01話 現代ダンジョンで拾ったエルムっ子
最近スランプ気味なので、軽めの話を書こうと思いました。短いです。
今から三年ほど前より、異世界ファンタジーでおなじみのダンジョンが現代に出現した。
事の始まりはアメリカ・ネバダ州における超大型粒子加速器の実験だったらしい。
それが最初で最大のダンジョンを呼び寄せて以来、世界各地でもダンジョンが出現するようになったそうな。
当初は混乱が続いたものの、探索の結果そこから希少物質が得られることがわかり、各国政府はダンジョンを自国の行政組織が管理するようになったらしい。
そして現在……
「さぁーてと。今日は待ちに待ったダンジョン探索隊の探索日。ダンジョンでたっぷり稼がせてもらおうかね」
オレこと【山条序太郎】は愛用の高画質スマホをもってダンジョンに向かう。
現代にファンタジー系ゲームのダンジョンが現れたからって、一般人が入れるわけもない。
ダンジョンは政府機関のダンジョン管理委員会がしっかり警備しており、民間人が入るにはダンジョン省から許可証を発行してもらわねばならんのだ。
しかし、そんな敷居の高い現代ダンジョンではあっても、オレのような一般人でも稼ぐ方法はある。
ダンジョンに踏み入れる探索隊やら自衛隊やらの写真やら映像やらをおさめ、それを売るのだ。
彼らの身につけている装備やら機材やらは、マニア好みのプロ仕様のそれ。
その映像写真だけでもそれなりの金を出して買う奴はいるのだ。
「わははっ、今日のダンジョン探索チームは上位ランクの有名チームらしいし、武器なんかも最新らしいからな。スポンサー様、楽しみに待ってろよぉ……うわあああああっ!?」
しかし、浮かれて自転車を飛ばしたのがマズかった。
普段は大して車も通らない田舎道。
なのに今日に限っては、どこかの配送業者のトラックが死角から飛び出してきた!
ドンッ……
ということがあったが、異世界転生とかはしなかった。
小型だったしブレーキもかかってた。ぶつかったとはいえ、大したケガもなくスマホも無事。
それでもハデに転んだので運転手が警察を呼んでしまい、事情聴取に時間を大きくとられた。そんな訳で探索隊の出発に完全に出遅れた。
「あー糞っ、せっかくの高額映像のチャンスがああっ」
もうとっくに探索隊は出ちまっているだろうが、それでも未練だ。無駄だと知りつつも、病院の検査を受けるよう言われているのにブッチして、ダンジョンに向かい自転車を走らせる。
「くっそぉ! オレをもうけさせない探索隊なんて、ダンジョンで全滅しちまえーー!!」
◇ ◇ ◇
「ゼ、全滅してる……? いや、死んでないが、何があったんだ?」
オレは茫然と、その現場に立ちつくした。
探索隊も、ダンジョン管理をしているスタッフも、それを見物しようとしていた野次馬どもも、みんな地面に転がって眠っていた。
外傷はないし、息もある。とりあえず
「まさか、オレの叫びがこの事態を引き起こして……なワケないか。そんな邪神はいない」
普通に考えれば、ダンジョンが何かが出てきて、これを引き起こしたという所だろう。
オレは遅れてしまったお陰で、これから逃れたというわけか。
「とにかく救急車でも呼んで救助活動しないと……いや待て。これはものすごいシャッターチャンスなのでは?」
そう。今ならばどんな機密めいた機材も装備も撮り放題。
探検隊マニアなら、モラルを捨ててこれを激写すべきだ!
急患を前に我ながら最悪のパパラッチ野郎だが、激写に心奪われた者とはこういう者だ。
パシャリ パシャリ
「うおおっ、今まで機密のベールにつつまれた探索隊装備が今オレのカメラにぃぃ!」
探索隊が指揮車両にでも使っているらしかった大型のバンが最大の目標。
とにかくプロ仕様のカッコイイ機材が満載になっていて、厨二心を刺激しまくりだ。
「ふーいっ。さーて満足もしたし、そろそろ救急車呼ぼうかね。急患のみなさん、待たせてすまない」
ぐにっ
携帯をカメラ機能から通話へ切り替えていた時だ。ふいに何かやわらかいものを踏んだ。
『やべっ、人を踏んじまったか』と下を見て驚いた。
「え? なんだこの変な子供……あ? この耳は?」
オレが踏んだそれは、妙な民族衣装のようなものをまとった子供であった。
白金のような金髪で、肌の色は異様なほどに白い。超白人だ。
だが、さらにおどろいたのはその耳。異様に長くとがっていて、頭の先に届くほどだ。
これはまさか……
「まさかエルフ? 伝説のアレ?」
子供だけど、まさにそれはファンタジー定番のあの種族だ!
ダンジョン潜っていないけど、すごいお宝を見つけてしまった。
その後。
この子供エルフを拾ったことで、オレはとんでもない運命に見舞われることになったのだ。