化とは必要なものを増やし不要なものを排除するということ。
つまり、ユティナは自らの自衛手段を完全に放棄する代わりに俺の戦闘能力の拡張性に経験値を費やしたということらしい。
(しまらねえなぁ……)
ピンチでもなければ、劇的な展開に遭遇したわけでもない。
花の国の時のように勝たなければならない状況でもなければ、ボードゲームで勝利した経験でカンストし進化条件を満たすとか聞いたこともない。
だが、それでいいのだろう。
進化とは結局のところ、それまでの全ての積み重ねだ。
経験を積み重ねたその先に開かれる道なのだ。
だから、これもまた一つの物語の通過点であり。
「──《神秘開放》」
俺は望んだままに、望まれたままに、進化を願うスキルを唱える。
その声は誰に届くわけもなく、夜空に溶けて消えていった。
【天秤の魔嬢】ユティナとは……
主人に最適化した結果、スキルの統廃合が行われており、自衛手段の放棄を行うことによりステータスの成長率とスキルの拡張性を広げるに至る。
到達階位Ⅲの<アルカナ>の中だとステータスと戦術の拡張性に優れている。
代わりに憑依の強制解除条件が「聖属性・光属性との接触」と重くなっており、聖属性の回復スキルや光属性の回復スキルなども対象になった。
つまり、該当属性の回復魔法を受けるだけで強制解除されるため、一時的に解除する、他の武器に憑依対象をずらすなどの回避策が必要。
パーティを組む場合、連携ミスに注意する必要がある。
補足:
憑依・寄生系のアルカナには弱点属性が存在すると既に旅人の間では広く周知されているらしい。




