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第19話 対等・平等・等価

4月9日も08:00頃更新します。

□クイーンズブレイド号 図書施室 クロウ・ホーク


 時刻は夕方。

 窓際の席に座りながら外の景色を見る。

 悠々自適な空の旅。


(悪くない)


 今はおおよそになるが地上800メートルぐらいだろうか。

 飛行速度は50キロから70キロほどを維持。

 ずっと外を見ているからか地上にある集落らしき外壁や大きな町なども何度か目にした。


 そして、やはり目を引くのは異形な地形の数々である。

 毒々しい色をした大きな湖。

 赤褐色の鉱石や岩によって埋め尽くされた岩石地帯。

 色鮮やかな木が生えた七色の森。

 それらすべてが魔域と呼ばれる危険地域。


(どんなモンスターが生息しているか考えるだけで時間が潰せそうだな)


 視線をずらすと静かに読書をしているエリシアが見える。

 イザベラ達と別れ、軽く昼食を取り移動してきたのはこの本の空間。

 蔵書数はおよそ2万冊らしい。

 全くと言っていいほどに人の気配がないのは他の施設の方に流れているからだろう。

 それか、移動目的の旅人はログアウトしているといったところか。


 なぜ魔導船にこれだけの本があるのかと思ったがちゃんと理由はあるようで、この船にあるのは魔導王国エルダンの首都エルダリオンにある魔導図書館。

 そこにある本のコピーがほとんどとのことだ。


 【司書】というジョブが存在する。

 それは本を読む速度が上がる《速読》や本を読むことで経験値を取得できる《読書》というパッシブスキルを覚えるのだが、スキルの一つに生産職の多くが覚える《レシピ生成》と似たようなスキルが存在するのだ。

 その名は《転写》といい、SPを消費することで対象の本の中身を紙に書き記す……ようはコピー&ペーストのようなものだ。

 旅人の増加に伴い、これ幸いにと生産した本の類を国内に流通させ始めたらしい。

 ユティナは本の探索の旅に出かけているので周りには誰もいない。


「……どうしましたか?」


 エリシアは見られていることに気づいたのか視線を上げる。


「悪い、邪魔したな」


「いえ、問題ありません」


 そのまま立ち上がり先ほどまで読んでいた本を本棚に戻す。

 そしてまた別の本を適当に取り戻ってきて広げた。


「ルクレシア王国でも魔導図書館で本の整理の依頼を受けてたけど、本が好きなのか?」


「好きではありますが、どちらかと言うとレベル上げの側面が強いですね」


「レベル上げ?」


「はい。今は【料理人】の天職のレベルを上げているところです」


「読書でか?」


「ええ、【司書】もありますので」


 イデアは生まれながらに就くことが可能なジョブが決まっている。

 それらを天職と呼び、基本的にジョブ設定から外すことはできない。

 ただ、その代わり保有できる天職の数は決まっておらず、国家最高戦力と呼ばれる存在達は合計レベル800を超えるような者達ばかりらしい。

 旅人が合計レベル400という共通の規格を与えられているのに対し、イデアはおおよそ才能依存の側面が強い。


「昔から街の外には出させて貰えなかったので、私のレベル上げの方法はずっと読書(これ)でした」


 《読書》は【司書】以外をメインジョブにしている場合、本を読んだ時に取得できる経験値が減る。

 というのも、最初に覚えるパッシブスキルである《読書の心得》による補正が、メインジョブから外すと弱まるかららしい。

 同様に【料理人】も《料理》というパッシブスキルがあり、料理をすると経験値を取得できるわけだが……


(どうやってエリシアが外に出ずに戦闘職のレベルを上げてたのか疑問だったけど、そういうことか)


 レベル上げは基本モンスターを倒して上げるのが最も効率的だ。

 実践経験はあのフレシアさん宅の地下でいいとしてだ。

 ある種の箱入り娘であったエリシアはモンスター討伐でのレベル上げをほとんど出来なかった。

 だから料理や読書が彼女にとってのレベル上げの方法だった、と。

 そう考えるとモンスターを倒さずに合計レベル170を超えていたというのは俺が考えているよりも凄いのではなかろうか。


(エリシアは【司書】も持ってるんだな……あれ?)


 彼女の天職は確か、下級職が【土魔法師】、【料理人】、【踊子】。

 上級職が土魔法師の上位職【泥濘術師】と【料理人】の上位職【宮廷料理人】。

 そして特殊下級職の【花魔法師】

 この時点で合計レベル400。

 そこに【司書】を加えると……


(合計レベル450か。旅人よりも高いな)


 戦闘職は少ないのでずば抜けて特定のステータスが高くなるということはなさそうだが。


「今更だけど、エリシアの天職っていくつあるんだ? 言いづらいなら言わなくてもいいけど」


 天職のような情報は旅人よりもイデアの方が重要度が高い。

 様々なジョブに就ける旅人と異なり、イデアは一度ジョブが割れたら対策可能だからだ。


(……クロウ、こちらでいいですか? フレシアには他言しないように言われていまして)


(ああ、わかった)


 こういう時《念話》があると便利だな。

 これに関しては軍用装備を見繕ってくれたメリナに感謝するべきだろう。


(私の天職は【料理人】、【宮廷料理人】、【花魔法師】、【土魔法師】、【泥濘術師】、【踊子】)


 そこまでは知っている。


(【司書】、【大司書】、【吟遊詩人】)


 あれ、ちょっと多くありませんか?


(最後に【舞人】の計10個です)


(……)


 ちょっと落ち着こうか。

 ああ、俺は冷静だ。

 落ち着いて計算してみよう。

 【舞人】は【踊子】の上位職だったよな確か。

 下級職が5つ、特殊下級職が1つ、上級職が4つ。

 単純に考えると、だ。


(合計レベル700……)


 戦闘職が少ないとはいえ、レベルだけで見たらほぼ国家最高戦力並だ。


(そうですけど、それがどうかしましたか?)


(どうかしましたかって……)


 さすがは現人神である精霊人というべきなのだろうか。

 思わず絶句しているとエリシアは忘れていたとでもいうようにその情報を付け加えた。


(あとは種族ジョブである【精霊人】でしょうか)


(種族ジョブ? 種族じゃなくてか?)


 聞いたことのないものだ。


(種族に応じたステータス補正などを定性的な指標に収めたものをアウローラでは種族ジョブと呼んでいます。【エルフ】や【ドワーフ】などもそれに該当しますね)


 エルフ、ドワーフを始めチュートリアルのラビが言っていたミニマムラビットも種族になる。

 それらの種族を敢えてジョブという定義に落とし込み表現したものらしい。

 ルクレシア王国が人族の国なのであまり気にしたことはなかったが……


(ドワーフであれば【酒精】の耐性が強いなどあるそうです。詳しくは知りませんが)


 ドワーフと言えば酒に強いというのは有名な話。

 にしても、そういうことか。


(つまり、俺は【旅人】という種族ジョブに就いていると……)


(私も最近知りましたが、一般的な表現ではないみたいですね。クロウの言う通りそのまま種族と表現するのが正しいかと)


 あくまでも花の国アウローラで独自に定義した要素。

 だが、考え方として不要と断ずるには早計かもしれない。


(そう考えるとしっくりくるな)


 旅人だけが修得できる汎用スキルがいくつか存在している。

 アルカナを進化させるスキル《神秘解放(アルカナ)》。

 旅人の間でのみ使用可能なスキル《契約(コントラクト)》。

 これらの汎用スキルはいわば【旅人】という種族に対し与えられたのもだ。


 さっきエリシアが言っていた毒耐性や麻痺耐性はフレシアさん曰く、種族特性とのこと。

 つまり【精霊人】という種族ジョブが有するパッシブスキルと捉えることもできる。


(理由って、もしかして()()か?)


 汎用スキルについて質問した時に管理AI2号レイナが言っていた言葉を思い出す。




 ──ちゃんと理由はあるけど。せっかく聞いてくれたのに答えられなくてごめんね!




 そうなると旅人以外の種族もそれぞれ取得可能な汎用スキルに違いがあるのか?


(ありえるな)


 それなら【精霊人】にも旅人の《神秘解放》や《契約》に該当する専用スキルとでもいうべきものがあるのかもしれない。

 汎用スキルという存在について今まで深く考えたことはなかったが……


(管理AIねぇ……)


 種族という枠組みを設置することによる管理の簡略化。

 当然のようで、しかしながらそこには明確な()()()()が存在している。

 この世界に生きとし生ける者達。

 そのすべてを管理する絶対存在。


「……クロウ?」


「いや、なんでもない。せっかくだし、俺もなんか面白そうな本でも探して読もうかね」


「それが良いと思いますよ」


 そしてエリシアは本に意識を向け集中し始めた。

 彼女とも長い付き合いになりつつある。

 少なくとも、ユティナの次にこの世界を共に過ごしてきた相手だろう。

 イデア、モンスター、そして<アルカナ>。

 旅人の中には彼らをただのデータと呼ぶ者もいれば、隣人のように触れ合う者もいる。




 ──そして俺は現状、その()()()()()()()と言えるだろう。




 敢えて定義するのであれば、旅人もイデアもモンスターも<アルカナ>にも差などない。

 全てに対し対等で平等で等価である。


「クロウ! 魔導王国の可愛いモンスター大全を見つけてきたわ!」


「周りに人はいないとはいえ図書室で大声を出すなよな。あとそんなニッチなジャンルの本なんかよく置いてたな……」


 星天の日からリアルでは1ヶ月が経った。

 この世界をもう一つの【世界】と考えていた旅人からの問いかけに対し、俺はどちらでもないと答えた。

 まずは、この世界を頭空っぽにして楽しむのが第一目標。

 それは今もなお変わっていない。


「なんでも、旅人が書いた本らしいわよ?」


 答えはまだ出ていない。

 だが、いずれ答えはでるはずで。

 そして、それはきっとそう遠くない未来だろうと……


「……りんご飴みたいなのが向こうにもいるってことね」




 なぜか、そう思った




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― 新着の感想 ―
区別していないという一点においては、クロウもあいつらと同類? ……さすがに判断基準が魔法を使えるか否かしかない面々とは比較しようがないか。
更新ありがとうございます
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