85話目
スマホ機種変しました(*´艸`*)
予測変換とかまっさらになりました_(┐「ε:)_
ジルヴァラとか主様とかフシロ団長とかドリドル先生とか、スッと出てこなくなりました(´;ω;`)
「主様って、食べ方も綺麗だよなー」
雨のせいか肌寒く感じてしまい、俺達は暖炉の前のソファに座って向かい合わせで食事をしていたが、俺は目の前で食事する生きてる芸術品みたいな主様の姿に見惚れて、そんな呟きを洩らしてしまう。
「そう、ですか? 野性的とは、言われたことがありますが……」
ナイフとフォークで器用にベーコンエッグを食べる姿は、マナーをよく知らない俺から見ると完璧に見えるが、首を傾げた主様の発言から鑑みると、どこか駄目な部分があるのだろうか。
ナイフとフォークを使い慣れてない俺は、踏み台を買った時にドワーフのガンドさんからついでに作ってもらった箸で食べてるが、そんな俺ならともかく主様の作法は流れるようで非の打ち所がなく見えるんだが……。
んー? と首を傾げて悩んでいた俺だったが、もしかしたらという事を思いつく。
「なぁ、その野性的って言われた時は、何食べてたんだ?」
「普通に生肉です」
自信満々な笑顔で返ってきたその答えに、俺は全てを理解して大きく頷くと、とりあえず朝ごはんの続きをゆっくりと食べることにする。
「主様、足りるか? 足りなければ、スープとご飯はおかわりあるし、ベーコンエッグも追加で焼けるから欲しかったら言ってくれよ?」
主様のはどの料理も六歳児な俺の二倍量で用意してあるが、見た目より食いしん坊な主様には足りないかもと思って訊ねると笑顔で首を横に振られる。
足りるようなので、そのまま自分の食事を続けていると、主様が大きく動く気配がする。
「ロコ」
さらに名前を呼ばれたので主様を見ると、食卓にしている低めのテーブルに手をついていて、そのまま顔が近づいて来たかと思うと口元を舐められる。
「なんか付いてた? ありがと」
仲間もよくやってくれた親愛を感じられる行動に、嬉しくなってえへへと笑ってお礼を言うと、その唇をさらにペロリと舐められる。
「ん、そんなに付いてた? 半熟にし過ぎたか」
よく海外で生卵はヤバいと聞いてたが、ここは異世界で魔法がある。なので、相当日数が経ってなければ浄化魔法とかいうナニを綺麗にしてるかわからない魔法で何ともなくなるらしい。
と、チートで浄化魔法も使える主様が教えてくれたので俺好みの半熟の目玉焼きにしたのだが、そのせいで黄身が付いてたんだろう。
前世ではそんな指摘をしてくれる人ももちろん取ってくれる存在なんかいなくて、昼にハムエッグ定食食べたら黄身が付いたらしく、職場から帰宅途中寄った駅のトイレの鏡でそれに気付いて身悶えしたのはある意味懐かしい思い出だ。
そんな前世を思い出しつつ、自分でも気になって舌でペロペロと唇を舐めてると、主様からガン見されていた。
「……ごめん、さすがにマナー違反だよな」
そもそも顔を舐めるのはマナー以前の問題だろうという突っ込みを入れてくれる存在はおらず、俺は舌を引っ込めると差し出されたナプキンで口元を拭う。
「ありがと、プリュイ」
ナプキンを差し出してくれたのは主様ではなく、いつの間にかやって来ていたプリュイで。
ふるふるとしているプリュイにお礼を言うと、汚れたナプキンをそのまま回収してくれる。
「ごちそうサマでシタ、ジル。美味しかったデス」
「そっか、良かった」
回収ついでに朝ごはんの感想をくれたプリュイに、俺は照れ臭くて笑み崩れる。
主様からのわかりにくい誉め言葉も嬉しいが、やっぱり素直な誉め言葉は嬉しくてにへらにへらしてると、プリュイの半透明な顔が寄ってきて、ペタリと頬を合わせられる。
「な、なに?」
「頬ガ汚れてマシタ」
突然の行動に驚いたが、全身が優秀な汚れ取りであるプリュイだから出来る汚れを取るための行動だったらしい。
「ありがと。……あー、主様、真似しようとしてるなら、意味がないからな?」
主様がプリュイを真似ても、ただただお互いの頬が汚れて終わるだけなので、何となくソワソワしているように見えた主様へ念のため釘を刺しておく。
「私がするのは駄目ですか?」
「駄目じゃないけど、意味はないだろ?」
やはりしてみる気だったのかぽやぽやからしょぼんと一気に急降下した主様に苦笑いした俺は、テーブルを回り込んで主様の隣へ腰かける。
その間にプリュイは使った食器を片付けてくれた上に、さらにテーブルまで拭いていってくれたようで、テーブルはツヤツヤだ。
「ほら、これでいいか?」
チラリと綺麗になったテーブルを見てから、俺は背伸びをしてプリュイが綺麗にしてくれた頬の方を主様の頬へと押し付けようとする。
避けられるかな、とか思ったりもしたが特にそんなことはなく、ふにふにとしていたプリュイとはまた違う柔らかくしっとりした感触が頬に触れる。
「俺とくっついても汚れは取れないからな?」
勘違いはしてないだろうがもう一度念押しすると、すりすりと頬擦りで返された。
「ロコはふわふわしてますね」
「まだギリで幼児だからな。もう少しすれば、シュッてなって柔らかくなくなると……って、うわ」
ふわふわしてると語る主様の声の方がふわふわしてるとか思いながら、負け惜しみとは違うが妙な負けん気が湧いてしまい、フッと格好つけて言い返すと不意に伸びて来た主様の腕により、主様の脚を跨いで向かい合う体勢で膝に乗せられる。
「な、なに?」
「柔らかく、なくなるんですか?」
俺の両頬に手を添えて、不思議そうに覗き込んでくる主様の瞳を見た俺は少し不安を覚える。
「そりゃあ、俺はずっと子供な訳じゃないからな。……もしかして、主様は小さい子供が好き、なのか?」
今こうして打ち解けて来たのは、俺が幼い子供だとしたら……。
俺は無意識に主様の服を掴んでいたらしく、その手を主様からやんわりと外されて、そのままギュッと手を握られる。
「違います。……ただ、人とはあっという間に育つものだと忘れていました」
ふふっと自嘲するように笑った主様は、そっと俺の手を離して再び頬を撫でてくる。
「私の気持ちは変わりません。何年経とうととも」
私執念深いですから、と悪戯っぽく笑う主様は、美人でもあり無邪気で可愛らしくもある。
「──俺も。ずっと、主様のこと好きだよ」
いつか、俺は主様を置いて逝くのかもしれない。その時は少しだけでいい、俺のことを覚えていて欲しい。
なんてな。そんな遥か未来のこと、今から考えても仕方ない。
俺は主様の側にいたいし、その為に出来ることをしよう。
頬を撫でてくれる手にすりすりと頬を寄せ、俺は忘れかけていた当初の目標を思い出してへらっと笑う。
「主様とずっと一緒にいたいから、俺は絶対冒険者になるからな」
海賊王に俺は──とか脳裏で叫んでる少年の幻をしんみりしかけた雰囲気と共に頭を振って追い出し、わざとらしいぐらい元気良く宣言して主様の膝から飛び降りる。
「私も絶対に離すつもりはありませんから」
着地と同時ぐらいに主様が何か喋った気がして振り返るが、返ってきたのはぽやぽやとしたいつも通りの主様の笑顔だけだった。
●
しんみりしてしまったのはこの天気のせいもあるよなぁ、と俺は窓の外を眺めて降り止む気配のない雨にため息を吐く。
「……雨止まないなぁ」
降らないと飲み水無くなったり、植物枯れたりして大変だから降るなとは言えないが、外に出るのが億劫になるのでやっぱり晴れの方がいい。
雨だと森の中ではさらに憂鬱で、洞窟の中で熊のもふもふなお腹に埋もれてふて寝をしたり、白い犬の尻尾で遊んだり…………あれ、意外と楽しんでたな、俺。
思い出したら激しく何かをもふりたい気分になってしまい、俺はベッドへ飛び込んで謎ぬいぐるみを抱き締める。
「主様、フシロ団長に頼んでグラナーダ殿下に話通してくれるって言ったし、待つしかないよな? そうだ、会えたらきちんとお礼言わないと」
ぬいぐるみへ話しかけながら、伝えなきゃいけないことを心のメモに書き込み、俺は一人でうんうんと頷く。
そのままぬいぐるみと一緒にころころとベッドを転がっていると、いつの間にか室内に自分以外の人影がある事に気付いて回転を止める。
「…………主様、声かけろよ」
「すみません。可愛らしくて」
ジト目で睨むと、主様は珍しく声を上げてくすくすと笑う。相当ウケたらしい。俺としては、かなり不本意だが。
「そのぬいぐるみ、気に入ってるんですか?」
「おう。抱き心地が良いし、手触りもいいから抱いてるとなんか落ち着くんだよな」
見た目はまんじゅう型をしてて、一体何の生き物なのかはわからないぬいぐるみだけど、段々可愛く見えてきた気がする。
主様に説明しながら、もにもにとぬいぐるみを揉んで説明していると、ぽやぽや微笑んでいた主様からぬいぐるみを奪われる。
「……抱き心地と手触り、ですか?」
俺の発言を確かめるように、主様はしばらくぬいぐるみをもにもにと変形させてから、ポイッとベッドへ投げ捨てる。
「あ」
ころころとベッドを転がるぬいぐるみを追おうとした俺は、背後から主様に抱き締められてそのまま一緒にベッドへもつれるように倒れ込む。
「どちらも、ロコの方がいいです」
ベッドへ倒れたまま背後から俺を抱き締めて囁く主様に、俺はそうかと照れ臭さから笑って、勝者として敗者となってしまったぬいぐるみを引き寄せて抱き締めた。
雨はまだ止まないが、しんみりとした空気はすっかり霧散してしまった。
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