86話目
にゃーにゃー言うジルヴァラ、可愛い(*´艸`*)
という親バカな私(。>﹏<。)
今回、ちょっと短めです。
ぼんやりと雨の音を聞きながら、ベッドの上で背後から抱き締めてくる主様のされるがままになってうつらうつらしていた俺は、主様が離れる気配を感じて目を擦りながら半身を起こす。
「何処か行くのか?」
匍匐前進でベッドの上を這って離れていく主様を追うと、ベッドから降りていた主様の顔が寄ってきて鼻先をぶつけ合う、まるで猫の挨拶のような戯れをされる。
「ん、みゃー?」
ベッドの上で四つん這いになって猫の鳴き真似をしてから、俺はとんでもない事実に気付く。
今更だけどこの世界って猫っていたっけ? と。
ちょっと冷静になろう。
ゲームでは……出てたか? そもそも攻略対象者の事も忘れてる俺の記憶力で覚えてる訳ないよな。
自分で突っ込んでなんだか虚しくなり、鳴き真似をした体勢のまま脱力してると、主様からひょいと抱き上げられる。
「猫の真似ですか? 首輪、着けますか?」
なんだかいつもより生き生きした主様の表情に疑問を抱きながらも、この世界にも猫がいるらしい事実に安堵する。
そのまま安堵して抱かれてたら、主様が本気で首輪を着けようとしていたので、慎んでお断りしておいた。
生き生きしていた主様がしょぼんとしてしまったのでかなり心が揺れたが、首輪は息苦しそうなのであまり着けたくはない。
名残惜しそうに首筋を指でなぞられているが、いくらお願いされても首輪は着けません。
「ロコが私のものだという印なんですが……」
とても心揺れる一言だったが、やっぱり息苦しいのは苦手なので、ふるふると首を横に振って、もう一度だけ「にゃー」とだけ鳴いて拒否しておいた。
主様が収納から首輪を出したように見えたのは、俺の見間違いだろう。
●
「何処行くんだ?」
主様の結界のおかげか雨の日でも過ごしやすい湿度の屋内を、主様に手を引かれるまま歩いていく。
降りたがる俺を無視して抱いたまま移動しようとする主様に「歩きたいにゃー」とダメ元で言ってみたら、真顔になって降ろしてくれた。
俺にもダメージがあるから余り使えないが、いざという時に使える主様を止める最終兵器的な扱いでいいかもしれない。
猫語で止められるいざって、どんな時だよって話だけど。
そんな馬鹿げたことを考えていると、ぽやぽや微笑んだ主様が俺を見て、とある扉の前で足を止める。先程までいた俺の部屋からは近く、物置代わりにしてると教えてもらった部屋のはずだ。
「ロコに贈り物があります」
そう言ってぽやぽやドヤぁという相変わらず器用な顔をした主様によって扉が開かれ、中を覗き込んだ俺は予想外な室内に首を捻る。
「……物置代わりだって言ってなかったっけ?」
物置代わりにしてるとは言ってたが、そこまで狭い訳ではなく、普通の部屋だから窓もきちんとある。
問題なのは部屋の広さなどではなく、そこに置かれた家具と、その中にピッチリと仕舞われている物だ。
「ロコが欲しがっていた物です」
「は? え? 俺が欲しがってた?」
主様が示しているのは、テーブルでもソファでもなく、大きな本棚だ。高さは俺の身長の二倍程あり、横幅は俺が手を広げた二人分ぐらいある。
そんな大きな本棚に、びっしりと本が詰まっている姿は、ちょっとした図書館のようだ。
「はい。ロコが欲しがっていました」
嬉しい? とばかりに見つめてくる主様の圧を感じる視線に、俺は必死に本の背表紙を眺めて記憶を辿る。
「東方の料理……家庭の料理……恋人達のための料理……基本のお菓子……ターゲットの料理法……新妻を美味しくいただ……」
これほとんど料理本か? と思いながら俺の唇は無意識に並んでいる本の題名を読み上げていったが、途中何冊か主様の手が素早く動いて本を抜き取っていく。
最後の一冊に至っては、最後まで題名を読み上げさせてもらえなかった。何となく内容は想像出来たので、それに関してはあえて追及しないでおく。
それより気になるのは、何故こんなに本がこんな本がここにあるか、だ。
俺の部屋には児童向け、主様の部屋には何か小難しい本があったが、こんな料理特化な本は見当たらなかったと思うが。
「こんなにどうしたんだ?」
「買ってきました。……嬉しく、なかったですか?」
主様の表情が不安そうに陰るのを見上げ、俺はゆっくりと首を横に振る。
「びっくりしたけど、嬉しいよ。料理本だけじゃなくて、色んな図鑑とかも買ってくれたんだな」
下段の方へ視線を移していくと、モンスター図鑑、食べられる植物、食べてくる植物、人体の秘密〜お・し・え・て・あ…………途中気になったタイトルの本があって手に取る。
中を見ると、なかなかアクロバティックな体勢で男女がアハンウフンしている精緻な絵が……と思わず固まってじっと見ていたら、本をバッと奪われる。
「主様のしゅ「違います」」
首を傾げて言いかけた言葉は最後まで言わせてもらえず、真顔になった主様からぶった切られた。
「主様が買ったんだろ?」
「本棚を、ここからここまで、と買ったので……」
俺から奪い取った本をキッと睨みつけてしばらく悩んでいた主様は、それを収納へとしまって俺の目の届かない所へと消したようだ。
前回、俺が本を燃やすのを良しとしなかったことを覚えていてくれたのかもしれない。
「ある意味、勉強にはなりそうだったけどな」
前世では健康的な成人男性で色々見ていた身としては、ほぼ教科書にしか見えなかった絵を思い出してへらっと笑っていると、主様から両肩を掴まれて顔を覗き込まれる。
「……あの本の内容、わかるんですか?」
「えぇと、まぁ、わかるけど……」
六歳児としてはおかしいか? でも森で動物達のそういうのは見てたし、とか悩みながらやけに真剣な主様の瞳を見つめ返して答える。
うん。今日も宝石みたいで綺麗だ。けど、なんかいつもより曇ってる?
「まさか、あの本に描かれてるようなことをしたことが……」
「ないから!」
今度は俺が主様の発言を遮る番だったようだ。
「本当に? さらわれた時に、何かされたりは……」
「されてないって。何か怪しい物持ってないかベタベタ触られたけどさぁ」
思い出したら、何かあの時の具合の悪さまで蘇ってきて一人でムカムカして唇を尖らせていると、主様がやたらと静かなことに気付く。
「主様?」
「……そうですか。そういえば、動けなくしたゴミ屑がまだ残っていました」
処理してきます、と初めて見るようなとてもイイ笑顔で宣言する主様は、どう見ても嫌な予感しか感じなくて、俺は文字通り全身で主様を止める羽目になった。
いつもありがとうございますm(_ _)m