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第20話 世界のルール

□王都ルセス 国立魔法図書館 クロウ・ホーク


「本日はルクレシア王国、国立魔法図書館をご利用いただきありがとうございます」


 俺たちは、王都ルセスにある図書館に来ていた。


 ここは貴族街の門のそばにある広場に建てられた巨大な図書館で、ルクレシア王国の歴史やジョブの記録、過去の事件などを記録、管理しているらしい。


 俺たちプレイヤーはルクレシア王国の冒険者ギルドや商業ギルドに登録すれば利用できるようになる施設らしく、商業ギルドと冒険者ギルド、そして国の魔導騎士団共同で運営しているとのことだ。


「こちらが貸し出し用の消音の魔道具になります。この施設内であれば自動的に魔力が充填されますので、会話する際はご使用ください。また、施設の外では使用できず、持ち主の所在地もある程度わかるようになっているため窃盗が確認された際には厳重に対処致しますのでご注意ください」


 入館料を払ったあと、受付の女性から説明を受けながら消音の魔道具を受け取る。

 制限こそあるもののガーシスが冒険者ギルドで使用したものとほぼ同一のものだ。


「<アルカナ>をお連れになる際は、一定以上の大きさの場合キーアイテムボックスへ待機いただくようにお願いしているのですが……」


 旅人が持っている特別なアイテムボックス、キーアイテムボックスという場所が<アルカナ>の存在としての核になっている、とNPCは認識している。


 守り神や守護霊みたいな存在が表に具象化しているといったような理解らしい。


 実際にユティナも入ろうと思えば入れるらしく、なかなか過ごし心地がいいとのことだ。


 受付の女性はユティナを見て少し驚いた顔をしながらも、そのままでいいと言ってくれた。


「それではどうぞお楽しみください」



「それでクロウ、本当に来るの?」


「ゴーダルは来るって言ってたから、街の中には入れるんだろうな」


 俺とユティナは図書館でとある人物と待ち合わせをしていた。


 といっても、まあメリナなのだが。


 待ってる間、ルクレシア王国の歴史について書かれている本をペラペラめくり時間を潰す。


「やっぱそうだよなぁ」


 きっと()()は隠すほどのことではないのだろう。

 いずれ、誰もが気づいていくことだ。

 だからこそ、最大限利用できるときに利用してしまおう。


「お、来たか?」


 時間を潰していると、俺は《気配感知》で近づいてくる一つの気配を捉えた。


 さすがにこの感覚にも慣れてきたな。


 そして彼女は当然のように俺の正面の席に座り、消音の魔道具をチリンと鳴らした。


「あら、奇遇ね」


「一直線に俺の下へ向かってきておいてそれは無理があるんじゃないですかねぇ?」


「ええ、そうよ。クロウが会いに来てくれないから、私の方から会いに来たの」


 ゴーダルは露出の多い装備に変えていると言っていたが、予想とは裏腹にしっかり厚手の服を着ていた。

 街の中ということもあり、戦闘用ではなくおしゃれ装備といった感じだ。

 長い紫色の髪を後ろに垂れ流し、どこか楽しそうな顔でこちらを見ている。


「呼び出して悪かったよ、俺の方から向かえばよかったか?」


「別にいいわ。内緒話をするなら図書館よね? 静かだし、消音の魔道具も貸し出してもらえて、私も初日はここに入り浸ってたの。いいところよね」


 メリナが来た。


 彼女と1対1で話すのは初めてだが、冒険者ギルドであった時と違いどことなく雰囲気がある。


「悪の女スパイ感がでてるな」


「そう? 嬉しいわ。それで、あなたがユティナちゃんね。こないだはほとんどお話できずにごめんなさいね。ちょっとテンションが高かったのよ、今は落ち着いてるから安心して」


「え、ええ。ユティナよ」


 ユティナは少し気おされているといった感じだ。


「呼び出した俺が言うのもなんだけど、本当にまだ【賞金首】になってないんだな。結局昨日から何人PKしたんだ……?」


「さぁ、10人超えてからは数えてないわね」


「衛兵さああああん! 危険人物が街に入り込んでますよおおお!」


「すごいわね……」


「消音の魔道具使ってるから聞こえないでしょうに。失礼しちゃうわ」


 大体10人に通報されるとアウトらしいからな。

 つまり、【賞金首】認定されていないトリックがあるということだ。

 それを利用して、メリナは未だに【賞金首】にならずに活動することができている。


「ふふ、本題に入る前に少しお話をしましょうか」


 メリナはトークタイムをご所望らしい。


「いいぞ、それで?」


「クロウの気になってる通報についてだけれど、確かに【害意判定システム】が基準よ。けれどそれは、実行犯だけでなく被害者がいて初めて成立するの」


 メリナはなぜ自分はここにいられるのかを楽しそうに話し出す。


「つまり被害者側が被害を受けたと自覚して初めて【通報権】の通知がされるってことか?」


「正確には違うけれど、まぁ似たようなものね。【害意判定システム】と被害者側の意識に加えて最終的に管理AIの独断と偏見で決まってるみたいよ。ゴーダルが今から襲うぞって言いながらかかってこいって応えたプレイヤーに仕掛けても通報されてなかったでしょ? 【決闘システム】を利用してない時もあったけれど、あれも一種のPKの形といえるわ。ただ管理AI的にはPKではないという判別ということね」


 俺の【通報権】に対する認識は少しずれていたらしい。

 あっているけれど、それだけではないといった感じだ。


「なんでそんなことがわかったんだ」


「あなた、管理AI2号のレイナは知ってる?」


「知ってるけど……」


「彼女に会うためにデスペナルティを頻繫に繰り返すプレイヤーがいることは?」


「存在は聞いたことあるけど見たことはないな」


 レイナも自分に会いに来てくれるのは嬉しいけど、ゲームで遊んでくれないと言ってたし、そう考えると一部はレイナに会うためだけにこのゲームをプレイしているのだろう。


「レイナに会うためにPKに殺されに行ったとき、そのPKされたプレイヤーに【通報権】は来ると思う?」


「……あー、なんとなく理解した」


 彼女の話し方からするに、実例があったのだろう。 


 機械的な処理をするのであれば、PKは害意をもってレイナ信者をPKした。


 しかしPKされた側のレイナ信者はそれが目的だった。


 PKされることが目的な者に【通報権】を与えてしまったら、意図的に他のプレイヤーを【賞金首】にできるということとほぼ同義になってしまう。


「それを防ぐための【害意判定システム】でそれに加えて最終判断は管理AIがやってるのでしょうね。それが私の結論よ」


「そういうことか」


 チュートリアルで、ラビは管理AIが監視しているから誤判定は起きないと言っていたが、文字通り状況を見て判断しているらしい。


「私が今ここにいるのがその証明よ。私がやったことは単純、PKはPKでもエンタメ重視のなりきりPKね。人もちゃんと選んだから、彼らも相応に楽しんでくれたはず」


 だから、メリナは10人以上PKしてもいまだに【賞金首】にならず、NPCから追い出されずに街の中にいられる。


 そういう話らしい。


「ただ【賞金首】にはならなかったのだけど、ハラスメント判定で警告を受けてしまったのよねぇ」


「は?」


 今なんて?


「男の子をPKするのにも飽きたからかわいらしい女の子に声をかけたのだけれど、振られてしまったわ。その時ついでにハラスメントの警告も受けちゃったのよねぇ。この服装も反省の意を示すためにしょうがなくしているのよ……やっぱユティナちゃんすごくかわいいわね」


「えっ!?」


「どう、お姉さんと楽しいことしない?」


「し、しないから。しないわよ!」


「そう、残念だわ」


「うちの子の教育に悪いのでそういうのやめてください」


 全く懲りてないなこの女。


 反省の意はどうした。


「あら、それはルクレシア王国の歴史の本ね、興味あるの?」


 俺が手に持っていた本に気づいたらしい。

 どうやら、メリナの琴線に触れたようだ。


「ああ、まぁ気に入ったゲームのフレーバーテキストはある程度読むタイプだからな」


「奇遇ね、私もよ。そうね、それじゃあ理解度チェックでもしてみようかしら?」


 理解度チェック?


「何か問題でも出してくれるのか?」


「簡単なものを少しね。クロウはこの世界の宗教について知ってる?」


 メリナは頬杖を突きながら、どこか俺を試すように、そう問いかけてきた


「……この世界は一神教をベースにした多神教、だな」


「ええ、続けて」


「この世界を管理し見守っている【契約の神】が絶対にして唯一の神、それ以外にも神様はいると考えられているが、この世界に干渉してるのは【契約の神】だけ。そして、【契約の神】が契約を交わしてこの世界に訪れているのが俺達プレイヤーだ」


 つまり、俺たちのゲームのログインは【契約の神】との契約という風にNPCに理解されているのだ。

 まぁ、間違ってはいないだろう。

 契約の神は運営で、利用規約の承諾と月額のプレイ料金という対価を以てして、俺達プレイヤーはこの世界を遊んでいる。


「<アルカナ>は契約の神が旅人を招待した際に渡す守護霊のような存在、世界各地に散らばっている神話や逸話は、【契約の神】の分霊、契約の神以外がこの世界に置いて行ってしまった神の欠片の存在、宗教観が根付いていない一部の民族の信仰によるモンスターの偽神化と言われている……でいいんだっけか」


「ええ、勉強熱心なのね」


「たまたまさっき読んだところが問題に出てきただけだよ。適当に勉強したところがたまたまテストに出てきただけさ」


 メリナは何かを探るように俺のことを見ている。


「それで、どうしてこのタイミングで突然勉強なんてしだしたのかしら? レベル上げはいいの、みんなに置いてかれてしまうわよ?」


「このタイミングだからだよ」


「あら、もしかしてそれは私を呼び出したことにも関係があるのかしら? それならぜひともその理由を教えて欲しいわ」


 そうだな……


「違和感はあった」




 ──ルクレシア王国では現在【賞金首】が6人確定しており、彼らの名前はメニューの賞金首リストで確認できる。




「なんで、他の国の【賞金首】の名前はメニューで確認できないんだ? まるで、他国の【賞金首】は俺達の敵じゃないみたいじゃないか」


 ここで重要なのは、誰にとっての賞金首なのか。


「最初からヒントはあった、ゲームのホームページで、チュートリアルで既に俺達には情報が落とされている」




 ──プレイヤーは最初に9つの国家から好きな国を選択し始めることができる。


 ──一応ここで選択した国に所属ということにはなるけれど、所属国家は変更できるよ。




「所属国家の変更。それは自由と言っているようで、実際にはどこかの国に所属していなければならないという制約に他ならない」


 つまり、【賞金首】リストで確認できる【賞金首】は自分が所属している国のプレイヤーから、一定以上通報されたプレイヤーに限られるということ。


 そして今日、レイナと会話して確信した。


 <Eternal Chain>を創ったであろう悪魔のゲーム観。




 ──ゲームに対する没入感を高めるために複雑なバックグラウンドは必要不可欠でしょ!




 複雑なバックグラウンドとは何か?


 人間関係?


 組織同士の関係?


 それらもあるだろうが、違う。


 この世で最も複雑な背景は……







「それは、歴史。世界情勢。国と国との関係、国際事情だ」






 人は様々な創作物に触れる。

 その中には多くの歴史がある。

 悲劇、喜劇、剣劇、大冒険活劇、復讐劇。


 それらは全て、作品を彩る重要なスパイスだ。


 その世界の歴史を感じることで人は創作物への没入感を高めていく。

 そして、その世界での出来事を記録する概念を歴史と呼ぶのだ。




 あの悪魔はつまりこう言っている

 

 ゲームへの没入感を高めるなら、もう一つの歴史を作ってしまえばいい、と。


 プレイヤー(P)(v)モンスター(E)の争いを。


 プレイヤー(P)(v)プレイヤー(P)の争いを。


 (G)(v)(G)の争いを。


 生活を、冒険を、戦いを、非日常という名の娯楽を。


 笑いも涙も喜びも悲しみも全てを飲み込んだ歴史を。


 大は小を兼ねるのだから、どうせなら作ってしまえばいい。


 文字通り剣と魔法のファンタジー世界を創ってしまえばいい。


 君たちはその世界(ゲーム)で、一人の登場人物(プレイヤー)になればいいのだ、と……


 そして、メリナは。

 否。






 PKとして活動しておきながら、()()()()()()()()【賞金首】になっていない悪女は、獰猛な笑みを浮かべた。






「いいわ。合格よ、クロウ。あなたを私の共犯者として認めてあげるわ」


「ちがうぞ、メリナ。お前が俺の作戦に協力するんだ。そこんところ履き違えるなよ?」


「そうね、それじゃあどちらがより先を見ているか、情報のすり合わせの時間と行きましょうか。この後のためにもね」


「ああ、答え合わせをしよう。吠え面かくんじゃねえぞ」


「ふふ、ぞくぞくするわ。私こういう腹の探り合いも大好きなの、現実ではできない貴重な体験よね? たくさん私とお話しましょう?」





□王都ルセス 国立魔法図書館 個室 クロウ・ホーク


 今この場には、俺を合わせて3人のプレイヤーが集まっていた。

 机を囲うような形で椅子に座り、思い思いに時間を潰している。


 そこに、勢いよく一人の女性が入ってくる。


「クロウ! すまない、遅れてしまった。リアルで急に連絡がきたから対応してたんだ」


「いや、いいよ。りんご飴も理由も説明せず呼び出したのに来てくれてありがとな」


「うん、クロウも2日ぶりぐらいだね! いや、昨日ぶりの方が正しいのかな? ユティナも元気だったかい?」


「ええ……ククルちゃんはいるのかしら?」


「いるよ、ほらククル行ってあげて」


 これで全員揃った。

 少し遅れたが始めるとしよう。


「はっ、そろいもそろってなんて悪人面してやがる。いったい何を始めるつもりなんだ、俺には皆目見当もつかないぜ」


 4本の腕を器用に操り、やれやれと言った様子で戦闘狂はそう嘆いた。


「ゴーダル、あなたが一番の悪人面よ」


 どこか呆れたような顔で、悪女は戦闘狂を見つめる。


「それで、私はなんで呼ばれたのかな?」


 猫カフェを夢見る女性は、どうして呼び出されたのかわからないといった顔をして、こちらに問いかけてきた。


「これから説明するよ。それじゃあ、俺たちによる俺たちのための楽しい作戦会議を始めようか」


 故に俺は、これからの話を進めるために、消音の魔道具をチリンと鳴らした。






 その名もシンプルに、PK撲滅大作戦。

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