02話 子供エルフのゼーレ
「うーむ、思わず拾ってきてしまった」
あのあと、ともかく救急センターにここら一帯の人間が昏睡している状況を連絡。
オレは現場で待つよう言われたが、それどころではない。ブッチして彼女をサドルのかごに入れて家に持って帰ってきてしまった。
「この謎のエルフっ子、やっぱりあのダンジョンから来たんだろうな」
しかしダンジョンから何かしらの知的生物がやってきたという話は聞いたことがない。
もしかしてこれって、ものすごい事なんじゃなかろうか。
パチリ
ふいにエルフっ子が目を覚ました。
彼女はじっとオレを見つめる。
「ハ、ハローお嬢さん。ハッピーやっぴー、よろぴくねー」
バキンッ
ぐえっ、顔面に頭っ突きくらわしてきた! けっこう痛い!
そしてエルフは窓に向かって枠に飛び乗ると、そのまま外へ……以降としたが、そのまま固まってしまった。外の景色を見て茫然としている。
やがて、エルフはピョンと跳ねて、オレの元へ戻ってきた。
「♪〇■♭✖△◆♬(^^♪●◇▼♫」
「おおっ! これは異世界言語? まったく意味はわからないが感動だ!」
ゴチンッ
ふたたびエルフはオレに頭っつきを喰らわした。
エルフって、こんなに肉体言語を使う武闘派な種族だったの?
今度のはものすごく痛い。頭を抱えて悶絶してしまう。
「おい、でか。そろそろ暴れるのはやめ。わたしの言葉わかるか?」
「あ、あれ? エルフさんがこっちの言葉で話してる?」
「翻訳の術だ。異世界の住人にも効果があるようで、とりあえずは良かった」
「すごいな。やっぱり魔法が使えるんだ。魔法がそのミルディーラってやつか?」
「この世の理を少しだけ騙しこの世ならざる現象を起こす術。それがミルディーラだよ。その使い手であるものを術士とよぶ」
「そうか。さすがはエルフさま。オレは山条序太郎。あー序太郎とでも呼んでくれ」
「私は【ゼーレ】。森林の住人エルフ族で第9階術士だ。さてジョタロウ、本題だ。どうやらわたしは【ルジャの通廊】の向こう側へ来てしまったらしい。しかしわたしは向こうの世界に戻らねばならん。わたしをルジャの通廊へ連れていってほしい』
「ルジャなんとか?……ああ、ダンジョンのことか。まぁ、連れていく事は出来るけどね。でもそこをくぐるのはもちろん、近づくのも無理だと思うな」
あのダンジョン付近の有り様なら、たぶんニュースでやっているはずだ。
オレはエルフのゼーレさんとリビングに行き、テレビをつけた。
「これは……」
やはり緊急特番でダンジョン付近の謎の集団昏倒事件をやっていた。
現場では救急隊員がそこの人達を運ぶ様子が映されて、さらに見物人も大量に押しかけている。
「ここにもミルディーラがあったのか! 離れた場所を映し出すなどそうとう高度なレベルだぞ」
「いや、そのミルなんとかじゃないんだがな。それより現在ダンジョンは封鎖されて立ち入り禁止だと。もしかしてあの集団睡眠はゼーレさんがやったのか?」
「……うん。ダンジョンをさまよっていると、あのでか共に捕まったんだよ。隙をみてミルディーラを全力で使って蛮族をみんな眠らせたが、力尽きてわたしも意識を失った」
「やっぱりあれはゼーレさんが元凶か。しかしそうなると、ゼーレさんのことは全力で探しにかかるだろうな。あそこに近づいたら多分捕まる」
「ううーーっ。どうしようどうしよう。このままじゃおうちに帰れない」
「だったら、おとなしく出頭して事情を話すというのは? オレもゼーレさんをさらってくるなんてヤバなことしちまったし」
「ダメだ! あんな野蛮なヤツラに捕まったらどうなることか。お願いだ。わたしが帰れるよう協力してくれ!」
「協力っていってもな……ダンジョンの封鎖を破るなんてな無理な話だ。国家権力を相手にとか無理ゲー」
「……よしっ。では、わたしの術で貴様の願いをひとつだけ何なりと叶えてやろう。それでどうだ?」
「願いを叶えるって……何が出来るんだよ」
「凡人の願いなら多分いける。下っぱの第9階とはいえ、富とか地位とかも多分何とか。さぁどうだ?」
むむっ。魔法で願いをかなうとは、これは思わぬ千載一遇のチャンス?
もし、あの願いが叶うなら国家権力を敵にまわすことも恐くはない!
「じつはオレのクラスに住原サユリってメッチャかわいい子がいてだな。そいつとその……ちょっと仲良くなれないかなぁーなんて」
「ふふん、女か。いかにもな凡人の願いだな。よし、ホレ薬を作ってやろう」
ホレ薬!
なんと魅惑な響きのアイテム!!
まさかオレが、そんな夢のようなアイテムを手にすることができるとは!!
何度も夢に見たサユリのえちえちボディが今オレのものにぃぃぃっ!!!!
「うおおおおおおおおっ! おおおおっ!! よーし国家権力粉砕だああっ!! 警察なんざ怖くねーぜ!!」
ドスッ ドスッ ズン ズズン
「あーうるさい。いきなり踊りはじめるとは、まさに蛮族だな。こんな危険な種族のいる世界、さっさと逃げ出すとしよう」