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第29話 グランドクエストの報酬交渉

□王都ルセス 商業ギルド クロウ・ホーク


 グランドクエストの掃討作戦が行われた翌日、といってもリアルは深夜のログインなのだが。

 朝の11時にログインし夕方の16時頃にログアウトとほぼ半日こちらの世界にいたため、あの後現実に戻った俺はなまった体をたたき起こし仮眠を含め所要を諸々終わらせてきた。


(さて)


 待ち合わせ場所は商業ギルドで借りることのできる個室。

 相手は当然メリナだ。


(それじゃあ頑張ってね! 私はエリシアのところに先に行ってるわね!)


(逃げない逃げない)


 顔を隠すようにフードを被ったユティナの背中を押しつつ商業ギルドの中を進んでいく。

 俺は素顔だが、周囲からの視線はほとんどない。


(うん、やっぱドウゴクは信用できるな)


 正直ユティナにも表にいてもらう方がこちらとしても気が楽だ。

 それに、下手に隠しすぎるのは存外ストレスがたまるものであるし違和感を与えやすい。

 であれば、そろそろ前みたいに自由に歩き回ってもいい頃だろう。


(おっと、ここだな)


 扉を前に、ユティナは小動物のようにびくびくと震えている。

 フードから顔を伺うように出し、今からここに入るのかといいたげに俺のことを見上げていた。


(本当に今から入るの?)


 あ、本当に言った。


(なんでそこまでメリナを怖がるんだ? ちょっと色々悪巧みをしているだけの自称優しいお姉さんだぞ)


 自称というのが重要だ。


(クロウはあの獲物を狙うような眼で見られたことがないからそう言えるのよ……)


(似たような視線ならちょくちょく貰うけどな)


 メリナはユティナのことを相当気に入ってるらしいからなぁ。

 俺も理由こそ違うが似たようなものだろう。

 俺という存在はメリナからすれば叩けば鳴るおもちゃのようなものだ。

 遊び相手として、そして共犯者として。


(ま、今日でしばらく会わなくなるんだ。なんだかんだ長い付き合いの相手だし、最後に顔ぐらいは見ておいても損はないと思うぞ)


(……そうよね)


 それでは、最後の交渉といこうじゃないか。

 ユティナも踏ん切りがついたようであるため、そのまま扉を開ける。

 そして、いつものように悪女は座って待ち構えていた。


「あら、いらっしゃい」


 これまでも、そしてこれからも変わらないであろう笑みを浮かべながら。



「クロウ、ユティナちゃん。とりあえず、グランドクエストお疲れ様と言わせて貰うわね」


「お互いにな。昨日は随分と忙しそうだったな」


「まあね、今日も色々やることが山積みなの」


 メリナとの会話は和やかな雰囲気から始まった。


「ふふ。それでは時間も限られているし、早速本題に入りましょうか」


 彼女は一枚の紙を取り出す。


「<蛇蟷竜ペルーラ>の討伐。今回の作戦の中でもまず間違いなく一級戦功ものね。戦場は見たわ。あんなことを為せるモンスターが偵察班にも一切引っかかることなく潜んでいたなんてね」


 メリナはどうやら蛇蟷竜が暴れたJ地点の戦闘の跡地を見たようだ。

 大地は荒れ果て、極大の攻撃跡が刻まれ、草花は焼失したあの戦場を。


 上級モンスター。

 ただの腕の一振りで数百メートル単位で地形そのものを変えてしまう存在。

 甘く見ていたわけではないが、あれほどの破壊をまき散らす怪物がうじゃうじゃしているなら、イデアがこの世界の覇権を取れないのは当然なのかもしれない。

 あの蛇蟷竜ですら氷山の一角に過ぎず、それよりも上の【超越種】が存在しているというのだから。


「報酬についてなのだけれど……その前に一ついいかしら?」


「うん? いいけど」


「そう、よかったわ。クロウは蛇蟷竜の素材を持っているわよね」


「あるな」


 具体的に6個ほど。

 竜骨や竜肉、炎獄結晶は蛇蟷竜以外の共通ドロップ枠だ。


「もし、その中に<蛇蟷竜の竜核>があるなら買い取らせて貰えないかしら?」


 ……ほう。


「他のドロップアイテムはいいのか?」


「できれば欲しいけれど多くは望まないわ。それで、どうかしら?」


 なるほどな。


「あるぞ」


「あら、随分と素直に話してくれるのね」


「俺は嘘をつかないを信条にしてるからな」


 主語や必要な情報を敢えて言わず相手が勝手に誤解するように誘導はするがな。

 メリナと軽くジャブを撃ちあっていると、ユティナがまた始まったと言わんばかりに俺とメリナのことを諦めの眼で見ていた。

 俺達の言葉での殴り合いはさすがに見慣れたらしい。


「それで、何に使うつもりなのかぐらいは聞いてもいいんだよな?」


「ええ、簡単にいうと物的証拠と言えばかしら? 今回の魔域の浄化で上級モンスター2体の討伐を成し遂げた。それを内外にアピールするのにちょうどいいのよ」


 この時期に旅人の手によって倒された上級モンスターというのはアピールポイントになるのだろう。

 それはイデアに対しても旅人に対しても。


「なるほどな……だけど、それだけじゃないんだろ?」


「もちろん。大結界の宝珠は知ってるわよね」


「ルセスに張られている結界を作り出している魔道具だよな」


 ダメージ減少、状態異常回復、HP回復を街全体にかけ続ける魔道具。

 維持コストはかなりのものらしいが、一つの街を安全地帯に作り替えることができるものだ。


「それの素材については?」


「……もしかして、それが<蛇蟷竜の竜核>なのか?」


「正確には一定以上の品質を有した【核】ね。上級モンスターを実際に倒すのもかなりの労力を有するし、倒しても確定で手に入るわけでもないわ。それに大結界の宝珠に使えるほどの品質を有するか否か、色々調べてようやく素材足りうるか判断するらしいの」


 そして、メリナはアイテムボックスから新緑色の球体を取り出した。

 手のひらから少し零れ落ちそうになるほどの大きさのそれを俺に見せて来る。


「<母大樹の樹核>。今回の魔域の浄化で手に入ったマザーウッドのレアドロップよ」


「なんで持ってるんですかねぇ……」


「もちろん、買い取ったからに決まってるじゃない。……ああ、知らないのね。今回の<マザー・ウッド>のドロップの枠数は確認できただけでも100を超えてるわ。多くはいわゆる参加賞のような<母大樹の硬葉>だったけれどね」


「ほー、そりゃまた随分と大判振る舞いだな」


 おそらく魔域の核として存在していた影響なのだろう。

 その中から<母大樹の樹核>をドロップした旅人から買い取ったと。


「これも大結界の宝珠の素材として使えるか調べる予定なのだけれど、2つあった方が可能性は増えるし、依頼する手間も少ない方が良いでしょう? 旅人主導で新しい街を作るという試みだもの。ぜひとも大結界の宝珠は設置したいところよ」


 国の在庫を貸し出してくれと言えるものではないだろうしな。

 それこそ、製作依頼含めて色々な調整が必要というわけだ。


「意図はわかった。それで、いくらで買い取ってくれるんだ?」






「100万スピルでいかがかしら?」






「……」


(100万……)


 準比較できるものではないが、メリナから提示してきた値段はこのアイテムは現実準拠で1000万円相当の価値があると言っているに等しかった。

 バーティは俺の<マグガルム・コート>が大体上下セットで700万スピルと言っていた。


(まじでバーティには頭が上がらんなぁ……)


 それはそれとして……だ。


「ダメだな、200万」


「あら、随分と強気ね」


「俺も色々調べたんだ。せっかく手に入ったアイテムだからな」


 そもそも蛇蟷竜自体なかなか討伐されないモンスターらしい。

 彼らの生息域が人類の生存圏と被ってないのが主な要因だ。

 現状ルクレシア王国で蛇蟷竜に会うのに一番早い方法はザウグ山脈の深層、深淵の森と呼ばれる地域まで狩りに行くか、今回のように流れて来た個体を討伐するかぐらいだ。

 そして、ザウグ山脈の浅層ならともかく、奥地は入ったら生きて帰ってこれるような環境ではないようだ。

 

 ただ、具体的にどういった装備に使えるかなども詳しくは記されていなかった。

 なにか良い装備が作れるものかと思ったが、少なくともルセスの魔導図書館や冒険者ギルドには記録されていないらしい。


「数年前、冒険者ギルドが買い取った時の価格は200万だったらしいんでな。それに倣っただけさ」


「あら、知ってたのね」


 メリナはこれは一本取られたとでも言いたげに笑う。

 こんにゃろう。


「100万スピルもぼったくろうとはいい度胸だな」


「ふふ、知っての通り装備を作れるかも不明な素材よ。大結界の宝珠に使えなかったらそれこそ観賞用に飾るか、研究用として消費されるのがオチだもの。レアすぎるアイテムというのも考え物ね。クロウもアイテムボックスの中に眠らせている使い道のわからないレアアイテムの一つや二つはあるでしょう?」


「……」


 【マグガルム】からドロップした<災厄星狼の光核>については色々調べたのだが、使い道どころかその名前すらどの文献にも存在していなかった。

 わかったことはレイラーの言った通り【マグガルム】からドロップしたレアアイテムであるということぐらい。

 そうなると、実際に<マグガルム・コート>として俺の力になってくれている<魔狼犬の毛皮>の方がよっぽど価値があったと言えるかもしれない。


 <蛇蟷竜の竜核>のようにレアアイテムでも使い道がわからないというのは今後も起こりうると考えた方がよさそうだな。


「もしかしたら、素材として使ってみたら簡単に装備として使えるものができるかもしれない。だけど、それがクロウが求めている性能のものか、本当に作れるのか、再現性のあるものか、クロウが完成するまでこの国にいるのか。考えたらきりがないわ」


 りんご飴が一定回数以上自分の力で作成を成功させないとスキルで真贋の仮面を作れないと言っていたように、この<蛇蟷竜の竜核>を使用して作成できる装備が存在しているとしてだ。

 実際に成功できるのか、そもそも存在するのかといった問題がある。


「だから、その使い道の少ないアイテムを有効に活用できるツテがある私が買い取ろうという話よ。110万」


「つまり、何らかの使い道が見つかった時はそれ以上の価値が生まれる可能性があるってことだろ。200万」


「無名の旅人であるあなたが蛇蟷竜の素材を捌くのは大変じゃないかしら? 今ならその手間を全て私が肩代わりしたうえですぐに支払いもできるわよ。それとも、ずっとアイテムボックスの中に腐らせておくつもり? ねぇ、謎の仮面戦士さん? 120万」


「それは交渉材料足りえない。謎の仮面戦士がいることで利益を得てるのはメリナ、お前もだろ? 200万」


「……少しは譲歩してくれてもいいのではなくて?」


「高性能な装備には金がかかる。維持費も、強化費用もな。そして、装備が壊れたら壊れたで新しい装備を用意しなければならない。こういうところの積み重ねが大事なんだよ。200万」


「ふふ、強情ね。嫌いではないわ」


 メリナは少し考え込む。

 金か、物か。

 200万スピルを払って手に入れた時の損益を考えている。

 何より、彼女はこのやり取り自体を楽しんでいる。


「……そうね。それなら、この後の報酬の話に色を付けましょう」


「色?」


「ええ、そうよ。と言っても、個人的に私が使おうと思って準備したものを加える感じね。私はちょっとお願いすれば割と簡単に手に入れることができるのだけれど通常プレイでは手に入らないような、そんなアイテムよ。140万」


 少なくともそれは60万スピル相当の価値があるか、それに付随する何かがあるということなのだろう。


「どうかしら?」


 うーん。


「よし、即金130万でその交渉を受け入れよう。10万はそのアイテムの期待の表れだと思ってくれ」


「あら、嬉しいわ。それならトレード申請をさせて貰うわね」


 そして、そのまま先ほどの交渉の通り交換を行った。

 俺の手元には130万スピルが入る。

 一気に小金持ちだな。

 このままルセスで何もせずともしばらく暮らせそうな額だ。

 でも、装備を集めたり強化しようとするとこれもすぐに無くなるんだろうなぁ。


「ふふ、ありがと。他の蛇蟷竜の素材も良ければ私が買い取るわよ。当然、市場価格でね」


「そうだなぁ……」


 先ほどメリナが言っていたことも間違ってはいない。

 蛇蟷竜の素材を売り払うにせよ、装備を作るにせよ足が残るのは事実だ。

 であれば……焔獄結晶と竜骨、あとは竜肉か。

 いわゆる汎用ドロップと呼べるであろう素材以外は……


「じゃあ頼む」


 そのまま残りの素材もメリナに買い取ってもらった。


「ふふふ……」


(凄い悪いことを考えてそうな顔をしてるわね……)


 その直感はあってると思うぞ。

 実際に考えてるんだろうな。


「ふぅ……報酬の話に戻るわね」


 メリナはひとしきり笑った後、話を戻してきた。


「ああ、まずは当初の予定のものを頼む」


「任されたわ。魔法使い用の装備が欲しいという話だったわね。と言っても、入替戦だけならともかく蛇蟷竜の討伐も考慮するとそれに見合ったものになっているかはいささか不安が残るのだけれど」


 そのままメリナはいくつかアイテムを取り出してきた。


「属性の指定はなかったからいくつか用意させてもらったわ。まずは<マザー・ウッド>の素材を使用して作られた杖からよ」


「随分と早いんだな」


「信頼できる知り合いに急ピッチで用意して貰ったの。これが追加報酬と思ってちょうだい。手抜きはしてないから安心して」


***

深緑の杖

装備可能条件:合計レベル150以上

耐久値:500/500

装備補正:INT+10%、土系統魔法威力+5%

装備スキル:《母大樹の冥護》

装備中に発動した土属性系統の魔法威力増加

***


(へぇ……)


 見た目はシンプルな木製の杖。

 かといって質素というわけではない。

 先端には深緑色の意匠があしらわれ、翡翠色の宝石も散りばめられている高級感溢れる杖だ。


「いわゆる<マザー・ウッド>装備ね。魔法杖ながら高い耐久力と癖のない性能が特徴よ。装備条件が緩いこともあって市場価格は現在40万スピル。作成には上級職を要求されるちょっとレアな一品ね。ちょうど昨日から出回り始めているわ」


 装備の価値は大きく3つで評価される。

 装備補正、耐久値、そして装備可能条件だ。

 それらが高いほど値段も上がるのだが、やはり重要なのは装備可能条件になる。

 どれだけ性能が良かろうと、装備可能条件を満たしていなければ性能を引き出すことはできない。

 耐久値が高ければ鈍器として使えるかどうかといったところだ。

 その点で見るとこの装備はレベル150あれば誰でも使えるという汎用性の高さを有している。


「いい装備だな」


「でしょう? 土系統の魔法を覚えてなくてもそこらの装備よりもよっぽど優秀よ」


 そのままメリナが用意したというアイテムを見ていく。



***

アークロッド

装備可能条件:合計レベル100以上

耐久値:350/350

装備補正:INT+1000

装備スキル:《高位魔法の心得》

魔法威力上昇、魔法耐性上昇

***



「深緑の杖が手に入る前に用意しておいた装備ね。ちょっと性能は下がるけど、魔法耐久を高めてくれるのが偉いわ。装備スキルの効果はINT依存で上昇すると検証班からの報告で分かっているものね」


 俺の要望に応えるためだろうが、これまた随分と癖の無い装備だ。


「ちなみに入手ルートは?」


「知り合いにちょっとね」


 なるほど……



***

ダークリング

装備可能条件:合計レベル150以上

耐久値:200/200

装備補正:MAX MP+800

装備スキル:《闇魔法強化》

闇属性魔法威力微上昇

***


***

ライトリング

装備可能条件:合計レベル150以上

耐久値:200/200

装備補正:MAX MP+800

装備スキル:《光魔法強化》

光属性魔法威力微上昇

***


 そして、これ以外にも炎、水、風、土と各種下級魔法師の属性の指輪が揃えられている。


(これまた随分と……)


 効果の付いた特殊装備枠。

 それも汎用性の高いものが揃い踏みだ。

 まず間違いなく高い。

 正確には需要があるため、欲しいと思ってもすぐに売り切れていることの方が多い。

 こういったアクセサリー枠は手作業で作らないと効果が付与されないため供給が基本間に合わないのだ。


「特殊装備枠は空いてるわよね?」


「基本高いし、そもそも大体売り切れてるからな。よく揃えたなこれ?」


「知り合いにちょっとね。もちろん製作者は秘密よ?」


「……」


(……どれだけ知り合いがいるのよ)


 コネ=選択肢の広さというが、まず間違いなくこの悪女はそれを体現しているな。


「服装備は必要なさそうだし一旦見送らせてもらったわ。どう、満足して貰えたかしら?」


「ああ、始めてメリナのことを純粋に凄い奴だと言いたくなるぐらいにはな。本当に貰っていいのか?」


「言ったでしょ。あくまでさっきのは市場価格よ。どちらかというと腕のいい製作者を確保できるかがそれらの希少性を高めているの。素材だけ渡してはい報酬でいいならもっとサービスするわよ?」


「それは勘弁だな」


「でしょう?」


 腕のいい生産職とのツテの有無によって装備の揃えやすさは段違いになる。

 メリナの言った通り、さっきのはあくまで市場価格。

 どれだけ有用な素材を手にしても、それを形にしてくれる生産職がいないのであればそれは無用の長物だ。


「最後に私が個人的に用意していたものね」


 メリナが机の上に小さな箱のようなものを置いた。

 そのまま開けるよう促されたので、開けてみる。


「これは……イヤリング?」




***

念話のイヤリング

装備可能条件:合計レベル50以上

耐久値:100/100

装備補正:なし

装備スキル:

《肉体同化》:装備中肉体と同化する

《念話》:対となる念話のイヤリングの装備者と念話が可能になる。

***





「……っ!」


 俺は思わずメリナのことを見た。

 悪女は楽しそうに俺の反応を見て笑っている。


「ふふ、知ってるのね」


「……当然だろ。<念話のイヤリング>。製作法が民間に秘匿されている()()()()だ」


 俺がユティナと使用している《念話》を無条件で誰でも使用できるようにする装備。

 その有用性は計り知れない。

 少なくとも、各国の軍がこの装備の製法を秘密にしている程度には。


「2つの装備スキルを有しているという希少性。装備しているかどうかも相手に悟られない隠密性。対となる装備でなければ《念話》は発動しない安全性。肉体に同化するという性質上装備者が死ねば自動的にポリゴンとなって砕け散る親切仕様」


「その代わり、常に特殊装備枠を一つ使用して《防具切替(アーマー・スイッチ)》の対象にもできないというデメリットがあるが……」


「あってないようなものよね。そもそも装備していることが相手に悟られない時点でそれはデメリットになってないわ」


 そうなのだ。

 【風魔法師】の《囁風》や、【高位指揮官】の《陣営指揮》のように実際に口に出した音声を遠くへ伝えるスキルは存在している。

 しかし、《念話》はそもそも声に発しなくていいため会話をしていてもバレない。


「……用意したのか、()()を?」


「ええ、()()()()にお願いしたら用意してくれたの」


 このメリナの知り合いと言うのは旅人だけではなかった。

 イデア、それも軍用装備を渡しても何の問題もないような高位の役職。

 もしくはそれに匹敵するほどの貴族とのコネ。


「あ、私たち旅人が死んでもロスト判定にならないのは確認済みよ。頭から上が吹き飛んで死なない限りね。だから、デスペナルティになるにしても首から上の形は守り切った方が良いわよ」


「縁起でもないことを言うなよ……メリナ」


「なにかしら?」


()()()()()


 先程までの内容であれば十分相互理解の範疇だった。

 俺の仕事を評価し、メリナはそれに合うよう報酬を用意した。

 俺も自分を客観的に評価し、この報酬であれば問題ないという理解を示していた。


 しかし、これは違う。

 これは簡単に手に入るというものではない。

 明らかに天秤が釣り合わない。

 この悪女の性質を、<蛇蟷竜の竜核>とのトレードからこのシナリオを描いていたメリナの考えを読めばおのずと答えは導き出せる。









「──()()()()()?」








「ふふ……」










 悪女はそれはそれは楽しそうに笑った。

 これまでも、そしてこれからも変わらないであろう笑みを浮かべながら……

念話のイヤリングとは……

素材及び製法が民間に秘匿されている軍用装備の一種。

会話可能な効果範囲や、スキルを相手にかければ対象を問わないという点だと《囁風》や《陣営指揮》の方が優れているため純比較はできないが、その利点は秘密裏に会話できるという点にある。

機械帝国レギスタの工作部隊には全員分配備されている。

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― 新着の感想 ―
うーん、悪女が楽しそうに笑っていらっしゃる。 グランドクエストは終わってもクロウの戦いは終わらないですね。
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