05話 ゼーレさんに相談
そんなわけで、ゼーレさんを居間に呼んでこれまでの顛末を話した。
その間、三人はオレに密着したままなので話にくいったら。
「『意中の相手以外には飲ませるな』と言ったのにな。こうも盛大にやらかした事には感心するぞ」
「というわけで、この子たちを戻してほしい。ゼーレさんをダンジョンに送る方はちゃんと協力するから」
「それはミルディーラの秘薬を作ってやった代償として当然のことだな。それを何の代償もなく『元にもどせ』とは虫が良すぎる話だね」
「あー、やっぱりダメ? 何かしら代償があればやってくれるの?」
「残念だが、わたしはたかだか第9階のミルディアンにすぎん。それはわたしの手に余る」
「ええっ! それってホレ薬なんてものを作るより難しいの?」
「第5階以上のミルディアンでなければ解呪のミルディーラはつかえん。一度体内に入った秘薬を抜くという行為はかなり高度なものなんだよ」
三人はまるで死刑宣告を受けたみたいに青ざめた。
「じゃあ、私たちずっとこの人にときめいていなきゃなんないの? ずっとこのまま?」
「いや、永遠に効果の続くクスリなどはないよ。良質の水のおかげで思わぬ強力なものになってしまったが、時間がたてば元にもどるだろう。然程の時間はかからないね」
そうか。良かった。
「で、どのくらいでクスリの効果はなくなるの。二日くらい?」
「およそ二十の季節が移りゆくほどの間だね。寝て起きてを繰りかえさば、すぐに経つ」
「二十の季節? ……って、二十年じゃない! こんな状態を二十年もだなんて困る!」
「なにあせっているの。ほんのわずかな時間じゃない。それくらいの間、ジョタロウを慕うのが何だというの」
あ、エルフだった。時間の概念がオレたちと違いすぎるんだったな。
「冗談じゃないわよ! 二十年間もコイツに心ときめかせたままなんて、いられるワケないでしょ! 女の子の二十年って重いんだから!」
「わたしは男に懸想するという感情がわからない。だから何がどう悪いのかがわからない。仲良く寄り添って幸せそのものに見えるし、ジョタロウを慕うことの何が悪いの?」
この幸せはニセモノだからだよ。女の子にこんな密着されてうれしいけど、彼女らの好意はニセの感情だから、喜んじゃいけないんだって。
「だったら、オマエも同じ苦しみを味わえーーッ!」
「あっ!」
星奈と花京さんはゼーレさんをはがいじめにし、堀那さんが持ってきたペットボトルの口を彼女の口に押し込んだ!
「ムグッ! ゴクゴクゴク……」
ああああっ! ゼーレさんまであの悪魔の水を飲んでしまった!!
「……プハァッ。はなせ、まったく乱暴な娘たちだよ。わたしはこれでも階位持ちの魔術師。術への耐性くらいあるよ。この程度のクスリに心動かされることなんて皆無」
「くううっ、ズルい。こっちはコイツから離れられなくなって苦しんでいるってのに」
そうか、助かった。これ以上ハーレム要員とか増えたら身がもたないところだった。……あれ?
「……ゼーレさん? どうしてオレににじり寄ってくるの? オレを見てドキドキしてときめいたりはしてないんだよね?」
ゼーレさんは何故かオレに膝の上に乗って何かを考えているような顔をした。
「うん……面白い現象だ。心はまったく魅かれたりはしないけど、体はジョタロウを求めて側に行きたがってしまう。邪魔をするぞ」
「いや、邪魔をするって……本当に大丈夫なのか?」
「わたしも”恋”という感情に興味はある。この機会に学ばせてもらうよ」
いや、そんなのん気な。『学ばせてもらう』って、それどころじゃないんじゃ?
「ああっ! ズルい! そこは星奈の場所なんだからぁ!」
「ジョタロウの体は気持ちがいい。ここはわたし専用の場所にさせてもらうぞ」
「このチビ! ずうずうしいわよ! どきなさい!」
ボカスカ ボカスカ ボカスカ
ギャーーッ! オレの膝の上でケンカするな!
「ぐえええっ、引っ張るな!」
さんざんリンチ受けた体の上でそんな激しいケンカされたら、本当に再起不能になってしまう!
結局、ケンカはオレの意識が失うまで続いた。
いったい、これからどうなるんだろうな?