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98話目

本日2話目の投稿となりますので、お気をつけください。


とんでもない誤字を見つけていただいたので、お礼のもう1話投稿です(`・ω・´)ゞ


まぁ、お礼にもならないとは思いますが、読んでくださってるから見つけてくださったんだろうと信じてます←


エノテラと思われる少年、死亡フラグ立てていくぜー(*>_<*)ノ

「悪いけどさ、そこの剣、俺のなんだ。取ってくれないか?」




 エノテラでほぼ確な青年が示すのは、トルメンタ様が落とし物だと布で巻いていたあの剣だ。

 どうやら探しに来たけど主様の結界に阻まれて取れなかったらしい。それで生け垣の辺りをうろついていたんだろう。

「……わかった」

 何でここに落としたんだ? という質問は飲み込んで、俺は言葉少なに頷いて剣を持ち上げる。

 正直不信感は拭えないが、持ち上げた剣が大事にされていたことと、どうしても青年がゲームの攻略対象者だという知識が邪魔して疑い切れず、青年の待つ方向へと足を動かしてしまう。

 剣先を引きずってしまってるのは大目に見て欲しい。六歳児が持ち上げて運ぶにはこの剣は長すぎる。

 内心で毒づきながら歩く俺は、青年へ剣を手渡せる距離へ近づくイコール自身が結界の端に寄ることだとは気付かず、こちらを見てニヤニヤ笑う青年にも気付けず、その元へと剣を…………運べなかった。

 剣を取るように見えた青年の手が俺を掴もうとした瞬間、俺の手から剣は落とされて地面で凍りつき、ついでに一気に生えた厚い氷の壁の下敷きとなる。


「あ」


 俺はというと我ながら間の抜けた声を洩らして、気付いた時には珍しく息を切らした様子の主様に抱えられていた。

 あまりの早業で推測するしかないが、たぶん俺を捕まえる気だったらしい青年から俺を守るため、主様が剣を叩き落として凍らせてついでに物理的な壁まで作ったのだろう。

 実際、俺はこうして主様の腕の中にいる訳だし。

「おい! 剣返せよ!」

 氷の壁の向こうでボヤケて見える人影がそう叫んでいるが、主様は不快げに眉を寄せるだけだ。

「主様、近所迷惑……にはならないか」

 主様の家の近くは空き家ばかりだと、この間フシロ団長が教えてくれた。

 みんな主様が怖くて引っ越すらしい。

 性格は可愛くて見た目が美人なんて人がご近所さんなんて最高だと俺は思うんだけど。

 それはともかく、さすがに剣は返してあげたい。

 わざわざ探しに来るぐらい大切な剣なんだろう。

 さっきのだって、悪意を持って俺に触ろうとした訳じゃなくて、剣重そうだから支えてくれようとしたのかもしれないし。

 そう思いついてしまった俺は、どうしようかと主様の顔を見上げる。

 ぽやぽやしてない様子から、主様が相当怒って青年を警戒してるのは確実だ。

「主様、剣だけは返してあげようぜ? 大事な剣みたいだし……」

 俺の言葉は聞こえていたとは思うが、主様はこちらを見てくれる気配もない。

「聞こえるか! あんたは騙されてるんだよ! そいつは偽者だ! 俺に渡せば始末して、本物を連れてきてやるぞ!」

 間に氷の壁があるせいかやたらと張り上げた声で青年が叫んでいるが、内容は意味不明だ。

 一瞬、青年も転生者でゲーム知識からの発言かと思ったが、それにしても意味不明だ。

「主様、俺って何の偽者なんだ? 何処かに本物がいるのか?」

 もしかしたら俺の知らない、DLCで追加されたストーリー関係で実は主様は探している相手がいて……的な展開を考えての問いだったが、返ってきたのは呆れ混じりの甘やかな眼差しと頬への甘噛みで。

「ロコはロコしかいません」

 そのままギュッと抱き締められると、青年の事なんかどうでもよくなりかけたが、厚い氷の壁の向こうに白色が見えた気がして思わず主様へしがみつく。



「言ったでしょう? 不安なら私だけを見ていればいい、と」



 喚く声が聞こえないように片耳は主様の胸元へ、もう片方は主様によって塞がれて、聞こえてくるのは主様の声と鼓動だけになった世界で、俺はコクリと頷いて目を閉じる。


 こうするともう余計なものは気にならない。


 相変わらず現金な性格であっという間に眠くなってきた俺は、安心出来る腕の中で周りの騒音など気にせず眠りに落ちていった。

「魔法、使いマシタか?」

 背後から話しかけて来た魔法人形の声に、青年はゆっくりと振り返り、大きく首を横に振る。

「幻日サマに抱っこサレテ、安心シテ寝たノでショウ」

 ふるふると笑うように体を揺らした魔法人形は、青年と青年が抱えた子どもを守るように氷の壁へと一歩踏み出す。

 排除するため、さらに近寄ろうとする魔法人形。それを遮ったのは青年の一声だ。

「魔法人形、ロコをお願いします」

「シカシ、幻日サマ」

「あなたを向かわせて、またモンスターだと言い逃れされるのもいい加減ムカつくんで」

 そう言ってニコリと笑った青年に、魔法人形は「ハイ」とだけ答えて、壊れ物を扱うように眠っている子供の体を受け取る。

「……くれぐれも、寝かせるのは私のベッドだからな」

 家の中へと入っていく魔法人形の背に重々しく掛けられたのはそんな台詞で。

 それが聞こえたのか、氷の壁の向こうはさらに騒がしくなる。

 不快げに眉を寄せる青年の顔からは、子供がよく言う『ぽやぽや』が消えていて、まるで本人が作り出した氷のような冷ややかさが辺りに漂う。

 それが比喩や気のせいではない証拠に、街灯と月明かりを反射して、キラキラとした粒が中空を漂い始める。

 今は家主のベッドに寝かされた頃であろう子供がいたら……、



「すごーい、ダイヤモンドダストよ、これ」



 代わりに楽しそうな歓声を上げたのは、氷の壁の向こうに見えている少女らしき白い人影だ。

 楽しそうな笑い声に、青年の眉間に皺が寄る。

「ねぇ! そこにいるんでしょう? あたしと話しましょう? そうすればあたしが本物だってわかるから! あたし、あなたの名前だって……」

「黙りなさい」

 氷の壁越しでも無駄によく聞こえる少女の台詞を、青年の常より低音な声が叩き切る。

「え? あの、あたしよ? スリジエ! あたし、回復魔法使えるのよ?」

「それが?」

 一応少しは話を聞く気があるのか、青年は相槌を一つ打つが、どう聞いても和やかに会話をする気ではない相槌だ。

 どちらかと……というか、思い切り喧嘩を売ってるようにしか聞こえない。

 それでも青年は一歩ずつ氷の壁へと近寄っていく。

「わかってくれたの? そうよ、触ってくれればわかるわ。あたし、あなたになら……」

 青年には声しか聞こえていないが、明らかにあの年頃の少女が出す声とは思えない、自分が可愛いと確信していて相手を落とそうとしているそんな声だ。

 氷の壁の向こうでは、元々いたエノテラだと思われる少年も何か言っているようだが、こちらは声を張り上げていないのかゴニョゴニョとしか聞こえない。

 ボヤけた人影だが、エノテラだと思われる少年が少女を止めているように見える。

「黙れ。そう私は言ったはずですが」

 氷の壁の向こうで、少女が「え」という素っ頓狂な声を上げたようだが、青年は気にする様子もなく自らが生み出した氷の壁に手を当てる。

 そこそこの透明度な氷の中、エノテラだと思われる少年の剣が凍りついてるのは辛うじて見えている。

 それを視認した青年は、氷の壁へと手を伸ばし、トンッと軽く叩いてみせる。もちろん、それで分厚い氷の壁が割れる訳もなく、何事も起こらない……はずだった。

 氷の壁の向こうでエノテラだと思われる少年の「え? え? なんで、俺の剣、どうやって出たんだ?」という驚きの声が聞こえてきたのを確認してから、青年はゆっくりと手を横に振る。


 まるで邪魔な虫でも払うように。


 その途端、氷の壁の向こうから少女の悲鳴が聞こえ、何かが転がるような音が聞こえる。

 青年はその声を聞きながらぽやぽやと微笑んで、何かを待つようにその場から動かない。

 しばらく後、ガヤガヤという複数人の声と足音が近寄って来て、氷の壁の向こうが騒がしくなる。



「またお前らか」


「あまり調子に乗って騒ぐな」


「幻日様、お騒がせしました」



 そんな声が聞こえてきて、騒いでいた相手が連れて行かれる様子を確認した青年は、自身にかけられた声へ応えることもなく、家の中へと消えていった。




 迷うことなく青年が向かう先は自身の寝室だ。




 ノックもせず開けた扉の先では、ベッドの端で遠慮するように眠る子供がいて。

 その姿を確認した青年は、蕩けるような微笑みを浮かべて、子供が無意識に空けてくれたであろうスペースへ横になる。

 部屋の隅で待機していた魔法人形は、青年が戻って来たのを確認した時点で部屋を出て行ったので、寝室に残っているのは夕陽色の青年と黒髪の子供だけ。



「私の『本物』はこちらですよ」



 穏やかな寝息を立てる子供の寝顔を見て、うっとり微笑む青年を見ていたのは、深く沈む夜の闇だけだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


前書きにも書きましたが、誤字報告も助かります(。>﹏<。)


たまに主様がナチュラルに、ロコを呼び間違えます←


もちろんですが、評価、いいね、ブクマ、感想も大変嬉しいです(*´艸`*)


さぁ、100話まであとちょっとです(^^)


100話では終わりません!(え?)

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