97話目
本気で落としに来てる主様と気付かないジルヴァラ。
そして、ヒロインちゃんより先にこちらと初対面です(`・ω・´)ゞ
いきなり恋に落ちたりはしません。
ヒロインちゃんではないんで。←
食後のお茶も終わり、俺はいつもの入浴時間となったが、そこで少々問題が発生してしまった。
もちろん俺は一人で入浴でも大丈夫だけど、最近俺を世話するのが楽しくなってきたらしい主様と、メイドとして世話するのが生き甲斐なフュアさん、どちらから世話を焼かれてお風呂へ入るのかと。
とても平和だが、どちらを選んでも面倒になりそうな問題だったが、フュアさんの「私は今日だけしか……」と儚く微笑む姿に絆されてしまい、本日の入浴介助はフュアさんとなった。
さすがに主様のように裸の付き合いという訳にはいかないので、フュアさんはメイド服姿で裸足という格好で俺の入浴介助をしてくれている。
浴室の暑さのせいもあるかもしれないが、頬を染めて働く姿は本当に楽しそうで、フュアさんが人の世話するのが大好きなのが見て取れる。
生き生きしたフュアさんの姿に、俺も何だか断るのが申し訳なくて、全身くまなく洗ってもらうことになった。
「もう大丈夫だからさ」
全身ピカピカにした俺を浴槽へと入れ、満足気な表情で微笑んでいるフュアさんにそう声をかけると、かしこまりました、と答えて微笑んで脱衣所の方へと消えていった。
たぶん今度は拭き上げをしてくれるため、そこで待っていてくれるのだろう。
フュアさんに遠慮したのか、最近出待ちするのが恒例だった主様もいないようだ。
「なんだかんだで主様って女の人とか子供には優しいよな。その優しさのおかげで、俺もこうしてここにいる訳だし」
一人になった浴室でポツリと洩らした声は、何だか拗ねたように自分の耳には聞こえてしまい、俺はふはと吹き出して湯面を揺らす。
何でそんな声になったか明白過ぎる自分がおかしくて笑えたのだ。
「俺にだけ優しくして、俺だけを見て欲しいなんて」
なんてなんて浅ましく、なんてなんて醜い心だ。
お湯に口元まで浸かり、ポコリと吐き出す空気と共に伝えられない気持ちを吐き出してしまう。
そうすればお風呂から上がる頃は、脳天気な主様大好きなだけのいつもの俺に戻ってる。
ポコリポコリと生み出される泡を見ながら俺は自嘲するように笑ってから、よし! と気合の声を上げて浴槽から這い上がる。
入る時より、何気に出る時のこれが大変だったりする。が、さすがに全裸でフュアさんに抱っこは恥ずか死ねる自信がある。
濡れた床で滑らないよう気をつけながら浴室を出ると、待ち構えていたフュアさんによって優しく全身拭かれ、髪もサラッサラのふわふわにしてもらった。
もちろん服もきちんと着せてもらってある。
流れるような作業に見惚れているうちに、全てが終わっていた。
「では、お部屋まで運ばせて……」
そう言いながら伸びて来たフュアさんの手をどう断ろうか一瞬悩んだが、それはいらない心配だった。
「ロコ」
いつの間に現れたのかわからないが、背後に佇んでいた主様の手が伸びて来て問答無用で抱き上げられる。
「おう。フュアさん、ありがと。おやすみなさい」
俺の名前しか呼ばない主様に軽く応えて、主様に代わって愛想を振り撒いて笑顔で挨拶をするが、そんなことを気にする主様ではなく……。
おや、まで言った辺りで歩き出してしまったので、俺は主様の腕の中で伸びれるだけ身体を伸ばして背後を振り返り、フュアさんへ挨拶を続けて手を振る。
小さくなっていくフュアさんは、下の方で控えめに手を振り返していてくれて、俺は嬉しくなってへらっと笑う。
「じっとして」
へらへらしていたら、振り返るためにモゾモゾし過ぎたか、主様からそんなやんわりとしたお叱りが来て、ギュッと抱き締められる。
「はぁい」
いい子なお返事をした俺は、素直に抱かれやすいように体勢を整え、少しだけ入っていた体の力を抜いて主様へ完全に体を預ける。
少しだけ目を見張ったから、俺が重くなったように感じたのかもしれないが、主様の表情はぽやぽやしていて余裕そうだ。俺を抱える腕も全くぶれない。
「さすが主様だ……」
ふへへと気の抜けた笑い声を洩らしながら、主様の服に顔を埋めて深い呼吸を一つ。
主様の匂いって香水? それとも体臭? どれにしろ……。
「いいにおい……」
落ち着くなぁとまで考えたのは覚えていたが、俺の意識はベッドまで保たず安心出来る腕の中で深い眠りへ落ちてしまう。
「もっともっと、私の側へ……」
「ロコしか見ていません」
運ばれる最中、ずっと甘やかな声が聞こえていた気もしたが、俺の願望が見せた夢だったんだろう。
●
真夜中、フッと覚醒した俺は、何かやたらと甘やかな言葉を囁かれた夢を見た気がして、ふへへと気の抜けた笑い声を洩らすが、隣で眠る主様に気付いて慌てて手で口を塞ぐ。
起こしちゃったかとそっと窺うが、眠りの深い主様は起きる様子もなく、精巧な美術品のような完璧な寝顔を見せている。
見てると触りたくなるので、俺は無理矢理視線を外して目を閉じるが、ある理由から眠れそうもない。
「トイレ……」
生理現象には勝てずポツリと呟いた俺は、のろのろとベッドから降りてトイレへ行くために寝室を出て廊下を進む。
魔法による人感センサー的なので明かりが灯るので暗くて怖いなんてことはないが、小市民な前世の俺が「広すぎなんだよ」と文句を……って、口に出てしまっていて、俺は喉奥で笑って今度は静かにトイレへ向かう。
無事に用を足した俺が寝室へ戻ろうとした時だった。
裏口の方。高い生け垣に僅かにある隙間からちらちらと何かが動いているのが見える。
「猫?」
主様の家に泥棒とかする勇気ある奴はいないだろうし、と考えて思いついたのは、こんな時間帯に街中で活動してそうな生き物の姿だ。
「猫見たい……」
最近猫真似をしたため、ファンタジー世界の猫に興味が出まくっていた俺は、我慢出来ず足音を殺して裏口へと向かう。
熟睡している主様はともかく、眠るかどうかわからない魔法人形なプリュイには気付かれているかもしれないが、結界から出なければ怒られないだろう。
そう言い訳をしながら、俺は裏口を開けて扉の隙間から外へとそっと滑り出る。
「にゃー?」
キョロキョロと見渡しても猫の姿はなくあの布で包まれた剣があるぐらいで、俺は鳴き真似をしながら猫を探す。
そんな俺の声に反応するようにガサッと生け垣が揺れ、俺はとっさに猫を驚かせないように息を潜めて、揺れた辺りをジッと見つめる。
もう一度、ガサッと揺れた生け垣から焦げ茶色の毛が覗き、そこから濃い青色の目をした猫……というには大きすぎる青年の顔が出て来て、ゆっくりと瞬きを繰り返す。
え? 猫の親愛の挨拶? とか驚き過ぎた俺の脳内ではかなり馬鹿な突っ込みがぐるぐるしてるが、相手も驚いているのか動く気配はなく。
数分そのままだったろうか。
やっと思い出したように動き出した青年は、結界に触れないギリギリの位置らしい場所から、ちらちらと何かを見て、俺へを見てを繰り返している。
向こうからは固まっているように見えたであろう俺の方も脳内では、オズ兄と同年代ぐらい? というか、これって俺の推しのエノテラじゃね? と忙しく突っ込んでいた。
無言でちらちらと見ているエノテラ、固まっているように見えて脳内では推しと会えてちょっと感動している俺、というカオスが終わったのは、やっとエノテラの方が動き出したからだ。
「なぁ、お前、ここの家の住人か?」
生きて動いて話してるーと脳内で騒ぐミーハーな俺を押し込めて、俺は不審者に怯える子供ぶって無言でコクリと頷く。
というか、喋ると色々ボロが出そうなので喋らなかっただけだが。
「悪いけどさ、そこの剣、俺のなんだ。取ってくれないか?」
そう話しかけられ、乙女ゲームのスタートみたいだと感動したのは内緒だ。
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