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第11話 魔導王国の玄関口

 魔導王国への旅路は順調に進んだ。

 基本は普段通りユティナとエリシアと移動。

 そして、たまに追いついてきたねここと合流。


「追いついたにゃー! 素材くれにゃー!」


「ほーら、美味しい美味しいお肉だぞー」


「うまうまなのにゃー!」


 移動中に襲い掛かってきた下級モンスターの素材をねここに渡していく。

 別名、在庫処理。

 素材としての買い取り価値の低いものであったり、アイテムボックスに残っている不要なものたちだ。

 そんなものでもねここはお構いなしに吸収していく。

 特に下処理などはしていないのだが、生のままガッツリいくこともしばしば。


「今更になるが一応の確認だけど、素材に指定は無いのか?」


「純粋なモンスターからのドロップアイテムの必要があるにゃー。逆に言えば、ドロップアイテムならなんでも吸収できるにゃ。固形物はスキルで吸収、食べれるものはしっかり食べてるにゃ!」


 爪や牙といった素材は基本食べられることを想定していない。

 そういったアイテムは前のようにスキルで吸収する。

 そして、肉や小さな石、植物類は直接食べているとのこと。

 吸収するスキルにはクールタイムがあるらしいので、基本的には使用を温存しているようだ。


「ただ、素材の格にレベルが足りてないと失敗して爆発四散してしまうとのことよ……」


「今のレベルは?」


「72!」


「ジョブは?」


「【健啖家】に【大食漢】にゃ!」


 【大食漢】は下級職【健啖家】の上位のジョブに該当する。


「なんかレベル上がりづらいと思ったら上級職かよ」


 俺でもまだ就いてないのに。

 それに、2つのジョブがレベル50にならないと<アルカナ>は進化させることができない。

 経験値の合計量が少ない下級職2つで合計レベル100にするのが最も効率的なのだ。


(これ、餌付けよね?)


(そうとも言うな)


 ユティナが食事中のねここの背中を撫でながらなんとも言えないような眼で俺のことを見てきた。


「……」


 ねここが来るたびに、嫌っていると言うわけでもなさそうなのだがエリシアは若干不満そうな顔になる。


「エリシアー! ()()()好きなご飯について教えて欲しいにゃー!」


「なぜですか?」


「エリシアのことがもっと知りたいのにゃー! あ、もしかしてこれ、愛の告白ってやつぅ? いやん! にゃーはそんなつもりじゃないのにゃー」


「……これを食べたら帰ってください」


「ジャムパン! うまうまにゃー! フローラルな香りだにゃー!」


「……先ほど、生肉でも同じような反応をしてましたよね」


「それは経験値としてのうまさだにゃ。これはご飯としてうまいのにゃー!」


「そう、ですか。それならいいですけど……」


 俺やユティナと初めて会ったときもあんな感じだったのであまり気にはしていない。


(あれも餌付けよね)


(だな)


「満腹にゃー! またよろしく頼むにゃー!」


 食べるだけ食べた後、用事は済んだと言わんばかりにねここはどこかに走り去っていく。

 また、気が向いたタイミングで俺達と合流するつもりなのだろう。


 旅立ってからさらに数日が経過した現在、これがある種の日常になりつつあった。

 そして……



□3月31日 街道 クロウ・ホーク


「お、見えてきたか」


 ルセスから移動を開始しこの世界準拠でおよそ一週間強。

 リアルは4日ほど経過し、明日はついに4月に入ることになる。


「……なんとか間に合いそうだな」


 俺が通う予定の大学の始業式が4月6日。

 それまでに首都に到着するのが目標だ。


(ん、何に間に合いそうなの?)


(……いや、何でもない。気にしないでくれ)


 それよりも、今は目の前の光景を目に焼き付けよう。

 前みたいにエリシアを背負い、スキルを全力で行使し移動をすればもっと早く着いたのはずだが、それをするとねここが本格的に追いつけなくなるしそもそも旅とは言えないだろう。

 あっという間と言うべきか。

 ようやくと言えばいいのか。


「あれが魔導王国エルダンの国境の街、交易都市レンバか」


 ルクレシア王国から向かう際に最初に訪れる魔導王国エルダンの国境の街。

 交易都市レンバ。

 俺達は魔法の国の玄関口に到着したのだ。



 門に近づくと、そこは列になっていた。

 ルクレシア王国の方面から来たであろう魔車や商人が並ぶ。

 いくつもの枝分かれした街道もあることから、魔導王国エルダン付近にある小さな街などから戻ってきたものもいるのだろう。

 門の内側からルクレシア王国の方へと歩く商人の姿も見えた。


「ラプタール! 行くぞ!」


『GYUAAAAAAAAA!』


 そして、また1人。

 門から出るや否や、その肉体から光が零れ一体の色鮮やかな竜の形になる。

 竜は竜でも、()()だ。


「待ってろよルクレシア王国!」


『GUAAAAAAAAAAAAAAA!』


 そのままその背中に飛び乗り騎乗。

 加速をもってして街道へ駆けて行った。

 どうやら、俺達と入れ違いの形でルクレシア王国に行くようだ。


「ヴェロキラプトルか?」


 恐竜は分類上は地竜になるのだろうか?

 ドラゴン種には大雑把になるが地上で生息する地竜、水上で生活する水竜、空で生活する空竜の区分けが存在する。


 蛇蟷竜ペルーラは広義では地竜に該当するわけだ。


(いいセンスしてるな)


 極彩色とでも言えばいいのか、普通にかっこいい見た目だった。

 それに早い。

 あのスピードなら、強行軍をすればルセスまでこの世界での2日ほどで到着してしまうのではないだろうか?


(ふーん……)


 ユティナよ、だから不満そうに睨むなって。


(俺の相棒はユティナだけだよ)


(ふん、当然よ!)


 再度、門の方を見る。

 ルクレシア王国と魔導王国エルダンは同盟国だ。

 だからといって、無条件に国を移動できるわけではない。

 それは当然、旅人も同じだ。

 アウローラはかなり緩い方だと言えよう。

 あの国はそもそも、本気で9大国に侵略されたら抵抗できないという背景も存在している。


 今のところ特に大きなトラブルもなく列が進んでいる。

 それは、この世界の歴史もだろうが何よりも……


「次」


「お、俺達だな」


 前にいた魔車がそのまま門を通過したのを見送り、進んでいく。

 一目で兵士とわかる装いの男性が話しかけて来る。


「旅の方でしょうか。どちらから来たかお伺いしても?」


「ルクレシア王国の王都ルセスからですね。私は旅人で、彼女が<アルカナ>です」


「旅人ですね。そちらのフードを被った方は……失礼、顔を見せて頂いても?」


「はい」


 エリシアはフードを外し、なにか衝撃的なものを見たかのように兵士が固まった。


「……あの、どうしましたか?」


「あ、えと……」


「うおっほん!」


 かたまった彼の背後。

 強面の男が大きく咳をする。


「は、はいいい! し、失礼いたしました。もう被り直していただいて結構です!」


「……?」


 エリシアは少し困惑しながらも再度白のフードを被り直す。

 兵士の反応は少し気になるが……それよりも、だ。


(あの人、強いな)


 先ほど仕事をしろと言わんばかりに威圧した男性。

 役職的に見ると彼らの上司、兵士長とでも呼べばいいのか。

 鎧を着こんでいるわけではない。

 あくまでも軽装だ。

 そして、手元には杖を持ち周囲を常に意識している。


(揺らぎが少ない)


 周囲の魔力の流れ。

 あの兵士長から感じるそれにほとんど乱れがないのだ。

 常日頃から体内に流れる魔力に対して意識を向けていることの表れだろう。

 つまり、彼は魔法師級と呼ばれる存在だ。

 ルクレシア王国では、全くと言っていいほどに見かけなかったが。


(期待させてくれるねぇ)


 今この瞬間、ここで暴徒が現れようともすぐに鎮圧せしめるであろう実力者なのだろう。

 魔法の国たる所以が既に現れている。


「では、これからする私の質問に"はい"か"いいえ"で答えてください」


「わかりました」


 なら、さっさと入国を済ませてしまおう。

 兵士は手元に鈴のようなものを取り出した。


「はじめます。あなた方は魔導王国エルダンに何らかの不利益を与えるつもりはありますか?」


「いいえ」


 俺に続くように、ユティナとエリシアも答える。

 それを受けて、兵士は手元に取り出した鈴を確認した。

 おそらく嘘感知の魔導具だろう。

 それも、市販の物よりも高性能な魔道具に違いない。


 密輸品や犯罪行動の意思の確認。

 そのセーフティラインがこの世界には存在しているのだ。


(そりゃ、嘘を見破れるなら問題なく国境の管理はできるわなぁ……)


 多くのモンスターが生息する魔域がある以上、そちらを経由する形での入国は完全に防ぐことはできないだろう。

 しかし、この方法であれば少なくとも街中に入れる事は防ぐことができる。

 もしここで、俺が街の中に入ると同時に暴れ出すような危険な思想犯だったとしよう。

 先ほどの質問で意識をずらして答えをしたとしても……


「次です。街の中で武器を、スキルを、他者を害す武力を振るうつもりはありますか?」


 この質問に引っ掛かるわけだ。


「あなた方はルクレシア王国に指名手配されている、もしくは賞金首に任命されていますか?」


「いいえ」


 この後もいくつかの質問に答えていく。

 質問に対しはいかいいえを答えるだけなので、時間にしては3分にも満たないだろう。


「以上です。ご協力感謝いたします。街の中に入りましたらこの札を持ち冒険者ギルドにて登録をお願いいたします。それが、他国から訪問されましたあなた方の身分を一時的に証明するものとなります。今後、街の出入りで兵士に声をかけられた際は登録証をご提示ください」


 兵士から渡された札を受け取る。

 札には簡単に冒険者ギルドとだけ書かれていた。

 どうやら対応のギルドで登録をする必要があるらしい。

 商人であれば商業ギルドを案内されるのだろう。

 俺達は旅人であり、戦闘職であるため冒険者ギルドを案内された訳だ。

 そしてここまで対応してくれた兵士は佇まいを直した。


「ようこそ、魔導王国エルダンへ。我々はあなた方を歓迎いたします」


4月1日も08:00頃更新します

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― 新着の感想 ―
猫のなりきりを活用されてか、いいようにあしらわれてますね。なりきりのための情報収集されてそうなことを考えたら、すぐに関心が移る猫形態の方が助かるのかな。
コレの実のタルトも食べれたし。世界が繋がってて広がってくと旅してる感じですね!そしてついにエルダン入国。空の旅も始まると思うとワクワクです。
更新ありがとうございます
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