99話目
ついにこんな話数まで来てしまいました(*ノω・*)テヘ
珍しくきちんと叱られます。まぁ、でも主人公愛され主義な私なので心配しなくて大丈夫です←
「ふぁ……よく寝た……」
夜中にトイレに起きてしまったが、主様から寝かしつけられたおかげかぐっすり眠れた。
悪夢も見なかったので、頭はすっきりしていて、昨夜見たこともきちんと覚えている。
「エノテラ、やっぱり格好良かったなぁ……」
少し幼い見た目だったけど、生きて動いている推しの姿を思い出してしまい、俺はニマニマしそうになる口元を押さえて体を起こしてゆっくりとベッドから降りる。
今の推しは主様だけど、やっぱりずっと推しだった相手だから、実際会えたらミーハーなファンの気分になってしまった。
浮気をしたことは前世今生含めてないけど、浮気をするってこんな気分かなと何となく振り返ってみる。主様はすやすやと穏やかな寝息を立てていて、その顔を見ると罪悪感が……特に湧かない。当たり前だけど。
ちなみに一瞬起こそうか悩んだが、お茶会はお昼からだから、そこまで焦らなくて大丈夫だろうと止めておく。
何よりフュアさんもいるし…………そこまで考えて、俺はすっかりフュアさんが泊まっていたことを忘れていたことに気付き、慌てて駆け出す。
「フュアさん、おはよう! 昨日は良く眠れた?」
さすがメイドさんは早起きらしく、プリュイと一緒に掃除中だったフュアさんを見つけると、走ってきた勢いのまま開口一番にそう訊ねる。
「おはようございます、ジルヴァラ様。おかげさまで昨夜はよく眠れましたが、何かございましたか?」
結構な大声で騒いでたと思うが、困惑を滲ませて微笑み、首を傾げているフュアさんの表情に嘘や誤魔化しは見えない。
「えぇと、何でもない。よく眠れたならなら良かった」
へらっと笑って誤魔化していると、少し離れた場所で掃除をしていたプリュイが近寄って来て、身を屈めて耳打ちをしてくれる。
「おはようゴザイマス、ジル。お客様ノ泊まる部屋ハ、結界デ遮音してマシタ」
「おはよう、プリュイ。そんなことまでしてくれてたんだな、ありがと」
抱き着いてふるふるボディと戯れながら朝の挨拶と、フュアさんの気遣いへお礼言っていると、そのまま伸びて来たプリュイによって抱き上げられる。
「サァ、顔を洗いニ行きまショウ」
楽しそうに宣言するプリュイの背後で、フュアさんが抱き上げられた俺を見てちょっと悔しそうな顔してたのは謎だけど、真夜中の騒動に巻き込まれなくて本当に良かった。
「プリュイ、エノテラの剣どうなった?」
抱き上げてもらったおかげで間近になったプリュイの……耳辺りだと思われる場所に顔を寄せて小声で囁くと、ふるりと体を震わせてから俺へちらりと目線を向けてくれる。
余談だがプリュイは全身で色々感知しているそうだ。だから、今みたいに余所見していても歩く速度には変化がない。
主様は俺が寝ちゃったから、後処理とかプリュイに任せたんだろうと思って訊ねたのだが、答えは少し予想外だった。
「……幻日サマが、返してサシあげタようデス」
プリュイの言葉に驚いて瞬きを繰り返す俺だったが、そういえば、と主様にエノテラへ返してやってくれないかと頼んだことを朧げながら思い出して嬉しくなる。
「そっか、良かった。あの剣、大事にしてたみたいだから、返してあげたかったんだ」
主様が俺の言葉をきちんと聞いていてくれた嬉しさから、ふへへと気の抜けた笑い声を洩らしていると、伸びて来たプリュイの触手によって鼻先を軽く弾かれる。
痛みは全くなかったが、びっくりしてプリュイの顔を見上げると、つるりとして表情のわかりにくいはずの青く半透明な顔には、見て取れるほどの怒りが滲んでいる。
「プリュイ? どうして怒ってるんだ?」
何か怒らせるようなことしちゃったのかと不安になってムギュムギュ抱きつくと、ハァーとため息を吐かれる。
俺が動き回って危ないからか、歩く速度も少し落ちたようだ。
余計不安になって、半ば埋もれるようにプリュイに抱きつくと、無言でギュッと抱き締め返されてから、床へと降ろされる。
周囲を見渡すと、目的地である洗面所の前だった。脱衣所でもある訳だから、洗面脱衣所と呼ぶのが正しいのかもしれないが…………って、現実逃避してる場合じゃないよな。
俺は逸れそうにというか、思い切り逸れていた思考を引き戻し、ついでに離れて行こうとしていたプリュイをムニュと掴んで引き止める。
「プリュイ……」
名前を呼んで六歳児な精神部分のせいでうるっとしてしまった瞳で見上げていると、プリュイの体が傾いで来てキスされるような体勢で、ピトリと額同士が触れ合う。
「いくラ結界ガあっても、ジルから近付いタラ意味ガありまセン。ワタクシ、ちょっと怒ってマス」
「……ごめん、プリュイ」
俺の中にはどうしても『エノテラは攻略対象者でいい奴』という意識があって無警戒に近づいてしまったが、実際のヒロインちゃんがあんな強烈な子なら、エノテラもゲームと違うか、変わっている可能性もあったのだ。
今の俺なんか、小脇に抱えて持ち去られるサイズなんだし、プリュイが怒るのも当然だ。
まだ守られる立場の人間が、守りきれなくなるようなことをしてしまったのだから。
浅慮過ぎる自分にムカついて涙が浮かんできて、昂る感情のままポロポロと涙が溢れてしまう。
「ジル、泣かナイで、言い過ぎマシタ」
「ごめん、プリュイ……本当にごめん」
半ば捕食されてるような体勢でプリュイに抱き締められながら、えぐえぐと謝り続けていると、不意に急激な浮遊感に襲われて目を見張る。
浮いたおかげで同じ目線となったプリュイも驚いた様子で目を見張っているので、プリュイは犯人ではないらしい。
そもそも何も体に触れてないのに浮いてないか、俺。
キョロキョロと自分の体を見渡すが、一番こういうことをやりそうな主様の腕も本体もなく、プリュイの触手も巻き付いてはいない。
本当にただ浮いているようだ。
「え? なにこれ」
驚き過ぎたおかげで、自分へムカついて泣いていたのも忘れて瞬きを繰り返していると、グッと背後へ引っ張られ、すぐ何かにぶつかってそのまま抱き締められる。
温もりとその柔らかさから、どうやら女性らしいと判断する。
今この家にいる女性は一人だけなので、呼ぶべき名前は一つだ。
「フュアさん?」
スンッと鼻を啜って首を反らして見上げた先には、凛々しい美人顔を悲しそうに歪めたフュアさんの顔がある。
「今の、フュアさんの魔法?」
「はい。浮かせてゆっくり動かすだけの魔法で、もちろん相手に抵抗されてしまえば解けてしまうようなものですが」
「だけって、十分すごいよ! 俺浮いたの初めてだ」
改めて思い出して感動しながらフュアさんを誉めてると、悲しそうに歪んでいたフュアさんの表情が少し緩んで微かな微笑みを浮かべてくれる。
「差し出がましいかと思いましたが、ジルヴァラ様が泣いてる姿が痛ましすぎて、つい魔法を使ってしまいました」
「……そっか、フュアさんにまで心配させてごめんな。ちょっと危ないかもしれないことして叱られて、心配させた自分にムカついちゃってさ……」
またさっきのムカつきが戻って来てうるっとしていると、俺の話を静かに聞いてくれていたフュアさんからギュッと抱き締められる。
「そういうことでしたら、私もあの方を責められませんね。あまり危ないことをしては駄目ですよ」
キリッとしたフュアさんから優しく叱られて濡れた顔をタオルで拭ってもらっていると、所在なさげにふるふるしていたプリュイが近寄って来る。
「ジル、ワタクシのコト、嫌いニなりマシタか?」
「なる訳ないだろ。悪いのは俺なんだし。泣いてごめん」
泣くつもりなんてなかったのに、強過ぎる感情の揺れに六歳児の涙腺は耐えきれなかったようだ。
「ジル、大好きデス。ダカラ、危ないコトは、止めてくだサイ」
「俺もプリュイ大好きだよ。なるべく、善処します」
そんな会話を交わしてしばらく見つめ合った後、プリュイはふるふると微かに、俺は思い切り吹き出して笑い出して俺達は仲直りとなった。
ま、そもそも喧嘩してた訳じゃないんだけど。
特に意味は無いんだろうがプリュイと仲直りの会話をする間も、フュアさんは俺をギュッと抱きしめてくれていた。
小さい子が泣いてたから慰めないといけないという母性本能なのかもしれない。
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