第3話 高位呪術師
□魔導都市エルダリオン 郊外 クロウ・ホーク
広い平原の真ん中で俺はメニューを操作する。
装備の欄で切り替えれば、両手両足に呪われた装備<カース・アームズ>と<カース・グリーブ>が装着された。
特段プロパティが優秀なわけではなく、今回の検証用に用意した呪いの装備だ。
「よし、行くか」
「気を付けてね」
「落ちたら笑ってくれていいぞ」
「任せなさい。これ以上ないほどに思いっきり笑ってあげるわ」
ユティナと軽く雑談を交える。
これ以上ないほどの大爆笑とやらに興味がないわけではないが、今回は真剣にやるとしよう。
俺は両手両足に装着した呪いの防具を意識しながら口を開く。
「《呪物操作》」
それは呪物を操作するスキルであり、指定対象は当然俺の四肢に装着された呪いの装備だ。
そのまま普段通りに操作を行う感覚のまま……呪物を空へと動かした。
「お、おお、おおおおおおお!」
全身が浮遊感に包まれ、出力の向上した《呪物操作》によって俺の全身はまるで綿毛のように空へと飛び上がった。
四肢に装着した呪いの装備を起点として動かすことによって身体を浮かび上がらせたのだ。
非常に不格好だろう。少し制御を失敗すれば地上に落下することは必至。
だが、今はこの余韻に浸るとしよう。
「アイキャンフラーイ!」
この世界に来てからはや数ヶ月。
晴れて【高位呪術師】になった俺は空を飛べるようになった。
☆
ダンジョンを利用してレベル上げを始めて数週間が経過。
来る日も来る日もレベル上げに励み、現在の合計レベルは298になった。
その成果の1つがこの《呪物操作》を利用した空中移動手段の確立だ。
現在は地上10メートル程の高さ。
支点が少ないこともあり直立不動の形でゆったりと空を移動している。
(おっと、やっぱ支点が4カ所だと制御が難しいな……)
【魔術師】のレベルをカンストさせ無事《詠唱置換》を覚えた俺は他の下級職のレベル上げも行っていたのだが、その勢いのままいつの間にか条件を達成していた上級職【高位呪術師】に先日就いた。
【高位呪術師】は【呪術師】の純上級職であり、転職と同時にいくつかスキルを覚えたのだ。
《高位呪術師の心得》:パッシブスキル
【呪術師】のスキル性能を上昇させる。
【呪術師】の一部スキルのスキルレべル上限を解放する。
呪いに対する耐性を得る。
※【高位呪術師】の合計スキルレベルが高いほど呪い耐性上昇。
《呪炸裂》Lv1:アクティブスキル 消費MP1 以上
自身が所持権を有する任意の呪物の呪いを解放し爆発する。
込められた呪いに応じて消費MPが上昇する。
込められた呪いに応じて威力が上昇する。
込められた呪いに応じて効果が変化する。
※一度に複数個の呪物を爆発させることが可能。その都度MPを消費する。
※スキルレベル上昇により範囲増加
クールタイム20秒
注目すべきは《高位呪術師の心得》だ。
このスキルの存在によって【呪術師】の時に覚えたスキルの性能が軒並み上昇したのだ。
特に大きな変化があったのは《呪物操作》だ。
まず、操作できる個数が増え操作可能な範囲と出力が上昇した。
少なくとも、全身装備を付けた人一人を風船のように空に浮かべることができるほどに。
加えて、呪物に込められた呪いスキルを遠隔で起動できるようになった。
アクティブスキルである《カース・インパクト》を始め、《首狩の呪い》のような斬撃補正を乗せる呪いスキルも補正が乗るようになったのだ。
あくまで装備スキルの中でも【呪い】に該当する効果のものだけだが、これによって戦いの幅が大きく広がったと言えるだろう。
その他にはスキルレベル上限の解放に伴い《呪物生成》で作成できる呪いの効果量や種類が増え、《呪爆》は指定可能な呪物の範囲が拡大し、《創造呪人形》は作成した呪いの人形にいくつもの効果が付与できるようになった。
人形作成に関しては使用機会がほとんどなかったためスキルレベル上げ以外放置気味であったが、少々面白い使い方も出来そうであるため今後は要検証である。
そして、新たに覚えたアクティブスキルである《呪炸裂》。
これは言ってしまえば《呪爆》の上位スキルに該当する。
《呪爆》が呪物の込められた呪いの量に依存した規模の爆発をするのに対し、このスキルは込められた呪いに応じて爆発に追加効果が付与されるのだ。
(上級職が強いって言われるわけだ……)
なったからわかる。
下級職を4つカンストさせて合計レベル200にするよりも下級職1つと純上級職1つをカンストさせた合計レベル150の方が強いと言われているのはこれが理由だろう。
ステータスの上り幅もあるが、なによりも【下級職】を下地にしたその出力や拡張性はまさに桁違いと言えた。
(クロウ。ちょっといいかしら?)
(ん、どうした?)
(狙い通りに空を飛べるようになったわけだけれど、ハニーミルクのあれも再現できたりしないのかしら?)
ユティナの言うハニーミルクのあれとは、あの無法の《大回転割》のことだろう。
ぐるぐるバット攻撃と言われるほどに嘲笑の的であった産廃スキルを、一気にガチスキルにした運用法。
スキルの性能を極限まで高めたその威力は射線上の全てを粉砕し、振り下ろせば巨大なクレーターを創り出す。
(あれができるなら不足している物理火力も補えると思うのよ)
ハニーミルクの<アルカナ>は装備に寄生することで浮遊の支点を創り出す。
そして、それを細かく制御することによってあの無法の一撃は完成している。
俺は現在両手両足の4つの支点で空を飛んでいるが、言ってしまえばこの支点をさらに増やせば理論上はあれの真似事が可能なのだ。
そう、あくまで理論上は……
(んー。完全に再現するのは無理だな……)
(そうなのね。残念だわ……)
(いや、発想自体はありだ。少なくとも、真似事までなら出来ると思う)
今は4つの支点でどうにか空に浮かんでいる状態だが、慣れれば今の状態でも自由に空を飛ぶ程度はできるはずだ。
それこそ呪いの防具を体中に仕込んでおけば細やかな制御が可能になるだろう。
なにせ、《呪物操作》で動かしている呪物は装備判定を消費しないのだ。
事前に呪いの指輪を嵌めておいたり呪いのシャツを着込んでおけばいい。
装備補正は乗らず操作の枠も余分に消費してしまうことになるが代わりに空を自由に飛べるようになる……というかそれが今回の検証の最終目標である。
そして、ユティナの発想も間違いではない。
俺たちに不足している物理火力を補える可能性は確かにあるのだ。
(ただ、高速回転しながらとなれば話は別なんだよなぁ)
《大回転割》の威力補正を乗せるには回転の判定を維持し続けなければならない。
つまり、高速機動を維持しながら支点の制御を一切失敗せず常に回転した視界から状況を判断し続ける必要があるということ。
「うん、無理」
思わず口に出してしまう程度には無理だ。
出来るかもしれないが、思考リソースを全部費やすことになるだろう。
あの状態で普段通りに魔法を運用しろと言われてもできる自信はない。
ハニーミルクのあれは、視界から入手した情報に対する処理能力がおかしいと言わざるをえないのだ。
(これだから人外は……)
五感から入手した情報で数百メートル範囲内を障害物関係なく索敵するだとか。
微細な空気の変化や筋肉の動きから数秒先の未来を事前に読んで全ての行動パターンを封殺してくるだとか。
回転する視界から入手した情報を処理しきり何百本も生える木々の隙間を一切衝突することなく高速回転を維持しながら縦横無尽に飛び回るだとか。
あいつらは限度というものを知らないのだろうか。
特に前者2人。
(とりあえずもっと自在に飛べるように練習あるのみだな)
(ええ。予定通りに、ね?)
空を飛ぶ方法自体は浮遊魔法を始め、<アルカナ>に騎乗したり魔法で足場を創り出すなど色々ある。
その中で俺が選んだこの呪物による空中浮遊は少しながら邪道だろう。
だが、この運用法ならではの利点もあるわけで……
「機動力確保のための第一歩だ」
頑張るとしよう。
第10章開始時点
プレイヤー名:クロウ・ホーク
レベル:8(合計レベル298)
メイン職業:高位呪術師(8)
サブ職業:戦士(50)、呪術師(50)、魔術師(50)、闇魔法師(50)、盗賊(45)、冒険者(45)
種族名:【天秤の悪魔】ユティナ 階位:Ⅱ
マスター:クロウ・ホーク
TYPE:サポーター
レベル:48/50
HP:666/666
MP:4090/4090
SP:1475/1475
STR:345
END:335
AGI:580
INT:2210
DEX:335
CRT:335
☆
純上級職について……
純上級職は元となった下級職を下地にすることで本領を発揮することが多い。
【呪術師】につかずに【高位呪術師】になると一部のジョブスキルは未修得の状態となる。
《呪爆》や《呪縛》は【呪術師】専用のスキルのため【呪術師】をジョブ設定から外すと使用不可になる。
《呪物操作》や《呪物生成》は【高位呪術師】でも修得できるが【呪術師】を外すと上限値や内部の補正が下がり性能が劣化する。
スキルレベルについて……
スキルごとに上限が設定されているがジョブスキルや装備によって上限を解放することが可能でありスキルの性能を上昇させることができる。
《鑑定眼》のスキルレベルを上昇させる<真贋の仮面>や死霊術に特化した<アルカナ>である【骸仮面】スカルフェイスの《召喚骨兵士》+1のようなものがそれに該当する。
そして、純上級職とよばれるジョブは装備や特別な<アルカナ>なども通さずに対応する【下級職】のスキルレベル上限を解放することが可能なものが多いため、純粋に戦力強化を見込めるようになる。
同系統スキルの扱いについて……
一部のスキル(例:【剣士】や【戦士】を始め多くの斬撃攻撃を有する下級職で覚える《スラッシュ》)は他のジョブと共通していることがある。
これらは同系統のジョブに就いていてもスキルレベルの上限は解放されない。例として【戦士】と【剣士】の両方をジョブとして選択していても、《スラッシュ》のスキルレベル上限は5から変化しない。
しかし、潜在的な合計スキルレベルが高いほど熟練度と共に内部的な威力補正が乗るため全く同じステータス、同じスキルレベル、同じ動きで《スラッシュ》を放つと潜在的な《スラッシュ》の合計スキルレべルが高い方が威力を出すことができる。
また、《スラッシュ》の発展スキルである《ハードスラッシュ》や《疾風斬り》は《スラッシュ》のスキルレベルが高いほどに補正が乗る。当然潜在的な合計スキルレベルが高いほど補正も大きくなるのでスキルの被りが全くの無意味というわけではない。




