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第23話 魔導師級魔法使い

□魔域の浄化 J地点


『GYAAAAAAAAAAA!』


 開戦を告げる咆哮と共に殺戮が生物の形となった竜は飛びかかる。

 それに対し、2人の旅人は左右に飛んで回避した。

 竜の着地と同時に大地は揺れ、そのまま一切の停止もなく移動を開始。

 左、ドウゴクに迫る。


「なめてんじゃねーぞオイゴラァ!」


 正面で吠えた獲物を視界に収めながら、蛇蟷竜は背後から迫る熱を感じ取る。


『GYAAAAAAAAAAA!』


 それに対し、尾をしならせ叩きおとそうとするも、当たらない。

 躱し、避け、自身に追従してくる。

 それは呪いの光が武器を象った魔法だった。


「《残影地斬(シャドウエッジ)》!」


 周囲を熱に囲まれたまま、正面から放たれる影の斬撃。

 それに対し蛇蟷竜は直接左腕を振るい、爪撃によって破壊した。


『GYUAAAAAAAAA!』


「はっ!」


 それを見ても怯むことなくドウゴクは前に出た。

 蛇蟷竜との距離が近づくと共に影が蠢く。


「おおおおおおらあああああああああああ!」


 黒い剣が蠢き、()()()

 男は黒に染まった剣を振るい蛇蟷竜は右腕を突き出し……轟音。

 接触と同時に0距離から影が大量に放出される。


 正面からの撃ち合いは引き分けとなりお互いに弾かれる。

 蛇蟷竜の腕は勢いのまま地面にぶつかり爪跡を残す。

 その衝撃でドウゴクは全身が弾き飛ばされる……ことはなく大地を踏みしめた。


「最高だなああああオイィッ!」

 

 力負けをした様子はなく、それどころかさらに前に出る。

 すなわち、存在証明。

 STR、武器の品質、耐久力。

 <アルカナ>による恩恵を受けた旅人はこの殺戮を相手取るにふさわしいことを証明した。

 ドウゴクはグレルゴス同様、蛇蟷竜の正面に陣取ることを許されたのだ。


 蛇蟷竜は即座に左腕を振りかぶる。

 ドウゴクは迎え撃つべく構え……蛇蟷竜の左腕に呪いの光が突き刺さった。


「……!」


 そのまま左腕を押し出し、爆発。

 攻撃の軌道がずれる。


「……はっ!」


 ドウゴクは空いたスペースへさらに一歩踏み出した。


「《残影地斬(シャドウエッジ)》!」


 すかさず影の斬撃を竜の肉体に叩き込み、流れるように離脱する。


『GYUAAAAAAAAAAA!?』


 それは悲鳴か、はたまた怒りか。

 離脱するドウゴクを追うべく蛇蟷竜は振り向こうとし……顏に呪いの光が突き刺さり、爆発。


『GYUA! GISHAAAAAA!』


 視界を奪われた蛇蟷竜は苛立たしげに全身を捻った。

 狙いをすまし長い尾をしならせ、的確にドウゴクを迫撃。

 自身を撃ち殺さんと高速で迫る尾に対し、ドウゴクは影を剣に纏わせる。

 それで迎え撃つことにより、弾かれる形で離脱しようと……


「はいそこ」


 した瞬間、4つの呪いの剣が割って入った。

 それらは弾かれ、しかしながら尾による一撃の軌道もずれた。

 ドウゴクは拍子抜けしたような表情で着地し、背後に再度飛ぶ。

 蛇蟷竜と距離を取り、仕切り直しとなった。


『GISHAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 その咆哮に込められた感情は、怒り。

 矛先は今この場にいる魔法使いへのものだった。


「へぇ、影の放出なんてこともできるのか。それに、影を纏わせることで大剣並みの大きさにもできる、と。やっぱ全然本気出してなかったのな」


「……」


 ドウゴクは視線をずらし、仮面の男を見る。

 背後には銀の少女がフワフワと浮いており、その周囲には呪いの剣が9つ整列するように並んでいた。


「……はっ、お前が言うなゴラァ」


 ドウゴクは先ほどの蛇蟷竜との一合で目の前の男がしたことを整理する。

 左腕による一撃に対して魔法を爆発させずらし、攻撃の隙を作り出す。

 ドウゴクを逃がさんと追従しようとした蛇蟷竜の顏へ的確に魔法を浴びせ、一瞬怯ませる。

 それすらも潜り抜けさらに迫撃をしようとした蛇蟷竜による尾のしならせた一撃に魔法が割って入り、これまた軌道を逸らす。


 それは宣言通りの援護だった。

 ドウゴクの《魔法感知》はこの光の一つ一つが()()()と警鐘を鳴らす。


「その剣は趣味か?」


「ん? 普段剣を使ってるから扱いやすいってだけだな。ある程度規格化しておいた方が楽だし。他の武器もいけるぞ」


 そのまま呪いの光は矢となり、斧となり、槍となり形を変えていく。

 最終的には入替戦の時で使用していたカブトムシの形となり、ほらな? とドウゴクの疑問に答えた。


(こいつが魔法師級ってやつか。実物を見るのは入替戦以来だが……)


 目を見張るべくはその自由度の高さだろう。

 本来、魔法スキルというのは発動と同時に放って終わるものだ。

 基本は唱え魔法を放つだけ。

 決められた過程を通すことで、誰でも簡単に魔法を放つことができる。

 まるで、()()()()()()()

 共通の規格として、そうあることを決定づけられたかのように。

 

 本来のそれと比べると目の前の光景は非常識の塊だった。

 複数の魔法がまるで自らの意思を持っているかのように自由に動き続けている。

 それだけではない。


 ドウゴクは違和感を覚えた。

 覗き見るステータスからどの程度のMPを使用して魔法を発動させたのかは大体予想がつき、明らかに消費したMP以上の威力で直撃しているように見えたからだ。


 ドウゴクの知識では複数の魔法を制御できる存在という認識だった。

 それに対し、これはなんだ?


(物理干渉能力の付与、性質そのものを変換できるのは知ってたが、それだけじゃねえ。あの威力。密度……ああ、それだな。魔法の発動規模を《詠唱》スキルなしに変化ができるってことはその密度すらも意のままってことかい)


 面白い。

 浮かび上がるは歓喜。


 この世界の住人(イデア)が言うには魔力操作という技術を有するか否かで、戦闘の厄介さが変わるらしい。

 それは数百レベルの差を覆すほど。

 魔力操作のできるレベル100の熟練の魔法使いと魔力操作のできないレベル200の魔法使いが戦ったとき、まず間違いなくレベル100の魔法使いが勝つと言われているらしく……ドウゴクはそれはそうだろうと正しく認識した。


(ただの魔法スキルで()()がどうにかなるわけねえわなァ……)


 笑みが深まっていく。

 おそらく、この男は魔法師級と呼ばれる存在の中でも間違いなく()()()()()だ。

 それこそ、この世界に住まうイデアの魔法師級よりもよっぽど……


 この()()()()()に来れるようになって……サービスが開始してからまだたったの1ヶ月半。

 この世界基準でようやく2ヶ月半近く流れた程度。


 なぜこれほどまでの魔法の技量を有しているのか。

 一体どこで身に着けたのか。

 興味は尽きない。

 だからこそ……


(ちっ、ブレスか)


 ドウゴクは思考を切り上げ、次に備える。

 距離が離れたことで蛇蟷竜は攻撃手段を変えた。

 ブレスの予備動作。

 一瞬のままに息を吸い込み放出を……


『GISHAAAAAAAA!? GOOHU!?』


 瞬間、蛇蟷竜の口内が爆発した。


「……何をしおった」


 ドウゴクはそれを為したであろう男を見る。


「何をって……魔法を口の中にぶち込んでブレスを口内で暴発させた」


「ああん?」


 仮面の男の周囲にあった魔法の光が一つ減っている。

 今の一瞬で全てのことを終わらせていた。

 攻撃の予備動作を察知し、魔法を操作し向かわせ、顔の動きに合わせ的確に撃ち込む。


「あれだけ予備動作を見たし、ブレスの性質も、どこを破壊すれば誘爆できるのかも、どれくらいの魔法をぶち込めばいいかも、大体分かったからな」


 ブレスが放射系なら無理だったんだろうけど、と小さく零し、ラッキーとでも言いたげに男は蛇蟷竜の方を見ていた。


 そう、適応力の怪物は見ていた。

 ずっと見ていたのだ。

 そのすべてを……






「俺の前で今まで通り簡単にブレスを放てると思うなよ?」






 ぞくりと全身が総毛立つ。

 この男がもし、あの入替戦で本気を出し勝ちに来ていたのなら。

 きっと、この異常なまでの魔法行使によってことごとくをねじ伏せて……


(……はッ! いいぜ、上等だァ!)


 湧き上がるは戦意。

 生まれるは高揚。

 ()()()()()()()()()

 待っていたのだ、()()()()


「仮面戦士! ついてこいやアアッ! こっからギアを上げてくぞゴラアアアッ!」


「そっちこそ、俺が援護してやってんだ。情けない姿を見せてくれるなよ」


「こっちの台詞じゃゴラアアッ!」


 ドウゴクは、待っていたのだ。

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― 新着の感想 ―
ドウゴクがクロウの異常性の片鱗を知ってテンション上げてきましたか。今は共闘しているけれど、戦争イベで敵対することになったりしたら先の入れ替え戦以上にクロウはドウゴクに狙われそうですね。
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