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第16話 プレデター・ホーネット

□カイゼン樹林 浅層 クロウ・ホーク


「《風振共鳴(ウィンド・リゾナンス)》!」


「Koooo」


 【刃歯】のスキルが発動すると同時に、【刃歯】の腕に巻き付いているナメクジから不気味な音が鳴り出した。


『GiTiTitititititi!』


「《大回転割(ラウンドブレイク)》!」


 <プレデター・ホーネット>はハニーミルクへ突進し、ハニーミルクは斧を振り下ろした勢いのまま空中で縦回転を始めた。

 そしてそのまま、木々の間を縦横無尽に回転しながら飛び回り始め、<プレデター・ホーネット>も逃がさんと言わんばかりにそれを追いかける。


 当然俺も既に【刃歯】に向けて駆け出している。


 どこからか<プレデター・ホーネット>とハニーミルクの激突音らしき音が何度も聞こえてきており、そのBGMと共に俺は前に進む。


「仲直りのハグをしようぜ【賞金首】いいいいい!」


「てめえと仲良くするつもりはねえよ! ズロウズ、あいつを近寄らせるな!」


「連れねぇこと言うなよ? 俺とお前の仲だろおおおお!」


 そうだ、見た目は熱くしろ。

 そうすれば、大抵相手も熱くなる。

 熱くなるということはエネルギーを消費するということだ。

 視野が狭まるということだ。


 故に見た目は熱くとも、心は常に冷静に。


 煽りは対人戦の基本装備。

 しかし、油断はしない。

 目の前の敵は常に自分を倒しうる技を持っていると考えろ。


 俺は目の前の獲物を狩るために、加速すべく足に力を籠める。


 瞬間、後方から何かが吹き飛ぶような一際大きな音が響きわたり……




 そして、パーティメンバーに表示されているハニーミルクのHPゲージが物凄い勢いで減っていくのが見えた。




 ──まじか!?


『GiiGAOOOOOOOOO!』


(クロウ、後ろから来てるわっ!)


(わかってる!)


 俺は【刃歯】への直進をやめ、ユティナの警告と《気配感知》に従い急ぎ横に飛びのく。


 とりあえずこれでも喰らっとけ!


「《インパクト》!」


 そして、俺は背後から突進してきた<プレデター・ホーネット>の突撃を避け、ついでといわんばかりに巾着袋ごと《インパクト》で飛ばし<呪われた投げ石>を<プレデター・ホーネット>の通過上にばら撒いた。


 狙い通り<プレデター・ホーネット>は<呪われた投げ石>を弾き飛ばしながらその場を通り過ぎていった、が。


「……うおおおっ!?」


 同時にその通過した風圧で、その衝撃で、横に飛んだ勢いのまま俺はさらに吹き飛ばされる。


 これこそが、<プレデター・ホーネット>のシンプルにして最大の武器。

 それは、先ほどの衝撃波の攻撃でもなく、おそらく針による攻撃でもない。


 この怪物にとって3メートルもの巨体で空中を縦横無尽に暴れまわることそのものが武器なのだ。


「あははは! なんだこいつ!? レベル54で戦うような相手じゃねえだろ!!」


 少しはバランスを考えろ!

 自動車が3次元的に暴走しているとでもいえばわかりやすいか?

 突進に当たるだけでも大きなダメージを受けてしまうことだろう。


『GiGYAAAAAAA!』


「くそがああああ! ズロウズううううう!!」


「Koooo……!!」


 <プレデター・ホーネット>はさらに加速し、その勢いのまま俺と直線上にいた【刃歯】へと突っ込んでいくのが見えた。


 怪物からすれば、この場にいる全てが敵なのだろう。


 【刃歯】は必死に避けようとするが、うまく身動きが取れないようだ。

 代わりにズロウズと呼ばれた<アルカナ>が緑色に光り輝くのが見え。


 怪物と【刃歯】は正面から衝突した。

 重い激突音が周囲に響く。


「ぐっふ、う、お? おおおおおおお!?」


『GIGIGIGIGIGI!』


 吹き飛ばされた【刃歯】を<プレデター・ホーネット>は器用にもその長い脚で掴み取った。


 【刃歯】の肉体に脚が食い込み、そのまま、<プレデター・ホーネット>は【刃歯】を空中に放り投げ、その場でくるっと旋回をする。


 その凶悪な針を【刃歯】に突き刺そうというのだ。


 正直、俺からすれば【刃歯】と<プレデター・ホーネット>が潰し合う分にはなんの問題もないので、そのまま争っていてほしい。


 それよりもハニーミルクが心配だ。

 HPゲージは半分近く残っているのでデスペナルティにはなってないはずだが。


(ハニーミルク大丈夫かしら)


(HPが少しづつ減ってる、まずいかもな……)


 ほんの少しだけ余裕ができたので《早食い》で回復薬を消費しHPを回復しながら、ハニーミルクは無事かどうか確認する。


 ゆえに、俺はその衝撃に備えるのが一瞬遅れた。


「喰らえやあああ! 《風爆(ウィンドブラスト)》!!」


 <プレデター・ホーネット>に突き刺される寸前に【刃歯】が叫んだ。


 そして、空間が弾け飛んだと錯覚するほどの衝撃が襲ってきた。


「な、んだぁ!?」


(前、前!)


 そうか。

 先ほどの《風鳴共鳴》は次の風魔法を強化するバフかなにかだ。

 一瞬緑色に光った<アルカナ>。

 あれも威力をブーストしたのだろう。


 そして今の《風爆》という魔法の威力をひたすら底上げした。


 すぐに放たなかったのは、チャージ時間か必要だったからか?

 【炎魔法師】の奥義である《フレイムスピア》も同じように少しのチャージ時間が必要だったので、【風魔法師】も似たようなものなのだろう。


 ……っていうか。


「あの位置関係で大技の準備するとか、お前やっぱなんも考えてねえだろおおお!?」


「ぎゃははは! てめえら全員吹き飛びやがれええええ! ぐえっ!?」


 俺はそのまま、<プレデター・ホーネット>に少し遅れて《風爆》の余波により吹き飛ばされる。


「ふっ!」


(クロウ、少し借りるわよ!)


(すまん、任せる!)


 受け身というほどのものではないが、俺は首を守りつつ、ユティナに身体の操作権を引き渡す。


 彼女は憑依している間は物理法則に縛られない。

 彼女は霊体であり、何人たりとも触れることはかなわない。


 つまり、この暴風域の中でも何の影響も受けずに、周囲の状況を認識することができるのだ。


 ゲームのような三人称視点で俺をマリオネットのように操ることができるのが、ユティナのサポーターとしての強みの一つである。


「っと……助かった」


(気にしないでいいわ。それよりも……)


(ああ)


 すぐに風は吹きやんだが、かなり【刃歯】との距離を離されたな。

 その【刃歯】は、また高所から叩き落されたということもありすでに死に体といった様子だ。


 逆になんでまだHP残っているんだよ。


「《風纏強化(エアリアルフォース)》とか最初に使ってたけど、あれか……」


 木と木を飛ぶように移動していたことから、身軽になるバフスキルだな。

 そしてそれは、結果的に高所からの落下ダメージを抑えるような効果も少しは付随しているのだろう。


 魔法職である【刃歯】の落下ダメージが、【右手にポン】より軽い理由はそれぐらいしか考え付かない。


 俺は現状を確認する。

 直撃こそしなかったが簡単に吹き飛ばされた分だけダメージを受けたらしく、HPゲージが5割を切っていた。


 俺がまともにダメージを受けたのは【mu-ma】に奇襲した時の自傷ダメージと【右手にポン】からの《発火矢》だけだが、小さな積み重ねでここまで減ってしまったらしい。

 なかなかどうして。


「盛り上がってきたな……」




 頭のどこかにある、ネジが外れる音がした。




『G、GiGiGYAAAAAAA!』


 怪物は怒りの声を上げ、立ち上がろうとしている。

 否。


「発狂モードか?」


 <プレデター・ホーネット>の全身が赤く染まっていた。

 先ほどの《風爆》の直撃により翅はズタズタでまともに飛ぶことはできなさそうだが、迫力が今までの比ではない。


 【刃歯】のレベルは高く見積もって60ぐらいだろうが、先ほどの一撃はそこまでのダメージを与えたのだろうか?


「いや、ハニーミルクだな」


(そうでしょうね。それこそ私たちが【賞金首】と戦い始める前からずっと<プレデター・ホーネット>と戦っていたはずよ)


「そう考えると、恐ろしい執念だ……」


 プレデター・ホーネットは、この戦場に現れた時点でかなりのダメージを負っていた。

 それは、ハニーミルクがひたすら削り続けていたのだろう。


「く、クソ!」


 【刃歯】は足を引きずりながらも、遠くへ、遠くへ移動しようとしていた。

 どうやら逃げるつもりらしい。

 そして、逃げようとした方向には……


「……えっ」


「じゃま」


「ぐぎゃっ!?」


 ハニーミルクが浮いており、その攻撃により縦に割れ、【刃歯】はポリゴンとなって砕け散っていった。


 えぇ……


 ハニーミルクは浮きながらすぅーっとこちらに近づいてきた。

 クマの着ぐるみは見るからにボロボロだが。動くことは出来そうだ。


「おつ」


「お、おお。ありがとう。そっちこそ無事なようでなによりだ」


(なんて言ったの?)


(隙だらけだったから【賞金首】は狩っておいたよ、って言ってるな)


(だからそんな情報量ないわよね……)


 いや、なんとなくニュアンスで伝わる。

 少なくとも感情はあり、着ぐるみのせいでくぐもって聞こえるが言葉に抑揚もある。

 ハニーミルクの基準で言葉も使い分けてるので、あとはこちらの読み取る力次第だろう。

 おおよそは外れてはいないはずだ。


「そんじゃ、今度は俺の番だな」


 図らずも、ハニーミルクのおかげで、俺の目標は達成することができた。

 今度は俺が義理を果たす番だ。


「《呪縛》は……ダメそうだな」


 《呪縛》の指定可能対象特有の疼きが出てこない。

 どうやら、先ほど<呪われた投げ石>をぶつけてはみたものの、ダメージは通っていなかったようだ。


 風の鎧とでもいうように、当たらなかったのだろう。

 

 もしくは、ダメージ量そのものを減少させるようなスキルを持っている。


 さすがに、物理型のボスモンスターがINTとMPを大量に持っているとは思いたくないな。


 まぁ、関係ないか。


「どくけしちょうだい」


「やっぱ毒だよな。ハニーミルクは今の<プレデター・ホーネット>を一撃で倒しきれそうな技はあるか?」


「たいむ」


「わかった、そんじゃ俺が時間を稼ぐ。あいつの動きを止めるからトドメは任せた」


『GiGYAAAAAAA!』


 最低限の作戦会議を終わらせ、俺は<プレデター・ホーネット>に向けて駆けだした。

 ハニーミルクは斧を振り下ろし、その勢いのまま回転を始め周囲を飛び回り始めた。


(ユティナ。最低でも1分は稼ぐぞ)


(説明してくれると嬉しいのだけれど)


(ハニーミルクは市販の毒回復薬でも回復できない猛毒状態になっているらしい。毒を弱める専用のスキルと一緒に使用することで効果を弱めることはできたが、あと1分ちょいでデスペナルティになるって言ってた)


(まずいじゃない!)


(それで、あの《大回転割》の威力が最大になるのに20秒かかるらしい。ただ威力を上げるほど制御が難しくなるから確実に当てるために慣れる時間が欲しいそうだ)


 だから、<プレデター・ホーネット>の機動力を割きつつ動きを止めることを目標にする。


「狙いは脚だ」


 <プレデター・ホーネット>もこちらを視認したのか、地面を這いながら思いっ切り突っ込んでくる。


 飛んでこないならやりようはある。


 俺は一つ切り札を切った。


「《戦士の極意》」


 これから5分間、SPが尽きるまで俺の通常攻撃は《スラッシュ》にすることができる。

 ついでに、《インパクト》のクールタイムも0秒だ。


 <プレデター・ホーネット>にすれ違うように斜め前に飛びこむ。

 先ほどまでの勢いはないためか、衝撃は襲ってこない。

 俺が側面を取った。

 この状態なら急な方向転換できないはずだ。


 俺はすれ違いざまに側面から襲うような形で攻撃し《スラッシュ》を発動させる。

 剣が光り輝くとともに、<プレデター・ホーネット>は体をよじり、針をぶん回し……て!?


「そうくるか!」


 俺は思考を分割させる。

 発動させた《スラッシュ》の他に余剰分を用意し、足の裏で発動させた《インパクト》によって、態勢を意図的に崩し攻撃を無理やり躱した。


 そのまま、距離を取る。


「あぶねぇなあ……」


 確かに飛んでないから機動力は落ちているが、体をよじるだけでも脅威だな。

 それなら、適当に避けて時間を稼ぎつつ最後には無理やり攻撃を通して《呪縛》を試してみるか?


「……ん?」


『GiTiAAAAAAA!』


(また来るわよ! どうしたの……?)


 俺は意識しながら剣を振り下ろすことにより《スラッシュ》を発動させ、ついでに《インパクト》を剣先で発動し。


「《ディフェンス》」


 クールタイムが終わっている適当なスキルを口頭で発動させた。


「同時発動ができる」


 それもそうか。

 《戦士の極意》はスキルの発動詠唱を動作に置換できるスキルだ。

 発音の必要があるアクティブスキルの詠唱が必要ないのであれば、口が自由になっている。

 思考と動作によって発動する《スラッシュ》や《インパクト》の他にアクティブスキルを重ねられるのであれば、だ。


 俺は<プレデター・ホーネット>の攻撃を避け、反撃せず近くの木の陰に隠れる。

 <プレデター・ホーネット>は先ほどと同じように針を振り回しているのが見えた。


 その隙に、俺は急いでメニューを操作する。

 ゆっくりしている暇はないので、今までの記憶を頼りに直感的に操作し、昨日作りだした武器を一つ取り出した。


***

呪われた鉄剣(取り外し不可)

装備可能レベル:STR500以上

耐久値:5/5

装備補正:STR-250、STR-1%

装備スキル:《カースインパクト》:アクティブスキル

耐久値を全て使用し攻撃対象に呪いを込めた一撃を与える。

***


(どうしたの?)


「まずは最初にでかいのをぶちかまそうかと……」


(ああ、さっきのはそういうことね。わかったわ《反転する(インバージョン・)天秤(リーブラ)》)


 これなら、行けるはずだ。

 少なくとも、先ほど実行しようとした時間稼ぎよりはよっぽど楽しめるだろう。

 

 既に10秒以上経過した。

 最大で残り50秒弱、全力で稼ぐとしよう。


 俺は勢いよく前に飛び出した。


(クロウ! <プレデター・ホーネット>が来てるわ!)


「迎え撃つ!」


『GiGYAAAAAAAA!!』


 <プレデター・ホーネット>を正面に見据える。

 先ほどよりも遅い、学習したな。

 避けようとした瞬間、あの顎で噛みついてくるか、針を振り回すか、どちらにせよ状況に合わせて攻撃手段を変えてくることだろう。


「ユティナ、これが最後だ。頼むぞ」


(ええ、今まで通り私に任せなさい)


 ならば、後はユティナを信じるだけだ。


 <プレデター・ホーネット>が迫ってくる。

 奴は俺を見ていた。

 避けるタイミングを見極め殺すために、殺意を持った眼差しで。


 ならば<プレデター・ホーネット>との距離が0になる。

 その瞬間を見極める。


『GiTiiii!』


「……」





 ──俺は思考を分割する。





 《スラッシュ》と《インパクト》の発動分だけ確保し、あとはただひたすらに周囲の情報を処理し続ける。





 距離、位置関係、速度、危険物の有無、弱点、頭頂部、傷、視線、脚の動き、顎、狙い、殺意、瓦礫、風、警戒度、算出結果、接触予定4.832秒後、誤差分動作を補正、笑い、嘲笑、失笑、笑……ん?





『GiGYAAAA!』


「……」




 なんだこいつ、俺のこと舐めてやがるな!?


 今までまともに攻撃が通ってないからかふざけやがって!


 そもそもお前が邪魔してこなけりゃもうちょっとまともに【賞金首】と戦えたんだぞこの野郎!




『GuGYAAAAAAAAAAAAAAAA!!』


「……」




 でかいだけが取り柄の虫がこの俺に楯突こうとは笑止千万。


 いいぜ、乗ってやるよ畜生風情が。

 

 ギアを上げろ!


 頭のネジを全部外せ!!


 どうせ死ぬんだ、俺の死に様で笑いながらお前も俺と共に死ね!!

 



「《カースインパクト》オオオッ!!」


 そして。


『Gu……GI!? GYAAAAAAAAAAaAaAAAA!?』


「はっはぁ! どんぴしゃああ!! ざまあみさらせ」


 その一撃により、<プレデター・ホーネット>の頭をかち割った。


 怪物の悲鳴が聞こえてくる。


 実に気分がいい。


 《スラッシュ》と《インパクト》に加えて《カースインパクト》の重ね掛け攻撃だ。


(効いてるわ!)


 そりゃ効くよなぁ。


 痛そうにしてたもんな()()()()()

 

 ハニーミルクにやられたのか、かわいそうに?


 くやしいねぇ、傷がなければ俺を殺せたかもしれないのにねぇ!


 怯まなければ勝てたかもしれないのにねぇ!!


 でも、その未来はない、だろう?


 俺から反撃を食らうと考えてなかったもんな!


 そりゃそうだよな!


 ずっと無様に逃げ回ってたもんなあ!?


「ははっ、重てえ!!」


 剣は砕け散り、手が衝撃で震えた。

 反動でダメージを受けた感覚もあるが!


「《武具切替(ウェポン・スイッチ)》!」


(《反転する(インバージョン・)天秤(リーブラ)》!)


 武器を手に取る。

 死んでない。

 痛みもない。

 攻撃も通った。


 なら、俺は戦える。


「《呪縛(カース・バインド)》」


 <プレデター・ホーネット>の動きがほんの一瞬だけ止まった、がすぐに動き出す。




 ──検証結果、呪い耐性あり、効果時間減衰を確認。


 ──しかし、《呪縛》は通る模様。


 ──《呪言》による強化を行うことにより1.000秒以上の動作停止は可能と考えられる。


 ──《呪縛》のクールタイム30.000秒の計測を開始。




 その隙に俺は剣を振るう。

 硬い部分ではなく脚の節を撫でるように。

 隙だらけの怪物の脚をいくつも切り裂いた。


「はははははっ!」


 怪物による脚の攻撃が迫る。




 ──回避不能、否不要。




 左腕で《インパクト》を発動しそれを強引に弾く。

 距離は取らせない、仕切り直しもなしだ。

 左腕がうまく動かなくなったが問題ない。


「ははは、ハハハハ!」


 剣を振り下ろす。

 怪物が暴れる。

 針を振り回すように……




 ──<プレデター・ホーネット>の視線から外れたことを確認。




 勢いのまま大きく跳躍し針の直撃を躱す。

 そのまま背中に強引に張り付き足を絡ませ固定し、剣を振るう。


 剣を。

 剣を!

 剣を!!


「ハハハハハハハハハッ! ……あん?」


 剣が、砕けた。




 ──《武具切替》のクールタイム残り82.154秒。


 ──使用不可のため迅速なメニュー操作により新たな武器を取り出す必要有り。




 俺は胴体にしがみつきながら、直観のままに右手を動かしメニューを操作する。

 思い出せ。先ほどのメニュー操作の流れを、位置関係を!


「はい、完璧ぃ!」


(《反転する(インバージョン・)天秤(リーブラ)》!!)


 次の剣を取り出した。

 そのままひたすら、背中を切りつける!


「うおおおおおおおおおおオオオオオオッ!」


 斬る、殴る、叩く、ぶつける。

 原始的な欲求に従いひたすら怪物の背中で暴れる。


 そして、猛攻をかけながら、俺は高速でこちらに飛来する物体を《気配感知》で捉えた。


 Zi……Zi……Ziziziziziziziz!!!!




 ──<プレデター・ホーネット>より危険動作確認。


 ──回避不能なため防御態勢に移行。


 ──即死の危険はないため、次の行動に備えよ。




 瞬間、<プレデター・ホーネット>のボロボロの翅が高速で動き始める。


「くそ!?」


 俺は衝撃とともに吹き飛ばされた。


 ああ、これはダメだな。


 やっぱ火力不足だったか。


 終わりだ。


 俺は死ぬ。


 痛みはないが、身体は動かない。


 落下の衝撃でそのままデスペナルティだろう。




 ──6.073秒前にて《呪縛》のクールタイム残り0.000秒になっていることを確認。




 故に、これは呪いの言葉だ。

 死にゆく俺からのプレゼントだ、ありがたく受け取ってほしい。


()()()()


 【呪言】により、俺は言葉にこれでもかと呪い(MP)を籠める。

 これで、詰みだ!


「《呪縛(カース・バインド)》!」


『Gigi!?』







 ──<プレデター・ホーネット>の動作停止を確認。







 俺はあらん限りの力を振り絞り、叫ぶ!!


「ハニーミルクうううううううう! ぶちかませえええええええ!!」


「はちみつうううううっ!!」


 合図により空から飛来したハニーミルクは、流星のごとき勢いのまま<プレデター・ホーネット>に激突した。


 さらなる衝撃を全身に浴び、俺は吹き飛ぶ。


 遠ざかる視界の端で、大きなクレーターの中心に沈む怪物の姿を捉えた。


『GIGYAAAAAAAA!?……AA……A……』


 そして、怪物の断末魔が森に響きわたり……<プレデター・ホーネット>はポリゴンとなって砕け散っていった。


 ああ、楽しかったなぁ。


「ナイスゲーム」


「おつ」


─システムメッセージ─

<プレデター・ホーネット>を討伐しました。

<クロウ・ホーク>のHP残存量が0になったことを確認しました。

<ハニーミルク>のHP残存量が0になったことを確認しました。

【パーティ全滅】

【蘇生可能時間経過】

【デスペナルティ:ログイン制限1h】

デスペナルティ期間中はアバター権限を管理AIに引き継ぎます。

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