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第6話 魔法学園クロニクル

「それで、今はどこに向かってるにゃ~」


 頭の上に乗っかった黒猫……ねここがだらりと崩れながらそう言った。

 店を出た後すぐにいつもの姿に戻り頭の上に登ってきたのだ。


「自分で歩けよ」


「はー。こんな可愛いねここ様になんの不満があるにゃ」


 不満しかないわ。


「そうよクロウ。ねここ、こっちが空いてるわよ? いらっしゃい?」


「んー……んにゃ!」


「うおっ!?」


 こいつ、俺のことを足蹴にしやがったな!

 ユティナの肩へと飛び移ったねここはゴロゴロと喉を鳴らしながら吸い込まれるように腕の中へと納まった。

 そのまま優しく包み込まれ撫でられ始める。


「ふっふっふー! ユティナはやっぱわかってるにゃー。はー、極楽極楽……」


 ねここはご満悦そうに言葉を零す。

 だが、俺からすれば油断もいいところだ。

 ああ、全くもって慢心としか言えないだろう。


「……」


「あ、あれ。ユティナ? ちょっと苦しいんだけど」


 ユティナは淡々と復讐の機会を伺っていたというのに。


「ぐえ!? にゃ!? にゃにをする!?」


「もう逃がさないわ……ふふふ。さっきはよくも揶揄ってくれたわね」


「ひぇっ」


 ユティナは撫でる手は止めずにねここを力強く抱きしめ始める。

 その眼はどこか据わっていた。


「黒烏!? た、助けろ!」


「自業自得だ」


 後、俺は黒烏なんてプレイヤーネームじゃないんで。

 クロウ・ホークさんに改めて助けを求めてください。


「残念だったわね。さぁ、ねここ──覚悟はできているかしら?」


「にゃ、にゃああああああ……」



「ぐすん、ぐすん……もうお嫁に行けない」


 黒猫はしくしくと涙を流す。

 ねここはユティナの仕返しに抵抗むなしく蹂躙されたのだ。


「体の隅々まで、吸われちゃった……」


 猫吸いっていうんだっけか?

 前りんご飴に教わっていたのを見たことがあるが、それを実践したのだろう。


「次もやったら、もっと凄いことをするわ」


「これよりもっと!?」


「ええ。普段は自重しているのだけど、ねここ相手なら加減する必要がないものね」


「ひゃーっ!?」


 言葉とは裏腹にねここの眼は若干の好奇心が見える。

 なんだかんだ楽しんでいるようだ。


(俺がやったら通報もんだな……)


 自称花の女子高生を名乗るヤバい奴だと思っていたのは過去の話。

 俺が受験生だってことも、ロボトミーが大学生だってことも、ねここが自称じゃないことも全部店長にバラされたんだよなぁ。

 結果、俺達は互いのリアルの年齢を知ることになったのだ。

 同僚の年齢を知ること自体は別におかしな話ではないのだが、店長はほんとにさぁ……

 そう、今は見た目こそ黒猫だが実態(リアル)は2歳年下の高校生である。

 こんなのでも。


「ん、黒烏ぅ。なんか今、失礼なことを考えたにゃ?」


 おっと。


「いや、全く?」


 とんでもございません。

 そんなことを話している間に……


「着いたぞ」


「んにゃ? ここは?」


「エリシアのことを見たんじゃなかったのか?」


「何日かギルドを張って物陰からステータスを覗き込んだだけだし~」


「暇人かよ……」


 どうやらエリシアを待ち伏せしステータス情報だけ抜き取ったようだ。

 俺があの時通らなかったらどうするつもりだったんだ?


「ここは、今色々と世話になってる場所だよ」


 すると、クランホームの扉が開いた。


「人のクランの前で何を騒いで……っと、クロウでしたか」


 中から出てきたのは藍色の長髪をポニーテールに纏めた長身の女性だ。

 青縁の眼鏡をかけ、髪色に合わせたローブを身に纏っている。


(そういえば今日はマリアの日だったか……)


 マリアという魔法使いが存在する。

 彼女は<グランドマジックオンライン>の初期ユーザーの一人だ。

 面倒見がいいため普段はアルカのお世話係のような立ち位置にいることが多いが、魔法の技量においては最上位層の一角である。

 レトゥスが造形系の魔法運用ではずば抜けているように、彼女は魔力の圧縮技術という分野だけに限れば俺達の中でも随一だ。

 何を隠そう、対象を殺すことに特化すべく生み出された魔法。

 魔力を圧縮し高速射出する魔力運用の考案者が彼女だった。


「エリシアさんでしたらもう宿に帰られましたよ。だいぶお疲れのようでしたので」


「勝敗は?」


「私の勝ちです。いつも通り、魔力切れですね」


 この数週間で模擬戦でのエリシアの黒星は30を超えた。

 なんとか食らいつけるようにはなっているのだが、依然として先に魔力が枯渇し負け判定になってしまう。


「そうか、それじゃまた明日来るかね」


「あ、待ってください。ゼシエ様から伝言があります」


 ゼシエから?


「『前言った依頼について』と言えばわかるそうですが……心当たりは?」


 となると、商業連盟へ手紙を届けてほしいと言っていたやつか。


「ああ、わかった。伝言ありがとう」


「どういたしまして」


 なら、このまま転移門を借りて魔導宮に行くとしよう。

 少し前に<リキッドガーディアン>先生は卒業し、25階層の<カロ二クス>という巨大な蟹で連戦をするようになったのだが、その甲斐もあってダンジョンでため込んだ魔石は相当なものになっている。

 転移門使用分ぐらいの魔石ならアイテムボックスにあるのだ。

 全て換金すれば百万には届かずとも数十万スピルは余裕で超えるだろう。


「ってことで、ねここはどうする?」


「……」


「おい、どうしたんだ。ぼーっとして。大丈夫か?」


 ねここはマリアのことを見ながらぼーっとしていた。

 再度声をかければようやく気付いたようで俺のことを見て来る。


「んにゃ? ……気にしないで。呼び出されたんでしょ? アタシのことはいいからさ。用があったらメッセージで連絡入れるしぃ」


「喋る猫……? そちらの方は」


 マリアはどこか不思議そうに聞いてくる。


「ふふん! みゃーの名前はねここだにゃ! クロウのまぶたちってやつにゃ! お姉さん、ちょっとお時間いただいてもいいかにゃー?」


「は、はぁ。構いませんが……」

 

 なにやら話し始めたので、ねこことマリアを置いてギルドの中に入る。


(どうしたのかしらね)


(さぁ。ま、気にしないでいいらしいし……)


「お、クロウじゃねえか。お前もこれ終わったらやるか?」


「あん?」


 声をかけられたので見るとレトゥスにヘリオー、呉羽に司会と見慣れたメンツがいた。

 彼らは机を囲んでいたので近づいてみる。


「なんだそれ」


「魔法学園クロニクル」


 ボードの上をぴょこぴょこと動き回る小さな人影たち。

 ちょうど手番だったのかヘリオーがサイコロを振り、出たマスの分だけ小人が進んでいく。

 そして、止まると同時に小人がぶるぶると震えだした。


「魔道具開発のため設備に多額の投資をしたものの失敗。100万スピルの負債を抱えることに……って」


 ヘリオーが読み上げ終わると同時に小人の装いが突然貧相なものになった。


「はああああああああ! 糞かよ! 僕の所持金全部飛んだんだけどー!?」


「ぶわっはっは! おいおい、エリート街道まっしぐらだったヘリオーさんよぉ! その借金は一体どうなされたんですかあッ!」


「一蹶不振也。惨めであるな。元エリート(笑)」


『な、なんていうことだあああ! 先程「僕はお前達とは生きるステージが違うんだよねー」と言っていたのはこういうことだったのかああああ!』


 ヘリオーのことを一斉に煽り始める男達。

 これに関してはいつものことなので無視でいいな。


(幻影を描写するスキルを利用した魔道具か……)


 旅人の増加に伴い、こういった娯楽方面の魔道具が最近増加傾向にあるらしいがこれもその一つなのだろう。

 ボードゲームを通して魔導王国エルダンという国の制度を簡単に学べるということらしい。

 ちらりと近くの机を見れば色々同じような娯楽用の魔道具らしきものが積み上げてあった。

 これ、全部そうなのかよ……


「うるさいうるさいー! 舐めるなよ。僕にはまだ魔法学園首席卒業カードと魔法師団入隊推薦書カードがある! これさえあれば魔導師団に入って」


「おいおい、忘れたのか? もう入隊可能時期は過ぎてるぜ。カードの切り所を間違えたな」


「そ、それならギルドに入って討伐任務を受けてから一発逆転する。この2つのカードがあれば最初から青銅級に……あっ」


 ヘリオーは何かに気づいたかのようにレトゥスの方を見る。


「気づいたか。美味しい討伐クエストはぜーんぶ俺が消化済みだ。青銅級で受けれるような依頼を残しておくわけがないだろ」


 レトゥスは勝利を確信した笑みを浮かべていた。


「なんだっけか? 冒険者とかいう住所不定の日雇い労働者よりも、安定して稼げる研究職の方がいいんだっけ? 冬、越せるといいなぁ……」


「くっそおおああああああああ!」


「次は某の番か。さて……モンスターの討伐で功績を残し魔法師団で出世。賃金増加。今後は一マスごとに1万スピル、と。ふっ、磐石の布陣であるな」


『盛り上がってきたぜええええええええええ!』


「はー! ずるー! ふこーへーだあ!」


 凄い盛り上がってるなぁ……


「あー、用事があるから後でにするよ」


「ん、そうか? ま、しばらくはここに置いておくらしいから好きなように使っていいぞ。予備もたくさんあるから、なんなら持って行っていいってさ。その代わり、近々売りに出される予定だから宣伝よろしくだとよ」


 見ていると小人がモンスターと戦い始める。

 そして、勝利と同時にポーズを取り、小人の傍にはお金が入ったであろう袋が置かれていた。

 どうやら止まったマスに応じて立体的な幻影がその内容を再現してくれるらしい。


(……普通に面白そうだな)


(そうね)


 うん、さっさと用事を終わらせてこよ。

魔法学園クロニクルとは……

旅人の増加に伴い開発された魔道具型ボードゲームの一種。

これをプレイすれば魔導王国エルダンの魔法学園の入学から卒業、そしてその後の進路選択の簡単なシミュレーションができる、らしい。

元々旅人への国内施策の普及のために作られた説明用の魔道具があったのだが、それではつまらないと旅人の意見を一部取り入れた結果、娯楽方面に振り切る形になった。

止まったマスに応じて幻影の小人達が連動して動いてくれるので視覚的にも楽しめるとのこと。

魔法学園編、進路選択編、戦乱編の3節に分かれておりマスの内容も自動で書き換わる。

進路として選択できるのは魔法師団、魔道具開発局、冒険者ギルド、魔術師ギルドの4つ。

戦乱編では「超越種出現」「闇組織の襲撃」「モンスターパレード発生」「他国との戦争」からランダムでイベントが発生しどの程度功績を残せたかで最終的な順位が決まる。

1回あたりのプレイ時間は2時間から3時間を想定。

最初に魔力の登録を行うことで魔道具は作動する。

サイコロを振るたびにMPが5消費されるので遊びすぎると魔力が枯渇する。

映し出される幻影はサイコロで回収した魔力とイメージによる補正を受けて自動で出力される。

近日販売開始予定。

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― 新着の感想 ―
言うてハラスメント判定出てないからユティナに猫吸いされるのはねここ的にありなんでしょう。
普通に楽しそうなゲームしてやがる... VRゲームの中でボドゲやってるの変な奴らだ。 そしてねここはまた新しい獲物を...
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