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第10話 冒険者ギルド

□王都ルセス 冒険者ギルド本部 クロウ・ホーク


 冒険者ギルドと聞けばどういったものを思い浮かべるだろうか。


 冒険者の登録や素材の買い取り、町中の清掃や護衛といった仕事の斡旋、冒険者同志のいざこざの仲介といったようなイメージを思い浮かべることが多いだろう。


 国営や民営など経営形態も様々で、ゲームによっては冒険者ギルドといった組織ではなく、酒場や食事処がそのまま仕事の斡旋所のような機能を有している場合もあるが、おおよそのイメージを外れることはない。


 仲間を探し、依頼を受けて達成する。

 報酬を貰い、信用度とランクを上げていく。

 夢と希望が集まる、そんな場所だ。


 <Eternal Chain>も例にもれずおおよそそのような役割を有しており、それに加えてチュートリアルで使用したジョブ検索機能持ちの本の貸し出しをしてくれる場所の一つでもある。


 次のジョブに悩んでいる時は、ここで本を借りるのが一番早い。

 まさに、ゲームをしていくうえで欠かせない施設と言えるだろう。


 そして、冒険者ギルド内で起きる事件のテンプレといえば、冒険者登録に来た主人公が先輩・チンピラ冒険者に絡まれる、などが挙げられる。



 例えば、こんな風に。



「おいおい坊主、ここはお前のようなガキが来るところじゃねえのさ。さっさとおうちに帰ってパパに甘えてるんだな」


「そんなこと言ったらかわいそうじゃないゴーダル。この子だってきっと、色々な覚悟を決めてここに来てるのよ」


「そうはいうけどな、メリナ。これは優しさなんだぜ?」


 筋骨隆々の多腕族の男が器用に4つの手のひらを上に向け、肩をすくめてそう言った。

 名前はゴーダルというらしい。


「それもそうね。坊や、悪いことは言わないから死ぬ前にさっさと出ていきなさい」


 メリナと呼ばれた女もそれに同調する。

 簡単に言うと、俺たちは絡まれていた。


「え、何よこの人たち……」


 ユティナはどん引きといった様子だが、俺はそれどころではなかった。


「クロウ、どうす──」


「はっ……はあ!? なんだよ、あんたら! 俺たちは冒険者登録しに来ただけだぞ!?」


「クロウ!? 突然どうしたのよ!」


(待ってくれユティナ、今いいところなんだ)


(いいところってなに! 初めて使う念話がそれでいいの!?)


 冒険者ギルドに入って先輩冒険者になじられる。

 誰もが一度は経験したいと思うことだろう。

 俺は今、そんな体験をしているのだ。

 この機会を逃すわけにはいかない!


「お前みたいなガキに冒険者が務まるわけがねえだろうが!」


「そうよ! 帰って大好きなママのミルクでも吸っていなさい!」


「うるせえ! 俺は故郷に置いてきた妹のために冒険者になるんだ!!」


「妹いたの!? そもそも故郷ってどこよ!!」


 ゴーダルとメリナの圧に負けじと俺は啖呵を切った。

 するとゴーダルがほぅと感心したような声を上げる。


「ふっ、悪くねえ。いい眼をしてやがる……冒険者になりてえんなら真ん中のカウンターに向かうんだな。素材の買い取りは向こうの商用ギルド出張所、あっちのカウンターに行けば有料だがチュートリアルで使用した本を借りられるぜ。ジョブに悩んでるなら、借りるのもいいかもな」


「あなた良いじゃない。嫌いじゃないわ、そういうの。掲示板で依頼が張り出されてるからクエストを受けたいなら向かうといいわ。内容自体は街の中にいればメニューのクエストの項目から色々検索できるみたいよ。選べば、クエストボードに張り出されてる依頼用の紙の位置がわかるわ。他の冒険者との依頼の取り合いに注意しなさい」


「備え付けの酒場の飯もうまいぜ、おすすめはジャイアントフロッグの唐揚げだ。せいぜい死なねえように頑張るんだな……」


「ふふ、これはあなたへの餞別よ」


「えっ、あんたら……本当にいいのか?」


「なんなのこれ……」


 メリナから、俺は【回復薬(ヒールポーション)】を受け取った。説明を見るとHPを200も回復できるらしい。


「突然絡んで悪かったな。冒険者稼業は大変だからこそ、お前の覚悟を知りたかったんだ」


「どうやらいらないお世話だったみたいね。私たちは去りましょう、クールにね……」


「いや、気にしないでくれ。俺こそ悪かった」


「くく、じゃあな坊主。死ぬんじゃねえぞ」


「ふふ、あなたの活躍を期待しているわ」


「ああ、あんたらも達者でな!」


 そして、2人組はゆっくり歩きながら冒険者ギルドの出口へと向かう。









「ちょっとゴーダルさん、メリナさん! 新規登録に来た旅人さんに変な演技しながら絡むのはやめてくださいって昨日から言ってますよね! そもそもお二人も昨日登録したばかりじゃないですか!」


「あっやべ」


「逃げるわよ!」


 2人組は酒場の店員に箒片手に追いかけられ、情けない声を上げながら冒険者ギルドを飛び出していった。


 そう、彼らも俺と同じプレイヤーである。


「なんだったの、今の……」


「冒険者登録に来た主人公に喧嘩を売るチンピラ先輩冒険者ロールプレイだな。無法者ではなく実は善意でしたのタイプ。恐ろしい再現度だ」


「そんな細かい設定あったの! そもそも最後情けなさすぎるでしょ!?」


 何を言う。

 彼らが率先してロールプレイしてくれたから俺も気兼ねなく楽しめたのだ。

 ウィンウィンといえよう。


「何をしているんだユティナ、さっさと素材を売って冒険者登録をしてジョブを選ぶぞ!」


「私が悪いの!? 私悪くないわよね!」



 買い取り自体はすぐに終わった。

 買い取り所のおじさんから買い取り用のアイテムボックスが渡され、そこに必要無さそうな物を適当に詰め込んで返すとスピルを渡されたのだ。


 精算の速さに驚いたが、買い取りのおじさんが【算術士】という計算特化のジョブであり、買い取り価格は予め決まっている素材が多かったと説明を受けて納得した。


 買い取り価格が決まっている物はアイテムボックスが自動で精算してくれ、価値が変動するアイテムなどはおじさんが計算したらしい。


 価格崩壊を防ぐために市場の価格や流通の調整は商業ギルドが率先して行っている。


 露店販売や個々人のやり取りはともかく、店舗を構えている店は基本商用ギルドに所属しているため、組合員同士で相互に協力し合っているとのことだ。


 冒険者ギルドがある程度独立して運用されているのに対し、商業ギルドは基本国直属の行政機関のようなものだそうで、生態系の崩壊が起きるぐらいモンスターが狩られて、同時にありえないほど大量の素材が売られない限りちゃんと支払いできるくらいの能力はあるから安心しろと笑顔で買い取り所にいたおじさんは笑っていた。


 ……これからプレイヤーがどんどん来ることになるので、是非とも頑張ってほしい。

 モンスターだけでなく、チュートリアルで渡されたスピルも市場を破壊しないか心配だが、おじさんが任せろといったのだ。

 

 大丈夫に違いない。


 そして俺たちは、ゴーダルの案内の通り諸々の手続きを済ませ、備え付けの酒場でジャイアントフロッグの唐揚げを注文していた。


 目的を的確に見抜いて、欲しい情報をピンポイントでアドバイスする手腕。なんて恐ろしい男なんだ。


「ジョブを選ぶ前に、まずは俺たちの目標を決めよう」


「目標?」


 食事が終わると同時に、そう話を切り出した俺に不思議そうにユティナは首をかしげる。


「そうだ。普通は世界を亡ぼす魔王を倒したり何かのチャンピオンを目指したり、なんらかの目標が用意されてるんだが、<Eternal Chain>は現状そういったゴールが設計されていない」


 レベル上げこそ優先していたがレベルを上げて何をするのか、といった目標が現状かなり曖昧だったのだ。


 だからこそ、次のジョブを選ぶ今のタイミングで最初の方針を決めておく必要がある。


「そうね、それでいうと私の目標は【魔王】を目指すことになるのかしら?」


 確かに<アルカナ>であるユティナは管理AIから【魔王】というゴールが用意されているといえる。


「ただそれを目標にすると、すこし味気ないものになる気がするんだよなぁ」


「味気ないってねぇ。それじゃクロウはなにかないの?」


「そうだな……」


 俺はメニューを開き、キーアイテムボックスにある【ヒュミアの花】を見た。

 最初のクエストで【園芸士】のリリーから報酬で貰ったアイテムだ。


「俺は、この世界を見て回りたい」


 それは子供の頃から夢見ていたことであり、この世界で過ごしてきて俺が改めて感じたことだ。


 世界を見て回り、誰も見たことがない絶景をこの目に収める。


 なんなら写真として残し、俺たちの旅の歴史を明確な形に残してもいいだろう。魔導カメラなる魔道具があるのはすでにリサーチ済みだ。


「それなら、美食巡りとかもできそうね」


 さっき食べたジャイアントフロッグの唐揚げも美味しかったし、世界食べ歩きツアーもいいかもなぁ。


「それも採用だな」


 この世界を旅して、絶景や美食を堪能する。

 現実ではどうしてもお金やまとまった休暇が必要だが、この世界であれば移動手段の確保さえできればそう難しくないはずだ。


 なにせ旅の途中でログアウトすれば次ログインするとき、その続きから旅行を続けることが出来るのだから。


 好きな時、好きなタイミングで移動できるのはゲームならではだな。


「にゃーお」


「ん?」


「へ?」


 そんなことを考えていたら、猫らしき生物が近づいてきた。

 靄のようなモノがかかっており、全身をうまく視認することができない。


「面白そうな話をしているね」


 その猫が近づいてきた方向から声をかけられた。

 声の主はレザーアーマーを装備した茶髪の女性だ。

 身長は俺より少し低い165cmほどだろうか?

 パッと見た感じクールな印象を受ける。

 そして右手に見えるのはプレイヤーを示す紋章。


「良ければ、私も仲間に入れてくれないかな?」

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