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第20話 一度限りの共同戦線

 ドウゴクに俺の秘密がバレた。

 ひた隠しにている<アルカナ>がいること。

 俺が魔法師級であること。

 ああ、なんてことだ……






(まぁ、それはバレても別に問題ないんだけど)






 俺という存在がいることがバレるのはある程度織り込み済みだ。

 mu-maにはバレていたし、彗星やちょこちょこドドリアンを筆頭に俺とユティナを知る者も多い。

 あくまでも、ここ最近急激に増えた旅人の熱が収まるまでの応急処置。


 次に魔力操作に関しては……この世界には()()()()がいた。

 最近はエリシアのこともあったのでことあるごとにエゴサーチしていたのだが、【可変詠唱】の発見や【オリジナルスペル】の拡散やら既に色々やらかしている後だった。

 というか【可変詠唱】を見つけたのあいつらだったのかと変に納得した自分もいる。


 いつもお世話になっています。

 こと魔法単体に限れば俺以上に目立っている連中がいるので、正直魔力操作はバレても誤差の範囲内と俺は考えている。

 あの技術は他の仮想世界で培った先行特典のようなものだ。


 そして巧妙に隠していたからこそ、これがゴールであると多くは捉える。

 だが、俺という存在は偽りのゴールに過ぎない。

 この場合……クロウ・ホークは花の国でエリシアの護衛依頼を受け、機械帝国レギスタやノースタリアと接敵した旅人である、という情報に誰も行きつかなければそれでいい。


 バーティからのアドバイスを受け俺は既に方針を変更している。

 隠れ続けるなんてことはきっとできない。

 エリシアが強くなるのを手伝うと決めたあの日から、この世界を見て回るという俺達の目標の他にあらたな目的が加わった。


 最終的なゴールが決まっているのであれば、本命の、次善策の、妥協策にさらに予備の代案を用意し立ち回るのは当然のことだ。


 リリーの依頼から始まったあの奇妙な縁も今思えば良き出会いだったのだろう。

 最終的にどうなるか、などと言うのは考えない。

 今考えてもそれは何の意味もないからだ。

 来たるべき時……この世界を楽しみつくしたその先にきっと答えはあるはずだ。




 ──故に俺は布石を撒く。




「……それはドウゴクもだろ?」


「なんだと?」


「お前が全力で攻撃をしたのは最後の飛ぶ斬撃だけだ。あの、()()()()()だけ」


 そう、あの斬撃は生きていた。


「バレないように放ったつもりだったんだろうけど、あの攻撃は自由に操作が効くんだよな。それこそ、俺の魔力操作のように」


 ミミフェットのアルカナを仕留めるために、僅かに起こった軌道の修正。

 それが示す可能性を一つ指摘する。

 そしてやはり、俺の勘違いではなかったようだ。


「……」


「情報として知られても問題ない範囲の力しか使わなかったのはドウゴクもだ」


 あの時ドウゴクは上半身に影を纏った。

 逆に言えば、肉体の半分にしか影の魔人を纏わなかったのだ。


 つまり、あの形態にはまだ先があると考えてもいいはずだ。

 ドウゴクにはおそらく別に本命の力がある。 

 影の斬撃も、影の魔人も、ドウゴクにとっては通常攻撃のようなものだった。


「そうだろ? ルクレシア王国討伐ランキング3位様」


「はっ、それになんの意味があるってんダァ? 結局はなにもわかってねえってことじゃねえか」


「それはお互い様だろ。俺の<アルカナ>については全くと言っていいほど見当がついてない癖によくそこまで勝ち誇れたもんだ」


 腹の探り合い。

 この時、はじめて俺とドウゴクは対等になった。

 お互いが隠し事があるという心情も。

 魔域の浄化のためにここにいるという立場も。


「……」


「……」


 ドウゴクは何も言わない。

 俺達はそもそもあのイレギュラーに対処するためにここに集まった人員だ。

 それをないがしろにするなんてことは考えていない以上、この場で戦い始めるなんて事はしない。

 もしかしたら、先ほどの何かを条件に約束を取り付ける気だったのかもしれないが、それを俺が牽制した以上これ以上はお互いに藪蛇。


「戦いたいのか」


「ケジメはしかとつける。それに、俺はまだお前と()()の戦いをしていねえ」


 入替戦で生まれた因縁、というほどのものでもないか。

 あの戦いに必要だったのは視野の広さ、生存力、ヘイト管理。

 集団による対人戦という環境である以上、総合的な対応力の高さが求められた。


 だから俺はあの時、徹底して他者から俺という存在の認識を殺した。

 影に潜ませ、意識から外させ、自身の勝利条件を整えることに注力し続けた。

 各々の必殺を引き出すことでメリナの依頼通り盛り上げるために。

 そして現時点の<アルカナ>の上限を測るという()()()()を果たすために。


 その結果、俺は背中を向け逃げ、ドウゴクは戦えと追いかけた。

 もしあの時、俺が全力で正面から戦っていればきっと……


(今更だな)


 あの時はあれが考えうる最善だった。

 その考えは今もなお変わらない。


「なら、勝負をしないか?」


「勝負だと?」


 だから、今回は彼と向き合うことを決めた。

 正面から、しっかりと。


「そうだ。さっきも言った通り勝てる可能性は1割あるかないかってのが実情だ。もし彼らが全滅した時の後釜の俺がそれだとメリナや先ほどの旅人には申し訳ない」


 彼らは屍を積み重ねていく。

 魔法攻撃はほとんど躱され、物理主体の前衛はその高速戦闘にすりつぶされる。


「ドウゴクも確実に勝てるとは言えないはずだ」


「……ああ、確かにそうだな。それで? 勝負ってのはどういう意味だァ」


 ドウゴクは戦意の籠った眼差しで俺を見る。

 この男の戦いへの衝動を刺激したのだから当然か。


「簡単だ。俺とお前で協力してあの竜を倒し、どちらがより大きく戦闘に貢献したかで競い合う」


「ほう、ドロップアイテムの個数っちゅうことか」


 この世界のアイテムドロップ枠は基本的に貢献度によって決定される。

 あの怪物を倒すと上級モンスターとして少なくても20のドロップ枠が存在するはずだ。

 それは討伐時点で生存しているメンバーの内、貢献度によって振り分けられるはずで……


「ルールは?」


「お互いこの戦闘で出し惜しみはせずに本気で戦うこと。ただ、ここで見たこと聞いたことを第三者へ伝えるのは無しだ」


 今目の前にいる相手にだけはすべてを見せる。

 そのための密約。

 あの怪物を倒すのであれば俺もドウゴクも全力を出すのは必須であるからだ。


「そしてこの世界のルール……契約の神による評価をもってしてドロップアイテムの枠数で勝敗を競う」


 ドロップの内容は評価対象外。

 あくまでドロップした枠の数が重要だ。


「意図的な妨害は無し、あくまでも目標は<蛇蟷竜ペルーラ>の討伐だ」


 そのための協力体制。

 本来の目的をないがしろにはしない。


「まぁ、あそこにいる旅人が倒せるならそれが最善だけどな。その時は……一緒にダンジョンにでも潜るか?」

 

 その時はその時だ。

 別に、蛇蟷竜にこだわる必要はない。


「不満か?」


「なるほどなぁ、今回は俺の得意でやろうってのか……」


 前回は俺の得意分野で戦った。

 対人戦、騙し騙されの化かし合い。

 だからこそ、今回はドウゴクの得意で競い合わないかという提案。

 ルクレシア王国の討伐ランキング3位のこの男と。


「オイオイ、ふざけんのも大概にしろよ……お前……」


 ドウゴクは小さく震えだし……






「──最高じゃねえかアアアッ!」






 笑った

 獰猛な笑み。

 喜びの叫び。

 その言葉が示すのはただ一つ。


「乗った。やろうぜ! 謎の仮面戦士ィ!」


 そのままドウゴクはアイテムボックスからそれを取り出した。


「それは?」


「簡易契約書だ。ないよりはましだろ。俺も、お前もな」


 ほんとうに、よくもまぁここまで準備がいいもんだ。


「それなら、改めて名乗らせてもらおうか」


 真贋の仮面を外す。


「俺の名前はクロウ・ホークだ。よろしく」


「……いいのかよ。ミステリアスなのが良かったんじゃねえのか?」


「別にそこまで必死に隠したいわけじゃないからな。それに……」


 この男はあの入替戦の最後の会話からだろうか。

 再会してからずっと俺のことを謎の仮面戦士と呼び続けた。


 愚直なまでのバカ真面目。

 言いたいことははっきり言う。

 迷った旅人がいたら背中を押す。

 この簡易契約書についてもそうだ。

 ドウゴクは言動とは裏腹に思慮深い。

 ここまで求められて何も返さないというのはそれこそ。


「筋は通すべき、だろ?」


「はっ! お前よぉ……()()じゃねえかオイッ! 謎の仮面戦士……いや、クロウ・ホーク! 俺の名に誓ってお前の秘密とやらは墓場まで持っていってやる!」


 別にそこまでしてもらう必要はないのだが。

 そもそもこれもある程度は織り込み済みだ。

 そのままドウゴクはペンを取り出し、簡易契約書に自身の名前を書き殴る。

 そして俺に渡してきた。


「契約に則り、俺も今日見たドウゴクのことごとくを秘密にすることを誓おう」


 俺も彼に倣うように契約書に名前を書き記す。


「貸せ、俺がやる」


「ん?」


 ドウゴクに契約書を返す。

 それをドウゴクはくしゃりと握り。


「《契約(コントラクト)》」


 スキルを発動させた。

 すると、簡易契約書は空気に溶けるように消え、俺とドウゴクの体が一瞬光った。


「今のは?」


「ああん、知らねえのか? ま、俺も覚えたばっかだがよぉ。合計レベル200で覚える<汎用スキル>だ。契約の締結は旅人の間でしか使えねえし双方の合意がないと発動しねえけどな。簡易契約書を契約の神の管理下まで引き上げる効果がある」


 どうやら《神秘解放》と同じように旅人だけが覚えることのできる汎用スキルらしい。

 本来であれば専用の魔道具が必要なはずのそれを旅人同士であればいくらでも締結できる、と。


「これで契約は成立ってことか、なら、紹介するよ」


 <真贋の仮面>を被り直すと共に肉体から光が零れる。

 それは人の形を象り……


「初めまして、私はクロウの<アルカナ>。【天秤の悪魔】ユティナよ」


 ドウゴクは座った姿勢のままユティナのことを視界に収め……目を見開いた。


「は、ハハハ! ハハハハハハッ! そういうことか! ()()もか! だったら、俺達も名乗らねえとだよなアッ!」


 ドウゴクは立ち上がり、彼の影が浮かび上がる。

 それは人の形を象り1人の美しい女性の姿となった。


「俺はドウゴクだ! そんでもって……」


「この姿ではお初にお目にかかります。【深影の悪魔】インと申します。主様共々、よろしくお願いいたします」


「ってわけだァ。……そんじゃ、見届けるとするか」


 ドウゴクは視線を戻しその戦いを見る。

 彼の言う通り、あくまで先ほどまでの会話は蛇蟷竜ペルーラが倒されずに済んだ場合の話であり……


「ああ、そうだな」


 爆発が起こり、大地が大きく吹き飛んだ。

 燃え盛る大剣による一撃を受け、蛇蟷竜は大きく弾かれる。


 その隙を逃さまいと旅人は攻勢を仕掛けた。

 今あの場に生き残っているのは蛇蟷竜ペルーラを倒さんと決意した旅人の中でも上澄み中の上澄みに他ならない。


 俺は戦いを見ながらメニューを操作しメインジョブに【闇魔法師】を設定。

 次にアイテムを取り出し、一飲み。

 それは特上経験値ポーションと呼ばれるものであり……


「あん? お前まだ使ってなかったのか……」


「これで俺も上の中の仲間入りだな」


「はっ! 言っとけ」


 合計レベルが20近く上昇し<マグガルム・コート>によるMPの増幅幅も増える。

 これで俺の準備は整った。

 そして、この準備が必要だったか否かは彼らの戦いの結果に委ねられた。


「……クライマックスだな」


 俺達は観察をし続ける。

 貴重な情報を一片たりとも取りこぼさないために…… 

 

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― 新着の感想 ―
ゴール地点をずらし、当たりを引いたと見せかけて本命を隠し、手札を見せた上で相手の土俵で競おうと持ち掛ける……。これにはもうドウゴクもニッコリするしかありませんね。 合意を得たことで懸案は蛇蟷竜を旅人軍…
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