72話目
今回は間に合いました。
でもフシロ団長、たぶんジルヴァラは聞こえても「暇そうで嫌だなー」ぐらいの感想しか抱かないと思います←
そして、書き忘れてましたが、感想本当にありがとうございますm(_ _)m
すぐ忘れてしまい、2話更新してから気付く辺りダメダメ過ぎます……_(┐「ε:)_
「そうですよね。そもそもジルヴァラがいくら好きな相手とはいえ、暴言を吐いてしまった程度で声が出なくなるほど繊細な訳がないことに気付くべきでした」
思いがけず大声を出して、ちょっとした騒ぎを引き起こしてしまったドリドル先生は、反省しきりといった表情でブツブツ呟いている。
それは別にいいのだが……。
「(俺、なんか馬鹿にされてない?)」
トルメンタ様とヘイズさんは安全を確認すると帰っていったが、面倒事になりそうだと残ってくれたフシロ団長の服をくいくいと引いた俺は、ゆっくりと口を動かして問いかける。
「まぁ、誉められてると思っておけ」
ソファに座ったフシロ団長は俺言った言葉をきちんとわかってくれたらしく、苦笑いしながら俺を持ち上げて膝の上へ乗せてくれる。
「(なんだよ、それ)」
納得出来ずぶすっとして呟いていると、フシロ団長からぐりぐりと頭を撫でられる。
そんな俺の様子を、主様が物言いたげにちらちらと見てくるが、お説教モードに入ったドリドル先生のお説教が始まってしまったので、しばらく離れられないだろう。
なんだかんだで主様はドリドル先生に敬意を払ってるし。それ以上に苦手でもあるみたいだけど。
「一体何を考えてるんですか! ジルヴァラから魔法で声を奪うなんて……っ!」
声を奪うとか聞くと、俺って人魚姫みたいだな、とか思ったりもしたが、そもそも俺の足はもともと足だし、王子様に一目惚れもしてないと脳内で否定して笑う。
「だって、そうすれば、ロコは私としか話せないでしょう?」
「でしょう? じゃないです、全く。あなたとしか話せなくして、あなたは満足なんですか?」
「はい。ロコは私のものですから」
「ジルヴァラは、ジルヴァラ自身のものです! まずは声を戻しなさい!」
自分の物って言ってくれるのは嬉しいけどドリドル先生の言う通りなんで声は戻して欲しいなぁと、俺はフシロ団長の胸板に遠慮なく寄りかかって二人のやり取りをボーッと眺める。
「…………嫌です」
たっぷり間を空けて拒否の言葉を口にした主様に、ドリドル先生の眉間に盛大な皺が寄る。ドリドル先生、俺みたいに血圧上がり過ぎて倒れないといいけど。
「は? ジルヴァラがあなたとしか話せなくて、何かあったらどうするんですか!? あなたと離れている時に、何か危険に襲われても助けを求められないんですよ!?」
「ずっと私の側にいればいいでしょう?」
声を荒げるドリドル先生に対し、何が駄目なんです? といっそ無邪気な表情をして首を傾げる主様を見て、ドリドル先生の眉間の皺がさらに深くなる。
「ずっとあなたの側にいれば安全だと? あなたの側にいたのに毒を食べてしまったり……そもそも、あなたの目を盗んで逃げ出してしまってるようですが?」
ブチギレかけても穏やか微笑みを浮かべているドリドル先生は、その笑顔のまま主様を見つめ、ねぇ? と首を傾げ返している。
「……ジルヴァラ、ちょっとはおとなしくしてくれ。頼むから」
ドリドル先生の正論な反論はグサグサ主様へ刺さったようだが、流れ弾みたいにやんわりと俺もフシロ団長から注意されてしまった。
「(お、おう……)」
両肩を掴んでの重々しい言葉に、俺はコクコクと首を取れんばかりに振って頷いておく。
主様もちょっとは響いたのか、ぽやぽやしてるが特に反論は……。
「なら、ロコが何処にも行かないように首輪で繋いで、檻の中へ閉じ込めればいいでしょう? そうすれば私以外と話せないですから、声を戻しても構いません」
「(フシロ団長ー、何だよ、聞こえなかったんだけど……)」
何を言うのかと注目していた俺だったが、主様が話し出すのとほぼ同時にフシロ団長の大きな手が俺の耳を塞いでしまい、主様の言葉を聞き逃してしまった。
キラキラした目でこちらを見て自信満々にぽやぽやしてたので、俺に関係することを言ったんだと思うが、さすがに「もう一回言って」と言える空気ではない。
俺が不満を表してむぅと唸りながら、引きつった笑顔を浮かべたフシロ団長の胸板をペチペチと叩いていると、ツカツカと歩み寄ってきたドリドル先生からひょいと抱き上げられる。
「(ドリドル先生?)」
「どうやら、あの方はジルヴァラの声を戻してくださる気はないようなので、ジルヴァラは私が預かります。魔法が原因だとわかれば、こちらにも伝手はありますから」
ジロッと主様を一瞥したドリドル先生はわざとらしくニッコリと笑って、展開についていけず瞬きを繰り返している俺を抱えて部屋を出ていこうとする。
「……あー、そうだな。そうしてくれ」
明らかな焦りを表情に出した主様が、フシロ団長を見るが、返ってきたのはそんな答えで。
俺はというと、初めて見る主様の焦った表情に驚きから目が離せなくなって、抵抗も瞬きも忘れてじっと主様を見つめる。
「さぁ、ジルヴァラ。私と一緒に寝ましょうね」
ダメ押しとばかりに口にするドリドル先生は、何だか主様を煽ってるみたいだな、と思ってその顔を見やると思い切り目が合って、ふふ、と笑われる。
ドリドル先生の笑顔の意味がわからず首を傾げるのと、伸びて来た腕が俺の体をドリドル先生から奪い取るのはほぼ同時だった。
「主様? 声戻せなくなったんなら、気にしなくていいぞ? ちょっと書くのは面倒だけど、主様とは話せるからな」
もう離さないとばかりにぎゅうぎゅう抱き締めてる来る腕の主である主様へ笑いながらそう言うと、宝石のような妖しげに輝く瞳が俺を見つめ、ゆっくりと主様の顔が近づいて来る。
相変わらずこのほぼゼロ距離でも美人だなぁと見惚れていると、主様の唇がそっと首筋に触れてきて、そこからほのかな熱が広がる。
「……これで戻ったはずです」
しばらく後、かなり不服そうにそう呟いた主様はキッとドリドル先生を睨みつけてから、俺をしっかりと捕獲している。
「え? こんな簡単に戻るのか? ドリドル先生、フシロ団長、聞こえるー?」
猫が威嚇してるみたいな主様に見惚れていた俺は、主様の発した言葉に目を見張ると、ドリドル先生とフシロ団長へ向けて意味無く手を振りながら呼びかけてみる。
「あぁ、大丈夫だ。聞こえてるぞ。しかし、自分に話しかけた時しか声が出せなくなる魔法なんて、器用過ぎるだろ」
「さすがというべきか、呆れるべきか悩むところですが、まぁジルヴァラの声が戻ったなら良しとしましょう」
肩を竦めて呆れたように笑うあたり、先ほどまでのドリドル先生の態度は、主様に魔法を解かせるための作戦だったのかもしれない。
声が戻った今となっては、どうでもいいことだけど。
「……ロコは、私以外と喋りたいんですか」
「話すの好きだからなぁ、俺。わかり合うためには話すのが一番だろ? ほら、ナハト様とだって、話したら仲良くなれたんだぜ? あー、と、それに、もしかして、誰かに襲われて助けを呼ぶ時とか、声が出ないと困るなー」
台詞の最後の方は棒読みになってしまったが、主様は気にしたそちらを様子もなく、ふむ、と呟いて考え込んでいる。
棒読みの原因となったドリドル先生は、俺に向かって大きく一つ頷いてみせると、フシロ団長と連れ立って、静かに部屋を出て行った。
さっきの台詞の最後の方は、ドリドル先生が主様に見えないようにしながら、黒板に書いて指示をしてきたものだったので、俺が上手く言えたから頷いてくれたのだろう。
「わかりました」
何がわかったのか少し不安は残るが、ぽやぽや力強く微笑んでくれた主様は、言い足りないのかあむあむと俺の頬を甘噛みしてくる。
「次はきちんと怒っていると、言葉で教えてください」
あむあむと現在進行形で肉体言語してくる主様から、ぽやぽやしながらも真剣な声音で囁かれ、俺は苦笑いしながら頷いておく。
たぶん、また俺達はくだらない喧嘩というか行き違いし、またこんな感じで仲直りするんだろうな、という平和過ぎる未来を思い描いて。
「次はきちんと、逃げ出してしまう前に閉じ込めてしまいますから」
俺を抱き上げたままベッドへ運んでくれた主様が何事か呟き、首筋を指で撫でられた気がしたが、主様が側にいる安堵からか俺の意識は抗う間もなくあっという間に闇の中へと転がり落ちていった。
いつもありがとうございますm(_ _)m
繊細とはかけ離れた子、ジルヴァラです(`・ω・´)ゞ




