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第17話 【管理AI2号】 レイナ

□2035年 2月17日 烏鷹千里(うたかせんり)


 俺は落下の衝撃でHPを全損しそのまま死んだ。

 これでデスペナルティになるのは2度目だ。

 現実に戻ってきた今、先ほどまでの興奮状態は嘘のように収まっている。

 残っているのはやりきったという達成感だろうか。

 楽しい夢を見た時に近いかもしれない。


 さて、デスペナルティになったわけだが。


「……暫くデスペナルティになる予定はないって言ったから気まずいな」


 まぁ、色々終わらせてから入ろう。

 いくつか確認したいこともあったしちょうどいいか。

 俺はSNSで簡単に調べ物をしてから、再度ゲームの世界にログインした。



「クロウくん遅いよ! せっかくいろいろ話そうと思ってたのに!!」


 ログインするといつかのように白い謎空間で、私怒ってますと言いたげな顔でレイナが待っていた。


「2日前あんなこと言って、割とすぐにデスペナルティになったのが気まずかったんだよ」


「そんなこと気にしなくていいのに……それよりも見てたよ。すごいね! もう<プレデター・ホーネット>を倒しちゃうなんて!」


 レイナはウキウキと言った様子だ。

 しかし、すぐに怪訝そうな顔をしてこちらを見てくる。


「嬉しくなさそうだね」


「嬉しくないわけじゃないけど、俺達だけの力じゃないからなぁ」


 <プレデター・ホーネット>を倒せたことは喜ばしいが、乱入のような形であったし、おそらくHPの7割ぐらいはハニーミルクが削っていた形だ。

 俺の攻撃が当たるようになったのも、【刃歯】が《風爆》で奴の機動力の源である翅を奪ったからだ。


「ううん、君たちの実力だよ。あれは数ある選択を潜り抜けた結果で、<プレデター・ホーネット>を協力して倒せたのも、あの場で適切な判断を君が下したからだ」


 そんな俺の反省を、それは違うと切り捨てる。


「私はデスペナルティを前提にしたゾンビアタックをするのは嫌いだよ? だけど、誰かのために自分の死を勘定に組み込んで、それを貫き通す覚悟は好きかもしれないなぁ?」


 レイナはそんなことを上目遣いで言ってくる。

 うん、彼女にはとりあえず一つ言っておこう。


「他のプレイヤーにも似たようなこと言ってるだろ」


「ばれちゃったかー。あはは!」


 そう、この悪魔は俺だけにとどまらず他のプレイヤー各所に似たような言動を繰り返しているのが確認されている。


 男性プレイヤーに対しては俗にいう「あれ、もしかしてこの子俺のこと好きじゃね?」という行動を意図的に取っているのだ。


 女性プレイヤーに関しても「どうしたの? 何か嫌なことあった? 話でも聞こうか?」という風に悩み事があれば恋の悩みから仕事の悩みまでメンタルカウンセラーのごとく相談に乗り、次も何かあれば話を聞くよと言ってゲームの世界に送り出す。


 デスペナルティ中のサポートという仕事はこれ以上ないほど果たしている。


 その結果、男女問わずりんご飴みたいな熱心な狂信者が生まれてもいるのだが、俺のように夢から醒めたプレイヤーもそこそこいるわけだ。


「さすが悪魔だな」


「小悪魔系管理AIだからね。だけど噓を言ってるわけじゃないんだよ、悪魔は嘘をつかないものなので♪」


 レイナは口元に人差し指を添えて、とても楽しそうに笑った。


「それで<プレデター・ホーネット>はどうだった! 強かったかな!」


 レイナは抑えきれないと言った様子で、楽しそうに話しかけてきた。


「まぁ、一言でいうならレベル54で戦う相手じゃない、だな」


 早い、大きい、空を飛んでいる、市販の回復薬では完全に回復できない猛毒がある。

 高威力の範囲攻撃もある。

 あれで序盤に行けるエリアのボスモンスターだというのは正直驚きだ。


「ただ、大技の衝撃波を撃つ前のチャージ硬直のタイミングで妨害できればまだやりようはあるだろうな」


 あの大技は威力は高いが隙もかなり大きいのだ。

 初見殺しの側面が強いだけで、チャージの開始直後に総攻撃すればキャンセルすることもできるかもしれない。

 

 結局火力は必要になるだろうがな。 


 あの時はハニーミルクが後隙を攻撃していたが、《大回転割》の準備する時間がなかった妥協案みたいなものだったのだろう。


 あの機動力も、俺がやったように状態異常によって行動を制限すれば封じることもできるだろう。


「うんうん!」


「……嬉しそうだな」


「うん。だってそれだけ真剣に攻略方法を考えてくれるぐらい、この世界を好きになってくれてるんでしょ? 嬉しくもなるよー!」


 レイナはこのゲームの開発側の人間?だ。

 真剣にゲームを攻略されるのが嬉しいのだろう。

 彼女にとってそれは誉め言葉と同義なのだから。


「それで俺の方からもいくつか確認したいことがあるんだけどいいか?」


「前言ってくれてた感想の話?」


「お、おお」


 よく覚えてるな。


「<汎用スキル>の機能開放がレベル50は遅いんじゃないかと思ってな。ショートカットとか必要だし」


「この度はご質問いただきありがとうございます。大変申し訳ございませんが、お客様の質問に関しましては、公開できる情報がないためご回答いたしかねます。本日は貴重なご意見いただきありがとうございました。お客様のご要望を今後のサービス向上に役立ててまいります」


「唐突に事務的すぎる!?」


「規則なんだよね。お互いに意見は言い合うけど、担当外のことについては口外しちゃだめだよって言われてるの」


 どうやら、管理AI同士の決め事があるらしい。


「ちゃんと理由はあるけど。せっかく聞いてくれたのに答えられなくてごめんね!」


「いや、大丈夫だ。理由があるならしょうがないよな」


「それで他にもあるんだよね?」


 レイナはどんな質問をしてくれるのか、期待の眼差しでこちらを見ている。

 そんな面白い質問をするわけではないので少し申し訳ないな。

 ただ、この世界を作ったであろう彼女に、一つだけ聞いておきたいことがあったのだ。


「今の流れは、運営が望んだ形なのか?」


「流れって?」


「PKとPKKの争いだな」


 あの<カイゼン樹林>の一幕を知っているということは、レイナは俺達プレイヤーの情報を持っているということである。


 アバターの管理を担当しているというし、ログを参照することもできるのだろう。

 サービス3日目、ゲーム内で5日経過した現在、初期リスポーン地点の9カ国にてPK並びに【賞金首】の増加が始まっている。


 正直流れが早すぎると思うが、PKという仕様が存在する以上遅かれ早かれこの問題は表面化したはずだ。

 そして彼らを狩るための賞金首狩り、つまりPKKが各地で名乗りを上げ始めているのだ。

 義憤に駆られたものもいれば、我欲で【賞金首】の貯め込んだ物資目当てのものもいる。


「【賞金首】狩りした俺が言うのもなんだけど、正直この流れはもう止まらないと思うんだ」


「私もそう思うよ? 大変なことになっちゃったね!」





 ──目の前の悪魔は笑っている。


 ──<プレデター・ホーネット>の話の時と同じように笑顔で話を聞いている。




 

「始まるだろうな、プレイヤーとプレイヤー同士の争いが」


「始まるだろうね、血で血を洗う殺し合いが。引退されちゃったら私も寂しいなぁ、みんなとお話しするの楽しいのに……私に会いに来てくれる子もいるんだよ? 嬉しいけど、ちょっとはゲームで遊んで欲しいって思っちゃったりもするんだよね」





 ──目の前の悪魔はとても楽しそうに笑っている。


 ──これは何もおかしなことではないと言いたげな顔で笑っている。




「ある種の生存競争みたいなものなのかもな。PKなんて仕様がなくても引退する人は普通に引退するし、逆にPKがあるからゲームを始めるっていうスリルを求めるプレイヤーだってそりゃいるもんな」


「そうだね、勝ち取ってこそ価値は生まれるっていうしね!」




 ──目の前の悪魔は無邪気な顔で笑っている。


 ──<Eternal Chain>のUIや仕様、ジョブシステム、そのほとんどを考案したという悪魔は、どこまでも楽しそうに笑っていた。





「質問はそれでいいのかな?」


「ああ、つまらない質問だろ?」


「ううん! そんなことないよ! これなら私でもなんとか答えられそう!」


 そして、レイナは、否。


 【管理AI2号(運営)】は、質問(問い合わせ)に答えた。


「今の流れもなにも、『私たち』は『君たち』の選択を尊重するだけだよ?」


「どちらかに、ではないってことか」


「選択の余地を残したって感じかな?」


「つまり、どちらに転んでもよかったと?」


 そう聞くと、悪魔はそれはそれは楽しそうに笑った。





「さぁ、どうでしょう?」





 ……これ以上は、答えられないってことか。


「悪魔は嘘をつかないんだっけか」


「うん。だから、クロウくんのやろうとしてることも応援してるよ。頑張ってね!」


「まぁ、ほどほどにな」


 彼女は嘘をつかない。

 きっと俺だけではなく、この世界で遊んでいるみんなのことを応援しているのだろう。

 そこに貴賤などなく、どこまでもチュートリアルで説明した通りのルールにのっとり平等に取り扱う。

 PKもPKKも生産職も戦闘職も趣味人も全員、彼女から見れば一人のユーザーだ。

 それがこのゲームの仕様だからだ。


「それじゃ、クロウくん。そろそろ時間だね。今後も楽しんでくれると嬉しいな!」


 だからこそ、彼女は管理AI足りうるのだろう。


「私たちの世界を、この非日常(ゲーム)を!」


 知りたいことは最低限確認できた。

 ならば、俺も遠慮なく遊ばせてもらうとしよう。


「ああ、楽しませてもらうよ。なんでもありのゲームをな」


 俺は今後の展開を考えながら、いつものように扉を潜り抜け、<Eternal Chain>の世界に飛び込んだ。




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