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第21話 蛇蟷竜 VS 旅人

□魔域の浄化 仮拠点 本部


(クロウから?)


 メリナはメッセージを開く。

 そこには無事現場に到着したことが記されていた。


「……あら、ドウゴクと遭遇しちゃったのね」


 現場に向かうように頼んだのは私なのだけれど、とメリナは笑う。

 彼女が思い出すのはドウゴクとの会話。

 干渉するな、誘導するなと言われた。

 メリナはその約束を守り、干渉もせず、誘導もしなかった。

 状況に合わせ選択をした結果、たまたまドウゴクとクロウの中間地点でイレギュラーが発生し、彼らに任せるように依頼しただけ。


(ま、たまたまだからセーフよね)


 それは灰の青年の脳内で流れた言葉と全く同じだった。


 メリナはフレンドリストを開き追加の戦力を送ることを考え……止めた。

 あそこにいるのは討伐ランキング3位。

 プライドを刺激して下手に関係がこじれるのは避けたいと考えた。

 そして新たなイレギュラーが実際に出現した以上、他の人員も下手に向かわせられるものでもない。

 別のイレギュラーが発生した場合のことを考慮する必要がある。


(それに、まだグレルゴスも戦っているみたいだしね。そこにあの二人が加わるのなら時間稼ぎはできるはず……)


 現場に配置していた自警団クランから借りた戦闘員、その筆頭。

 こと戦闘能力だけ見ればヴァンガードの中でも最上位。

 イレギュラーの対処として配置したその男の状態が指し示すのはログイン状態。

 つまり、まだ死んでいないということ。


(ここは彼らに任せるとしましょう……)


 メリナはクロウ・ホークという旅人の判断能力を信頼していた。

 必要なら何かしらの連絡が来るはずであり、少なくとも<マザー・ウッド>が倒し終わるまで最低限時間を稼げると考えているのだろう。

 現場の判断を尊重するのは当然のことであると考えているため、メリナはクロウとドウゴクの2名にあとは任せることを決めた。

 もし倒せなかったとしても魔域の核となっているのはほぼ<マザー・ウッド>で確定だ。

 かの怪物を倒しきれさえすれば、残りのイレギュラー対処人員全員で蛇蟷竜の討伐隊を結成するぐらいの余裕は生まれるだろうと考えていた。


「メリナ、その様子からすると何か進展はあったのか?」


「ええ、とりあえず蛇蟷竜はどうにかなりそうよ。討伐ランキングの3位が対処に向かって現場にも着いたと連絡が来たわ。時間は稼いでくれているみたいだから、この間に私たちも始めてしまいましょう」


 メリナはメニューを閉じる。


「ドウゴクか! いいところにいたな!」


「向こうも準備ができ次第始めるってよ」


「ようやくだね!」


 蛇蟷竜ペルーラと戦う旅人がいる一方、魔域の浄化も佳境に入る。

 作戦の最終目標、<マザー・ウッド>の攻略戦が始まろうとしていた。



□魔域の浄化 J地点


 蛇蟷竜ペルーラ。

 その最大の特徴は背中の鎌を振り回す広範囲への斬撃攻撃にある。

 背中の鋭利な鎌は羽が退化したものであり肉体の移動と合わせおよそ数十メートルもの距離を回転しながら駆け抜ける。

 並大抵のENDでは防御不可の攻撃。


『GYUAAAAAAAAA!』


 咆哮と共に蛇蟷竜は陣形が崩れ去った旅人に襲い掛かる。

 空中戦力のことごとくは優先的に狙われた結果蹂躙された。

 後衛職のほとんどはその高速戦闘によってすりつぶされた。


 周囲の草花や木々は燃え尽き焼野原となった。

 ところどころに小さな炎が燻り、聖水や浄化石の効力は失われ、大地は荒れている。

 既に200を超える旅人がたった1体のモンスターによってデスペナルティに追い込まれたそこは地獄の様相を呈していた。




 だからこそ、この戦場に生き残っている者たちは蛇蟷竜に適応したということに他ならない。





「《攻撃強化(パワーエンハンス)》! 《防御強化(ガードエンハンス)》! 《致命防御(クリティカルガード)》!」


『GOOOAAAAAAAAAAAA!』


 蛇蟷竜の進行方向に陣取るは1人と1匹。

 <ガーディアン>の<アルカナ>が迎え撃つ。

 紅に染まったゴリラの肉体。

 現時点において2.5メートル近いそれがさらに大きくなる。

 <アルカナ>の固有スキル《大猩猩(だいしょうしん)》によって自らの肉体を巨大化。

 被弾面積を広げる代わりに質量と攻撃判定の拡大を獲得。

 そして、効果時間中自身のSTRも2倍にするという上限の解放。

 加えて。


「《能力解放(リベレイション)》!」


 それは自身の最大MPの内50%を使用することで指定した対象のステータスを大幅に上昇させる【付与術師】の奥義。

 上昇値は各種スキルレベル等に依存しており、彼が使用したその効果は全ステータスを30%上昇。

 《戦士の極意》が一律10%なのを考慮すれば【付与術師】としての奥義に相応しい性能と言えるだろう。


『GOAAAAAAAAAAA!』


『GISHAAAAAAAAAA!』


 蛇蟷竜の爪が<アルカナ>の肉体に食い込み……耐える。

 ガーディアンは蛇蟷竜を見事受け止めてみせた。


「《ブライトヒール》! 《ヒール》!」


「よく止めた!」


「ヒャッハー!」


 <アルカナ>へ悲鳴のような声を上げながら回復をかけ続ける男のスキル詠唱に応えるように、足を止めた蛇蟷竜へいくつもの影が襲い掛かる。


「キュイ!」


 空を飛ぶイタチから旋風が放たれた。


「《デスサイス》!」


 闇を纏った死神の鎌を持った男が背後から駆け攻撃する。

 その全身からは身体強化特有の暗いスキルの輝きを灯していた。


「《暴風剣(ストームソード)》!」


 風を纏った剣を構えた剣士が迫る。

 そして、多くが蛇蟷竜の肉体を捉え爆発した。

 蛇蟷竜の尾がしなるもしかし、当たらない。

 一撃離脱。

 攻勢を仕掛けた彼らは一瞬で距離を取っていた。


『GYUUAAAAAAAAA!』


『GUGA!?』


「……っガレアム!」


 <ガーディアン>のゆるんだ力の隙を突き、その圧倒的な暴力によって蹂躙。

 蛇蟷竜の身じろぎ一つで均衡は崩れ去り、竜は止めを刺すべく腕を振り上げる。


()()()()()()()()()()()! 《暗黒(ダーク・ラディ)放射(エーション)》」


 そうはさせまいと蛇蟷竜に向け、極大の闇の魔法が側面より放たれた。


『GUAAAAAAAA?』


 蛇蟷竜はガーディアンを放り投げ回避を優先した。

 当たればわずかながらでもダメージを負う。

 それを嫌ったための行動だ。

 そのまま闇の魔法は何もないところを通過し……


「あめえよ!」


 その角度を変え、蛇蟷竜に迫った。

 急激な角度の変化。

 それは鏡のようなものに手足が生えた異形の<アルカナ>によるものだ。

 固有スキル《魔除けの鏡(アミュレットミラー)》。

 魔法スキルを反射させ……反射時その威力と速度を1.5倍に引き上げるカウンター系のスキル。


 その連携。

 <アルカナ>の背後には1人の少女。

 極大の魔法を反射させる時の衝撃を抑えるべく支えていた。

 魔法を反射させたそれによる急激な角度の変更に対応できず蛇蟷竜の肉体に着弾。


『GYUAAAAAAAAAA!?』


「はっはあ! ざまあみやがれ!」


「やった! あ! え、《風纏強化(エアリアルフォース)》!」


 男は嘲笑とは裏腹に切羽詰まった表情で自身の<アルカナ>である虎にまたがりその場から急いで退避する。

 少女は<アルカナ>を自身の中に戻し身体強化スキルをかけた後、他の旅人と合流すべく走りだす。

 蛇蟷竜は振り向きざまに腕を振るった。


『GYUAAAAAAAAAAA!』


 そして先ほどまで彼らがいた2カ所が大きく爆発した。


「ぎゃあああああ! 死ぬ死ぬ死ぬ!」


「やだやだやだああああ! 死んじゃうよおおおお!」


 まるで抉られたかのような斬撃跡。

 それは<ムーンベアー>を遥かに超える速度と精度によって放たれた飛ぶ斬撃によるものだ。

 先ほどいくつもの奥義を喰らってもなお堪えた様子はなく蛇蟷竜は移動を開始し少女を追いかけた。


「させるか! ()()()()()! 《土壁(アースウォール)》!」


 蛇蟷竜の正面にいくつもの土の壁が形成された。

 それをただの突進で破壊。

 その上で顔を動かし、男を視界に捉えた。


『GUGAAAAAAAAAAAAA!』


「あ、やば……」


 ヘイトを買った男は大きくしなった尻尾から放たれた衝撃波によって、撃ち殺された。 

 その射程は30メートルを超えなお距離がある。

 ただ、その甲斐もあってか鏡の<アルカナ>の主人である少女は難を逃れた。


「わ、私のせいで! ごめんなさいいい!」


「あいつは<アルカナ>もやられてたから問題ない!」


「それより、来るよ!」


 会話は必要最低限。

 命の優先度の低い旅人の犠牲によって、まだまだ役割がある少女を守り切った。

 それだけの現状を受け止め、剣を手に取り、杖を構え、鎌を振りかぶり、彼らは走り続ける。


 現在、蛇蟷竜の蹂躙から生存しているメンバーの多くはAGIに優れていた。

 もしくはその特質的な<アルカナ>の能力を買われ他の旅人の犠牲によって生き延びてきた。


 ヒット&アウェイの繰り返し。

 それによっていくつもスキルを打ち込んできたのだ。


「相変わらず物理が硬い! 肉質の柔らかいところを狙わねえとやっぱダメだな!」


「ヒャッハー! 俺の鎌が弾かれたぜええええ!」


「おいおい! ダメージレース的に俺の魔法が一番か? こりゃMVPは俺のもんだな!」


「ミラちゃん達の援護がなければまともに魔法も当てれないくせによく言うよ!」


 旅人は吠える。

 それは折れないためだ。

 致命を防ぐためだ。

 声を掛け合い、まるで薄氷の上で踊るかのように択を通し続ける。


 次の瞬間、蛇蟷竜は大きく息を吸い込んだ。


「ブレス来ます!」


「やっば!?」


 悲鳴のような声が上がる。

 蛇蟷竜の口から極大な火球が放たれた。

 それは一直線に旅人に迫り、着弾。

 大爆発を引き起こした。


 それに飽き足らず、蛇蟷竜は散弾銃のように小さな火球をばら撒き始める。

 まるで毒蛇が自身の口から毒を発射するかのように。

 旅人達は魔法やスキルで各々迎撃するがしかし……


「壁が足りねえ!」


 先ほどデスペナルティになった男が最後の【土魔法師】だった。

 それゆえに地形の変化による防御ができなくなった。

 旅人達は各々スキルを発動し、避けれるものは避けながら火球を撃ち落とす。

 次の瞬間、1人の旅人が消し飛んだ。


「何が起きた!」


「火球の裏から衝撃波!」


「はぁ!? 糞かよ!」


 業火を防ごうとし、ブレスを突き破る形で衝撃波が直撃したのだ。

 口から炎弾を吐きながら尻尾を振るい衝撃波を放つ二重の攻撃。

 遠距離から一方的に攻撃されたことによって生まれた歪み。

 旅人の数が減るほどに対処の手は遅れていく。


「あ……」


 鏡の<アルカナ>の主人である少女の眼前へ蛇蟷竜の巨体が迫る。

 《風纏強化》の恩恵を受けてなお、ここからの回避行動は間に合わないだろう。


『GISHAAAAAAAAAA!』


「まずい!」


「くっそが!」


「ミラちゃん!」


 既に戦場に残っている旅人は30名を切った。

 そして、また1人デスペナルティに……なることなく一つの影が割って入る。





「《ランページ》!」





 それを防いだのは1人の男だった。


『GISHAAAAAAAAAA!』


 横合いから放たれた光り輝く大剣による強烈な一撃は蛇蟷竜を大きく弾き飛ばす。


「悪い! 回復に時間がかかった!」


「グレルゴス!」


「遅えよバカ!」


 自警団クラン<ヴァンガード>、討伐部隊筆頭。

 この戦場において最も長い間蛇蟷竜と相対してきた大剣使い。

 そして唯一、蛇蟷竜と()()()()()()()()()ステータスと装備を有した旅人である。


『GYUAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 蛇蟷竜は着地と同時に再度肉体を蛇のようにしならせ、グレルゴスに迫る。

 グレルゴスは大剣を構え、振るう。

 爪撃と剣撃はぶつかり合い、周囲に爆音を響かせる。

 自らの数倍もある怪物と正面からぶつかり合う。


「まだまだああああああああアアッ!」


 尻尾の一撃を躱し、腕の攻撃を防ぐ。

 衝撃による反動ダメージの蓄積がグレルゴスが一時的に戦場を離脱した理由であり、それこそが正面から撃ちあえていることの証左に他ならない。

 巧みに大剣を振り回し、脚を切り替え一撃を押し付ける。


「《ランページ》!」


 大剣がひときわ強く輝いた。

 撃ち合った直後、スキルの補正による高速の振り下ろし。

 蛇蟷竜は大きく後方に飛びその一撃を躱した。

 グレルゴスは自身が抜けている間に減った旅人の人数を改めて把握。


「グレルゴス! HPを削り切るのは無理だぞ! どうするんだ!」


 蛇蟷竜は硬すぎた。

 その装甲は並大抵の攻撃はものともしなかった。


 蛇蟷竜は早すぎた。

 奥義を当てるのも一苦労。

 魔法でなければまともにダメージも入らない始末。


 なによりも強すぎた。

 全身が殺すことに特化した形状。

 生態系の頂点に相応しき戦闘能力。


「んなの決まってるだろ!」


 HPを削りきることは不可能だと言えた。

 格上すぎるせいか《鑑定眼》も解析系のスキルを有した<アルカナ>でも一切の情報を取得できないため、どれだけ削れているかも未知数。

 重要部位の破壊にしても心臓の破壊は現実的ではなく、竜の逆鱗のようなものも存在しないことはここまでの戦いでわかっていた。


 であれば、狙うは当然唯一露出している弱点だ。


「ありったけをぶち込んで頭か首を破壊する! 全員息を合わせやがれ!」


「はっはあああ! アドリブかよ! 正気かてめえ!」


「そうこなくっちゃなあ!」


 グレルゴスを除いた旅人は話し合うこともなく、当然のように取り囲むような形で蛇蟷竜の周囲に陣取った。


「《ビーストハウル》!」


 それを受け俺を見ろとグレルゴスは叫んだ。

 《タウント》は気配を強くすることで注意を引きつけるのに対し、こちららは吠え威嚇することで注意を引きつける。


 相手の戦意を引き出すための咆哮。


『SHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』


 旅人達はこれが最後のチャンスであると気づいていた。

 これ以上人数が減ればすりつぶされるだけ。

 数十分以上戦い続けた結果、各々既にSPもMPも枯渇しかけている。

 しかし、この場に残ったのは全員、最適を選び続けるところまで適応した者のみ。


(ここで殺しきる!)


 赤虎に騎乗する闇の魔法使いは使命感と高揚感に身を任せた。


(俺が決める! 俺が決める! 俺が決める!!)


 鎌を構えた男は自身を鼓舞した。


(怖い、けど! 私だって……!)


 比較的初心者でありながら、ここまで命を繋げてくれた旅人達に報いるために少女は奮起する。


「こいやああああああああああ!」


 グレルゴスの大剣から炎が巻き上がった。

 浮かび上がるは炎の鳥。

 剣に自身の肉体を纏わせたそれこそがグレルゴスの<アルカナ>。

 【久焔鳥】ガリュ。

 グレルゴスは大きく踏み込み、蛇蟷竜は駆ける。


「ガリュ!」


 それは【久焔鳥】ガリュが武器に憑依してる状態の時のみ発動できる固有スキル。

 《大炎廻(だいえんかい)》。

 剣身に炎を纏い装備状態時にSTRの大幅の補正を乗せる、それだけのスキル。

 バフを使用したのであれば放つは【大剣士】の奥義に他ならない


(迎え撃つ!)


 グレルゴスは決死を覚悟し……気づく。


(鎌が伸びた……!)


 蛇蟷竜は駆けだした際、背中の鎌が伸び開いたのだと。


(だったら破壊してやる!)


 グレルゴスは自身の役割を明確化した。

 次の瞬間に放たれるであろう一撃は、この蛇蟷竜の必殺。

 背中の鎌を伸ばした状態で高速回転し全てを叩き割る最強の矛。

 であれば、カウンターの要領で鎌を破壊するのが己の役割であると。

 集中は極限にいたり……


(は?)


 蛇蟷竜が四肢を地につけ体を低くし、回転の態勢に入った。


(届かねえだろ!? 一体何をして……!)


 まだ距離がある。

 その場で回転したところで鎌は何も斬り裂くことなく終わるだけだ。

 そう思考し……蛇蟷竜の背中の鎌が()()()()()


(──こいつ!?)


 なぜ、気づかなかったのか。

 なぜ、想定しなかったのか。

 蛇蟷竜は衝撃波を飛ばし、極大の炎弾を放ち、腕の一振りで斬撃を飛ばしてくる。

 であれば……それは必然。


(はっ……)


 グレルゴスは悟る。

 次の瞬間、自分は死ぬ。

 そして蛇蟷竜を囲むような形で陣取った旅人も全員死ぬ。

 これより放たれる一撃はこれまでとは範囲も威力も桁が違う。


(他の連中は気づいていねえ……間に合わねえなこりゃ)


 高速の思考。

 極限の集中によるものか、はたまた走馬灯と呼ばれるものか。

 時間がゆっくりと過ぎていく。

 浮かび上がるは()()と……()()


 故に、旅人は笑った。




「《大地破壊(ガイアブレイク)》ウウウウウウウウッ!」





 グレルゴスは我武者羅に大剣を振り下ろす。





『GISHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!』





 蛇蟷竜は高速で回転し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()が放たれた。











 静寂。

 少し遅れて、風が巻き起こった。

 土埃や煤が蛇蟷竜を中心に波打つようにあがり周囲一帯にくすぶっていた炎が消える。


「……負け、か」


 グレルゴスが持っていた大剣はひび割れ崩壊。

 肉体が横一線分かたれ……そのままポリゴンとなって砕け散っていった。


「なに……が」


「うそ……でしょ?」


「ありねえって……」


 それは円状に放たれた致死の斬撃。

 防御することは叶わない。

 それだけのレベルを……耐久力をこの場の旅人は有していない。

 選択肢は回避するか、撃たせないかの2つのみ。

 そして、全員が攻勢を仕掛けようとしたその時、回避という選択肢を選び取ることができるものは存在せず……この場に生存していた27名の旅人全員は<アルカナ>と共にポリゴンとなって砕け散っていった。


『GISHAAAAAAAAAAAAA!!』


 <蛇蟷竜ペルーラ> VS 旅人276名と<アルカナ>276体の戦い。

 大規模戦闘(レイドバトル)が今ここに決着。

 勝者は戦場に佇む一体。

 <蛇蟷竜ペルーラ>。


『GURURU……?』


 次の瞬間、森の中心付近で熱が膨れ上がったことに蛇蟷竜は気づいた。 

 肌をひりつかせる膨大な熱量。

 見上げると、遠く……遠くに一筋の光が打ちあがるのが見えた。

 それは巨大な鳥の形となった。


 その光を見ていたのは蛇蟷竜だけではない。

 ありとあらゆる魔域の浄化地点から観測されていた。

 それは、とある少女の<アルカナ>のスキルによるものだ。


 ミミフェットの<アルカナ>、【天鳥】ピーシスの《ヒーリング・カウンター》によって蓄積した最大チャージ30万を使用し放った《天鳥の福音》。


 福音の光は発動までの時間が経過すると同時に飛び立ち森の中心へと向かう。

 それに対し、さらなる膨大な力が噴出し、森の一角から極大の光が撃ちあがる。

 上級モンスター<マザー・ウッド>による一撃。

 土属性の極大の魔法弾。


 光と光は正面からぶつかり合い……爆発。

 大気を震えさせ、森がまるごと揺れた。

 それこそが開戦の狼煙に他ならない。


 空から見れば森の中心の一角が完全に消し飛び、そこに鎮座する一体の上級モンスターの姿が見えることだろう。


 森の各地から旅人達による怒号が飛ぶ。

 更なる大規模戦闘(レイドバトル)の開始。

 上級モンスター<マザー・ウッド>を仕留めるべく始まった最後の戦い。

 魔域の浄化、その掃討作戦の最終章が始まった。


『SHAAAA……』


 蛇蟷竜は新たな戦火に引き寄せられるようにそちらを見る。

 この場に残った旅人達の奮戦むなしく、竜は一歩踏み出した。


 森の狩人は新たな獲物を求め彷徨う。

 もし、このまま<蛇蟷竜ペルーラ>によるレイドバトルへの乱入が成された場合、さらなる混沌が巻き起こることだろう。


 では、彼らの戦いは無駄だったのか?

 この戦場で散っていった彼らは何も残せなかったのか。




 ──否、無駄ではなかった。




「足、引っ張んなよ?」


「誰に物を言うとる」


 なぜなら、その戦いをずっと見ていた者たちがいたのだから。

 怪物と相対する優先権を持った者たちは戦場にて散り、その襷は次の優先権を有する者たちへと渡される。


「纏え」


 漆黒のドレスを身に纏った女性は男の影に憑依し、溶けて消える。

 サングラスをかけた男の上半身に黒の刺青が広がり、その剣を漆黒に染め上げた。


「《雷纏(ライトニング)強化(・フォース)》」


 銀の悪魔は灰の青年に憑依し不敵な笑みを浮かべる

 灰の青年はその髪を青に染め仮面を被りつつ、黒のコートを風に揺らし雷を纏った。


 唐突に森の中心で巻き起こった大爆発。

 蛇蟷竜の意識は確かに一瞬逸れた。

 その隙を見逃す程、彼らは甘くない。

 二つの人影は勢いよく飛び出した。




 これより始まるは第二戦(2nd round)




 組み合わせ(マッチアップ)


 上級モンスター<蛇蟷竜ペルーラ>。


 VS


 ルクレシア王国討伐ランキング3位、ドウゴク。

 無名の人外、魔導師級魔法使い、クロウ・ホーク。

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― 新着の感想 ―
先の挑戦者たちだけでは残念ながら攻略ならず、でしたか。<マザー・ウッド>戦も始まり後には引けない状況での<蛇蟷竜ペルーラ>線始まりですね。
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