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80/399

80話目

短くサクッと終わらすはずだったのに、気付いたらもふもふを追い抜きそうな勢いで80話目ですヽ(`▽´)/


何やってるんでしょう、私……orz

「っぷし!」



 慣れたせいか主様の駄々漏れ魔力による寒さはあまり感じないが、さすがに物理的な寒さには勝てずくしゃみをした俺をプリュイが人型を崩して包み込んでくれる。

 いつもはひんやりとしたぷるぷるボディが、今は人肌よりほんのり温かい。

 プリュイに包まれて見渡した俺の部屋の中は、冷凍庫のような有様だ。

 睫毛の先までちょっと凍ってきてる。

「プ、プリュイ、こおらない、のか?」

 保冷剤的な事にならないかと心配して見上げると、問題ないデスと微笑付きで返ってきて一安心する。そういえば、今のプリュイは人肌より温かいぐらいだし、凍らないよな。寒くて頭が回ってないみたいだ。

 下手にその辺に触ると貼りついて取れなくなりそうなので、俺はおとなしくプリュイに包まれる形でこの現状の原因が帰ってくるのを待つ。

 そこへ、

「どうですか?」

と、ぽやぽやドヤァな雰囲気で主様が戻って来たのだが、プリュイに包まれて震えている俺を見て、わかりにくくおろおろしている。

「ロコ? どうしたんですか?」

「幻日サマ、普通ノ人ダト、普通ニ死ぬ寒さデス」

「主様、いくら、害虫退治でも、やり過ぎ……」

 プリュイに続いて、ガチガチと歯のぶつかる音をさせながら俺が何とかそう伝えると、主様の顔が目に見えて強張り、その右手がぶんと大きく振られる。

 その途端、まるで先ほどまでの冷凍庫のような有様が幻覚だったかのように消えていく。溶けた水とかもないので、余計幻覚だったようにしか思えないが、室温の低さが現実だった肌で教えてくれている。

「ロコ、これで平気でしょう?」

 小首を傾げ、さぁこちらへとばかりに両手を広げた主様は、プリュイに代わって温めてくれるつもりらしい。

 ぬくぬくプリュイから離れ、素直に主様へ向かいかけた俺は、視界の端にある物を見つけてしまい、ピタリと足を止める。

「ロコ?」

「あ……」

 元々主様の家にあった物は凍っても大丈夫だったが、今俺の視界にあった物は駄目だったらしい。

「萎れちゃったな」

 パタパタと駆け寄る先にあったのは、窓辺に飾られた色鮮やかだったはずの花だ。

 今は急速冷凍からの急速解凍ですっかり萎れてしまい、花瓶の中でクタッとしてしまっている。

「プリュイ、これ今からドライフラワーとかに出来たりする?」

「任セテくだサイ」

 プリュイなら何とか出来るかと頼ってみたら、思いの外自信満々な言葉が返ってきたので花瓶ごとプリュイへ渡すと、そのまま花瓶は半透明な青い体の中に吸い込まれる。

「ロコ……」

 その間も主様は両手を広げた体勢のまま待っていたので、俺は改めて主様の元へ歩み寄ってピタリとくっつき暖をとってみる。

「主様の家にも害虫とか出るんだな」

 温めてくれるつもりなのか、ギュッと抱き締めてくれてる主様にそう伝えると、ん? と首を傾げられて、さらさらの髪が当たってきてくすぐったい。

「私の結界内には、害虫の類は一切侵入出来ませんが」

「そうなのか? そっか、さっきプリュイがいたのは、ギリギリ結界の外なんだな。白いのなら珍しいからちょっと見てみたかったなぁ」

 一人で納得してると、何故か主様の拘束が強まった。

「──魔法人形、その『白い害虫』は?」

「残念ナガラ、逃亡しまシタ。次コソ、仕留めマス」

 話してる内容は白い害虫ゴキブリのこととはいえ、主様とプリュイの会話は秘密結社のボスと部下のやり取りとみたいで格好良くて、俺は思わず見惚れてパチパチと拍手する。

「主様も、プリュイもカッコいいなぁ」

 俺が同じ内容を話したとしても、絶対迫力不足だろう。

「そう、ですか?」

「お誉めイタダキ、ありがとうございマス」

 それぞれ違う反応を返してくれる二人にへらっと笑った俺だったが、生理現象には勝てず、主様へ向けていた顔をぐいっと横へ向ける。

「ロコ?」

「へっくしゅん!」

 主様が訝しむと俺がくしゃみをするのは同時だった。

 そのままずるずると鼻を啜っていると、そっと近寄って来たプリュイからハンカチで鼻を覆われる。

「はい、チンしてくだサイ」

 幼子扱いされているみたいで恥ずかしいとか一瞬過ったが、今の俺は六歳児だからギリギリ幼子かと思い直して遠慮なく鼻をかませてもらう。

「ジル、お風呂入りマスか?」

 そのまま洗濯行きなのか、ハンカチはプリュイの体内に消えていく。半透明な青い体なのに、中へ入った物は見えなくなる。

「そうだな。風邪引きそうだし、そうさせてもらうか」

「では、お風呂用意シテきマス」

 どうなってるんだろうと伸ばした手でプリュイをツンツンしながら、プリュイの提案に遠慮なく頷く。

 お風呂に入る時間としては早いが、体の芯まで冷えてしまったので、ぎゅうぎゅう抱き締めてくれてる主様には悪いが、手っ取り早く温まる方法へ選ばせてもらうことにした。

 プリュイが準備してくれたお風呂へ浸かって芯まで温まらせてもらってる俺だったが、浴槽内にいるのは俺一人ではなく主様──でもなく、オズ兄と一緒だった。

 どうしてこうなったかというと、話は少し戻り。



 お風呂へ入ろうと準備していると、呼び鈴が鳴らされ、たまたま俺が一番近くにいたのでパタパタと玄関へ向かった。

 背後で何か主様が止めるようとしてた気もしたが、主様の結界があるので俺は気にせず扉を開ける。

 そこにいたのは、唇を紫色にしてガタガタと震えているオズ兄だった。

 格好は騎士団の制服なので仕事中のようで、何故ここにいるのか、何でそんな状態なのか分からず首を傾げ、ひとまずオズ兄を家の中へと連れて行く。

「主様、オズ兄だったから、入ってもらった……って、そこにいたのか」

 主様へ事後報告しようとした俺は、思いの外近くにいた主様に軽く目を見張る。

 相変わらずオズ兄のことを警戒しているのか、主様はぽやぽやしながらジッとオズ兄を見つめている。

「何があったんだ、オズ兄」

 見つめてくるだけで特に害はない主様をスルーし、暖炉の前まで連れてきたオズ兄のあちこち撫でてあげてると、やっとその顔色に血の気が戻ってくる。

「幻日様のお宅で何かあったようだから、帰りにでも寄って様子を見てきてくれ、と団長に言われて寄ったんだけど、魔法に巻き込まれて少し凍りつきそうになってな」

 オズ兄の説明を聞いた俺は、思わず主様を振り返る。明らかに主様の害虫駆除が原因だ。

「主様、ちゃんと安全確認しろよ」

 危ないだろー、と主様を軽く睨むと、ふいっと視線を外された。

 この反応は、オズ兄がいることに気づいていたのかもしれない。なんて、さすがに気の回し過ぎか。

 顔色はだいぶ良くなったが、まだオズ兄は寒そうで、主様に温める魔法でもかけてもらうべきか俺が悩んでると、ちょうど良くプリュイが戻ってくる。

「ジル、お風呂ノ準備出来マシタ」

「ありがと、プリュイ。……そうだ、オズ兄、一緒にお風呂入って行けよ。俺も冷えたから、お風呂入るところだったんだ」

 名案だと自分の思いつきを自画自賛してた俺は、戸惑うオズ兄、ショックを受ける主様、ふるふるしているプリュイに気づくことなくオズ兄を連れてお風呂場へ向かう。

 着替えはないけど温まるためだから着替えなくていいだろ。主様の氷は溶けても濡れないから服も濡れてない。

「あの、ジル……やっぱりオレ……」

「っくしょん! ん? オズ兄、なんか言った?」

 俺がくしゃみをしたと同時に何か聞こえた気がしてオズ兄を振り返ると、苦笑いを返されて手早く服を脱がされる。

「ほら、ジルの方が風邪引きそうだ。先に入ってて」

 あっという間に全裸にした俺を浴室へ送り出した後、躊躇っていたオズ兄もやっと制服を脱ぎ始めたようだ。

 ザッと体を流してから浴槽へと入って待っていると、曇りガラスの向こうから衣擦れの音が聞こえてきて、すぐオズ兄が入ってくる。

 俺がなにか言う前にきちんとかけ湯をしたオズ兄が、浴槽へ入って来てお湯がザバッと溢れる。

「はぁ……」

 若干親父臭い声を洩らしたオズ兄は、気持ち良さそうに目を細める。

「たまにはこうやってお湯に浸かるのもいいな」

「だろ?」

 トルメンタ様によると騎士団寮にも浴槽はあるが、あまりゆっくり浸かることはないそうだ。

 なんかトルメンタ様が浸かってると、色々寄ってくるから落ち着かないらしい。


 主に貞操的な意味で。


 トルメンタ様イケメンだし、男ばっかりだと仕方ないよな。

 そう考えるとオズ兄も格好良いし、モテそうだけど。

 思わず無意識にオズ兄と距離を詰め、オズ兄のベッコウ飴みたいな瞳をじっと見上げる。

「甘くて美味しそう……」

 そう言えば朝ご飯食べてから、何にも食べてないなと思い出したら、俺のお腹からぐぅーという情けない音が響く。

「ジル? お腹空いたのか?」

 オズ兄も俺のお腹の音は聞こえてしまったようで、くすくすと笑われて頭を撫でられる。

「朝ご飯食べて、馬車で帰ってくる途中で寝ちゃったんだよ。で、さっき起きたばっかりだったから」

「それはお腹空いても仕方ないな」

 ふっと吐息のような笑い声を洩らしたオズ兄は、近寄って来ていた俺を持ち上げて伸ばした足の上に乗せてくれ、俺はオズ兄を背もたれにする体勢になる。

「寮のお風呂だと、こんなにゆっくり浸かれないからなぁ」

「やっぱりオズ兄も狙われてるんだな」

 役割的にはどっちなんだろうと若干出歯亀なことを考えながらポツリと呟くと、背後からギョッとしたような気配がして、くるりと体を反転させられる。

「オレも……って、まさかジル、家出中、誰かに何か変なことされたのか!? 何処か触られたり、舐められたりとかしたか!?」

 必死な顔をしたオズ兄から、肩を掴まれてゆさゆさと揺さぶられる。

 揺さぶられながら聞こえた単語でまず出て来たのは主様で、次は森の仲間達の姿だが、これはオズ兄の聞きたかったことではないだろうと脳内から押し出し、俺はへらっと笑ってみせる。

「そんなことするの、主様とあいつらぐらいだって」

「そ、そっか、良かった。誰かに変なことされそうになったら、すぐ幻日様を呼ぶんだ。もし幻日様が側にいなかったら、オレでも構わない。──絶対、ジルを守るから」

 安心した様子で俺を抱き締めたオズ兄は、そのまま俺を抱えて立ち上がる。

「これ以上はのぼせそうだから上がろうか」

「おう」

 おとなしく抱えられて脱衣所へ続く扉を開けると、そこには──。


「ロコ」


 タオルを手にした主様が、満面の笑顔で待ち構えていて。



 何となくこの展開を予想していた俺は、へらっと笑って、伸ばされた腕の中へおとなしく移動するのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


ジルヴァラを書くのが楽しくて、気付いたらこんな長さです。お読みいただき、ありがとうございます(^^)

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― 新着の感想 ―
[一言] 投稿ありがとうございます!そして80話目おめでとうございます(?) たくさん読めて嬉しいです!次の更新も楽しみに待っています〜!
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