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第34話 災片

 魔導宮は【イデアル・マジック】のクランホームから転移門で移動することができる。

 違うのは転移門を起動する時の文言だ。

 「グラマジ最高」と唱えると魔法師団本部へと繋がり、これを「魔法最高」に変えると魔導宮にある客室に設置された転移門に繋がるらしい。


「……魔法最高」


 エリシアは少し恥ずかしそうに文言を唱え、同時に小さな青い石をかざす。

 すると若干石の青みが薄くなり、()()()使()()()()()()転移門が起動した。

 そのまま潜り抜ければあっという間に魔導宮にある一室に到着する。


(相変わらず便利だな)


 エリシアが持っている石は特殊な魔道具だ。

 その効果は()()()()()であり、名は精霊石。

 俺が知らない間にゼシエから貰ったらしい。

 なんでも、精霊の魔力を貯め込む性質があるのだとか。

 余裕がある時に貯めておくことで、エリシアは転移門の起動に現状魔石いらずになっている。

 この精霊石の他にもゼシエは色々とエリシアに便宜を図ってくれているらしい。

 エリシアは花の精霊人であり、【イデアル・マジック】の客人でもある。

 魔導王国からすればその立場上無下にはできないのもあるだろうが……


(これはあれだな、俺への勧誘も兼ねてるな)


 一応【死の森】の討伐への完全協力という形で合意しているが勧誘を諦めたわけではないのだろう。

 俺も現状所属国家にこだわりがあるわけではないことは既に伝えてある。

 まぁ、貰えるものは貰っておくぐらいの気持ちでいるのだが。


(あー、そうなるとゼシエに確認するのもありか?)


(確認って、あれのこと?)


 ユティナには少し前から今後の計画について相談済みだ。

 しかし、ゼシエに確認した方がより確実に方向性を定めることができるかもしれない。


「エリシア。ゼシエの予定がいつ空いてるかとか知ってたりするか?」


「ゼシエの予定ですか? そうですね、私が会う時はいつも、いつの間にか横にいますので……」


「ストーカーされてないか、それ?」


 書庫への移動がてら聞いてみるが、どうやら詳しくは知らないらしい。

 まぁ、今すぐというわけではないので今度レトゥスかアルカに取り次いで貰えば……






「呼んだか」


「なぜいる」






 気づけば、そこにはゼシエがいた。

 どうやら転移魔法で飛んできたらしい。

 エリシアもすぐに気づいたのか足を止め軽く振り返った。


「つれぬのう、呼んだのはお主であろうに。それにここは私の城だ」


「だとしてもだろ、暇なのか?」


「暇だな。退屈で退屈で仕方がない」


 そうか、暇なのか。

 それでいいのか国家最高戦力。


「そもそも、私は面倒事が嫌いなのだ。おおよその雑務は全て魔法師団や魔術師ギルドで処理できるように人員を割り振っておる。【魔導師】という肩書そのものがお飾りのようなものだ。しいて言えばお主ら旅人への対応が私がすべきことよ」


 そう言えば、【イデアル・マジック】がやらかした時のペナルティの裁定はゼシエがやってるんだったか。


「して、なにようだ。私は今からでも構わんぞ。退屈しのぎ程度にはなるだろうさ」


「あー、そうだな……エリシア、ユティナ。先に行っててくれ。終わったら向かう」


「わかりました。では、その間にいくつか見繕っておきますね」


「頼んだ」


 エリシアはユティナと共にそのまま書庫の方へと向かっていく。

 そして、この場には俺とゼシエだけが残された。


「随分と仲が良さそうではないか。やはりお主を勧誘するのであれば先に落とすべきはエリシアであるな。ふ、なに。もっと厚遇してやろうというだけの話だぞ?」


「わかってるよ」


 そう、ゼシエは好待遇で受け入れる土壌があると言っているだけだ。

 そして、なし崩し的に所属国家の変更まで外堀を埋めるつもりなのだろう。こわぁ……


「まあよい。こちらとしても、現状で特に問題はないのでな。さて……」


 ゼシエは杖を取り出し軽く振るう。

 同時に視界が切り替わり俺達は魔導師の間に移動していた。


「私への用とやらを聞こうではないか。お主も待たせるのは忍びないだろう、手短に行こう」


 こういう時、話が早いのはほんと助かるなぁ……



 俺の現状の目標は【死の森】の攻略である。

 ただ、今のままではレベルが足りず、加えて旅人は警戒されているからかエンカウントすらできない状態だ。

 なので、この準備期間を利用してレベルを上げ、戦闘技術を鍛え、装備を整えていく必要がある。


「俺が聞きたいのは竜人国についてだ」


 竜人国ヴァルドラーテ。

 魔導王国エルダンとノースタリア、カラブ帝国の3つの大国と隣接する位置にある竜人族が治める国。

 その実態としてはほぼ鎖国状態にあるらしい。

 理由は大陸中央の一種の危険区域の中心に位置しているから。

 危険なモンスターが大量にいる魔域に阻まれるため、国交の開きようがないようだ。

 ただ、結果的にそうなっているだけでその魔域を超えられるような一部には限るが人の行き来はちゃんとあるらしい。


「ヴァルドラーテか。理由を聞いてもよいか?」


「ああ、と言ってもそう難しい話じゃない。装備の製作を頼みたくてな」


「……む。我が国の職人を紹介するのではいかんのか?」


 ゼシエは若干不満そうな顔をする

 それは自国の生産職を甘く見られたことに対するものだろう。


(見せた方が早いか……)


 メニューを操作しキーアイテムボックスからそれを選択しオブジェクト化した。


「俺が装備を作ってもらいたい素材は、これだ」




 <災厄星狼の光核>

 災厄をもたらす狼犬の光核。

 ありとあらゆる光を喰らうとされている。




 あの【マグガルム】からドロップした推定レアアイテム。

 使い道が一切不明の素材をゼシエへと見せた。


「……これは、見たことがないな。どれ、そこに置いてみよ」


 ゼシエはどこからか高級感のある白い机と布を転移させてきて置けるようにセッティングした。

 言われた通りそこに置くと、近づき食い入るように水晶玉を見つめ始める。

 そして、何かに気づいたのか目を細めた。


「ふむ、なるほどな。一応の確認だが、このアイテムはどのモンスターからドロップした?」


「【マグガルム】……<ナイトウルフ>の特異種だ」


「【月光の樹海】の変異個体か。確か、下級モンスターだったな。そうなるとだ……」


「何か知ってるのか?」


「いや、知らぬな。だが、少なくとも<ナイトウルフ>の特異種程度の素材が有していい()ではない。私の経験からの見立てになるが、最低でも上級相当の素材だ。場合によっては、さらに上やもしれぬ」


 ゼシエは一旦そこで区切った。

 格というのはバーティが言うところの魂という奴だろうか。

 それにしても……


「程度って言うけど、かなり強かったぞ」


「ほう、お主がそこまで言うとはな。少し興味が出てきた。具体的にどう強かったのだ?」


 そうだな。


「おそらく、進化してから一週間もかからず魔力操作ができて」


「ふむ」


「魔力の圧縮と魔法の同時操作もある程度まで習得してて……」


「む?」


「最終的には、魔法の性質変化によって雷の剣を複数本創り出し、それらを同時に操作しながら攻撃してくるような個体だったな」


「……そやつは本当に<ナイトウルフ>か? 是非とも勧誘したいのだが」


 残念ながらすでに討伐済みです。


「ならば、やはりこれは災片になるだろうよ」


「災片?」


「……稀にいるのよな、モンスターの中でも才に溢れた突出した個体が。それらが討伐されたときにいずれ至ったやもしれぬ災禍の未来が形となり零れ落ちることが」


 ゼシエは苦虫を嚙み潰したような顔になる。

 才能に溢れた突出した個体というのは決して誉め言葉ではないのだろう。

 その突出した個体の到達点が【死の森】を創り出した【境絶】<アル・ガロア>なのだから。


 ……いずれ災厄をもたらしたであろう怪物が落とした命の欠片、か。


「つまり、これは【マグガルム】が進化した果てに至るはずだった可能性の結晶、と」


「そういうことになる。【特異種】の進化、ともなれば更なる変異個体か。もしくは【超越種】か……」


「【超越種】……」


「断言はできん。あくまでも可能性の1つだ。だが、似た事例は過去に何度か確認されておる。ありえない話ではない。そういうことであれば、確かに竜人国に行くのが一番可能性が高かろうよ」


 やはり、ゼシエも竜人国に行くべきだという意見になるようだ。


「お主は未確認の【超越種】や【臨界個体】が討伐された後の素材がどのように加工されるかを知っているか?」


「確か、腕利きの職人を集めるんだっけか?」


「しかり。最初は皮など比較的量が多い素材を用いて相性のいい属性や鉱石を探り情報を集め、骨や爪、牙といったように順に希少度の高い素材を用いていき、ある程度の傾向を掴むのだ。そして、核のような本命の素材を用いて優秀な装備ができれば御の字というわけだな。カラブ帝国の魔女が有していた<震壊の魔杖(コラプスロッド)>が有名だろうよ。あれは一種の芸術品だ」


 未確認の素材ということは使い道がわからないということ。

 どういう風な装備になるのかがわからないということ。

 だから、手探り状態で挑むしかない。

 トライ&エラーを繰り返し、最適な加工方法を見つけ出す必要がある。

 しかし、珍しい素材であればあるほどに挑戦できる回数は少ないということであり……


「職人の腕がものを言う世界だ。加えて事例が1つしかないときた。<ナイトウルフ>を今後数万体狩っても同じアイテムがドロップするかは未知数」


 故に、一度失敗したら取り返しがつかない可能性が高いということか。

 蛇蟷竜のドロップアイテムの時と同じような状態だ。

 いかに珍しい素材だろうと使い道がわからなければ、そしてその有効性を示せなければ、ただの鑑賞アイテムでしかない。


「竜人国はその立地が幸いし、戦火に巻き込まれることなく歴史を重ねてきた大陸において最も古い国の一つだ。こういった未知の素材に対する知識や技術が多く残されておる。その素材がどのような装備になるのかの可能性を探るにはちょうどよかろうて」


「そういうことなら、確かに竜人国に行くのがよさそうだな。相談に乗ってくれてありがとう。助かった」


「なに、よい暇つぶしになった。それに、私が話を聞かずとも元々行くつもりであっただろう?」


 それはそうだが、ゼシエの知見だからこそ確信できたともいえるわけで……


「そうだ、紹介状でも書いてやろうか? あの国には古い知り合いもいるのでな」


「何か俺に依頼か?」


「……やはりお主は話が早いな」


 お互い様だろ。


「なに、ちと手紙を届けてもらいたいだけだ。時期としてはもう少し先の話になる。今は少し調整中でな。それに、お主もそのステータスで竜人国周囲の魔域を抜けるのは難しかろう。時が来たら知らせるので、それまでは戦力強化に励むがいい」


「前から思ってたんだけど、手紙とかって旅人に頼むよりお抱えの商人とかに頼んだ方が良いんじゃないのか?」


「強者というのは、わかる者が見れば一目でわかるものだ。レベルがすべてというわけではない。視線の動き、立ち姿、魔力の流れといった風にな。そして、そのような旅人に大事な書物を任せる依頼を出せるほど懇意にあるという事実そのものが重要なのだ」


 ああ、いろいろと牽制も兼ねてるのか。

 魔導王国エルダンは魔導師級の旅人に手紙の納品依頼を任せられるほどの良好な関係を築けている、という牽制。

 他にも理由はあるのだろうが……


「わかった、依頼の詳細な日程が決まったら連絡してくれ」


「うむ、これで話は終わりだな。待たせるものでもなし、送るとしよう」


 そう言って、ゼシエは杖を構え。


「暇つぶしになるような話題があればいつでも来るがいい」


 俺の視界は切り替わった。



 目の前を見ればそこには今回の目的地、魔導宮にある書庫の扉。


「やっぱ羨ましいわ……」


 転移魔法便利すぎだろ。

 なぜ通常スキルとしては【魔導師】にしかないのだろうか。

 いや、まぁこんなものをすべての旅人がぽんぽん使えたらゲームバランス崩壊待ったなしだから仕方ないんだろうけどさ。

 俺は扉を開き、入口にいた司書の人と軽く挨拶をかわしエリシアを探す。

 ここはまさにルクレシア王国にあった魔法図書館の小規模バージョンといったところだ。

 ただ、空間拡張の魔法がかけられているらしく見た目に反し異様に広い。

 そして、読書スぺースの一角で静かに本を広げていたエリシアとユティナを見つける。

 彼女も気づいたのか、軽く視線を上げる。


「早かったですね。もう話は終わったのですか?」


「ああ、そこまで込み入った話じゃなかったからな」


「それでしたら、はい。こちらです、どうぞ」


 エリシアが手渡してきたのは一冊の本。

 どうやら、既に選んでくれていたようだ。


「お、エルダン周辺の魔域で入手できる食材の本か、どれどれ……燃えるキノコ、バーニングダケってこれ食べられるのか?」


「美味しいらしいですよ。耐火ポーションの素材にもなるそうです」


「クロウ! 採取に行くわよ!」


「ちょ、ユティナ! 書庫で騒ぐなって!?」


 俺は急いで消音の魔道具を取り出し、チリンと音を鳴らし起動させ──



………………………………



……………………



…………



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― 新着の感想 ―
果たして、リアル妹とゲーム妹は人の道理を外れるのだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?
竜人国までの道のりってアウローラの周りの魔域より難しいですか? アウローラの魔域回るのと竜人国の道中どちらの方が難しいですか?
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