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第18話 巡り合う

あけましておめでとうございます。

今年もよろしくお願いいたします。

□魔域の浄化 J地点


『GYUAAAAAAAAAAA!』


「《パワースマッシュ》!」 


 怪物が繰り出すは爪による斬撃。

 それに対し男は槌を振るう。

 激突……と同時に、槌がすぱりと斬れた。


「くそがっ!」


 そのまま左腕による振り下ろし。

 それを間一髪で1人の男が割って入り盾で受ける。


「《シールドバッシュ》!」


 同時に傾け、地面に流し……衝突。

 その振り下ろしによって大地が割れ、2人の旅人は弾き飛ばされた。


「ぐおおおおお!」


「ちィィッ!」


 竜は迫撃をしようとするが、周囲から大規模の魔法が放たれたことを感知し移動を優先。

 2人の男は地面に叩きつけられつつも受け身を取り、すぐに立て直す。

 彼らの正面には4人ほどの旅人が立ちふさがりカバーに入っていた。


「あーくそ! これで壊れるの4枚目だぞバカ野郎!」


「こちとらメイン武器2本いかれてるんだが!? もっと装備に金使えってか!」


「破産乙」


「問題ないなら前行け、前! 後衛が狙われて……ちっ!」


 蛇蟷竜は恐ろしいほどの速さで後衛職の一団に迫る。

 それを受け彼らは散り散りになって逃げはじめた。


「うわああああ! 来てる来てる来てる来てるううううううっ!?」


「魔法職は死んでも守れ! 火力が足りなくなるぞ!」


「死んでもっていうか、実際もう何十人も壁になって死んでるだろうがアアアッ!」


「《疾風斬り(ゲイルスラッシュ)》!」


 後衛を守るべく数十人もの旅人が攻撃を仕掛けた。

 各々が身体強化スキルを使用。

 同様に多くの獣が、ワイバーンが、主人と共に蛇蟷竜に攻撃を放つ。


「グゥゥゥアアアッ!」


「PYUOOOOOOOOOOO!」


 地をかける狼は炎のブレスを放ち、空をとぶ白鳥は羽を尖らせ攻撃を飛ばす。

 ワイバーンは毒のブレスを吐き、群青色のフクロウは触れたものを眠らせる水泡を放つ。

 しかし、そのすべてが直撃しているにも関わらず歯牙にもかけない。


 炎耐性。

 睡眠耐性。

 毒耐性。

 高いEND。


 竜は移動のついでと言わんばかりに尻尾をしならせ振るう。

 鞭のように振るわれたそれに狼は撃ち殺されポリゴンとなって砕け散った。

 ワイバーンは地に落ち、フクロウはそれに巻き込まれた。

 白鳥は何とか難を逃れ……先端より放たれた衝撃波によって撃ち落とされた。


『GYUUAAAAAAAAA!』


 次の瞬間、背中の折りたたまれていた鎌が大きく開き展開。

 勢いをつけたまま腕を地面に突き刺した。

 そのまま肉体を引き絞る。


「回転攻撃!」


 合図はそれだけ。

 多くは低い姿勢を維持しながら駆ける。

 何人かは地面を蹴り空へ。

 全方位に放たれるそれを躱し、攪乱するため。

 何十人もの旅人の犠牲によって見極めた予備動作。


 しかし、蛇蟷竜は自らの肉体をほんの少し()()()


「斜め……!」


「ちいっ!」


 軌道の変化を察知した旅人は肉体の反動を無視して踏み込んだ勢いのまま反対方向へ。

 既に攻撃範囲内にいる旅人は死期を悟り……2つの影が躍り出る。


「《暴風剣(ストームソード)》!」


「《暴風剣(ストームソード)》!」


 白の衣装と黒の衣装。

 中性的な瓜二つの見た目。

 2人の剣士が阿吽の呼吸とでもいうべき必殺を放ち、その鎌の根元へ寸分たがわず暴風剣を当てた。

 ダメージはほとんどないが、しかし軌道がわずかにずれた。

 次の瞬間、斜めの円状に入っていた旅人6名の肉体が二つに別れる。

 蛇蟷竜が自らの肉体を高速で回転させた結果、地面には跡が残り、恐ろしいほどの風切り音が響いた。

 その中にはこの攻撃を少しだけ()()()()()()()2人組もおり。





「「ほらよ、仕事しろ寝坊助」」





 息ぴったりの暴言を言い残し、ポリゴンとなって砕け散っていった。

 彼と彼女が守ったのは1人の男。


「いわれずとも。《早食い》……すやぁ……」


 蛇蟷竜のすぐ目の前で無手の男が睡眠状態へと陥った。

 【健啖家】というジョブが存在する。

 それは自身が食した食事アイテムの効果を増幅したり、食べることでスキルを発動する奇妙な下級職だ。

 その中の一つ、食事アイテムの補正を一時的に上昇させる効果によって受ける効果を強化。

 《早食い》によって強制的に状態異常の【睡眠】になったのだ。

 寝たことによって体から力が抜け、崩れ落ちそうになる。


『GUUAAAAAAAAAAAAAA!』


 鎌を振るった直後の少しの硬直。

 しかし、腕を振るえば殺せるそれへ邪魔だといわんばかりに竜の爪が襲い掛かる。

 抵抗できるはずもなく男は無残に……




『コッケコッコオオオオオツ!』




 紫や赤と色鮮やかな一羽の鶏が大きな鳴き声を上げた。

 それが男の<アルカナ>による()()()()()

 男は目を見開き、前に倒れそうになった肉体のまま強く踏み込んだ。

 赤紫色のオーラを纏いながら自身へ迫った腕をギリギリで掻い潜り、素早く下に潜り込む。


 それは状態異常【睡眠】を強制的に起こすスキル。

 そして特定の条件達成と共に与えられるのは当然ボーナスだ。

 睡眠時間に応じて効果時間と効力が変わるそれは、一瞬しか寝ていない場合効果時間が非常に短くなる。

 この場合の効果……一時的なSTRとAGIの上昇。

 そして、()()()()()3()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()させる。


 極端なまでの踏み込みによる前傾姿勢のまま……腕を高速で掬い上げた。


「《アースブレイカー》アアアッ!」


 懐に入り込み、拳を竜に叩きつける。

 【武闘家】の奥義にして大地を砕き割る一撃。

 加えて、<アルカナ>によるスキル倍率上昇補正。

 その必殺の一撃は……竜の肉体に受け止められる。

 そして、男は自らの拳が割れたことを悟った。


「……硬すぎぃ」


『GUAAAAAAAAAA!』


 踏みつぶされ、移動の衝撃で男の肉体は蹂躙。

 そのままポリゴンとなって砕け散っていった。


「イレギュラーの<タイラント・ゴーレム>と正面から撃ち合って指を破壊したイカレ火力だぞ!?」


「指なのかよ!? 腕とか粉砕してるのかと思ったじゃねえか! 期待して損したわ!」


「物理で破壊した時点で十分高火力なんだわ! お前はあれに襲われたことないからそう言えるだけで……」


「全然効いてないとかおかしいでしょ! バランス調整考えてよバカァああ!」


「あいつより火力出せる自信があるやつは逝ってこい! サポートしてやっから!」


 旅人は屍を積み重ねる。

 10秒もすれば数人が死に、その死から得られた情報を即座に共有。

 対策を組み建て、蹂躙され、しかし、次死ぬまでの時間をほんのわずかに引き延ばす。


 必殺を、奥義を、<アルカナ>を。

 時間稼ぎなどという高尚な気持ちは彼らにない。

 この怪物を自らの手によって仕留め、素材を手に入れる。

 そのために周囲を利用する。

 お互いがお互いをカバーし、罵り合いながらも即席のアドリブを積み重ねていった。



□魔域の浄化 J地点 クロウ・ホーク


 比較的近かったため、走ればすぐに目的地に着いた。

 近づく前に<マグガルム・コート>一式は外し、もとの剣士服に戻す。

 ユティナも《限定憑依》を解除し、俺の中へと戻っていった。

 少しの高台になっている位置に移動し遠目に見る。

 そして、数百人もの旅人の中心にそれはいた。

 メリナからの追加のメッセージで判明したイレギュラーの名前。


「あれが<蛇蟷竜ペルーラ>か……」


 大きい。

 移動速度も速い。

 少なくとも、頭から尻尾の先までを入れた時の長さは10メートルでは済まないだろう。

 その長い首の先にあるのは凶悪な蛇の顏だ。

 体表には鋭利な棘が無数に生えており、背中にある鎌は羽が変形したかのように見える。

 全身を頑強そうな鱗で覆われており、2つの足と2本の腕。

 そして、蛇のような長い尻尾。

 蛇の顔をした竜とでもいうべき姿。


(これは骨が折れそうね)


(ああ、そうだな)


 そもそも攻撃が効くのか怪しいか。

 少なくとも、俺程度の物理攻撃では到底ダメージは通らなそうに見える。

 対人と対モンスターで求められるものはかなり違う。

 対人に求められるのは技術であり、手数であり、読みの精度と複合的な要素で相手を上回ることが重要だ。

 ステータスやスキルも大事だが、ある程度であればブラフや隠し札の2つ3つを駆使すれば覆すことも可能だろう。


 では対モンスターとの戦闘に求められるものとは?

 それは火力であり純然たるステータスだ。

 最終的なゴールがダメージを通して倒すことになる以上、そもそもダメージを与えられなければ勝ちようがないと言う必然。


(困ったな……)


 見る限り、あれは純粋に肉体の基礎スペックを押し付けてくるタイプだ。

 竜の尾がしなると同時に、何人もの旅人や<アルカナ>が吹き飛ばされた。

 剣で、盾で防ぎ致命傷は免れた物のかなりのダメージを負っているように見える。

 腕を振り下ろした衝撃で大地はひび割れ周囲一帯を吹き飛ばす。

 大きく宙に飛び上がると言う驚異的な脚力。

 そのまま背中の鎌を伸ばし広げ、縦方向に回転。

 空にいた何体もの<アルカナ>が地に落とされていく。


 しかして旅人も見事なもの。

 何十体もの<アルカナ>がひるむことなく空から攻勢を仕掛ける。

 着地の隙を逃さず前衛が蛇蟷竜の正面や背後に決死と言わんばかりに張り付き攻撃を弾きいなす。

 魔法職が魔法を一斉に放つと同時に、前衛は自滅覚悟でその場に足止めを仕掛け……そのまま魔法に巻き込まれ消し飛んだ。

 しかし、足止めはかなわず。

 蛇蟷竜は回避を選んでいた。


(回避行動をしたってことは……)


 破壊規模から逆算。


「……一定以上の魔法は有効……回避に専念して前張り……ダメージソースは」


 今もなお数百人の旅人がその怪物に仕掛け、まばたきした間にポリゴンとなって砕け散っていく。


 圧倒的な火力。

 過剰なまでの装甲。

 驚異的な移動速度。

 そのすべてが今まで戦ってきた強敵たちよりも上……


(いや、強化外骨格を着込んだ工作部隊の男の方が少し速いか)


 まぁ、誤差程度のものだろう。

 裏を返せばあれはレベル250、かつ強化外骨格を装備したであろうあの男と同格か……もしくはそれ以上の怪物ということに他ならない。

 その上で俺の行動は決まっている。


(クロウ、行かないの?)


「ん、ああ。待ちだな」


 ユティナは疑問なのだろう。

 メリナに救援に向かうように言われたのに、俺が一向に戦いに参加しないどころか近づきすらもしないことに。

 しかし、ちゃんと理由は存在する。

 こればかりは()()()の問題だ。


(……ん?)


 周囲の魔力の揺らぎ、そして気配感知に反応が一つ。

 誰か来た。

 それは俺が来た方向とは反対から歩いてきている。

 おそらく、俺と同様にイレギュラーに対処すべく依頼されて移動してきた旅人だ。

 I地点かH地点あたりに配置されていたのだろう。

 振り返り、その人物を視界に収め……


「アアん?」


「へ?」


(あっ……)


 そこには1人の男がいた。

 黒いグラサンを被り、黒髪をオールバックに纏めている。

 バスタードソードと呼べばいいのか片側のみに刃があるまるで叩き割るための形状。

 鈍器のようなようなそれを肩に担ぎ大股で歩きながらこちらに近づいてくる。

 どこぞの極道のような威圧感。


 俺はこの男を知っている。

 そして向こうも気づいたのだろう。

 それはそれは凶悪な笑みを浮かべており……







「ドウ……ゴク……さん?」


「謎の仮面戦士ぃいいいいい! 見つけたぞゴラああああああああああああッ!」







 ルクレシア王国の討伐ランキング3位がそこにいた。


「えーと、ご機嫌麗しゅう……?」


 なぜぇ?

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― 新着の感想 ―
あけましておめでとうございます。 今年も楽しませていただきます。 他のイレギュラーに当てていないなら遊撃に入っているのも当然、つまりこれも運命の出会い……? 共闘となるのか競い合いとなるのか、先が楽…
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