第22話 人でなし共の作戦会議
□王都ルセス 国立魔法図書館 個室 クロウ・ホーク
「戦、争……?」
「そうだ」
プレイヤーは各々自分の楽しさを追求する。
その裏でNPCは水面下で陰謀を張り巡らせている。
他国を出し抜くために、今この瞬間もだ。
もろもろのシステムを見ればゲームであることは疑いようがないだろう。
しかし、異世界に転移してきたといわれても納得できるぐらいには、NPCは生きていて、国はどこまでも国である。
ここには確かにもう一つの世界があった。
「それが全てというわけでもないわ。知っての通りベースはただのMMORPGよ。パーティを組んで狩りができる。生産もできてハウジングやお店を開ければ、釣りや農業もできる。ダンジョン探索も世界を冒険することもできるし、飽きたら引退すればいいの」
メリナの言う通り、あくまで戦争はゲームの一側面でしかないのも確かである。
例えば、世界中を旅するのが目的のプレイヤーにはほとんど関係ないだろう。
旅先で、事件に巻き込まれることはあれど、基本的には国同士の争いとは無縁の状態になるはずだ。
例えば、戦闘狂には関係ないだろう。
戦争が多いかもしれないと言われて、喜ぶバカどもの集まりだ。
例えば、陰謀を張り巡らせるのが大好きな悪女には関係ないだろう。
力自慢のバカどもを翻弄するのに快感を覚えるバカだ。
PvE目当てのプレイヤーもほとんど関係ない。
戦争が嫌ならダンジョンに潜っていればいいのである。
そこにメインコンテンツが用意されているのだから。
故に、これで一番影響を受けるプレイヤーがいるとするならば……
「だから、私なんだね……」
「そうだ、だからりんご飴に声をかけた」
りんご飴のような、<アルカナ>と共に平和な暮らしをするのが目的なプレイヤーである。
彼女たちのようなプレイスタイルが、一番NPCと接する機会が多い。
彼女たちのようなプレイスタイルが、【賞金首】や戦争というシステムとは対極に位置するだろう。
「ただ、そこまで悲観することでもない」
「え……?」
実際この想定は、俺とメリナが考えた中でも一番過激なパターンだ。
「だよなメリナ?」
「ええ。この20年、世界中で大きな戦争は一度も起きていないわ。理由は現在調査中だけれど、なんらかの要因があるのは確かね」
そう、小さな小競り合いこそあれ大きな戦争は起きていなかった。
「サービス開始をしてしまった以上、ここからはどうなるか誰にも想像つかないんだ。それこそ運営にもな。俺たちの未来予想図も穴が抜けている箇所は多い」
例えば、【契約の神】という存在。
「過去の戦争でも契約書という【契約の神】、この場合運営ね。運営が立会いをしたうえでルールを決めてることもあるわ」
運営という絶対の存在が【契約書】の発行を行い、それに沿うような形で決着がついている戦争が過去にはいくつもある。
この世界の戦争には、場合によっては明確なルールが存在しているのもまた事実なのだ。
先ほどの大きな戦争が20年近く起きていない理由を合わせても、スキルや国際事情含めてまだまだ知らない情報ばかりである。
俺達の考えは杞憂で、本当に平和なゲームで終わる可能性も0ではない。
「ただ、国、もしくは自警団組織による自国にいる【賞金首】の掃討については確実に起こると俺とメリナは考えてる」
こればかりは状況証拠からしても確定だ。
PK対自警団組織の流れは運営も想定の範囲内だったのだろう。
だから、レイナは終始楽しそうだったのだ。
「あれ、ゴーダルは?」
「俺か? 俺はそこの悪人面2人の考察を嬢ちゃんより先に聞いてただけだぜ。さっきまでのは全部ノリと勢いさ。俺らは仲間だぜ!」
「そ、そうなんだ……」
りんご飴はそんなゴーダルに少し呆れながらも、恐る恐ると俺に話しかけてきた。
「あの、これに気づいてるプレイヤーって……」
「今はほとんどいないだろうな。違和感を持っていても、目先の娯楽に目を奪われて、勝手に結論を出して思考停止するもんだ。そんなこと考えるよりレベル上げしたいってね」
というかメリナの動き出しが速すぎる。
俺がはっきり目的をもって情報を集め動き出したのは昨日からだが、彼女は初日から図書館に通って必要な情報を集め終え、実地でPKとして活動していたのだ。
リスクを背負いながらも情報を集め自分の立つべき位置を確認していた。
ゲームのバックグラウンドを理解して、初めてこの視点に立つことができるのだ。
いずれ他のプレイヤーも気づくだろうが、今はジョブやファンタジー要素に目を奪われて気づけにくい上、【賞金首】関連に関してはNPCが動き出してからではもう遅い。
【賞金首】に限らず、NPCの政治ゲームにいつの間にか巻き込まれてるなんて、大半のプレイヤーは思ってもいないだろう。
「不安か?」
りんご飴は視線を床に落としている。
彼女にとって、これは大きな決断を迫られているのだから当然だろう。
恐怖無き引退か。
恐怖を背負った継続か。
「それは……私たちが主導になって、その最初の【賞金首】狩りをやろうってことだよね」
「そうだな」
このメンバーなら戦況を誘導出来ると俺は考えている。
だから声をかけたのだ。
「……今の話を聞いて、正直オフラインゲームであればと思ったよ。だけど現実は残酷だ。他のゲームも存在したけれど、どれも私を満足させてはくれなかった」
そして、りんご飴は顔を上げ俺の目をはっきり見据えてきた。
「私はククルと一緒にこの世界を過ごしたいんだ」
それは、恐怖を背負ってでもこの世界を生きるという宣言に他ならない。
ククルという愛猫との別れを許容しないという強い意志の表れだ。
ならば、俺がやることは決まっている。
「ああ、その通りだ。好きなんだろ? だったら貫き通そう。NPCを味方につけよう! 国力を高めよう! 他の国に戦争を売られないくらい圧倒的な強国にしてしまえばいい!!」
俺は、りんご飴を煽る。
ほのぼのVRゲームから国づくりのシミュレーションゲームに代わるだけだ、と。
「初めてだったんだ。ククルに触って、抱きしめて、本当に夢のような時間だった。現実では触るどころか、同じ空間にいるだけでもアレルギーが邪魔をして、まともに見ることすらもままならない!」
「だったら一刻も早く、この国にはびこっている【賞金首】どもにはご退場願おう。あいつらだって好き勝手やってんだ! 俺達も好き勝手やりたいようにやりゃあいい!」
それがMMOだ。
誰かがPKで遊ぶというのなら、俺らもPKKとして遊んでやればいい。
「でも、私は戦うことができない。それが怖くてすぐに逃げ出してしまったんだ……」
それこそ問題ない。
「俺たちが戦う、そのために、今日この場を開いたんだ。俺たちに戦う理由をくれ、りんご飴の夢を応援させてくれ!」
あとは、りんご飴の覚悟だけだ。
そして、彼女は……
「うん、私がんばるよ! そして、絶対に夢をかなえる! ああ、レイナ様も見ててくださいっ!」
……りんご飴はなにかに陶酔するように、うっとりとした表情を浮かべた。
それを見てゴーダルとメリナが、あっけにとられている。
うん、りんご飴もちゃんとこっち側の人間だよ。
清く正しい、レイナ信者だ。
そうじゃなかったら善良な彼女を、こんな人でなし共の作戦会議になんて誘わない。
☆
「この後の動きを確認するぞ」
俺は、集まったメンバーを再度見渡す。
「鍵はりんご飴だ」
「わ、私かい!?」
そうだ。
「よく考えろ、りんご飴。自警団の結成には火をくべる役が必要だってさっき言ったよな?」
「うん、きっかけがいるんだよね」
「今、りんご飴の目の前にいるプレイヤーの特徴を上げてみてくれ」
りんご飴はゴーダルを見た。
「怖い人」
りんご飴はメリナを見た。
「怖い人」
りんご飴は俺を見た。
「優しい人かと思ったら怖かった人」
「納得いかんがまぁそうだ! つまり、致命的と言っていいほどに俺たちはPKに困らされていない」
というか2人はPKで1人は物資目当てにPKKするやつだ。
こんなやつらが兵士に「僕たちPKに困らされてるんですぅ……」とか相談してみろ。
詰め所に連行されて人生相談待ったなしだ。
ていうかPKを撲滅するための会議の参加者のうち2人がPKとかどうなってんだよ。
いや、だからこそ、この作戦を実行できるのだが。
「俺達の役割は大きく分けて3つ。火付け役、誘導役、調整役だ」
火付け役はりんご飴だ。
彼女が街の兵士にPKに困っていることを素直に相談するところから自警団組織結成の流れを生み出す。
水面下で既に進んでいるなら合流することもできるはずだ。
「りんご飴は街の兵士にPKで困っていると嘘をつかず素直に相談すればいい、その時にこの国でお店を開きたいことも伝えるんだ。そうすれば、他の善良なプレイヤーに加えて、兵士の方から商業ギルドにアプローチしてもらえる可能性も高まる。手探り状態で進めるより、最短でサポートしてもらえるはずだ」
「わ、わかった! 猫カフェへの熱意なら誰にも負けない!!」
国としても、プレイヤーが定住してお店を開いたという実績は欲しいはずだから悪い方向に進むことはないだろう。
誘導役はメリナとゴーダル。そしてここにはいないガーシスだ。
PKの内部に入り込む形で流れを誘導する。
「私はこのままPK側の人間として動くわ。その方が情報も集まるし楽に戦況を誘導できるはずよ」
「俺もだな。レベルを上げながら、PK寄りの人間として動くようにするぜ」
「ゴーダル、あなたはもう少し強気にPKムーブしなさい。今のままでは気前の良い戦闘狂としか見られてないわよ」
「マジか!?」
最後に調整役、これは俺だな。
「俺が引き続きPKKとして活動を続けて【賞金首】の物資を削る。ついでにPK達の流れをメリナ達が誘導しやすくなるようにする。PKKが活動するって情報が出回ればPK達も警戒して動きが鈍くなる可能性もあるしな」
ルクレシア王国はPKと【賞金首】の増加速度が他国に比べて少しだけ早い。
正直、俺一人の活動では増加を抑制することは難しいだろう。
だから、増加の流れをコントロールする方を重視する。
増えるのであれば、俺たちの知らないところではなく、小さなひとまとまりになるようにするのだ。
りんご飴の話が軌道に乗ればPKK活動する人手も増えるだろう。
「クロウ、【賞金首】の居場所のあてはあるのかしら?」
「しばらくは総当たりでゴリ押ししかないだろうな。メリナから情報が手に入るようになってからが本番だ。PKKするためにもなおさらレベル上げしないといけないだろうし」
「そうね。ちなみにここにあるのが今現在<ゴズ山道>で活動している【賞金首】と賞金首候補のPKたちのプレイヤーネーム、活動範囲、その活動内容の調査資料ね。NPCに渡せば、【指名手配】の条件に該当するかの確認に役立つはずよ。クロウの分も用意してあるから時間がある時に見ておいてちょうだい」
メリナは紙の束を机の上に置いた。
「……は?」
何それ聞いてない。
ゴーダルも驚いた顔をしているので、彼も知らなかったらしい。
「これどうやったんだ……?」
「あら、私はこれでも短期間で10人以上をPKしたのよ。当然他のPKとも情報のやり取りもしているし、何人かとはフレンド登録しているわ。PK界隈って、今は人数が少ないからか意外とコミュニティ形成が早いのよね。ほら、ちょうど今もメッセージが届いたわ」
この女怖すぎだろ。
ここまでずっとククルと戯れていたユティナもドン引きと言った様子だ。
もちろん俺も、ゴーダルも、りんご飴も全員が信じられないという顔をしていた。
「ここにいるのもハラスメント警告受けちゃったから少し活動を自粛するって言ってから来たのよね。ちゃんと笑顔でお別れしてきたわ」
またね~、とかわいらしい言葉とは裏腹にやっていることは一つも可愛くない。
なによりも、PKに対しては一切嘘をついていないというところだろう。
PKの仲間に迎えられる土壌を作りコミュニティに馴染んでおきながら、しれっと自分だけ【賞金首】にならない方法を模索し実行し続ける胆力が恐ろしい。
そして、安全圏から切り捨てる算段を既に建ててこの会議に参加していたのだ。
「<ゴズ山道>で活動しているPKや【賞金首】は危険視しないでいいわよ。今の段階で初心者用の狩場でPKや恐喝するメリットって嫌がらせぐらいしかないもの。1人PKしている間に10人の初心者に抜かれるのを許容しているようなものよ?」
初心者用の狩場は早ければ俺やゴーダルのようにゲーム内で2日もせず抜け出すことができる。
そんなところで燻っているPKはレベル上げという大事な要素をないがしろにしているのと同義だ。
「逆に<カイゼン樹林>で暴れてた【賞金首】はかなり危険だったわね、レベル上げと素材集めに並行して対人戦闘の経験を積み重ねられるとなると、早い段階で大規模かつ組織的に動かれた可能性がとても高いわ。まぁ、そこはクロウの坊やが対処してくれたみたいだけれどね?」
「そうなのかい!」
りんご飴は先ほどのじとっとした目から一変、尊敬のまなざしでこちらを見てきた。
「ああ、当然だろ? ルクレシア王国の治安を守るためだ。一人のプレイヤーとして当たりまえのことをしたまでさ」
俺は決め顔でそう言った。
嘘は言ってない。
【賞金首】の物資が目当てという9割の方を言ってないだけだ。
だからゴーダルもこいつマジかって顔でこっちを見るな!
ユティナもこっち見んな、ほら! そっちでククルと遊んでいなさい!!
「あ、そうだった」
俺は忘れないうちにりんご飴にトレード申請を送る。
「今トレード申請がきたんだけどこれは?」
「少し渡すものがあるんだ」
そして、俺は彼女に40000スピルを渡した。
「このお金は!?」
「俺が<カイゼン樹林>で倒した【賞金首】の所持していたスピルだ」
俺はユティナをちらりと見た。
「どうして……」
「俺には誰がどれだけスピルを奪われたか知らない。それなら、【賞金首】を狩るために使えたらと思ったんだ。りんご飴もそれだけあれば、必要な物資を揃えられるだろ? 好きに使ってくれ」
「で、でも!」
「もちろん打算はあるさ。俺の装備とか戦闘用のアイテムとかも作ってほしいからな。いやー楽しみだなー、新しい装備! ほら見ろよ、まだ初期装備なんだぞ俺? 耐久値残ってるのが奇跡ってぐらいボロボロだ。だれか鍛冶師とツテがありそうな生産職がいればなぁ……」
俺がそうやってちらちらりんご飴を見ていると、どうやら諦めてくれたようだ。
「わ、わかった。私の後輩に鍛冶師がいるから頼んでおくね!」
「まぁ気にしないでくれ、所詮ゲーム内マネーだ。使えるときに散財するぐらいが一番楽しいんだよ」
「物資の選別や交渉の方は私も手伝うわ、直接動くことはできないけれどメッセージでの連絡はできるもの。私が用意した資料も有効的に使えば、素早く動けるはずよ」
メリナのサポートがあれば、悪い方向には進まないだろう。
「きっかけは私に任せてちょうだい、りんごちゃんの進捗と合わせて調整するわ。ちょっと使えそうなネタがあるのよねぇ……」
「ぴぇっ!?」
「あら、ごめんなさい」
メリナの凶悪な笑みを見てりんご飴とついでにユティナの顏が恐怖でひきつってしまった。
すっかりトラウマになってしまったらしい……
「とりあえず話し合う必要がある内容はこれで終わりだな」
俺はこの会議の主催者として、最後に締めの言葉を入れた。
「まぁせっかくだ。ゲームはゲームらしく楽しんでこうか」
☆
その後簡単に情報を整理して会議は終わり、りんご飴は解散と同時に駆けだしていった。
俺とメリナとゴーダルは取り残された形で、ユティナは例のごとくククルが連れていかれて意気消沈中だ。
「それにしても、クロウは酷い人ね」
メリナが俺にそんなことを言ってきた。
なんのことだ?
「あれだけ煽って、うまくいかなかったらどうするつもりよ」
「俺にはわかるぜ、クロウの考えてることはな」
「ああ、猫カフェ開いてもらわないとユティナとの約束が守れないからな」
「……どうやら俺の思っていたことと違うみたいだな」
りんご飴の夢は応援してるし、そのサポートもしていいと思っている。
それとは別に、彼女には猫カフェを開いてもらわなければならない理由が俺にもあったのだ。
ユティナとの約束はしっかり守りたいと考えている。
なので、りんご飴には知らず知らずのうちにこの世界が嫌になって、引退されたら困るのだ。
だったら今のうちにこちら側に引きこむ方がいいだろう。
「ゴーダルもメリナも裏切るなよ、というかしくじるなよ」
「当然だろ。今の時勢で【賞金首】の方に行くやつの気が知れねえな」
「今日の会議は私の努力の賜物よ? 裏切る必要性がないわね」
「よかった。安心したよ」
これで肩の荷が下りた。
この2人を相手に腹芸をしなくて済むのは非常にありがたい。
「そういえばクロウ、さっき気づいたんだが机の上に2個ベルが置いてあるけどそれはなんだ? 1つは貸し出しの消音の魔道具だが、もう1つは違うよな。メリナ、お前が置いたのか?」
「あら、ほんとね。いつの間にか増えているわ」
「これか?」
ゴーダルは、机の上にある魔道具を指さした。
そうだな、ネタ晴らししてもいいだろう。
「これは、嘘を感知する魔道具ではありません」
チリーン、とベルが鳴った。
「……おい、坊主」
「ご想像の通り、嘘を感知する魔道具だよ。嘘を感知するスキルを魔道具に落とし込んだものらしい。《嘘感知》スキルは個人の判断に依存するから、取り調べとか証拠を判別する際にはこの魔道具が使われるんだってさ。わざとだろうけど、消音の魔道具に見た目似せてるのずるいよな」
俺たちを散々苦しめた《嘘感知》という汎用スキルの存在がついに明らかになった。
あまり情報として出回ってなかったのは、単純に秘匿されていたというだけの話だ。
検証班によって取得条件が判明して、すぐに拡散されてしまったらしい。
魔道具に関しては、俺もこの会議に向けて色々備えていたというだけの話だ。
「なるほど。これで俺たちは晴れて一蓮托生であることが証明されたわけだ」
「ああ、こんな魔道具がなくても《噓感知》スキルの取得方法はネットに転がってたから探せばすぐ見つかると思うぞ。少しめんどくさいけど、俺も時間を見つけて覚える予定だ」
ゴーダルは納得してくれたようだ。
騙し撃ちのような形になったが、こちらの警戒についても理解してくれたのだろう。
「さすが坊主だ。恐ろしいほどの頭脳と才覚、尊敬に値するぜ」
チリーン。
「さすがクロウね。あなたのことを見直したわ。女性を誑かして、言葉巧みに自分の好きなように動かすゴミ野郎ではないと信じてたの」
チリーン。
「なるほど、確かに本物らしいな」
「ええ、そのようね」
なんだよ。
「売られた喧嘩は買うぞ?」
「くはっ! まぁいいじゃねえか、お互い様だ」
「《噓感知》スキルは私も覚えてるもの。お互い様よね」
「おい」
「それは最初に言えよ」
全く、油断も隙も無い。
しかし、それも仕方がないのだろう。
まだ、2度3度顔を合わせただけの関係だ。
俺達が今ここにいるのは、たまたま利害が一致しただけに他ならないのだから……
「あら、クロウったら悪い顔をしているわ」
「それはお前もだろメリナ、鏡でも見てきたらどうだ?」
「はぁ、まともなのは俺だけか。やれやれ、先が思いやられるぜ」
「……あなたたち全員悪人面よ」
──PK撲滅作戦、始動。