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73話目

ナハト様、ツッコミ要員化と、ちょっとデレるニクス様。

「おはようございます、ジルヴァラ様」

 涼やかな声で目を覚ました俺は、昨夜ベッドに置かれた直後に寝たんだなと記憶を辿って、俺を見下ろして凛とした微笑みを浮かべて待機しているフュアさんを見上げてへらっと笑い返す。

「おはよ、フュアさん」

 寝起きで掠れてはいたが、問題なく声は出た。さすが主様だ。

 俺の声を聞いたフュアさんは、すでに回復した話は聞いていたのだろう。驚いたりはしなかったが、嬉色で凛とした微笑みがふわりと柔らかく溶ける。

 朝から美人さんの笑顔は元気が出るなー、とフュアさんの笑顔に癒やされてた俺は、フュアさんから着替えを手伝ってもらいながら、部屋を見渡して主様を探す。

「幻日様でしたら、旦那様とお話をされていらっしゃいました。朝食の席には、そのまま向かわれると思います」

 俺の視線で訊きたいことがわかったのか、くすくすと笑ったフュアさんから先回りで答えをもらえ、俺はへらっと笑って、ありがと、と返しておく。

「さぁ、顔を洗いにいきましょう」

 キビキビと動くフュアさんに連れられて洗面所へと向かうと、そこには先客がいて顔を洗っていた。

「おはよう、ナハト様」

「っ、おま! 声!」

 別に驚かせようと思った訳では無いが、背後からナハト様へと話しかけたことによってびっくりさせてしまったらしい。

 バッと振り返って俺を指差したナハト様は、目をまん丸くして思い切り吃ってしまった。

 それでも何となく言いたいことはわかったので、へらっと笑った俺は自らの喉を指差して見せる。

「おぅ、出せるようになった。というか、主様が『自分以外とは話せないように』って出なくしてたみたいだ」

「な、なんだよ、それ! あの赤くてふわふわしたやつ、そんなことしてたのか!」

「そんなヤキモチ妬いたみたいなことするなんて、主様も可愛いとこあるよなー」

 地団駄を踏まんばかりに怒っているナハト様を横目に、俺はへらへらと笑いながら手早く顔を洗っていく。

 タオル、タオル、と呟きながら手をさ迷わせていると、ニコニコと笑うフュアさんにより問答無用で顔を拭かれてしまった。


「……いや、ヤキモチ妬いたみたいじゃなくて、ヤキモチそのものじゃねぇか、それって」


 ふわふわなタオルで包み込まれるように顔を拭かれていた俺は、ナハト様の呟きを聞き逃してしまい、首を傾げてナハト様を見たが、返ってきたのは呆れたようなため息だけだった。

「おはようございます! フシロ団長、ノーチェ様、トルメンタ様、ニクス様。それと、おはよう主様」

 ナハト様と連れ立って食堂へ行くと、ナハト様以外のフシロ団長一家が勢揃いしていて、俺は戻った声をアピールするように元気よく挨拶をする。

 もちろん、視線がグサグサ刺さってくる主様への挨拶も忘れない。付け足したみたいになったけど、主様は気にしないだろう、たぶん。

「おはよう、ジルヴァラ。朝から元気だな」

 朝からしっかりと髭まで整えたフシロ団長がニッと笑って返してくれ。

「おはよう、ジルちゃん。可愛らしい声が戻って良かったわね」

 ノーチェ様はおっとりと微笑んでくれ。

「おはよう、ジルヴァラ。原因は幻日サマだったんだってな?」

 あははと面白そうに笑ってるのはトルメンタ様で。

「……おはようございます、ジル」

 最後に今にも消え入りそうな声で返してくれたのは、ニクス様だ。

 さすがに「え?」と思い切り口に出したのはナハト様ぐらいだが、残りの視線も大なり小なりの驚きを含んでニクス様へと注がれる。

「喋られるように……」

 自分に視線が集まってることに気付いたのか、表情を強張らせて言いかけた言葉を飲み込んだニクス様へ向けて、俺はへらっと笑いかける。

「この通りだよ。心配してくれて、ありがと、ニクス様」

「何だよ! オレだって心配してたんだからな、ジル」

 俺がニクス様だけにお礼を言ったのが不服だったのか、不満です! と顔いっぱいで表してぷりぷりと怒り出したナハト様のおかげで、固まりかけた食卓の空気はいつも通り流れ出す。

「ナハトもジルヴァラも、朝飯にするぞ」

 家長であるフシロ団長の言葉に逆らえる訳も、逆らう必要もない俺達は素直に昨夜と同じ席へ向かう。

 唯一違うのは、俺の隣になる席に主様がぽやぽやしながら座ってることぐらいだ。

 見た目は存在感溢れる主様だが、ずっと無言でぽやぽやしていたのでほぼ空気だったのだ。

「心配してくれてありがとう、ナハト様。あと、たくさん心配かけてごめんな?」

 怒ってますと歩き方でも示すようにドカドカと席まで歩くナハト様に続いた俺はナハト様の隣へ腰かけると、その袖をくいくいと引いて、小声で感謝と謝罪を告げる。

 照れ臭さから小声になってしまったのは許して欲しいところだが、俺と目を合わせて軽く目を見張ったナハト様からは、ふいっと視線を外されてしまった。

「大丈夫よ、ジルちゃん。ナハトは照れてるの」

 俺がちょっとしゅんとしてると、ノーチェ様がころころと楽しそうに笑ってナハト様の頬を悪戯っぽく突き、そんな暴露をしてくれる。

「なっ!」

 ちょうどパンを手にしたところだったナハト様は、短く声を上げてパンを皿へと取り落としてしまう。

 確かに言われてみれば耳が赤いし、反応もわかりやすかった。

「そっかぁ、良かった」

 俺が安心してふにゃふにゃ笑っていると、ナハト様のいる方とは反対側──主様の座っている方の肩をぽんぽんと叩かれる。

「なに? 主様」

「おはようございます、ロコ」

 ぽやぽやと一人遅れてのんびりと挨拶を返してくれた主様に、へらっと笑い返した俺は並んだ料理へ視線を戻す。

「ロコ」

 名前を呼ばれたからには無視もできず、俺は首を傾げて主様の方を見ると、フォークにソーセージを刺して期待に満ちた眼差しを向けてくる。

「主様、外ではちょっとさぁ……」

 何をしたいか悟ってやんわりと拒否しようとした俺だったが、期待に満ちた主様の瞳に抗うことは出来ず、おずおずと口を開けるとソーセージを突っ込まれる。

 一本丸々のままで。

「んっ」

 幼児な俺の口が小さいせいもあるが、もともと大きく太めなソーセージだったせいで、成人男性な俺の知識が、見た目的に卑猥になってそうだな、といらない突っ込みを脳裏で入れてくる。

 もちろんこの食卓に並んだ面々でそんなことを考える人間がいる訳もなく、たまに向けられる視線は微笑ましげなノーチェ様のものとか、呆れ混じりのフシロ団長のものだけだ。

 ただトルメンタ様が小さく何事か言って、ニクス様に絶対零度な鋭い視線を向けられていたから、何か下世話な冗談でも言ったのかもしれない。

 そんなニクス様に対して、今度はトルメンタ様が軽い謝罪をして……そんな感じの兄弟のじゃれ合いを視界の端に捉えながら、俺は口いっぱいのソーセージを何とか咀嚼していく。

「美味しいですか?」

 子供がご飯を食べる姿を見るのが好きらしい主様は、相変わらずガン見してきていて、俺の頬を撫でながら楽しそうにぽやぽやして訊ねてくる。

「ん」

 まだ口いっぱいソーセージなので、俺はコクリと頷いて肯定すると、ガン見してくる主様を気にしないことにして、ひとまずソーセージを飲み込むことに集中する。

「うふふ、次はもう少し小さく切っておくように伝えておくわ」

 ノーチェ様が笑みを含んだ声で突然そんなことを言い出したので、俺は口いっぱいソーセージを含んだままノーチェ様の方を見て納得してしまった。

 俺の目に映ったのは、俺の真似をしたのか俺の隣でソーセージを食べて同じような状態で目を白黒させているナハト様の姿だ。

 何やってるんだと呆れている俺の横で、膨らんだ俺の頬を撫でながら主様がボソリと何事か呟いたが、ナハト様を見ていた俺は聞き逃してしまう。



「こうやって食べてるのが可愛いんですが……」



 やっとソーセージを飲み込むことが出来た俺は、首を傾げて主様を振り返ったが、返ってきたのは言葉ではなく、半分に千切られたロールパンを差し出してくる手で。

 楽しそうな主様の様子に俺は、自分で食べられるという言葉を飲み込んで、ついでに差し出されたロールパンも諦めと共に飲み込むのだった。

いつもありがとうございますm(_ _)m


主様は確信犯です!←

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