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77話目

おかえりなさいー(*>_<*)ノ

「あんなくずのこえ……」



 昼寝なのか二度寝なのかよく分からない仮眠というには深い眠りから目覚めた俺は、くしくしと目元を擦りながら眠る直前に聞こえた主様の言葉を反芻する。

 言った本人である主様の姿は、すでにベッドにはない。

 まだまだ子供な俺はいくらでも眠れるが、人外でいいお年らしい主様はそこまで長く寝てられないのだろう。


「そういえば、主様って人じゃないっていうけど、じゃあ何?」


 くぁと欠伸を噛み殺して体を起こした俺は、今さら過ぎる疑問を口にして首を傾げる。

 DLCをプレイしたならわかったのかもしれないが、俺は残念ながら未プレイのまま死んでしまった。

 ベッドにペタンと座り込んで、意味無く右手を見つめて握ったり開いたりしてみるが、前世最後の記憶であるあのカードがそこにある訳もなく。

「ま、あったとしても、ここじゃ使い道ないよな」

 テレビでトランプでスパスパッと物を切る動画は見たことあるので、最悪ナイフ的な使い道ぐらいならあるかもしれないが、俺にはソルドさんから貰った短剣が……。

「って、あれ、何処にやったっけ?」

 ワタワタと自らの体を叩いてく俺だったが、もちろんそんなことで見つかる訳もなく、慌てきってベッドから飛び降りて主様の寝室から飛び出す。

 あの短剣があるとしたら、俺の荷物がある俺の自室だろうとパタパタと走っていると、通りすがった主様に見つかってすれ違いざまに捕獲される。

「ロコ、何処へ行くんですか?」

 あまりに流れるような動作で小脇に捕獲されてしまったため、しばらく浮いてることに気付かず手足をバタつかせてから、俺はきょとんとして主様を見上げる。

「あれ? 捕まっちゃった」

 俺が呑気にえへへと笑っていると、ため息を吐いた主様は、腰を掴む形で捕獲した俺を一回も離すことなく抱き上げる。

「ロコ、少しは抵抗してください」

「主様だってわかってるなら、別に抵抗する必要ないだろ」

 じっと目を覗き込まれて注意されるが、俺だって知らない相手ならきちんと抵抗するし、簡単に捕まったりしないさ……たぶん。

「なら、いいですが。……で、何処へ行く気だったんですか?」

「俺の部屋だよ。ソルドさんから貰った短剣どうしたかなって。手入れしとかないと錆びちゃいそうだし」

 だから降ろしてくれー、と手足を揺らしたが、主様はそのまま部屋まで運んでくれる気らしい。

「私の結界内なら、何処よりも安全だと思いますが……」

 何処となく拗ねたような声音で呟く主様に、俺はへらっと笑いながらさらさらと流れている主様の夕陽色の毛先と戯れる。

「そういう問題じゃないよ。別に主様の結界を疑ってるつもりもないし」

「なら、いいです」

 納得したのかコクリと頷いて主様は前を向いて歩き出す。

 というか、今の今まで俺をガン見しながら歩いてたな、主様。

「ちょうど良かったです。ロコに会わせたい……なんでしたっけ?」

「いや、俺の方がなんでしたっけ、だよ」

 俺に会わせたいって言いながら、なんでしたっけと問われても、俺の脳裏もクエスチョンマークだらけだ。

「あれにロコがつけた名前です」

「あれ……って、まさか、主様……」

 あれだけ俺がプチキレて家出騒動まで起こしたのに、主様には伝わってなかったのかと、本気で脱力している俺の視界に見覚えのある青が映る。

「……主様、俺もう一回家出するからな」

 それに気付いた俺は、ボソリと呟いて主様の腕から飛び降りようとするが、主様が俺を捕らえる腕をギュッと締める方が早かった。

「違います! お願いですから、聞いてください、ロコ。私はちゃんと全く新たに魔法人形を創ったんです。それなのに……」

 滅多にない主様の慌てた大声に、俺は抵抗も忘れて、ぽやぽやを忘れてしゅんとした顔になった主様を見上げる。

「何でかプリュイに似たのか?」

「……はい。確かに核はそのまま使いましたが……正直に言うと、私は消した魔法人形の姿など覚えていませんでした。創り直した姿を見て、以前消した魔法人形と似てることに気付いて、ロコが喜ぶかな、と……」

 バツが悪そうに、ポツリポツリと答える主様の言葉に嘘は無さそうだ。プリュイの姿を覚えてなかったところなんて、主様らしすぎる。

「って、主様、俺に同じ型で作れば云々言ったけど、実はしたくても出来なかったってことか?」

「……はい」

 相変わらずぽやぽやを陰らせてしまったままの主様に、俺は堪えきれず不謹慎だがくすくすと声を上げて笑ってしまう。

「主様も出来ないことあるんだな……って、じゃあ、あの魔法人形は?」

 微笑ましく思って笑っていた俺だったが、はたと冷静になって静かに佇んでこちらを見ている青をまじまじと再確認する。

「創り直したら、ロコが懐いていた魔法人形に似てしまった魔法人形?」

「確かに見た目はプリュイそっくりだな」

 主様に抱かれたままゆっくりと近寄ると、青く美しい煌めきを持つ魔法人形は初対面の時と同じようにじっと俺を見ている。

「おはようございマス、ジル」

 ふるりと震えて優しく笑った魔法人形は、声までプリュイによく似ていた……というか、同じにしか聞こえない。

 骨格が似てると声も似るっていうけど、そのせいか……というか、ぷるぷる系な魔法人形に骨があるのかっていう話になるな。

 ゼリーみたいな半透明ボディには核も骨も見当たらない。

「なぁ、魔法人形って骨とか核とかあるのか?」

「作る素材にもよりますが、私の創ったこれには核しかありません」

「へぇ」

 俺が逃げないと油断したのか拘束の緩んだ主様の腕からするりと抜けた俺は、背後から聞こえた「あっ」という寂しげな声を無視してパタパタと魔法人形へ駆け寄る。

「名前は?」

 俺の問いはもちろん主様へと向けたもので、目の前でふるふると微笑む魔法人形へ向けたものではない。

 いくら見た目は似てても、俺の仲良くなった魔法人形は主様によって消されてしまったのだから。

 遣る瀬無さを思い出して滲みそうになった涙をぐいと拭おうとしたが、その前に伸びて来た魔法人形のひんやりとした手が俺の目尻を拭ってくれる。

「ありがと」

「……名前はつけてな「ワタクシは、プリュイでショウ? ジルがそうつけてくれマシタ」」

 相変わらずとしか言えない主様の台詞を遮ったのは、目の前でふるふると微笑むと綺麗な青だ。

 思わず主様を振り返ると、目を見張って自らが作った魔法人形を見つめていて、主様でも想定していないことが起きたことを俺へ教えてくれる。

「どうしマシタ、ジル」

「なんで、記憶……」

「ワタクシには、わかりかねマス。デスが、一度打ち砕かれ、再び目が覚めた時、ワタクシはワタクシのままでシタ」

 なんでもないことのように言ってるが、つまりはこの作り直された魔法人形にはプリュイだった記憶があって、だから一回自分が壊されたことも覚えている。

「プリュイ、俺のせいでごめん」

 嬉しいけど悲しいし、怖い思いさせたことが辛いしでぐるぐるする中、伝えられなかった謝罪をなんとか口にした俺は、堪えきれず勢いよくプリュイに抱きつく。

「……確かに消した筈なのですが」

 背後で主様がボソリとそんな不穏なことを呟いてるので、俺はプリュイを守ろうと必死に腕を回してしがみついた。

「駄目だからな! 主様がまたプリュイ消そうとするなら、俺、プリュイ連れて家出するから!」

「……それは私の魔力で動いてるのですが?」

 俺の一世一代の脅し文句は、苦笑いをした主様にやんわりと流されてしまう。

「じゃ、じゃあ俺、主様ともう一生口利かないからな!」

 反論が思いつかなかった俺は、反射的に子供の喧嘩のような文句を悔し紛れに口にしてしまい、主様を睨みながらも内心言ってしまった台詞の小っ恥ずかしさで身悶えする。

「本気ですか」

 俺の吐いた台詞があまりにも幼稚だったせいか、主様から返ってきたのは、そんな冷めきった短い言葉だ。もう恥ずかしすぎて主様の顔も見られない。

 寒いギャグで空間が冷える的なことが起きたのか、何だか室温も一気に冷えてきた気がする。

「本気じゃなければ言わない!」

 もうここまで来たらと開き直った俺は、プリュイに抱きついたまま、主様なんか知らない、とばかりにふいっと視線を反らす。

 子供の特権発動だ。

「……ジル、幻日サマ、泣きそうデスが」

 しばらく、あーあー聞こえないー、という子供の悪あがきの定番をして主様の声を聞かないようにしていた俺は、しがみつくというかほぼ埋まっていたプリュイからそんな声をかけられ、シパシパと瞬きをして恐る恐る主様を振り返る。

 俺を捕獲しようとして止めたのか、右手をこちらへ向けて伸ばした奇妙な体勢で、主様はじっと俺を見ている。

 プリュイは泣きそうと表現したが、確かにぽやぽやしてない主様は、迷子になった子供のように見えて、いたたまれなくなった俺は、伸ばされていた右手を両手でギュッと捕まえる。

「プリュイ消さない? 記憶あっても、問題ないだろ?」

 いざとなったら泣き落としてやると心に決めて主様を見つめていると、コクリと無言で頷いてくれて、そのまま無言で引き寄せられてプリュイから離され、抱き締められる。

「……ロコが口利かないって言いました」

 抱き締められた体越しに聞こえてくる拗ねたような主様の言葉に、俺はふるふると首を横に振る。

「それは、主様がプリュイに何かしたら、って意味だよ。今、普通に話しかけてるだろ」

 俺より子供じみたことを言い出してしまった主様を、先ほどプリュイにしたように抱き締める。

 当たり前だが、抱き締めた主様の体にはぷるぷる感はない。



「それには新たな命令を与えてあります。記憶の有り無しは問題ありません。だから──、




口利かないなんて、言わないで……」



 俺を抱き締め返してくる主様の腕は、少し震えていて、俺は申し訳なさからスンッと鼻を鳴らして込み上げそうになった涙を堪えて、さらにギュッと主様へしっかりと抱きつく。





「そんなこと言われると、閉じ込めたくなるじゃないですか」




 ポツリと吐かれたのは独り言だったのか、ピッタリと触れ合った体越しでもよく聞こえなかったが、マイペースに掃除を始めたプリュイが、あらあらと言ったような気だけはした。

いつもありがとうございますm(_ _)m


まぁ、私の書くストーリーだと、こうなるようなぁと帰ってきたプリュイです(`・ω・´)ゞ


そして、一人ほのぼのとかけ離れている主様。

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