幼馴染みの葛藤 【月夜譚No.267】
可愛い笑顔で毒を吐くのは、脳がバグるからやめてほしい。彼女がそうするのは今に始まったことではないが、こればかりはどうしても慣れない。
彼女の幼馴染みである少年は引き攣った笑みで彼女の背を見送り、それが見えなくなってしまってから止めていた息を吐き出した。
彼女は、十人いたら十人が「可愛い」と答えるほど愛らしい容姿をしている。それは学校でも評判で、他学年の生徒もクラスまで見にくるほどだ。
幼い頃から一緒にいる少年もそれは否定しない。しかしながら、根性が捻じ曲がっているというか、ひねくれているというか……率直に言って性格が悪い。口も悪い。その容貌だけで人間関係が保っているといっても過言ではない。
時々思うことがある。自分もよく彼女に付き合っていられるな、と。彼女が隣にいたお陰で何人の友を失ったことか。思い出しただけで頭を抱えたくなる。
しかし同時に過去の彼女の心からの表情が脳裏を過って、少年は仕方なげに肩の力を抜いた。
そう、仕方がないのだ。惚れてしまったのは、変えようのない事実なのだから。
少年は赤く染まった夕焼け空を仰いで、自身の気持ちを身体に溶かした。