第9話 ねここの受難
明日も17:00頃更新します。
ちょうどアルカと話したいことがあったので、俺の代わりにねここが入りユティナ、レトゥス、呉羽の4人でそのゲームは始まった。
「にゃーはっはっは! 唸れにゃーの右手!」
ねここは黒猫の姿のまま勢いよく振りかぶり器用にサイコロを転がす。
ちなみに、特に掛け声に意味はない。
「魔法学の授業にゃ! サイコロを振って大きな数字になるほど魔法能力向上! ……いち!?」
「私の番ね……実技演習で好成績を収める。魔法能力+2、成績+3。まぁまぁかしら?」
「ズルいにゃー!?」
その場に崩れ落ちるねここを横目にユティナもサイコロを転がし止まったマスを読み上げる。
今は魔法学園編の時間であり、参加者はサイコロを転がし出来る限りステータスを向上させ成績を上げ卒業に備えることになる。
魔法学園クロニクルという名前の通り、魔法能力というステータスが重要らしい。
他にも魔法工学やサバイバルスキルといくつか対応するステータスがあるのだが、最終的に成績が高い順に己の進路を選択できる。
つまり、好成績を収めることで育成したステータスに適した就職先を優先的に選ぶことができるのだ。
そんな彼らと少し離れたところで俺はアルカと向かい合い座っていた。
「ねここさん、だっけ? 知り合いなの?」
「ああ、フレンドの1人だな」
そう答えれば、アルカはどこかじとりとした目になる。
「ふーん……マリア、どう思う?」
「節操無しですね。不潔です」
「そういうんじゃねえよ!? 人聞きの悪いことを言うな!」
「どうだかー」
どこか投げやりにアルカは声を零す。
だが、その視線はねここに固定されたままだ。
「……どう見えた?」
アルカの持つ共感覚。
魔力の色を捉えるそれは、この世界のどんな感知スキルよりも信頼できるものだ。
「そうだね……前に言ったっけ? この世界だとジョブごとに魔力の色が割り振られてて、複数の魔法職についてるとそれが溶けあったり混じったような感じの色になるの」
対応のジョブに就くことで魔力の性質が変化する世界。
「だから、ねここさんが本来レトゥスと同じ色になるのなら、同じジョブに就いた上で全く同じ魔力制御をしていないとならないはずなんだよね」
それが、この世界の共通のルールだ。
「でも、さっき見た時はレトゥスと全く同じ色だった。制御の癖も、その流れさえも。あれは、私でも一目で見破るのは無理かな?」
それが指し示した事実はなんとも奇怪なものだった。
俺が知る限り、アルカの眼を誤魔化すことができる魔法使いは存在しない。
つまり、ねここのあれはこの世界の法則から逸脱しているということに他ならない。
ただ、ステータスが変化しているわけでもなければ魔力操作による魔法行使ができるわけでもないので、魔法を放てば一発で偽物だとバレるわけだが。
「随分と面白い人がいるんだね。魔法に興味なさそうなのが残念だなー」
そればかりは人それぞれなのでしょうがない。
「話したいことって、今のこと?」
「いや」
興味があったので確認したかったのは事実だが、本題は違う。
「ちょっとゼシエから依頼を受けてな。しばらく商業連盟の方に行くことになったんだ」
そうなると、1つやり残したことがある。
いや、返していないものか。
「確か模擬戦がしたかったんだよな? ちょうどいいし、この後どうだ?」
アルカだけに限った話ではないが、クランリーダーである彼女に色々便宜を図って貰ったのは事実。
レトゥス曰く、模擬戦を所望していたらしいので俺で良ければ相手になろうと思ったのだ。
「うーん、今はいいかなー?」
しかし、予想に反しアルカから帰ってきた言葉はなんともそっけないものだった。
「ん、そうか?」
「うん、私最近レベル上げ出来てなかったからさ。結構開いてるでしょ? クロウは今……」
「298だな」
「私は267だからちょっと低いんだよね。最近リアルも忙しいし……」
確かに、ゴールデンウイークに入ったとはいえ今は新学期が始まってようやく落ち着いてきた時期だ。
暇さえあればリモート講義の隙間にログインしているような俺と違い、色々と忙しいのだろう。
「どうせならイーブンの状態でやりたいし、それに装備とかジョブとか育成しきってからの方が面白いかなって。だから、また今度やろ?」
合計レベルを400まで上げ切って装備とかもある程度揃えてからってことだな。
アルカがそれを望むのであれば、合わせる方が良いだろう。
「そういうことなら……」
「ぎにゃあああああああああああああ! 黒烏ううう! 助けてくれえええ!」
「ん?」
「へ?」
ものすごい悲鳴が聞こえてきたので何事かと思い視線を飛ばす。
「助けを呼んでも無駄でいやがります。諦めて、私の使い魔に成りやがりなさい」
そこには、パンプキンによって壁際に追い詰められたねここがいた。
いやいやと首を振り、どこか涙目だ。
どうしてこうなった。
(……ユティナ、一体なにがどうなったんだ?)
一部始終を見逃がしたので、ユティナに確認してみる。
(さっき、パンプキンがログインしてきたのだけれど……ねここのことを見たらこうなったわ)
(なるほど)
わからん。
「断るにゃ! にゃーは自由を謳歌するねここ様だにゃ! どこの馬の骨だか知らないやつの使い魔になる気はさらさらないにゃ!」
ねここは勇気を振り絞り思いっきり啖呵を切る。
しかし、相手が悪かった。
それで引くようであればそもそもこうはなっていないのだから。
「良い啖呵でいやがりますね、もっと気に入りやがりました」
ふわりとパンプキンの身体から魔力が立ち上る。
それも、生半可なものではない。
……本気だ。
街の中なのに、大結界の宝珠の範囲内にいるのに、本気でねここのことを無力化しようとしていやがる。
「ぎにゃ!? おみゃーやばやばにゃ!? 己の我を通すためならどんな相手でも爆殺するような気配を感じるにゃ!? ここにいるやばやばの中でもとびぬけてるにゃ! バケモノだにゃ!?」
「大同小異」
「パンプキンに常識を求める方が悪い」
「えっ、えっ! 止めなくていいのかしら!?」
ねここが抜けたことで魔法学園クロニクルは一時的に中断されていた。
しかし、混乱するユティナを横に呉羽とレトゥスは諦めムードだ。
「断る権利はねえです。私の使い魔になるのは確定事項でいやがります」
「あっ……」
瞬間、ねここは何かを悟ったかのような表情になり……
「さ、三十六計逃げるにしかず!」
俊敏な肉体を活かし、一瞬の隙をついて逃げ出した。
「なっ!? 逃がさねえです!」
勢いよく外へと飛び出したねここを、箒に飛び乗ったパンプキンが追いかけていった。
パンプキンの意識の隙間を突いたのか。
無駄に凄いことをしたなあいつ。
「おーい、クロウ。代わりに入れよ。続きからでもいいだろ? ユティナも呉羽も異論ねえよな」
「うむ。委細、問題なし」
「え、ええ。大丈夫よ」
「あー、わかった」
「よし来た!」
イレギュラーがあったとはいえ、ねここがゲームを途中でほっぽりだしたことには変わりない。
ならば代わりに俺が引き継ぐのが道理だろう。
用事も済んだので、ねここが先ほどまでいた席に付く。
プレイヤーの変更登録を行い、手元にあるカードとステータスポイントを整理。
ねここが学園編で積み上げてきたそれを見る。
(ん?)
そこには、周りと見比べると明らかに低いステータスポイントと成績値が……
「え、あいつ運悪すぎじゃ」
「よっしゃー! このまま続きからな!」
「いや、ちょ。卒業まであと5ターンしかなくね? ここから逆転とか不可能じゃ……」
「反論は受け付けませんー!」
こ、こいつ!
俺の不利を理解した上で誘いやがったな!?
「おいおい、クロウさんよぉ。まさか、男に二言があるわけねえよなああああああああああ!」
「ああ、いいぜやってやるよ……」
俺はそのままサイコロを手に取り。
「ここからでも、お前ら全員ぶち抜いてやらあ!」
悪魔のような策略を仕掛けてきた男をぶちのめす決意と共に勢いよく転がした。
……ちなみに、掛け声にはやはり意味はなかったとだけ言っておこう。
☆
□???
「よかったのですか? 楽しみにされてましたよね」
マリアは横に座っている少女に問いかける。
「うん。その方がいいかなって……」
しかし、その反応は実に小さなものだった。
青年との戦いを所望していたにしてはあまりにも淡泊な反応だといえよう。
だが、そこにはちゃんと意義があり、意味があり、道理がある。
「だって、今魔法で戦ったら絶対私が勝っちゃうし」
マリアは異論の声を上げることはない。
それは単なる事実だったから。
横に座っている少女は今もなお、自分たちが束になってもかなわない存在だからだ。
「だから、待つことにしたんだ。レベルをカンストさせて、装備を揃えてさ。その上で、なんでもありのルールで戦いたいよね~」
少女はこの世界のルールを理解する。
あまり触れたことのないMMOというジャンル。
レベルを上げ、装備を揃え、多くのスキルを駆使し戦える世界。
<アルカナ>などという要素まで加えると、その可能性は無限に等しい。
つまり、魔法はあくまでもその中にある1つの手段であった。
それでいい。
「──だって、クロウは私達と違うから」
少女は待っている。
この世界で自らと対等に競い合える存在を。
少女は知っている。
仲間達が少しずつ新たな刺激を受け独自の戦術論を生み出し始めていることを。
魔法だけで競い合ったとき少女は最強だった。
それは、どうしようもない現実だ。
だからこそ少女は願うのだ。
心躍る遊戯を。
遊びを。
闘争を。
なぜなら、少女は魔に狂った者達の中で唯一の特別。
人外【魔法狂い】なのだから──




