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第25話 加速する世界

□2035年2月18日 王都ルセス クロウ・ホーク


「これが回復薬、魔力回復薬、技力回復薬。爆発ポーションにけむり玉……あ、あと私の後輩が作ったアクセサリーがいくつかあるんだけど、使ってみないかい?」


 俺はりんご飴から再度物資を補充していた。

 ククルと触れ合うために時間を見つけてはログインしているらしい。


 自警団の流れは軌道にのっているらしく、他の善良なプレイヤーともメリナ経由で連絡がついており、兵士や商業ギルド伝いに物資の支援や情報の連絡をしているそうだ。


 りんご飴が目立つようなことはないように、メリナも気を使ってくれているのだろう。


「アクセサリー系は効果が弱いのも値段が高かった気がするけど、いいのか?」


 【細工師】という特殊装備枠に装備できるアクセサリーや飾れるような細工物の作成をできるジョブがあるのだが、基本的に自分の手で作るのがメインになるジョブのはずだ。


 スキルで作れるのは効果のない見た目だけのものが多く、見た目重視ならそれでもいいのだが、やはり金策をするとなると戦闘職向けにしっかり効果がついている必要がある。


「うん。単純にSTRを少し上昇させる程度のものだから売りに出すほどのものじゃないんだってさ」


「それならありがたく。猫カフェ計画は順調そうだな」


「あはは、最初の頃はみんな作業そっちのけで<アルカナ>に夢中だったのは困ったけどね……」


 りんご飴も少し疲れた顔をしながらも楽しそうに笑った。


「そうだ、街の中用の服もいるかい? 戦闘中はスレイヤーシリーズを着ているみたいだけど、今みたいに初心者用の防具を着るのも微妙じゃないかな? ほら、ユティナもおしゃれとかしてみたら?」


「楽しんでんなぁ……」


「私は興味ないのだけれど……」


 そんなりんご飴の提案を素直に受け入れいくつか街中用の私服を見繕ってもらった。


 俺は普通の茶色のジャケットにズボンだ。

 

 そして……


「うんうん! いいんじゃないかな!」


「そう? まぁ悪い気はしないわね! なによりモフモフなのがいいわ!」


 ユティナはなんかすごいもこもこした服を渡されていた。


 装備名を見てみると【幻猫】のボアブルゾンと書いてある。

 <アルカナ>は基本的に装備枠が存在せず、おしゃれ装備枠のみが存在するので、そこに装備する形でユティナはその服を着ていた。


 どうやら、今度は服飾系統のジョブに就いたみたいで、りんご飴も色々手を出しているようだ。


 とりあえず就けるだけジョブに就いておくというのも、一つの選択肢としてはありだからな。


 スキルの理解を深めるために一つずつ順番にジョブについていって集中的に習熟していくのはおそらく戦闘職の中でも一部のプレイヤーに限られるだろう。


 スキルレベル上げの効率は下がるだろうが、覚えておくことに意味があるスキルも多い。

 使いこなせるのであればスキルの数は強さに直結するからだ。


「ユティナ! 連絡きたからそろそろ次の狩りに行くぞ!」


「ええ、わかったわ! りんご飴もありがとね」


「うん、2人とも行ってらっしゃい」


 メリナから次のPKKについての連絡が来たので移動することにする。


 PKK活動時の装備と変える意図もあるので無駄ではない、がさすがに服はスピルで購入しておいた。



□ゴズ山道 クロウ・ホーク


 俺は接敵したPKを追いかけ、岩陰に隠された広い空間に飛び込む。


「おらぁ! 金だせPKども!」


 そこには、6人のPKと6体の<アルカナ>が殺意を持って俺のことを待ち構えていた。


「奴が来たぞ、ぶっ殺せ! あの仮面も装備も全部ぶっ壊せ!」


「はぁ!? 6人で囲んでくるとかプライドはないのかてめえら!!」


(ユティナ。予定通り自爆特攻するぞ、2時間後にまた会おう!)


(ええ、クロウのことは忘れないわ!)


 メリナにヘイト管理と実地調査と言われ、PK達に待ち伏せされてたところにわざと突っ込む。


 これで、3人パーティのPKグループが徒党を組んで6人組の集団になっていることがわかった。


 メッセージでメリナに「6」と数字のみ手早く送り、そのまま俺は突撃する。


「奴をぶっころせえええええええええ!」


「やれるもんならやってみろよ! 死なばもろともおおおお! 《呪爆(カース・ボム)》!」


 <呪われた投げ石>と《呪爆》によって嫌がらせを行いながら最大限時間を稼ぐ。


「な、こいつ服毒してやがる!?」


「誰がお前らに殺されてやるかよばあああああか!!」


(最後まで煽りだけは忘れないのね……)


 後半はダメージを抑えながらひたすら逃げ回り、PKの攻撃で瀕死になるのだけはなんとか避け、割合ダメージの毒ポーションで予定通りデスペナルティになった。


 そして、そのままの流れで1時間仮眠を取る。


 おやすみなさい……



□2035年2月19日 冒険者ギルド本部 酒場 クロウ・ホーク


「よし、《武具切替》と《道具切替》のスキルレベルが最大の5になったぞ」


「暇さえあればずっと使用してたものね」


 <プレデター・ホーネット>戦の反省を活かし、《武具切替》と《道具切替》のスキルレベル上げをしていたのだが、ようやく終わった。


「これで《戦士の極意》を使えば、クールタイムなしでいくらでも使用できる」


 《武具切替》のクールタイムは30秒なので、《戦士の極意》によって5分間に限り、いくらでも使用できるようになるのだ。


「次は《呪物生成》で武器の補充か」


 ギルドクエストで稼いだスピルで市販品の武器を買い、<カイゼン樹林>で集めた素材を消費して呪いを付与していく。


 素材には個別に呪値みたいなものが設定されているようで、《呪言》でカスタマイズする際には付与する呪いの強さに応じて相応に素材を消費する必要があるのだ。


 そこが素材1とアイテム1があればできるランダム付与と違うところだろうな。


 モンスターの素材と武器やアイテムで呪いをランダム付与し、強い呪いは多くの素材を使用すればいつでも生成できるようになる、というのが基本の動きなのだろう。


「実質運ゲーだな」


 ランダム付与の場合モンスターの倒し方でつきやすい呪いが変わるそうだが、誤差みたいなものだろう。


「呪いの武器、人気ないんだよなぁ……」


 これで金策ができればいいのだが、ステータスのマイナス補正のせいで純粋に人気がない。


 ユティナと似たようなスキルを覚えているか、呪いの武器という響きに惚れた一部のプレイヤーを除けば真っ当に武器を買った方が長持ちするからだろう。


 耐久値の基礎値が高いほど、耐久値が減る速度も相対的に遅くなるのが確認されている。

 同じ片手剣でも、耐久値が100/100の片手剣より100/200の片手剣の方が長持ちするということだ。


 つまり元の耐久値が全体的に低く、耐久値が0になったらそのままロストするという制約がある呪いの武器は消耗速度が異常に速くなるのだ。

 

 耐久値を回復させるぐらいなら、さっさと使い捨てたほうがいいまである。


「強いスキルもあると言えばあるんだけど、マイナス補正が悪さするっていうね……」


 《首狩りの呪い》のようなスキルもあるのだが、強い呪いを付与すると必然的に強いマイナスプロパティが付くようで、結果的に差引0のような数値になるのだ。


 呪いの武器の名の通り自傷ダメージを負うだけの武器になってしまう。


 【高位呪術師】になればもっと強力な呪いが付与できるらしく、デメリット効果を打ち消すぐらいアドバンテージを得るものもあるそうだが、低レベルの【呪術師】は諦めて他の方法で金策に励めということなのだろう。


「……ん? <爆発ポーション>が呪えるようになってるな」


 スキルレベルが上がったからだろうか?


 とりあえず色々試していこう。


 俺は、今後の展望を見据えながら、準備を進めていく。



「おお、増えてる」


「【賞金首】のことかしら?」


「ああ、20人を超えたな。【賞金首】予備軍が多かったんだろう。PKも控えてると考えると、最終的に50人以上の規模になりそうだ」


 総ログインプレイヤー人口が10万人と推定される中、ルクレシア王国のPKの数は確実に増え続けていた。


 俺達の予想通り、【賞金首】とそれを支援する組織というような形で、組織だった動きが見えるようになってきている。


 しかし、もう遅い。


 こちらもあらかた準備は終わらせてあるのだ。


 あとはメリナが言っていたきっかけがあれば王手である。


 組織的に動くのであれば、もう少し早く動くべきだった。


 それこそ、<カイゼン樹林>で活動していた【賞金首】たちのように。

 

「……」


「どうしたの?」


「<カイゼン樹林>で戦った【賞金首】たちの名前がリストから消えてるんだよ」


 そう、mu-ma、刃歯、右手にポンの3人組がいつの間にか【賞金首】のリストから消えていたのだ。


「作戦立案役はたしかmu-maだったか。気づいたんだろうな……」


 いや、最初から気づいていたんだろう。


 サービス開始初期にPKという遊び方を選んだ時点で、速さが命だったのだ。


 NPCが手をこまねいている間に大規模な組織を結成し、王都ルセスから一斉に王国各地に広がる。


 必要なのは我が強い他のPKを納得させられるほどの実績と武力、求心力、計画能力。


 そして、計画が破綻した時点で諦めた。


 どのような手を使ったか知らないが、どうにか通報を取り消してもらい一人のプレイヤーに戻ったというわけだ。


「とりあえず、メリナに連絡だけ入れておくか」


 あの慎重な連中のことだ。


 ここまできたらそう悪いことにはならないだろうが、念のためメリナにメッセージを入れておくことにしよう。



 そして、ついにメリナから準備完了の報告と、今後の簡単な流れについてのメッセージが来た。


 流れ自体は会議で打ち合わせした通りだが、メリナが担当していたきっかけの方が予想から外れていた。


「使えそうなネタってこれのことかよ……」


 裏工作というかタイミングがたまたまかみ合っただけで、実際は別途働きかける予定だったんだろう。


 それにしてもこれを利用しようとか一周回って尊敬するぞ。




─運営からのお知らせ─

いつも<Eternal Chain>をご利用いただきまことにありがとうございます。

一部機能の追加とゲーム外サポートの仕様の変更についてお知らせいたします。

本更新によるメンテナンスはございません。

本日の12:00(GMT+9)より機能の追加と仕様の調整がゲームに反映されます。


・特定条件下における【決闘システム】の配信機能の追加

・デスペナルティ中における管理AIサポート対応の条件変更


詳細はこちら……


また、順次アップデートやイベントも予定しています。

今後とも<Eternal Chain>をよろしくお願いいたします。

管理AI6号




「特定条件下における意図的なデスペナルティ時には、管理AI2号のサポートを受けることはできなくなる、か……」


 簡単に言えば、一部の過激派レイナ信者終了のお知らせだ。

 ゲームをちゃんとプレイしろという運営からのお達しである。

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